WLS2015国際私法T
設問1:47142113 中津信顕
設問2:47142029 大足知広
設問3:47142113 中津信顕
設問4:47152004 浅田一樹
設問5:47142113 中津信顕
設問1
第1 本問でA・Bが希望するタイプの養子縁組の成否を判断するには、まず、A・BとDとの間で、養子縁組が成立するかという問題、次に、成立するとして、養子とその実方の血族との親族関係を終了させることができるかという問題、を判断する必要がある。
そのため、それぞれの問題についてどの国の法がどのように適用されるかを検討することとなる。
また、本問でA・Bは、夫婦でDと養子縁組をしようとしているが、通則法には夫婦共同養子縁組についての特別の規定はない。
ゆえに、上記2つの問題は、養親となる夫婦の夫A、妻Bそれぞれとの間で判断することとなる。
以下、AD間、BD間ごとに検討する。
第2 AD間について
1 まず、AD間の養子縁組の成否を判断するにあたってどの国の法がどのように適用されるか。
これについて、養子縁組の成否の判断には、その可否や実質的成立要件という養子縁組の成立に関する問題の判断と、形式的成立要件たる養子縁組の方式の問題の判断が含まれるため、それぞれについて順次検討する。
(1) 養子縁組の成立に関する問題について
これは通則法31条1項の「養子縁組」に該当する問題であるため、同条により準拠法を判断する。
(a) 通則法31条1項前段は、養親子の生活は養親を中心として営まれるのが通常である[1]ことから、養子縁組は、縁組当時の養親の本国法によるものとしている。
本問において、養親たる日本人Aの本国法は、日本法である。
したがって、AD間の養子縁組の成立について適用される準拠法は、日本法である。
(b) もっとも、31条1項後段は、養親の本国法のみによると、子の保護に欠けることがあり得るとの配慮から[2]、「養子となるべき者の本国法によればその者若しくは第三者の承諾若しくは同意又は公的機関の許可その他の処分」(以下、「承諾等」)「があることが養子縁組の成立の要件であるときは、その要件も備えなければならない」と規定している。
すなわち、養子となるべき者の本国法上、承諾等があることが養子縁組の成立の要件であるときは、その要件を累積的に適用する[3]こととなる。
本問では、養子となるべきものであるDは、甲国国籍と乙国国籍を有する二重国籍者であり、「当事者が二以上の国籍を有する場合」(通則法38条1項)にあたる。
そのため、同条項により、その本国法を決定する。
同条項によれば、「その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国があるときはその国の法」がその者の本国法となる。
本問において、Dは乙国に在住しており、Dが国籍を有する国である乙国に常居所を有している。
したがって、Dの本国法は、乙国法である。
以上から、AD間の養子縁組の成立に関する問題については、日本法が準拠法となるが、乙国法上、承諾等があることが養子縁組の成立の要件であるときは、その要件も累積的に適用されることとなる。
(2) 形式的成立要件たる養子縁組の方式の問題について
これについては、通則法34条により準拠法を判断する。
同条1項、2項は、適用対象となる法律行為の成立の準拠法と行為地法との選択的連結を定めている。
これは、方式が法律行為の成立の問題の一つであるので、実質的成立要件の準拠法として定められている法によるのが相応しいことに加え[4]、行為地が定める方式以外の方式を具備することが不可能な場合も考えられる[5]ことによる。
本問では、AD間の養子縁組の「成立について適用すべき法」(同条1項)は、日本法である。
また、Aは日本で生活しており、Aは、「Dを養子としてもらい受けることにした」のであるから、「行為地法」(同条2項)も日本法となると考えられる。
以上から、形式的成立要件たる養子縁組の方式の問題について、日本法が準拠法となる。
2 次に、養子とその実方の血族との親族関係を終了させることができるかを判断するにあたってどの国の法がどのように適用されるか。
これについては、通則法31条2項により準拠法を判断する。
同条項は、「養子とその実方の血族との親族関係の終了」について、同条1項で定まる準拠法、すなわち、縁組当時の養親の本国法を準拠法としている。
これは、養子と実方の血族との親族関係の終了を、終了させられる親族関係の準拠法によることとすると、特別養子縁組制度をもたない国の法律がその準拠法となる場合には、通則法31条1項で定まる準拠法上いくら特別養子縁組を認めていても、その趣旨は実現されない結果となり得る[6]ため、その様な事態を防止する趣旨である。
本問のAD間の養子縁組について、同条1項により定まる準拠法は、日本法である。
したがって、養子とその実方の血族との親族関係を終了させることができるかを判断するにあたっては、日本法が準拠法として適用される。
第3 BD間について
1 まず、BD間の養子縁組の成否を判断するにあたってどの国の法がどのように適用されるか。
これについては、AD間におけるのと同様にして、養子縁組の成立に関する問題と形式的成立要件たる養子縁組の方式の問題、それぞれについて順次検討する。
(1) 養子縁組の成立に関する問題について
(a) 本問において、養親たる甲国人Bの本国法は、甲国法である。
したがって、通則法31条1項前段より、BD間の養子縁組の成立について適用される準拠法は、甲国法である。
(b) そして、上述の通り、Dの本国法は、乙国法である。
よって、BD間の養子縁組の成立に関する問題については、日本甲国法が準拠法となるが、通則法31条1項後段より、乙国法上、承諾等があることが養子縁組の成立の要件であるときは、その要件も累積的に適用されることとなる。
(2) 形式的成立要件たる養子縁組の方式の問題について
本問では、BD間の養子縁組の「成立について適用すべき法」(通則法34条1項)は、甲国法である。
また、Bは日本で生活しており、Bは、「Dを養子としてもらい受けることにした」のであるから、「行為地法」(同条2項)は日本法となると考えられる。
したがって、形式的成立要件たる養子縁組の方式の問題については、甲国法と日本法が選択的に適用される。
2 次に、養子とその実方の血族との親族関係を終了させることができるかを判断するにあたってどの国の法がどのように適用されるか。
これについても、AD間におけるのと同様、通則法31条2項により判断する。
本問のBD間の養子縁組について、同条1項により定まる準拠法は、甲国法である。
したがって、養子とその実方の血族との親族関係を終了させることができるかを判断するにあたっては、甲国法が準拠法として適用される。
第4 夫婦共同縁組みの要件について
以上により、AD間及びBD間の養子縁組の実質的成立要件には、それぞれ原則として日本法及び甲国法が適用されるところ、少なくとも日本法上は、断絶型養子縁組(特別養子縁組)に関する817条の3第2項によれば、「夫婦の一方は、他の一方が養親とならないときは、養親となることができない。」とされているため、AD間の養子縁組が他の成立要件を具備している場合であっても、BD間の養子縁組が甲国法(セーフガード条項により乙国法)上成立が否定されるときにはAD間の養子縁組も結局成立しないことになる。また、甲国法にも日本民法817条の3第2項のような要件がある場合も同様である。
(以上、47142113 中津 信顕)
<設問2>
1.D国の実質法に関する直接的な解釈
本問においては、A及びBは、Dとの間で、断絶型の養子縁組をしようと考えているところ、養子となるべき者であるDの本国法(通則法38条1項により乙国法)上、断絶型養子縁組においては実親の同意が原則的に必要であり、仮に実親が不明である場合には検察官の同意が要件とされているというのである。そして、Dの実親のうち、父親は不明であることから、法31条1項ただし書きにより、AとDとの間の断絶型養子縁組の成立については、検察官の同意があることが要件となる。
ここで、D乙国の実質法における直接的な解釈としては、そこにいう検察官の同意とは、D乙国の検察官の同意を意味するものであって、日本の検察官の同意はその対象とはされていないものと考えられる[7]。
2.国際私法上の適用
もっとも、各国の実質法は、基本的には、海外における裁判において適用されることを想定した規定にはなっていないのであるから、上記のような事情があることからといって、直ちに、海外における裁判においてもそのような解釈をするのは、当該実質法の予期しない結果を招き、結局その趣旨に反してしまうような事態も生じ得るはずである。
従って、ある国の実質法上、その国の特定の機関による同意が要求されている場合であっても、国際私法上、他国における機関による同意をもってこれに代えたところで当該法規の趣旨が損なわれないといえるような場合においては、当該機関による同意をもって当該法規の要件を満たしたものと解することができるものと考えられる。
以下、この点を本件において検討する。
3.本件における検討
D乙国法上、断絶型養子縁組においては、実親の同意が要件とされている。これは、当該養子縁組によって、実親が従来の親子関係の喪失という重大な影響を受けることになるから、その意思を十分に尊重しようという趣旨で設けられているものと解せられる。そうすると、D乙国法が、断絶型養子縁組に際し、養子となるべき者の実親が不明である場合においては検察官が同意するか否かを決するものとした趣旨は、本来その意思を尊重されるべき実親が不明であることをもってその者を養子とするあらゆる断絶型養子縁組が不能となってしまうことを避けるため、公益の代表者たる検察官が実親に代わって当該養子縁組の拒否を決定することを認めることとしたものであると解せられる。
他方、我が国においても、検察官は一定の場合に後見開始の審判を申し立てることができるものとされている(民法7条)など、本来権利を行使すべき者が権利を行使できない場合において、公益の代表者として、民事上、一定の行為を行うことができるものとされているのである。そうすると、D乙国の検察官による同意に代えて、日本の検察官の同意をその要件とすることが、D乙国法における当該規定の趣旨に反するということはできない。
よって、本件においては、日本の検察官の同意をとればよい。
* 付記
(a) 答案の通り、乙国法上の検察官の代諾を公益代表者の代諾と読み替えて、日本では日本の検察官が代諾すればよいとの結論で一応よいと思われます。というのは、離婚の場合に裁判所判決が必要だとされている場合に、その裁判所が準拠法上の裁判所を意味するものであるとしても、日本では日本の裁判所で離婚手続をすればよいとしているのと同様だからです。これを準拠法上の要件を抽象化した上で、日本でそれに相当するものが代わって行っていると考えるか、法律行為による離婚は許されないというところまでを実体要件として準拠法により、それから先は手続問題として日本の裁判所が離婚手続をとると考えるかは、いずれも理解もあり得るところです。以上のことを踏まえて考えると、日本では公益代表者として検察官の同意をとればよいということになりそうです。しかし、日本法では、民法817条の6が「特別養子縁組の成立には、養子となる者の父母の同意がなければならない。ただし、父母がその意思を表示することができない場合又は父母による虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は、この限りでない。」と定め、この代諾を検察官の職務としていないため、検察官はそのようなことをしない可能性が相当にあります。手続問題として日本法によれば、上記の民法817条の6の規定により、日本で手続をする場合には、実親がいない場合には公的機関の関与は不要との解もあるように思われます。道垣内正人『ポイント国際私法・各論第2版』112頁(2014)参照。
(b) しかし、本件において、乙国の検察官の同意がとれれば問題ないはずですので、このことを説明する必要もあります。かつて分解理論といわれていた説明がありましたが(実体要件と方式要件に分け、後者については通則法34条によるとの説明)、法律行為でないものについて方式を観念することに理論上問題があると批判されています。
(c) そこで次のように考えると収まりがよいのではないかと思います。すなわち、セーフガード条項の趣旨から本来は乙国の検察官の同意が必要であり、それに相当にする公益代表者のチェックが日本ででき、それが乙国法の解釈として許されればそれでもよく、日本の検察官が代諾をすれば乙国法上よいとされる可能性が高いが、日本の検察官がそのような行為をしないというのであれば、乙国の検察官の同意をとるべきだという解です。
(以上、47142029 大足 知広)
設問3
1 本問では、婚姻関係にないAE間に生まれた子Fと父Aとの間で親子関係を成立させる、死後認知請求が認められるかが問題となっており、これは、「嫡出でない子の親子関係の成立」(通則法29条)の問題と法性決定できる。
2 そして、本問では、父との間の認知による親子関係の成立が問題となっているため、通則法29条1項、2項、により、準拠法を判断する。
これについては、同条1項により、「子の出生の当時における父の本国法」が、同条2項により、「認知の当時における認知する者…の本国法」または「認知の当時における…子の本国法」が準拠法となり、これらは選択的に適用される。
このような選択的連結が採用されているのは、認知は時間が経過してからなされることも多く、認知時点において適切な準拠法が選択されるようにするという考慮とともに、認知の成立を容易にしようという考慮に基づく。
3(1) 本問についてみると、まず、日本人Aに国籍変更等の事情はない以上、子Fの出生の当時における父Aの本国法は、日本法である。
(2) 次に、本問で、父Aの死亡は10年前、子Fの出生は11年前であることから、子の出生後、認知前にAは死亡している。
ゆえに、「認知の当時における認知する者…の本国法」(通則法29条2項)は、同条3項に従って判断する。
同条項によれば、「死亡の当時におけるその者の本国法」が「認知の当時における認知する者…の本国法」とみなされる。
本問でAの死亡時の本国法は、日本法であるため、認知の当時における認知する者たるAの本国法は、日本法である。
(3) そして、認知時における、丙国人の子Fの本国法は、丙国法である。
(4) したがって、日本法または丙国法のいずれかで、本問における死後認知請求が認められれば良いこととなる。
4 本問では、父Aの死亡から10年が経過している。
そのため、日本法によると、民法787条但書により、本問における死後認知請求は認められない。
もっとも、丙国法によれば、父の死亡を知ってから1年以内であれば認知請求をすることができる。
そして本問では、Fの死後認知請求はAの死亡を知ってから約1か月後に提起されているため、丙国法によれば、本問における死後認知請求は認められることとなる。
5 しかし、本問では、丙国法適用の結果、Aの死亡から10年を経過した後に死後認知請求の訴えが提起されることとなる。
(1) これについて、日本民法787条但書では、父の死亡から3年経過した時には認知請求をすることができないとされているため、丙国法適用の結果が日本の「公の秩序又は善良な風俗に反する」(通則法42条)として、同条により丙国法の適用が排除されないかを検討する必要がある。
42条の公序条項は、外国法の内容自体を否定するものではなく、具体的事案におけるその適用結果が日本の基本的私法秩序を害する場合に限り、その適用を排除しようとするもの[8]であるため、本問外国法の適用結果が日本の公序良俗に反するか否かを判断することとなる。
この判断にあたっては、外国法適用結果の異常性と事案の内国関連性の度合い[9]を相関的に考慮し、その際、最密接関係地法を適用することを基本とする国際私法の理念から考えると、公序則の発動は慎重[10]に検討する必要がある。
(2) 本問についてみると、丙国法適用の結果、Aの死亡から10年を経過した後であるにも関わらず、死後認知請求が認められることとなる。
この適用結果は、時間の経過によって証拠が散逸して真実を証明することが不可能になるという理由から[11]、3年という出訴期間の制限が設けられることとした日本法からみると、異常性の高いものといえる。
また、本問で認知請求ができることとなれば、日本の裁判所において、時間の経過によって証拠が散逸して真実を証明することが困難な中、当事者が主張立証活動を行い、それに対して裁判所は判断を下すことになる。
その上、本問事案に関わるB、D、Fは日本在住であるし、被相続人Aも生前は日本人かつ日本在住であったことから、仮に本問認知請求の認容判決がなされれば、Aの相続財産に関する問題が日本で生じると考えられる。
ゆえに、当該事案の内国関連性も高い。
(3) したがって、丙国法の適用結果は、日本の公序良俗に反するといえ、その適用は排除される。
(4) では、通則法42条による外国法の適用排除後にいかなる法が適用されるべきか。
これについては、日本の基本的法秩序・価値を保護するのが公序条項の趣旨[12]であることから、日本法が適用されるべきである。
したがって、本問における死後認知請求が認められるは、日本民法787条により決せられる。
そうすると、上述の通り、同条但書により、本問における死後認知請求は出訴期間を徒過している。
6 以上から、本問における死後認知請求は認められない。
(以上、47142113 中津 信顕)
設問4
1 設問3で検討したように、Fの死後認知請求が認められるには丙国法上の要件を満たす必要がある。よって、丙国法上、死後認知請求にあたって死亡した父の嫡出子・養子の全員の同意を要するとされているにも関わらず、父Aの養子であるDがこれに反対しているのであれば、かかる請求は認められ得ない。
2 これに対して、日本の裁判所としては、通則法42条の公序則を用いて丙国法上のかかる同意要件の規定の適用を排除することが考えられる。
公序則は、準拠外国法の適用結果が日本の公序良俗に反するときに、これを保護する目的で、本来適用されるべき準拠法の適用を例外的に排除するものであり、実質法の内容と適用結果について考慮しない国際私法の安全弁としての機能を有する。
その一方で、公序則は、本来適用されるべき準拠外国法を排除するものであるから、その発動はあくまでも例外的であるべきで、みだりに使うことは許されない。(『国際関係私法入門』〔第3版〕61頁)
3 そこで、国際私法上の公序則を適用する場面は、実質法上の場合よりも限定的に解するべきである。具体的には、当該事案の内国関連性及び当該外国法の我が国の私法秩序に与える影響を総合考慮して決するべき、と解する。(東京地判平成5年1月29日)
4 本件で問題となっているのは、丙国人Fが日本人Aとの親子関係を認められるかということであり、これにより相続などの問題にも発展するであろうから、内国との関連はある程度認められる。しかし、丙国法上の死後認知についての同意要件を適用することにより、FのAに対する認知請求は認められないことになるが、そもそも日本法によれば認知の訴えの出訴期間を経過しているため、どちらにせよかかる請求は認められず、日本の私法秩序を大きく害するとは言えない。
5 以上より、本件においては公序則を発動する余地はなく、丙国法がそのまま適用される結果、Dの同意を得られないFの認知請求は認められないことになり、日本の裁判所としては、かかる請求を棄却すべきである。
6 ちなみに、仮に死後認知が日本法によって判断される場合も29条2項後段のセーフガード条項により、丙国法上のかかる同意要件を充足する必要があるとも思える。
しかし、同条項は子の保護を図ることを目的としているところ、本件のような認知者の嫡出子・養子全員の同意を要する規定というのは子の保護を目的とはしておらず、また、嫡出子や養子は認知の成否を左右することに対する期待可能性は乏しいであろうから、29条2項のいう「第三者」には含まれず、このような規定についてセーフガード条項は作用しない、と解すべきである。(『国際私法入門』〔第7版〕128頁)
よって、Fの死後認知請求が日本法上の出訴期間などの障害を乗り越えた場合、日本の裁判所は、丙国法上の同意要件を考慮することなく、その成否を判断すべきである。
(以上、47152004 浅田一樹)
設問5
第1 本問では、A・BとDとの間で断絶型養子縁組が成立している。
ゆえに、仮にGがDと親子関係を有していたことがあるとしても、既にGD間の親子関係は終了していることとなる。
そうすると、Gの「Dを実子として育てたい」という主張を認めるか否かを判断するには、まず、A・BとDとの間の断絶型養子縁組の離縁が認められるかを判断する必要がある。
次に、かかる離縁が認められるとしても、そもそもGD間に親子関係が認められるかを判断する必要がある。
さらに、親子関係が認められるとしても、Dの監護権がGに認められるのかを判断する必要もある。
したがって、上記3つの判断それぞれに適用される準拠法が、Gの「Dを実子として育てたい」という主張を認めるか否かを判断する準拠法である。
以下、順次検討する。
第2 A・BとDとの間の断絶型養子縁組の離縁が認められるか。
1 離縁の成否には、離縁の成立に関する問題と、形式的成立要件たる離縁の方式の問題が含まれる。また、これらはAD間、BD間ごとに判断する必要がある。
2 離縁の成立に関する問題について
(1) これについては、通則法31条2項により準拠法を判断する。
同条項は、「離縁」について、同条1項で定まる法を準拠法としている。
これは、一般に、断絶型においては実方の血族との親族関係が終了しているので、離縁の要件は厳しく制限されているのに対し、普通の養子縁組では比較的緩やかな要件で離縁を認めているため、断絶型養子縁組後、養親が国籍を変更して普通養子縁組制度しかない方が本国法となった場合に、その法に従って離縁することを認めるのは不都合であるから、あくまでも成立の準拠法が認める場合にのみ離縁をすることができる様にする趣旨である。
(2) 本問についてみると、設問1で述べた通り、通則法31条1項で定まる法は、AD間は日本法、BD間は甲国法である。
したがって、離縁の成立に関する問題について、AD間は日本法、BD間は甲国法が準拠法となる。
3 離縁の方式の問題について
これについては、通則法34条により、準拠法を判断する。
(1) 設問1で述べた通り、本問では、AD間の養子縁組の「成立について適用すべき法」(同条1項)は、日本法である。
また、現在日本で生活しているDと養親との離縁であるから、「行為地法」(同条2項)も日本法となると考えられる。
したがって、AD間の離縁の方式の問題については、日本法が準拠法となる。
(2) BD間についても、設問1で述べた通り、その養子縁組の「成立について適用すべき法」(通則法34条1項)は、甲国法である。
また、「行為地法」(同条2項)はAD間同様、日本法となると考えられる。
したがって、BD間の離縁の方式の問題については、甲国法と日本法が準拠法となり選択的に適用される。
第3 かかる離縁が認められるとしても、そもそもGD間に親子関係が認められるか。
1 本問では、婚姻関係にないGC間に生まれたとされる子DとGとの間に親子関係が認められるかが問題となっており、これは、「嫡出でない子の親子関係の成立」(通則法29条)の問題と法性決定できる。
2 そして、本問では、父と主張するGと子Dとの間の出生時の非嫡出親子関係の成立が問題となっているため、通則法29条1項により、準拠法を判断する。
同条項によると「子の出生の当時における父の本国法」が準拠法となる。
3 ゆえに、問題文上で明らかになっている事情の限度では、GD間に親子関係が認められるかを判断する準拠法は、Dの出生当時におけるGの本国法である。
第4 親子関係が認められるとしても、Dの監護権がGに認められるのか。
1 これについて、Dの監護権がGに認められるかという問題は、「親子間の法律関係」(通則法32条)の問題と法性決定できる。
同条によれば、「子の本国法が父…の本国法…と同一である場合には子の本国法により、その他の場合には子の常居所地法」が準拠法となる。
2 これについて、まずDの本国法を通則法38条1項に従って検討する。
Dは、甲国国籍と乙国国籍とを有する二重国籍者であるが、現在Dは日本に常居所を有しているため、「国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国」(同条項)はない。
そのため、甲国と乙国のうち、Dに「最も密接な関係がある国の法」がDの本国法となる。
本問において、Dは乙国で出生し、日本へ常居所を移すまでは乙国で生活をしていた。
他方で、問題文上甲国には一度も訪れたという事実はない。
したがって、乙国が、Dに「最も密接な関係がある国」にあたるため、乙国法がDの本国法である。
3 以上を踏まえて通則法32条によると、問題文上で明らかになっている事情の限度では、Gの本国法が乙国法ならば乙国法が、その他の場合はDの常居所地法たる日本法が、Dの監護権がGに認められるかを判断する準拠法となる。
(以上、47142113 中津 信顕)
(なお、中津さんの付けていた参考文献リストは省略)
[1] 澤木敬郎・道垣内正人(2012)『国際私法入門[第7版]』有斐閣 p.127
[2] 同上
[3] 松岡 博(2013)『国際関係私法入門 第3版』有斐閣 p.210
[4] 澤木敬郎・道垣内正人(2012)『国際私法入門[第7版]』有斐閣 p.132
[5] 松岡 博(2013)『国際関係私法入門 第3版』有斐閣 p.224
[6] 澤木敬郎・道垣内正人(2012)『国際私法入門[第7版]』有斐閣 p.129
[7] この点につき、山形家審平成7年3月2日家月48巻3号66頁参照。
[8] 松岡 博(2013)『国際関係私法入門 第3版』有斐閣 p.63
[9] 澤木敬郎・道垣内正人(2012)『国際私法入門[第7版]』有斐閣 p.57
[10] 澤木敬郎・道垣内正人(2012)『国際私法入門[第7版]』有斐閣 p.56
[11] 前田陽一・本山 敦・浦野由紀子(2013)『民法Y 親族・相続 第2版』(LEGAL QUEST)有斐閣 p.134
[12] 野村美明・高杉 直・久保田 隆編(2015)『ケーススタディー国際関係私法』有斐閣 p.21