早稲田大学法科大学院2016年度冬「国際私法I」試験問題

 

ルール

-       文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。

-       解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、20161224()13:00です。

-       解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください(emailアドレス中の_はアンダーバーです)。

-       メールの件名は、必ず、「WLS国際私法I」として下さい(分類のためです)。

-       文書の形式は下記の通り。

A4サイズの紙を設定すること。

原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。

頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「WLS国際私法I」、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。

10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。

-       枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。

-       判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典を記載して下さい。

-       答案の作成上,より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。

-       これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものにするものです。

-       各設問記載の事実関係は、当該設問においてのみ妥当するものとします。

 

問題

 

日本のP市在住(本籍もP)の日本人女性A(著名なバイオリニスト)は、それまで同棲していた日本人男性Bとの婚姻外の関係を解消し、心機一転を期して、20101月、甲国に旅行に行った。その旅行中、甲国で、甲国在住の乙国人男性C(駆け出しの作曲家)と出会った。同年2月、帰国したAに会うために来日したCは、日本に住んで作曲の仕事をする旨の話をし、両者は婚姻の約束をした。そして、両者は乙国に旅行に向かい、201031日、乙国在住のCの親族が大歓迎して催した乙国古来の伝統的な儀式に従って婚姻が執り行われた。また、同日、ACは、P市役所で入手し持参していた婚姻届書に必要事項を日本語で書き込み、証人欄の署名の部分のみCの両親に乙国の言語で署名してもらい(その読み方を同じ欄にカタカナで書いた上で)、P市役所宛に国際郵便で提出した。そして、同年35日にP市役所の戸籍担当者はこの婚姻届書を受領した。

以下の設問はそれぞれ独立しており、すべて、日本の裁判官の立場で、法の適用に関する通則法(以下、「通則法」という。答案においても同じ。)等に照らして答えなさい。

(1)      ACのした乙国での婚姻は乙国法の定める方式に適合するものであったとする。ACP市役所に郵送した婚姻届はいかなる意味があるか。

(2)      ACのした乙国での婚姻は乙国法の定める方式に適合しないものであったとする。ACP市役所に婚姻届書を郵送したことにより、婚姻は方式上有効に成立したか。

(3)      ACの婚姻は201031日に有効に成立したとする。そして、その直後にACは日本に戻り、Aの住居で同居を始めた。そして、婚姻の日から210日目にAは子Dを出産した。そして、D1歳半を迎える頃、CDが自分に全く似ていないことを理由に、自分の子ではないと主張し始めた。国法によれば、婚姻中に懐胎したか否かに関わらず、子の親について争いが生じた場合にはDNA検査等の方法により誰の子かを定めることとされている。日本の裁判所での提訴につき管轄権等の手続法上の問題はないとして、日本の裁判所において、Cは、Dが自分の子ではないことを確認する判決を得ることができるか。

(4)      ACの婚姻関係が円満を欠く状況になりつつあった201110月、Aは、日本にいては感性が鈍ると考え、Cと別居し、また子DAの両親に託して、単身甲国で生活を始めた。Aは、甲国に居住するようになってますます国際的名声は高くなった。そして、ソロのバイオリニストとして世界中で公演をする日々を送りつつ、甲国に戻っている間は日本からDAの両親を呼び寄せて、Dとの親子関係の円満の維持に努めている。その間、Aと別居して日本で生活を続けていたCは、CMソングをはじめとする様々な商業音楽の作曲を細々と続けていた。そして、ACの別居から3年を経た201310月、Cは、日本の裁判所において、Aに対する離婚並びに慰謝料及び離婚後の扶養料の支払いを求める訴えを提起した。この訴えについて日本の裁判所に国際裁判管轄が認められると仮定して、Cのこれらの請求に適用される準拠法はいずれの国の法か。

(5)      DCの子ではないとされ、ACは離婚したとする。そして、201410月、A4歳になるDはともに日本国籍を離脱し、甲国に帰化したが、その後、日本に戻り、日本で生活するようになったとする。それから2年後の201610月、日本人Bが現れ、Dの認知をしようとしている。これに対して、甲国法上、認知の対象となっている子の実母には父と称する者からの認知を阻止する権利があるとされており、Aはこの権利を行使できるのであれば行使する意向である。この認知について、日本から見て、いずれの国の法がどのように適用されるか。