SophiaLS2015国際民事紛争処理
E1412151 田中 真菜
第1 第1のトラブルについて
1 総論(財産関係事件の国際裁判管轄の判断プロセスについて)
第1のトラブルに関しては、Aの提起した各損害賠償請求訴訟につき、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められるか否かが問題となる。
財産関係事件の国際裁判管轄については、民訴法3条の2以下に管轄原因が定められている。これらいずれかの管轄原因が日本国内に存在すれば、原則として日本の裁判所は国際裁判管轄を有することになる。
もっとも、いずれかの管轄原因が日本国内に存在する場合であっても、例外的に、日本で裁判をすることが当事者の衡平、裁判の適正・迅速に反するような特別の事情がある場合には、日本の裁判所の国際裁判管轄は否定される(民訴法3条の9)。同条には、国内裁判所間の遅滞を避けるための移送(民訴法17条)に代わる機能が期待されているが、同条の適用には、国際裁判管轄ルールを不明確にし、取引コストを増大させるという弊害が伴うため、その判断は慎重になされるべきである。
以上の通り、財産関係事件の国際裁判管轄を判断するにあたっては、原則として二段階の判断プロセスが採用されている。
以下、上述の判断プロセスに従い、本件各訴訟につき日本の裁判所の国際裁判管轄の有無を具体的に検討していく。
2 設問(a)(AのBに対する損害賠償請求)について
(1)管轄原因の存否
本件訴訟の被告Bは法人であるところ、Bの主たる営業所は甲国に存するから、本件訴えにつき被告の普通裁判籍を原因とする管轄権を認めることはできない(民訴法3条の2第3項)。
そこで次に、民訴法3条の3以下の特別裁判籍を原因とする管轄権を認めることができないか検討する。
Aの訴えは、Bに対し、契約責任または不法行為責任に基づき損害賠償請求するものである。Bは日本に営業所を有しておらず、その他日本において事業展開しているような事情もない。このような会社が十分な責任財産を日本国内に有しているとも考え難い。また、本件には合意管轄も存しないことからすれば、合理的に考えられる管轄原因は、民訴法3条の3第1号と第8号である。
ア.民訴法3条の3第1号該当性
本件訴えを守秘義務契約の不履行に基づく損害賠償請求と構成する場合、民訴法3条の3第1号の義務履行地管轄の有無が問題となる。
義務履行地管轄が認められるためには、@契約において定められた当該債務の履行地が日本国内にあるか、または、A契約において選択された地の法によれば当該債務の履行地が日本国内であることを要する。
本件請求における「当該債務」とは、本件守秘義務契約に基づく守秘義務であるところ、守秘義務のような場所的限定なく課される不作為債務の場合、契約で定められた「履行地」をいずれと解するか、検討を要する。
場所的限定のない不作為債務の「履行地」として合理的に考えられる選択肢は3つある。第1は、あらゆる地が履行地であるとの考え方。第2は、履行地の限定がない以上、契約において定められた履行地はないとの考え方。第3は、不作為義務に違反して作為が行われた地を履行地とする(少なくとも、その地で作為を行わないことが求められていたとみる)との考え方である。
民訴法3条の3第1号が、契約で定めた履行地を管轄原因とする趣旨は、当事者の予測可能性を確保する点にある。同条のこのような趣旨に鑑みれば、少なくとも、第1の、あらゆる地が履行地となるという説は採り得ないように思われる。実質的に見て、債務者の予測可能性が確保されているとはいえないからである。そうすると、選びうるのは第2もしくは第3の説ということになるが、本件ではいずれの説を採用するにせよ、履行地は日本国内には存しないため、@は充たさない。
次にAにつき検討するに、本件守秘義務契約においては、明示の準拠法選択はなされていない。もっとも、契約締結時のもろもろの事情を考慮して、当事者による黙示の法選択が認定できるような場合には、これを排除すべき合理的理由はないため、かかる法選択に従うべきである。本問記載の事実のみでは、黙示の法選択の有無を認定するには不十分であるが、仮に本件において黙示の法選択があると認定でき、かつ当該選択された法に従えば履行地が日本国内に存することとなる場合には、Aを充たし、民訴法3条の3第1号の義務履行地管轄が認められることになる。
イ.民訴法3条の3第8号該当性について
本件訴えを不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償請求と構成する場合、民訴法3条の3第8号の不法行為地管轄の有無が問題となる。
不法行為地管轄が認められるためには、@不法行為があった地が日本国内に存すること、かつ、A外国で行われた加害行為の結果が日本で発生した場合には、日本での結果発生が通常予見可能であったことを要する(同条8号)。Aが要求されていることから、@の「不法行為があった地」には加害行為地のみならず結果発生地も含まれることになる。
本件における加害行為とは、Bが使用者責任を負う立場にある、下請け会社社員Pによって行われた、守秘義務に反する情報漏洩行為である。かかる行為は、甲国においてインターネットに情報を掲載するという形で行われたものであるから、加害行為地は甲国である。一方、本件では、後述の設問とは異なり、Pの加害行為によって具体的にいかなる結果が発生したかは明示されていない。もっとも、AB間で本件守秘義務契約が締結されている以上、Aには、転用計画等を漏らされないという期待権が生じていたと考えられる。Pの加害行為により、少なくともこの期待権が侵害されたことは明らかであるから、これにAが主たる営業所を日本に置く日本法人であることを加味して考えれば、結果発生地は日本国内であるとみるべきである。よって、本件における不法行為地は日本国内に存するといえる。
また、Aが日本法人である以上、守秘義務に反する加害行為を行えば、結果が日本国内で発生することは通常予見可能であるといえる。
したがって、本件損害賠償請求訴訟を不法行為に基づくものと構成した場合、民訴法3条の3第8号の不法行為地管轄が認められるものと考える。
(2)特別の事情の有無
総論で述べた通り、日本国内に管轄原因が認められても、日本で裁判を行うことが当事者間の衡平を害し、又は、適性・迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情がある場合には、日本の裁判所における国際裁判管轄は否定されることになる(民訴法3条の9)。
本件には、被告Bが日本に営業所を有しておらず、すべての交渉もBの所在地たる甲国で行われたという事情があるものの、Bが自然人ではなく、75億円もの報酬で国外企業から設計を請け負うような法人であること(相応の規模を有する法人であると考えられる)からすれば、日本での応訴を強いたとしても、管轄権を否定してまで回避しなければならないほどの重い負担を課すことにはならないものと思われる。また、本件はインターネットを介した情報漏洩行為が問題となっている事案であるところ、インターネット掲載の情報であれば、日本においても閲覧可能であるから、日本での証拠収集は容易である。Bが監督責任を十分に尽くしていたか否かを判断するための証拠については甲国に存するかもしれないが、一方、損害の発生を立証するための証拠は主に日本に存すると考えられる。
これらの事情を総合考慮すれば、本件には、特別の事情は存しないとみるべきである。
(3)小括結論
以上より、AのBに対する損害賠償請求については、民訴法3条の3第8号、ならびに、場合によっては同条1号の管轄原因が認められるため、日本の裁判所は国際裁判管轄を有すると考える。[上記の通り、契約違反に基づく訴えについて管轄を否定するとの結論に至っていたとしても、不法行為請求について管轄が認められるのであれば、民訴法3条の6により、契約事件についても客観的併合に基づく管轄が肯定されることになるのではないでしょうか。]
3 設問(c)(AのPに対する損害賠償請求)について
(1)管轄原因の存否
被告Pは甲国在住であることから、本件訴えにつき、被告の普通裁判籍を原因とする管轄権を日本に認めることはできない(民訴法3条の2第3項)。
もっとも、本件請求は不法行為に基づくものと考えられるため、民訴法3条の3第8号の不法行為地管轄が認められないか、検討する。
Pによる加害行為は、甲国内でインターネット上にAの信用を棄損するような情報を書き込むという形で行われていることから、本件加害行為地は甲国である。一方、インターネットへの情報掲載により、日本国内でも当該情報の閲覧が可能な状態となったといえる。このような情報を日本で閲覧すれば、日本においてAの信用毀損という結果が発生するから、本件結果発生地は日本国内である。
さらに、Aが日本法人であることからすれば、本件情報をインターネットに掲載し、拡散させれば、結果が日本国内で発生することは、通常予測可能であるといえる。本件では、インターネットへの書き込みが甲国語でなされているが、甲国語にも伝播可能性が存する以上、かかる事実は予測可能性を否定する事情とはならない。
したがって、本件には、民訴法3条の3第8号の不法行為地管轄が認められる。
なお、本件においては、Pから次のような反論がなされることが考えられる。すなわち、Pの行為は、社会的利益のため真実を述べたものにすぎず、違法性が阻却される。したがって、Pの行為は不法行為を構成しないため、不法行為地管轄は認められないとの反論である。このように、管轄を原因づける事実が、同時に本案の勝訴敗訴を決める事実ともなっているような場合、管轄原因の判断にあたってどこまで踏み込んだ判断が必要かについては見解が分かれる。
判例 [i] は、原則として、不法行為と主張されている行為が日本で行われたこと又はそれに基づく損害が日本で発生したという事実が証明されることが必要であり、かつそれで足り、故意過失の存在や違法性阻却事由の不存在といった点は本案で審理すればよいとの見解を採用する(客観的要件具備必要説)。これに対しては、国境を越えて応訴する被告の負担を考えれば日本の管轄を安易に認めるべきではなく、違法性阻却事由のないことも含め、本案審理を必要ならしめる程度の心証形成を必要とすべきであるとの批判がある(一応の証拠調べ説)[ii] 。一応の証拠調べ説は、不法行為地管轄のみならず契約義務履行地管轄にも適用可能である点で優れているが、結局どの程度の心証を形成すればよいか基準が不明確であって予測可能性を害するため、判例の見解をもって妥当と考える。
よって、Pの反論は失当である。
(2)特別の事情の有無
次に特別の事情につき検討する。本問と設問(a)との差異は、被告が法人ではなく、自然人たる一労働者Pであるという点にある。
法人と自然人とでは、その有する資力は異なる(厳密には法人の規模にもよるが)。本件において、甲国在住の一労働者にすぎないPに日本での応訴を強いることは、同人に極めて大きな心理的、経済的負担を課すことになる。Pに十分な資力がなければ、満足な防御活動を行えず、これは実質的にみればPの手続保障を否定することに他ならない。一方、AはこれまでBとの契約交渉をすべて甲国で行っていたというのであるから、Aに甲国での訴訟提起を求めたところで、その被る心理的、経済的負担は、少なくともPの被るそれと比べれば然程のものではないと考えられる。
また、前述(第1、2(2))の通り、Pの加害行為を立証する証拠は日本においても容易に収集することができるが、もともと加害行為自体は甲国で行われている以上、甲国での証拠収集も容易であるといえる。Aの被った損害を立証する証拠は、主に日本国内に存すると考えられるが、上述の通り、Pに日本での応訴を強いることにより同人が被る不利益の大きさを考えれば、本件において日本の裁判所に管轄権を認めることは、当事者間の衡平を害し、適正・迅速な審理の実現を妨げるものと考える。
(3)小括結論
したがって、本件訴えについては、特別の事情が認められるため、民訴法3条の9が適用され、日本の裁判所は国際裁判管轄を有しないと考える。
[A社が日本の会社であることを知った上で誹謗中傷行為をして日本で損害が生ずることは分かっていたはずであって、訴えられた段階で、経済的負担を理由に日本での訴訟に応ずることは無理だと認定する必要はないように思われます。]
第2 第2のトラブルについて
1 設問(e)について
(1)管轄原因の有無
本件訴訟の被告Cは法人であるところ、Cの主たる営業所は乙国に存するから、本件訴えにつき被告の普通裁判籍を原因とする管轄権を認めることはできない(民訴法3条の2第3項)
もっとも、本件損害賠償請求は、本件追加契約の不履行を原因とするものと考えられるため、民訴法3条の3第1号の履行地管轄が認められないか検討する。
本件における、「当該債務」とは本件追加契約に基づく建設工事の工期短縮義務、すなわち、本件追加契約で定められた工事完成日までに施設の建設工事を終わらせる義務である。本件追加契約の前提となる本件建設契約において、施設の建設地は日本国内と定められていることから、工事短縮義務の履行地は日本国内に存するといえる。
したがって、本件訴えには、民訴法3条の3第1号の義務履行地管轄が認められる。
(2)特別の事情の有無
本件は、Cの負っている義務、すなわち、日本国において決められた期限までに施設を建設する義務の不履行が問題になっている事案である。Cは法人であり、かつ、日本における本件建設工事を請け負っていることからすると、少なくともCには、日本で大規模な工事を行えるだけの資力が存すると考えられる。かかる事情は、Cに日本での応訴を強いたところで、著しく不合理とまではいえないことを基礎づける事情となる。また、本件において債務不履行の事実を立証するための証拠は、義務履行地たる日本に存すると考えられるため、日本での訴訟提起に格別の支障はない。本件にはその他、特別の事情を肯定すべきような事情は何ら存しないことから、民訴法3条の9の適用はない。
(3)小括結論
したがって、本件訴えには、民訴法3条の3第1号の管轄原因が認められるため、日本の裁判所は国際裁判管轄を有すると考える。
2 設問(f)について
(1)保全事件の国際裁判管轄について
本件追加契約の不履行に基づく損害賠償請求権を被保全債権とする仮差押えの申立てについて、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められるためには、@日本の裁判所に本案の訴えを提起することができるとき、又は、A仮に差し押さえるべき物もしくは係争物が日本国内にあるときのいずれかであることを要する(民事保全法11条)。
[なお、仲裁法15条は、仲裁合意がある場合も、保全訴訟をすることができることを定めている。]
(2)日本の裁判所に本案の訴えを提起することができるとき
「本案」とは、被保全権利又は法律関係の存否を確定する手続をいい、訴訟手続のほか仲裁手続もこれに該当する。したがって、仲裁合意が存在する場合における「本案の管轄裁判所」とは、当該仲裁の仲裁地を管轄する裁判所をいい、仲裁合意がなければ本案訴訟について管轄権を有したであろう裁判所を含まないと解すべきである。
なぜなら、このように解さなければ、仲裁合意があることにより、本案訴訟について管轄権を有しない裁判所が、保全事件についてのみ管轄権を有することとなり、保全事件が本案訴訟に対して付随性を有することに反する結果となるからである。[iii]
本件は仲裁合意が存するケースであり、仲裁地は乙国とされていることから、本案の訴えを提起できるのは乙国裁判所であるといえる。[仲裁合意があるにも拘わらず、本案管轄裁判所は乙国裁判所だとするのは違和感があります。日本の裁判所はこの本案管轄裁判所に当たらないという消極的認定でよいと思います。]
よって、本件は、日本の裁判所に本案の訴えを提起できるときにはあたらない。
(3)仮に差し押さえるべき物もしくは係争物が日本国内にあるとき
もっとも、本件には、日本国内に、Cが置いたままにしている本件建設機械が存することから、本件は仮に差し押さえるべき物が日本国内にあるときにあたる。
日本に差押え対象物があるとしても、その価格が被保全権利に比べて極めて少額であるような場合には、日本の国際裁判管轄を否定すべきであるとの見解も存するが、首肯しえない。そもそも保全処分の管轄については民訴法3条の9の適用はなく、また、緊急性が求められる保全訴訟において、様々な事情を考慮して管轄を決めることは妥当ではないからである。[iv]
したがって、本問では、Aの被保全債権額および本件建設機械の価格がいずれも明らかにはされていないが、その金額如何に関わらず、仮に差し押さえるべき物が日本国内にあるときに該当すると考える。
(4)小括結論
以上より、本件仮差押えの申立てには、民事保全法11条後段の管轄原因が認められるため、日本の裁判所は国際裁判管轄を有するものと考える。
[民訴法3条の9の不適用についても触れた方がよいと思います。]
[なお、旭川地判平成8・2・9は、本案の判決が日本で執行することができることを保全の申立ての管轄を認める要件としており、これに従えば、乙国での仲裁の結果として下される仲裁判断が日本で執行できるか否かが問題となります。そのため、この点について場合分けをして本件仮差押申立の管轄の有無を判断することもあり得ます。また、この裁判例を批判し、将来の執行可能性は、民事保全法37条1項の本案起訴命令との関係で考えればよく、管轄の問題ではないとの学説に従う議論をすることも考えられます。]
第3 第3のトラブル(設問(j))について
1 外国判決の承認要件としての国際裁判管轄(間接管轄)の判断基準
外国判決の執行判決を得るためには、外国判決が確定していること、ならびに、当該 外国判決が、民訴法118条各号所定の要件を具備していることが必要である(民事執行法24条3項反対解釈)。本件では、RのAに対する不当利得返還請求の訴え(以下「本件訴え」とする)につき、丙国裁判所の間接管轄権(民訴法118条1号)が認められるか否かの検討が求められている。
国際裁判管轄には、自国の管轄が問題となる場合の直接管轄と、外国裁判の内国における承認の要件として問題となる間接管轄とがある。直接管轄権については民訴法3条の2以下が規定する。一方、間接管轄権については直接の規定がないため、その有無をいかなる基準で判断すべきかが問題となる。
結論から言えば、両者は同様の基準によって判断すべきであると考える(鏡像理論)。間接管轄も直接管轄もいずれも裁判機能の国際的配分の問題という点で同一の問題であるし、日本で直接管轄を否定すべきような場合に、間接管轄を肯定することは、訴訟法上の正義や主権の観念に反すると考えるためである [v]。
そこで、以下本件訴えにつき、丙国の間接管轄の有無を、民訴法3条の2以下の規定に照らし、検討する。
2 本件訴えについての丙国の間接管轄の有無
まず、本件被告Aは日本法人であり、主たる事務所は日本に存するから、本件では丙国に被告の普通裁判籍を原因とする管轄権を認めることはできない。
もっとも、本件請求は、契約の無効により生じた不当利得返還請求であり、「契約上の債務に関して生じた不当利得に係る請求」にあたるため、民訴法3条の3第1号の義務履行地管轄が認められないか問題となる。
本件における「当該債務」とは、不当利得を生じさせるもとになった契約上の債務であるから、本件ジャンケット契約に基づく賭博の掛け金払い込み債務である。そして、本件ジャンケット契約では、掛け金はAの日本の銀行口座に払い込むべく合意されていたことからすれば、本件における契約で定められた債務の履行地は、Aの銀行口座の存する日本国内であると考えるべきである。したがって、丙国に民訴法3条の3第1号前段の管轄原因は認められない。
また、本件ジャンケット契約では、準拠法として日本法が明示的に選択されているところ、我が国の民法は、金銭債務の履行につき持参債務の原則を採用している(民法484条)。そうすると、本件では、契約において選択された地の法に従った義務履行地は、債権者たるAの営業所所在地である日本ということになる。したがって、丙国に民訴法3条の3第1号後段の管轄原因を認めることもできない。
本件には、その他、丙国の特別裁判籍を肯定できるような事情は存しない。
[本件の丙国での訴えは、日本法に照らすと、民訴法3条の4第1項の消費者訴訟です。したがって、最判平成10・4・28及び最判平成26・4・24に従っても、あるいは学説上多数説である鏡像理論に従っても、丙国には管轄が認められます。RはAから特に勧誘を受けて電子的に支払いを済ませた上で日本に赴いたという事情があることから、3条の9に照らしても管轄を否定すべきう特別の事情は認められず、丙国に間接管轄があるとの結論に至るのではないでしょうか。]
3 小括結論
したがって、本件において日本の裁判所は、丙国には国際裁判管轄(間接管轄)がないと判断するものと考える。
以上