WLS2015国際私法U
47142113 中津 信顕
設問(b)
第1 設問前段
1 本問において、Aは、Bに対して、契約責任すなわち本件守秘義務契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権の行使として、又は、不法行為に基づく損害賠償請求権の行使として、750億円の支払いを請求する訴えを日本で提起している。
以下、それぞれについて適用される準拠法は何かを順次検討する。
2 本件守秘義務契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権の行使としての750億円の支払い請求(以下、「請求@」)に適用される準拠法について。
(1) まず、請求@は、債務不履行責任に基づくものであり、契約の効力として生じるものであるから、「法律行為」(通則法7条)の問題として法性決定できる。
ゆえに、請求@に適用される準拠法は、本件守秘義務契約の準拠法であり、通則法7条以下によって決定される。
そして、同法7条によれば、法律行為の成立及び効力の準拠法は、当事者が法律行為の当時選択した地の法となるが、本件守秘義務契約には、準拠法を定めた条項がないため明示的な準拠法の合意はなく、また、本問では黙示的な合意があったといえる事情もない。
そのため、通則法8条1項により準拠法を決定することとなる。
同法同条項は、同法7条による準拠法の選択が無いときは、「当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法」によるとしていることから、本件守秘義務契約に「最も密接な関係がある地の法」が請求@の準拠法となる。
(2) もっとも、同法8条2項は、「法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地法(その当事者が当該法律行為に関する事業所を有する場合にはその事業所の所在地の法)」を「当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する」と定めているため、まずは、本規定により推定される準拠法を検討する。
本問についてみると、本件守秘義務契約において守秘義務を負うのはBである。
[本件守秘義務上のAの対価は、本件設計契約に基づく代金に含まれていると考えられますので、Aの債務がない訳ではないと思われます。]
すなわち、その種の契約を他の種の契約から区分する基準となる[1]、当該契約の「特徴的な給付」を行うのはBである。
そして、本件守秘義務契約は、Bが、その事業所たる甲国の設計スタジオでなす事業に関係する契約として結ばれたものであるから、Bの設計スタジオは、通則法8条2項かっこ書の「当該法律行為」たる本件守秘義務契約「に関係する事業所」に当たる。
したがって、その所在地法たる甲国法が、「当該法律行為に最も密接な関係がある地の法」と推定される。
(3) しかし、同条項はあくまで推定規定であり、他に「当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地」(通則法8条1項)があれば同法8条2項による推定は覆され、その地の法によるため、これを検討する。
この判断に当たっては、8条の文言上も考慮要素に限定がなく、8条が柔軟な準拠法の決定を認める趣旨であること[2]から、当該契約に関連する全事情が考慮要素となり、それらの総合考慮によると解する。
本問についてみると、確かに、上記2の(2)で述べたように、本件守秘義務契約において守秘義務を負うのはBであり、その主たる事業所は甲国にある。
しかし、本件守秘義務契約は、Aの施設転用計画が公になることにより、カジノ解禁やAのカジノ事業免許の取得についての障害が、日本において生じるのを防止することを目的として結ばれた契約である。
このように、契約の核心たる契約締結の目的を考慮すると、本件守秘義務契約締結当時においてこれと最も密接な関係がある地は、日本であるといえる。
ゆえに、通則法8条2項による推定は覆され、同法8条1項に基づく、本件守秘義務契約の最密接関係地法は、日本法であると解する。[本件守秘義務契約については、8条2項の推定のままでもいいように思われます。多くの答案は甲国法を準拠法としていました。]
(4) 以上から、請求@に適用される準拠法は、日本法である。
3 不法行為に基づく損害賠償請求権の行使としての750億円の支払い請求(以下、「請求A」)に適用される準拠法について。
(1) まず、不法行為に基づく損害賠償請求である請求Aは、「不法行為」(通則法17条)の問題として性質決定できる。
ゆえに、通則法17条本文より、「加害行為の結果が発生した地の法」が準拠法となる。
本問についてこれをみると、確かに、Aのカジノ施設建設計画は、インターネットを通じて暴露されたものであるが、Aのカジノ施設建設計画の外部への漏洩というBの加害行為によって生じる直接の損害結果は、カジノ解禁やAのカジノ事業免許の取得に障害が生じることであると言え、これは、日本において生じた結果である。
なお、BのAに対する不法行為責任の問題において、Aの信用が毀損されたことは、Bの関係者を情報源とした情報漏洩という加害行為から、派生的・二次的に発生した損害であり、「結果」(通則法17条)には含まれない。
ゆえに、本問における「加害行為の結果が発生した地の法」は、日本法である。
(2) もっとも、日本における当該結果の発生がBにとって通常予見できないものであった場合、17条但書により、加害行為地の法が準拠法となる。
そこで、Bが、日本における本問結果と同種の結果の発生を予見可能であったかを検討する。
本問では、Bは、Aとの間で本件守秘義務契約を結んでおり、その際に、Aから「この転用計画が公になるとカジノ解禁やAのカジノ事業免許の取得に障害になりかねないので秘密にしておく必要がある旨伝え」られている。
ゆえに、Aのカジノ施設建設計画が外部に漏れることによって、日本において本問結果が発生することはBにとって予見可能であったといえるため、17条但書の適用はない。
(3) よって、請求Aについては、日本法が準拠法となるとも思える。
(4) しかし、通則法20条より、「明らかに」同法17条の「規定により適用すべき法の属する地よりも密接な関係がある他の地があるときは、当該地の法」が準拠法となるため、その有無を検討する。
本問についてみると、本問不法行為は、AB間の本件守秘義務契約に基づく義務に違反してなされた不法行為である。これは、同法20条が例示する「当事者間の契約に基づく義務に違反して不法行為が行われた」場合にあたる。
ゆえに、本件守秘義務契約の準拠法が、「明らかに」同法17条の「規定により適用すべき法の属する地よりも密接な関係がある他の地」の法にあたるが、上記2の(3)で述べた通り、この準拠法も日本法であるため結論は変わらない。
[契約違反を理由とする不法行為については、20条を早い段階で検討するということでもよいと思います。結論は契約準拠法と一致させることになり、前半で甲国法を契約準拠法としている場合には、不法行為に基づく請求の準拠法も20条により甲国法になると思います。]
(5) 以上から、請求Aに適用される準拠法は、日本法である。
第2 設問後段
1 請求@の準拠法が、本設問の外国法(以下、「本問外国法」)であると仮定した場合
(1) 日本の裁判所が、日本の公序との関係で、本問外国法を適用した結果通りの支払いを命じて良いかについては、通則法42条により本問外国法の適用が排除されるか否かを判断する必要がある。
42条の公序条項は、外国法の内容自体を否定するものではなく、具体的事案におけるその適用結果が日本の基本的私法秩序を害する場合に限り、その適用を排除しようとするもの[3]であるため、本問外国法の適用結果が日本の公序良俗に反するか否かを判断することとなる。
この判断にあたっては、外国法適用結果の異常性と事案の内国関連性の度合い[4]を相関的に考慮し、最密接関係地法を適用することを基本とする国際私法の理念から考えると、公序則の発動は慎重[5]に検討する必要がある。
(2) 本問についてみると、本問外国法が適用されると、その結果、実損額の如何に関わらず、契約額の10倍の賠償金を支払う旨の条項が有効とされ、750億円が賠償金額となる。
この適用結果は、債務不履行と因果関係のある実際の損害額を限度に、特別損害については相手方の予見可能性をも考慮して賠償金額を決定し、本問においても実損額が150億円程度と算定される日本法からみると、異常性の高いものといえる。
また、本問事案は、Aが、日本で建設するカジノ施設に転用可能な施設の設計をBに依頼し、Bがそれに関連して結ばれた本件守秘義務契約に違反したことで、カジノ解禁やAのカジノ事業免許取得、Aの信用毀損や将来にわたるカジノ分野でのビジネス展開に関する障害が日本において生じるというもので、上記異常性を無視し得る程に事案と内国の関連性が希薄ということはできない。
(3) ゆえに、本問外国法の適用結果は、日本の公序良俗に反するといえ、その適用は排除される。
(4) よって、日本の裁判所は、本問外国法を適用して750億円の支払いを命じることはできない。[設問が750億円の支払いをそのまま認めて良いかというものですので、個々までの判断でよいのですが、日本では公序良俗に反しない限度での違約金の定めは有効だと思いますので、150億円の支払い命令ではなく、たとえば契約金額の約5倍程度(実損額の2倍強)の350億円の支払いを命ずるということはあり得ると思います。]
2 請求Aの準拠法が、本問外国法であると仮定した場合
(1) 請求Aの準拠法が本問外国法であるとすると、「不法行為について外国法によるべき場合」(通則法22条2項)にあたるため、日本法が累積適用される。
そのため、Aは、「日本法により認められる損害賠償その他の処分でなければ請求することができない」(同法同条項)。
これについて、適用範囲を制限するため、日本法の適用を損害賠償の方法のみに限定する説もあるが、本条項は、日本法の干渉を不法行為の効力について一般的に認めたものと理解し、損害賠償の方法だけでなく、損害賠償の額等についても日本法によって制限する趣旨であると解する[6]。
(2) 本問でも、実際の損害額は150億円程度と算定されるのであり、これが日本法により算定された額であるとすると、日本の裁判所は、これを超える金額750億円の支払いを命じることはできない。
設問(d)
1 本問の、AのPに対する損害賠償請求は、「信用を毀損する不法行為によって生ずる債権」の効力であるから、通則法19条により準拠法を判断する。
本問についてみると、問題文上明らかではないが、Aは日本法人であり、その主たる事業所の所在地は日本であると言えるため、日本法が準拠法であると解する。
2 そして、通則法20条を考慮しても、本問で、Aの事業所の所在地法である日本以上に、明らかにより密接な関係のある地は見当たらない。[インターネット上に情報をアップロードすれば、それが甲国語で記載されていても、世界中にその情報が拡散、その中にAの本拠地である日本が含まれることは通常予見可能であって、19条によって導き出される日本よりもより密接に関係する地はないということに触れるべきでしょう。]
3 以上から、日本法が準拠法である。
設問(g)
第1 本件免責契約の成否
1 本件免責契約の成否は、契約がその形式的成立要件を満たしているか否か、すなわち、「契約の方式」(通則法10条1項)の問題である。
2 そして、本件免責契約は、口頭で結ばれた契約であり、確かに電話で隔地的に結ばれることも考えられないではないが、口頭での本件免責契約がAとの交渉過程で成立したことについて多くの証人がいることから、AとCが同一の地で顔を合わせて交渉している過程で締結されたものと問題文の事実を解釈するのが妥当であると考える。
これを前提とすると、本件免責契約は、隔地的契約ではないため、その方式の準拠法の決定と成否の判断にあたっては、通則法10条1項・2項によることとなり、本件免責契約の成立の準拠法か行為地法のいずれかの方式に適合していれば、有効に成立しているとされる。
3 まず、法律行為たる本件免責契約の成立の準拠法が何かについて、通則法7条、8条により判断する。
(1) 本件免責契約の成立について、本問では、その契約の際に当事者が明示又は黙示に準拠法の合意をした事情はない。
そのため、通則法8条1項により、本件免責契約締結当時における、これと「最も密接な関係にある地の法」が準拠法となる。
そして、同法8条2項により、特徴的給付を行う当事者の常居所地法(その当事者が当該法律行為に関する事業所を有する場合にはその事業所の所在地の法)が最密接関係地法と推定される。
(2) 本件免責契約の内容は、予定の工期に間に合わない事態となっても、本件建設契約及び本件追加契約によりCがAに対して負う債務について、Aが免責するというものであり、その種の契約を他の種の契約から区分する基準となる、当該契約の「特徴的な給付」を行うのはAである。
そして、設問(d)の1で述べた通り、Aの主たる事業所の所在地は日本であるといえるため、日本法が最密接関係地法であると推定される。
(3) もっとも、通則法8条2項はあくまで推定規定であり、他に最密接関係地があれば同法8条1項よりその地の法によるため、設問(b)第1の2の(3)と同様の方法によりこれを検討する。
これについて、確かに、本件免責契約は、もっぱら乙国を交渉地として締結された本件追加契約の交渉過程で結ばれたものである。
しかし、本件免責契約によりCの債務を免責するのはAであり、その主たる事業所の所在地が日本と言えること、また、本件免責契約は、日本におけるカジノ施設Zの建設についての本件追加契約に関連して結ばれたものであることから、日本が最密接関係地といえる。
(4) よって、いずれにしても、日本法が最密接関係地法であり、本件免責契約の成立の準拠法は、日本法である。
4 次に、「行為地法」(通則法10条2項)が何かについて検討する。
これについて、本件免責契約は、もっぱら乙国を交渉地として締結された本件追加契約の交渉過程で結ばれたものであるが、その結ばれた地は問題文からは明らかではなく、乙国で結ばれた、又はそれ以外の地で結ばれた可能性が両方存在する。
5 しかし、通則法10条1項・2項によれば、本件免責契約の成立の準拠法か行為地法のいずれかの方式に適合していれば、有効に成立しているとされる。
そして、本件免責契約の成立の準拠法である日本法によれば、契約は、民法446条2項の様に要式に特別の定めがある場合を除き、申込みと承諾の意思表示の合致により有効に成立する。
したがって、通則法10条1項により、日本法によれば、本件免責契約も有効に成立している。
第2 本件免責契約が成立している場合にその効力に適用される準拠法は何か
1 法律行為たる本件免責契約の効力に適用されるべき準拠法が何かは、通則法7条、8条により判断する。
2 そして、これについては、既に設問(g)第1の3で本件免責契約の成立の準拠法を検討しており、これと本件免責契約の効力について適用される準拠法は、AC間で効力に適用される準拠法を別途合意したとの事情がない本問においては、同じ準拠法が適用される。
3 したがって、日本法が準拠法である。
[実質的成立要件の準拠法も問題となるはずです。第1の3の議論を先にして、実質的成立要件の準拠法を決定した上で、方式の準拠法の議論をする方がスムーズだと思います。]
[以上、中津信顕さんの答案]
[設問(g)についての別の答案]
47130072八子裕介
設問(g)
(1) Cの主張する本件免責契約の成否、成立している場合にその効力に適用されるべき準拠法は、法律行為の成立及び効力の問題であるため、通則法7条により、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法となる。
(2)本件免責契約については、明示の準拠法選択があったものとは認められない。
(3)では黙示の準拠法選択があったといえるか。本件免責契約は本件追加契約の締結に際して行われたものであり、本件追加契約の準拠法に従うとの黙示の同意が当事者間にあったものと考えられる。[本件追加契約には準拠法条項がないので、7条の下での黙示意思又は8条で定まる準拠法に従うとの黙示意思を認定するのは不自然であるように思います。しかし、本件免責契約は、本件追加契約の一部修正(免責条項を追加するもの)ともいえ、本件追加契約の準拠法は何かを検討して、本件免責契約の準拠法を決定するという手法はあり得る方法だと思います。]
ア では、本件追加契約の準拠法を検討する。本件追加契約の成否・効力についても通則法7条により準拠法は決定される。
イ 本件追加契約はもっぱら乙国で交渉が行われてはいるが、明示及び黙示の準拠法の選択は行われたとは認められない。
ウ したがって通則法7条による法選択がないため、通則法8条1項の最密接関係地法が準拠法となる。
エ 本件追加契約はカジノ施設Zをカジノ解禁日にオープンさせるために、工期短縮を目的として締結されたものである。したがって本件追加契約は「不動産」であるZを目的物とする「法律行為」であるといえるため、通則法8条3項によって目的物所在地法が最密接関係地法であると推定される。よって本問においてはZの所在地法である日本法が最密接関係地法であり、準拠法となる。
(4) 以上より、本件免責契約は、本件追加契約の準拠法である日本法に従うとの黙示の同意が当事者間にあったものと解されるため、準拠法は日本法となる。
[問題文で口頭での契約であることが記載されている以上、本件免責契約が方式上有効かについて触れるべきでしょう。これについては、10条により、本件免責契約の実質的成立要件の準拠法である日本法か、行為地法である乙国法かのいずれかの法の定める方式に適合していればよいことになります。]
[以上、八子裕介さんの答案]
47142113 中津 信顕
設問(h)
第1 本件動産担保権の成立を判断する準拠法について
1 まず、本件動産担保権は、QのCに対する債権を被担保債権として、本件建設機械に設定された担保物権である。
そして、本問では、Cが本件動産担保権を設定していることから、これは、法律上当然に与えられる法定担保物権ではなく、当事者の約定により設定される約定担保物権である。
ゆえに、本件動産担保権の成立については、物権の「得喪」の問題であるから、通則法13条2項により、「その原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法」が準拠法となる。
2 本問についてみると、QC間で本件動産担保権を設定する旨の約定をした当時における本件建設機械の所在地は、問題文上明らかではなく、本問の事情のもとでは乙国の可能性と日本の可能性がある。
3 したがって、通則法13条2項より、QC間で本件動産担保権を設定する旨の約定をした当時において、本件建設機械が、乙国に所在していた場合は乙国法が、日本に所在していた場合は日本法が、本件動産担保権の成立を判断する準拠法となる。
なお、Qは、担保権が乙国で登録されていること、その旨明記されたパネルが本件建設機械に貼られていることといった事情を主張しているが、最判平成14.10.29(民集56巻8号1964頁)で問題となった、本来の性質上移動することを常とし移動に登録を要する物たる自動車等と、性質上それ自体で長距離を移動することを常とせず、金槌等の他の建設道具と同様でしかない本件建設機械は異なる。[可動式の建設機械車両もあると思います。][パネルの問題は効力の準拠法の適用上の問題にすぎませんので、触れるとしても、第2の3の末尾でいいのではないでしょうか。]
そのため、Qの主張は、準拠法決定後の実質法上の成否については意味をなす可能性があるが、本件動産担保権の成立の準拠法を判断する段階では意味をなさない。
第2 本件動産担保権の効力を判断する準拠法について
1 これについては、通則法13条1項により「その目的物の所在地法」が準拠法となる。
2 本問では、現時点で、本件動産担保権の目的物たる本件建設機械の所在地は日本である。
3 したがって、通則法13条1項より、本件担保権の効力を判断する準拠法は、日本法である。
なお、所在地法によりいったん有効に成立した物権は、後に目的物の所在地が変更されてもその成立が認められ、当該物権の内容・効力については新所在地法による 。
ゆえに、成立の準拠法が乙国法であった場合も、現在の所在地が日本である場合は、その効力を判断する準拠法は、日本法である。
参考文献
・櫻田嘉章・道垣内正人編(2012)『国際私法判例百選[第2版]』有斐閣
・澤木敬郎・道垣内正人(2012)『国際私法入門[第7版]』有斐閣
・野村 美明・高杉 直・久保田 隆編(2015)『ケーススタディー国際関係私法』有斐閣
・松岡 博(2013)『国際関係私法入門 第3版』有斐閣
[以上、中津信顕さんの答案]
47142150村部 祥大
設問(i)
1 本件でのRの主張は、本件ジャンケット契約は無効であるから、不当利得に基づく返還請求権の主張であると考えられる。
この準拠法については、通則法14条が定める。同条は、原因事実発生地法によると定めている。本件原因事実は、本件ジャンケット契約である。そこで、本件ジャンケット契約の成立について検討すると、この準拠法は日本法が指定されている。本件ジャンケット契約は当事者間での契約であるから、通則法7条により当事者が準拠法を選択できる。
従って、原因事実発生地法は日本法であるから、日本法になると思われる。
2(1)しかし、本件Rは富豪ではあるものの、あくまで個人である。一方、Aは法人であり、事業者である。この両者の契約であることから、本問の原因となる事実は消費者契約法であり、通則法11条1項が適用されると考えられる。したがって、以下検討する。
(2)ア)そもそも、外国が常居所地である場合にも同条が適用されるのか検討する。
11条1項は日本が消費者の常居所地である場合に限らず、外国が常居所である場合も含む。
したがって、本問ではRも対象となる。
イ)通則法11条は一般の契約による場合と同様、通則法7条と9条の適用が認められる。
本問では、契約の中に準拠法は日本法とされている。したがって、7条により日本法が準拠法となる。
ウ)そして、Rは消費者が常居所である丙国の強行法規であると考えられる賭博禁止法の適用を主張している。通則法11条1項によると、日本法が準拠法であっても、事業者に対して、この強行法規の適用の意思表示を明示した場合には、この強行法規を適用するとしている。
エ)では、この賭博禁止法は強行法規であるといえるだろうか。この法の趣旨は賭博を禁止し、社会秩序の維持などを目的とするものと思われる。このような規定を任意規定にしても意味はない。したがって、当然に強行法規であると考えらえる。
したがって、本問では、丙国の賭博禁止法が適用されることとなると思われる。
(3)ア)しかし、通則法11条6項は消費者契約としての特別扱いが認められない場合の規定を予定している。そこで、同項各号に該当しないかを検討する必要がある。
イ)本問でAは、支払いを「電子送金」としていることからすると、契約は日本においてではなく、Rの常居所である丙国でなされたものであると考える。よって、1号および2号の適用はない。
[支払いは電子送金ですが、サービスの提供は日本に赴いて受けており、2号に該当することになりますが、世界中で100名を特定された一人として勧誘を受けて来日しているので、但書に該当して、結局、消費者契約として扱うことになるという筋道を辿るできかと思います。]
ウ)本問で、AはRの所在地は認識していると考えらえるから、3号該当性はない。
エ)また、事業者はRが消費者でないと誤認したといえるか検討する。確かに、Rは富豪であり、その賭け金も大金である。ただ、あくまでカジノは個人が行うものであり、その賭け金の多寡により契約の性質が変わるものではないと思われる。
したがって、そもそも誤認した場合ではないし、仮に誤認していたとしても相当の理由があるとは言えないものと思われる。よって、4号にも該当しない。
3(1)以上より、本問でRは丙国の強行法規である賭博禁止法が適用され、本件ジャンケット契約は無効であると考えられる。
このような結論には違和感を覚えるものではある。しかし、通則法上、消費者契約の特則がある以上、事業者はこのことを含めてカントリーリスクとして考慮すべであったと言える。したがって、この結論となることも仕方がない。
(2)本件ジャンケット契約の準拠法自体は日本法である。強行法規の趣旨は、その存在を認めつつも、強行法規の適用主張を認めるものである。したがって、不当利得の判断自体は日本法で行うが、その原因事実である本件ジャンケット契約の効力は丙国法が適用され、無効となると考える。
[以上、村部祥大さんの答案]