法政大学法科大学院2016年度前期「国際関係法(私法系分野)I」試験問題
論点解説付き
ルール
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参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。
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解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、2016年7月13日(水)21:00です。
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解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください(emailアドレス中の_はアンダーバーです)。
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メールの件名は、必ず、「HLS2016国際関係法(私法系分野)I」として下さい(分類のためです)。
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文書の形式は下記の通り。
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A4サイズの紙を設定すること。
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原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。
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頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「HLS2016国際関係法(私法系分野)I」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。
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10.5ポイント又は11ポイントの読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。
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枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。
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判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。
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答案の作成上,より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。
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これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものにするものです。
問題
以下の事案を読み、設問に答えなさい。準拠法決定については、外国で生じている事項についても、もっぱら「法の適用に関する通則法」(以下、「通則法」)をはじめとする日本の国際私法に従って判断するものとする。なお、下記の外国はすべて不統一法国ではなく、いずれの外国法による場合も、反致は成立しないものとする。
事案:
甲国人夫Aと日本人妻Bは、両者とも出生以来日本に居住している子のいない夫婦である。A・Bの間には実子がいないところ、乙国ではそのような場合に代理出産契約に基づいて他の女性に子を産んでもらうことが広く行われていることを知り、乙国在住の乙国人夫Cと丙国人妻Dの夫婦との間の4者契約により、A・Bは約定額の半分を契約締結とともにC・Dに支払うこと、Aの精子により受精したBの卵子をDの体内に入れ、Dが子を出産し、その子をA・Bに引き渡すこと、その際、約定額の残りの半額をA・BがC・Dに支払うこと、以上を主たる内容とする契約を締結した。そして、予定通り、約1年後にDはEを出産した。
甲国人夫A=<婚姻>=日本人妻B
乙国人夫C=<婚姻>=丙国人妻D
---Eを出産
なお、日本法、甲国法、乙国法、丙国法の親子関係の成立に関するルールは次の通りであるとする。
日本法:その概要は以下の通り。婚姻中に妻が出産した子は夫の子と推定する。婚姻していない女性が出産した子は、その女性とその子とのDNAの繋がりは問わず、その子を出産した女性を母とする。婚姻していない女性が出産した子と、父との間の親子関係は、父の認知によって成立する。
甲国法:婚姻の有無にかかわりなく、母子関係は出産によって決定され、父子関係はDNAの繋がりによって決定される。
乙国法:婚姻の有無にかかわりなく、母子関係も父子関係もDNAの繋がりによって決定される。
丙国法:甲国法と同じ。
設問1:
EはA・Bの嫡出子か否かを判断する準拠法はいずれの国の法か。そして、上記の法律の適用の結果、この点、YESかNOか。その適用結果は公序違反か。
通則法28条による。Aの本国法又はBの本国法により子が嫡出子とされればそうなる。故に、甲国法又は日本法のいずれかによりEがA・Bの嫡出子とされるか否かによる。
Aの本国法(=甲国法)によれば、父子関係はDNAによるのでYES。母子関係は出産によるのでNO。では、甲国法によればEはA・Bの嫡出子か。嫡出子制度は夫婦から生まれた子とそうでない子とを区別し、前者については夫婦の一方との関係ではなく、双方との関係。したがって、甲国法によれば、上記の通り、Aとの父子関係のみを認めるのであって、そもそも嫡出子制度がない甲国法上、EはA・Bの嫡出子ではない。
Bの本国法(=日本法)によれば、Bが出産していないので、EはA・Bの嫡出子ではない。
EはA・Bの嫡出子ではないという結論は甲国法の適用結果であるとともに日本法の適用結果でもあるので、公序違反ではない。
設問2:
EがDの子(嫡出子か非嫡出子かは問わない。)であるか否かを判断する準拠法はいずれの国の法か。そして、上記の法律の適用の結果、この点、YESかNOか。その適用結果は公序違反か。
EがC・Dの嫡出子であるか否かは、通則法28条により、Cの本国法(=乙国法)又はDの本国法(=丙国法)のいずれかによりEがDの嫡出子であればそうなる。
そして、乙国法も丙国法も嫡出子制度を有していないので(いずれの国においても、親子関係は父子関係と父母関係とで別々に決定される。)、EがC・Dの嫡出子とされることはなく、Dの嫡出子ではない。
そこで、まず、EがDの嫡出でない子か否かは、通則法29条により、丙国法による。丙国法によれば、母子関係は出生によって決まるので、EとDとの母子関係は肯定される(YES)。
日本法によってもEとDとの母子関係は肯定されるので、丙国法の適用結果は公序違反ではない。
設問3:
Eの父はAかCかを判断する準拠法はいずれの国の法か。そして、上記の法律の適用の結果、この点の結論はどうか。その適用結果は公序違反か。
設問1により、通則法28条により適用されるAの本国法(=甲国法)には嫡出制度がないため、EはAの嫡出子ではあり得ない。同条により適用されるBの本国法(=日本法)によっても、EはBが出産していないので、A・Bの嫡出子ではない。
通則法29条により適用されるAの本国法(=甲国法)によれば、父子関係はDNAの繋がりによって決定されるので、甲国法上、EはAの子である。
他方、通則法28条により適用されるCの本国法(=乙国法)にもDの本国法(=丙国法)にも嫡出制度がないため、EはCの嫡出子ではあり得ない。
通則法29条により適用されるCの本国法(=乙国法)によれば、父子関係はDNAの繋がりによって決定されるので、乙国法上、EはCの子とはされない。
以上により、Eの父はAということになる。しかし、日本法によれば、Aが認知しない限りEとの父子関係は成立しない。これが公序違反か否かが問題となるところ、A・Eの父子関係と日本との関係は十分に密接であるので、認知なくしてA・Eの父子関係が成立することが日本法として容認できないほどのことかが問題となる。この点、AはDが代理母となって自分の子を出産することを自ら望んでいたのであるから、認知がないからといって父子関係が成立することが公序違反とまではいえないと思われる。
したがって、Eの父はAであり、これは公序違反ではない。
設問4:
A・B・C・Dの間の本件代理出産契約には乙国法を準拠法とする条項があり、同国法上その契約は有効である。C・DがEの出生後、EのA・Bへの引渡しを拒んでいるため、A・Bはこの契約に基づいてC・Dに対してEの引渡請求訴訟を日本で提起した。日本に国際裁判管轄があるとして、日本の裁判所はこの訴えについてどのように判断すべきか。
上記の設問から、日本の国際私法に照らしてみると、Eの父はAであり、母はDである。母であるDが出産した婚外子であるEを手許に置きたい望むことは日本の法秩序のもとでは正当な利益があることであり、子の引渡しについてDが当事者となって事前に締結した契約上はEをA・Bに引き渡す義務がありそれが当該契約の準拠法上は有効なものとされるとしても、そのような契約の適用結果は日本の公序に反すると思われる。
したがって、日本の裁判所はA・Bの請求を棄却すべきである。