早稲田大学法科大学院2015年度夏「国際私法II」&「国際民事訴訟法」試験問題
ルール
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参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。
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解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、2015年7月5日(日)21:00です。
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解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください(emailアドレス中の_はアンダーバーです)。
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メールの件名は、必ず、「WLS2015国際私法II」又は「WLS2015国際民事訴訟法」とし、別々のメールで送付してください(分類のためです)。
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文書の形式は下記の通り。
・ A4サイズの紙を設定すること。
・ 原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。
・ 頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「WLS2015国際私法II」又は「WLS2015国際民事訴訟法」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。
・ 10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。
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枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。
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判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。
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答案の作成上,より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。
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これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものです。
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各設問記載の事実関係は、当該設問においてのみ妥当するものとします。
問題
日本法人Aは、日本でのカジノ解禁は近いとの予想から、解禁と同時に大規模カジノ施設をオープンすることができるように、カジノへの転用可能な大規模施設の建設を企画し、甲国法人B(甲国に設計スタジオを構え、甲国以外には営業所等は有しない)との間で交渉を重ね(すべての交渉は甲国で行われた)、75億円で設計をすることを内容とする契約(以下、「本件設計契約」)を締結した。
他方、Aは、Bの設計に基づく日本での建設工事につき、この種の施設建設の経験がある乙国法人Cとの間で、BCが900億円でこれを請け負う建設契約(以下、「本件建設契約」)を締結した。
そして、3年半の歳月をかけてカジノ施設Zはオープンしたが、これに至るまでに、また開業後にも、いくつかのトラブルが発生した。
以下の設問(a)から(j)について答えなさい。なお、このうち、網掛けを付けた設問((b)、(d)、(g)、(h)、(i))は「国際私法II」の設問であり、網掛けのない設問は「国際民事訴訟法」の設問であるので、別々の試験として答案を作成しなさい。
民事訴訟法は「民訴法」と、法の適用に関する通則法は「通則法」とそれぞれ略すこと。
1.
第1のトラブル
本件建設契約締結に至る交渉において、AはBに、設計を依頼する施設は表向きにはコンベンション・センターとするが、近い将来にカジノへの転用を予定しているので、それに適する仕様である必要がある旨伝えるとともに、この転用計画が公になるとカジノ解禁やAのカジノ事業免許の取得に障害になりかねないので秘密にしておく必要がある旨伝え、本件建設設計契約と同時にA・B間で厳格な守秘義務契約(以下、「本件守秘義務契約」)が締結された。
ところが、ほどなくして、Aのカジノ施設建設計画が外部に漏れた。これは、Bの下請会社の社員である甲国在住の甲国人Pが日本でのカジノ解禁の話題とともに、Bが設計中の施設が日本における第1号のカジノ施設となることを甲国語でインターネットを通じて暴露したことによる。またPは、この記事の中で、この転用計画が極秘にされていることを「陰謀」と表現し、Aの会社としての体質に問題があることを示唆した。
本件守秘義務契約によれば、カジノ建設に関する情報がB及びその関係者を情報源として漏洩した場合には、Bは契約額の10倍の賠償金(750億円)をAに支払うこととされていた。なお、本件守秘義務契約には紛争解決手続を定めた条項も準拠法を定めた条項もない。
(a) Aは日本においてBに対して契約責任又は不法行為責任として750億円の支払いを求める訴えを提起した。日本の裁判所はこれについて国際裁判管轄を有するか。
(b)
(a)記載の訴訟が日本でできるとして、これに適用される準拠法は何か。また、その準拠法が外国法であると仮定した場合において、その法によれば、実損額の如何にかかわらず、契約額の10倍の賠償金を支払う旨の条項は有効とされるとき、日本の公序との関係で、日本の裁判所はその支払いを命じてよいか。なお、実際の損害額の算定は極めて困難であるものの、Aの信用が毀損され、将来にわたってカジノ分野でのビジネス展開に支障が生ずるおそれがあることを勘案すると、150億円程度と算定されるとする。
(c) Aは、日本においてPに対して、Pの信用毀損行為による損害の一部として1億円の損害賠償を請求する訴訟を提起した。日本の裁判所はこの訴えについて国際裁判管轄を有するか。
(d)
(c)記載の損害賠償請求訴訟が日本でできるとして、これに適用される準拠法は何か。
2.
第2のトラブル
本件の施設建設工事中に、日本でカジノを解禁することが正式決定した。そこで、Aは、建設中の施設をカジノ施設Zとし、カジノ解禁日にオープンさせることを正式に発表した。そして、AはCとの間で工期短縮の交渉をし(その交渉地はもっぱら乙国)、本件建設契約とは別に、追加の契約(以下、「本件追加契約」)を締結した。しかし、実際には建設工事は難航し、Zは本件追加契約に定める工事完成日を半年過ぎて完成したため、Zのオープンはカジノ解禁日からの半年後となった。
なお、本件追加契約は、本件建設契約に定める設計の一部変更と工期の短縮等を定めるものであって、本件建設契約と重複する事項については本件追加契約の定めが優先し、その他の事項は本件建設契約の定めが両契約に適用されることを定めている。
(e) 本件追加契約をめぐる紛争に適用がある紛争解決条項が何もない場合、AのCに対する工事遅延による損害賠償請求訴訟について日本の裁判所は国際裁判管轄を有するか。
(f) 仮に本件追加契約に、同契約に関する一切の紛争は乙国の仲裁機関の規則による仲裁 (仲裁地は乙国) により解決する旨の仲裁条項があるとする。Aは乙国での仲裁申立に先立ち、日本の裁判所において、Cが日本に持ち込み日本においたままの建設機械(以下、「本件建設機械」)を目的とする仮差押えの申立てをした。これについて日本の裁判所は国際裁判管轄を有するか。
(g)
(f)記載の仮差押えの申立てについて日本の裁判所が国際裁判管轄を有するとする。Cは、Aとの間で、Aからの度重なる設計・仕様の変更をCが承諾する見返りに、予定の工期に間に合わない事態となってもCはAに対して何らの責任も負わなくてよい旨の口頭の契約(以下、「本件免責契約」)がAとの交渉過程で成立しており、これについては多くの証人がいるので、Aが被保全権利であるとしているCに対する損害賠償請求権は存在しないと主張している。Cの主張する本件免責契約の成否、成立している場合にその効力に適用されるべき準拠法は何か。
(h)
(g)記載の点とは別に、乙国法人Qは、QはCへ融資し、その債権を被担保債権として、Cは本件建設機械に動産担保権を設定しており、この担保権は乙国で登録をしているのみならず、本件建設機械に貼りつけたパネルにもそのことを明記しているとの主張がされている。この動産担保権の成立及び効力を判断する準拠法はいずれの国の法か。
3.
第3のトラブル
Aはカジノ施設Zのオープンを華やかに演出するため、世界各国のカジノにおいて多額の賭けをしている富豪100人を特定し、彼らに個別にアプローチして、そのうち65人との間で、日本への旅行代金及び日本でのホテル代をAが負担する代わりに、Zにおいて1500万円以上の掛け金での賭博をすることを内容とする契約(以下、「本件ジャンケット契約」)を締結した。本件ジャンケット契約には、日本法を指定する準拠法条項はあるが、紛争解決手続を定めた条項は存在しない。
上記の65人は事前に1500万円以上を銀行を介した電子送金の方法でAの日本の銀行口座に払い込み、日本到着時にそれぞれの払込額に相当する賭博用チップの入った電子カードが渡された。この65人のうちの一人である丙国在住の丙国人Rは、事前に払い込んだ5000万円に相当する賭博用チップを元手にVIPルームで数日間にわたる賭けに興じたものの、最終的には完全に負け、電子カードの残高はゼロになった。ところが、その後になって、Rは、賭博を禁圧する丙国においては賭博禁止法があり、その法律によれば本件ジャンケット契約は無効であると主張し、Aに対して5000万円からAがRのために負担している旅費・宿泊費を差し引いた残額4600万円の払い戻しを求めている。
(i)
通則法のもとで、上記のRのAに対する請求の当否、いずれの国の法がどのように適用されるか。
(j) Rは丙国においてAに対する訴えを提起し、本件ジャンケット契約が無効であることを理由として4600万円の返還を請求したところ、丙国の裁判所はRが丙国人であることを理由に国際裁判管轄を認めた上で、本案判断としてもRの主張を認め、Aに対して4600万円(プラス遅延損害金)をRに支払うことを命ずる判決を下し、この判決は確定した。この判決についての日本での執行判決請求訴訟において、日本の裁判所は丙国に国際裁判管轄があると判断するか。