WLS国際関係私法基礎

 

1問・第2問の解答:47152093 比嘉隼人(敬称略。以下同じ。)

3問・第4問の解答:47152054 佐藤菜都季

4問の別の解答:47162075  前里康平

赤字は道垣内による加筆修正/コメント

 

(1)         Cは、Bの評価が日本で上昇し始めていたことをAは知っていながらこれをCに告げず、Cから絵画αを安く手に入れたとし、美術館のために絵画を購入したAは事業者であって、甲国法の消費者保護に係る強行法規によれば、Cは絵画αの売買契約の解除権を有すると主張している。この主張の当否を判断する準拠法は何か。

1(1) Cの主張する売買契約の解除権の存在は、契約の効力についてのを否定するものであるから、「法律行為の・・・効力」(通則法7条以下)性質決定される。

(2) 通則法7条以下でいかなる準拠法指定がなされるか検討すると、当事者AC間契約には準拠法条項がないことから、明示的な準拠法選択があるとはいえない。また、当事者の黙示的な合意が認められる事情もない。

2(1) そこで通常であれば、通則法8条を検討することになる。しかし本件では、CAが事業者であると主張していることから、AC間契約が「消費者契約」(通則法11条)として通則法11条の適用が考えられか否かは問題となる。本件においては当事者による準拠法選択は全く窺われない。このように法選択がない場合で、問題となっている契約が消費者契約に当たる場合ときは、112項により8条の適用が排除され、消費者の常居所地法が適用されることになる。そこでAC間契約が消費者契約にあたり通則法112項が適用されるか検討する。

ア 通則法11条は、消費者契約の準拠法について特則を設け、同条1項に消費者契約の定義を置く。消費者契約とは消費者と事業者との間で締結される契約をいい、「事業者」とは、法人その他の社団または財団に加え、事業としてまたは事業のために契約の当事者となる個人をいう(同条1項括弧書き)。

イ 本件では、Aは確かに美術館での展示を夢見ており、購入後絵画の保管に適した状態を維持することができる倉庫を有するDに保管を依頼していることからも、事業としての美術館での展示を視野にいれて絵画αを購入したとも思える。しかし、@Aの本業は運送業であり、絵画愛好家にすぎないであり、絵画αの作者であるBを高く評価していること、AそしてA自身莫大な資産を形成していることから甲国を訪問したのは事業である運送業の仕事のための出張のためであり、同国で同好の士として以前から交流があったCαを保有していることを知ったことから、その譲り受けの交渉をして買い取ったこと、BあくまでAコレクターとして自身の資産状況に応じて絵画αを大切に扱うためにDに保管を依頼しているといえること、。Cそして、Aの美術館建設はあくまで夢見ている状態であって、その後も実現しないまま3年が経過していることからも以上のことから、事業としてではなく単に趣味の延長としての夢にとどまっているというべきであるから、したがって、絵画αの購入は、結局趣味の一環であり美術館を事業として運営するためとはいえない。そのためAは事業としてまたは事業のためにAC間契約の当事者となる個人には当たらない。

ウ したがって、Aは「事業者」にはあたらない。

(2) よって、通則法112項は適用されない。

3 そこで、通則法8条により検討する。通則法82の適用上による推定が働くかについて、本件のAC間の契約はAを買主、Cを売主とする絵画αの売買契約である。り、絵画αの引渡債務を負う売主側であるCが特徴的給付を行っているといえるから、「特徴的な給付を行う当事者の一方のみが行うものであるとき」にあたる。そのため、「その給付を行う当事者」であるCの「常居所地」たる甲国が最密接関係地と推定される。問題文からは必ずしも明らかではないが、たまたま甲国を訪れたAと甲国で会い、交渉の結果、保有した絵画を甲国でAに引き渡していることから、Cの常居所は甲国であり、甲国法が最密接関係地と推定されると解される。そして、かかる推定を覆す事情存しない。したがって、82項・1項により、Cの常居所地法たる甲国法が適用される。

4 結論

 以上より、Cの主張の当否を判断する準拠法は甲国法である。

(2)         Aは、Dの絵画αの日本への持ち込み及びEへの売却は、ADとの間の絵画αの保管契約違反であると主張して、日本で提訴した。この訴えについて日本の裁判所には国際裁判管轄があるか。

1 民事訴訟法(以下、「民訴法」とする。)3条の2の被告住所地裁判管轄については、Dは甲国に住所があると考えられるため、「その住所が日本国内にあるとき」(同項1項)にあたらず、被告住所地管轄はない。

2 民訴法3条の31号該当性

 Aは、Dが絵画αの保管契約違反であると主張していることから、契約に基づく保管義務の履行請求もしくは保管契約違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求をすることが考えられる。民訴法3条の31号は、「契約上の債務の不履行による損害賠償の請求その他契約上の債務に関する請求を目的とする訴え」について、「当該債務」の履行地が日本である場合に管轄を認めるものであり、しかも、その履行地は契約において定められているか、又は契約において選択された地の法により法定義務履行地となっていることが必要とされている。本件では、後者の契約において選択された地の法は存在しないが、絵画を甲国の倉庫で保管する契約であることから、契約において明示されていなくても、少なくと黙示的には甲国を保管義務履行地とすることが定められていると解される。もっとも、しかし、本件において不履行が問題なっているける「契約上の債務」は、Dが甲国で所有する倉庫内でα絵画を保管する債務である。り、本件では、その履行地は甲国であると考えられるため、「当該債務の履行地が日本国内にあるとき」にあたらない。したがって、民訴法第3条の3第1号では国際裁判管轄は認められない。

3 民訴法3条の33,4,5号該当性

  民訴法3条の33号については、「請求の目的」たる絵画αは現在Fの乙国所在の金庫で保管されており、「日本国内にあるとき」には当たらないため同号でも国際裁判管轄は認められない。同条4号についても、Dは日本国内に事業所又は営業所を有していないと考えられるため、同号でも国際裁判管轄は認められない。同条5号について、「事業」は継続性を内包する概念であり、被告の日本における活動は継続して行われる必要があると解される[1]ところ、本件でDは日本でBの評価が特上昇していることからたまたま日本に絵画αを持ち込んでいるだけでありおり継続的に日本で画商としての事業を行っているとはいえない。したがって同条5号による国際裁判管轄も認められない。

[本問の解答の末尾において触れられていますが、民訴法3条の38号の不法行為地管轄が認められるという議論は有力に展開できるのではないかと思われます。Aαに対する所有権を侵害する売却行為が日本で行われているからです。多くの答案がこれを根拠に日本の国際裁判管轄を肯定していました。]

4 民訴法3条の41項該当性

(1) Aは、本件のAD間保管契約においては、Aは消費者、Dが事業者にあたるから、民訴法第3条の41項により日本の裁判所に国際裁判管轄が認められると主張することが考えられる。以下、検討する。

(2) 「消費者」とは、個人をいい、事業として又は事業のために契約の当事者となる場合は除外される[2]

イ 本件では、Aは運送業を営む事業家とされているから、事業のために契約の当事者となる場合の個人として消費者にあたらないとも思える。しかし、本件AD間で紛争となっている保管契約は、Aの本業である運送業とは何ら関係なく、Aの絵画収集という趣味の一環でなされているものである。そして、日本で建設を計画している美術館での展示のためという動機についても、絵画を預けてから3年が経過しても実現していないことから、夢を見ている程度で事業のためとはいえない。そのため、Aは事業として又は事業のために契約の当事者となったとはいえない。

 ウ したがって、Aは「消費者」にあたる。

(3) 「事業者」とは、法人その他の社団又は財団及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう[3]

本件では、Dは画商として事業をおこなっている者であるところ、画商としての事業には、絵画の売買のみならず、取引の対象となる絵画を引渡しまで保管することなども含まれると考えられるから、AD間の保管契約についても、事業として又は事業にためになされたといえる。

ウ したがって、Dは「事業者」に当たる。

(4) そして、本件ではAからDに対する訴えであるから「消費者からの事業者に対する訴え」にあたる。また、Aは現時点でも日本に住所を有すると考えられるから、訴えの提起の時における消費者の住所が日本国内にあるときにあたる。

(5) よって、ADに対する訴えについて、日本の裁判所は民訴法3条の41項に基づき国際裁判管轄を有する。

5 民訴法3条の9該当性

本件ではAD間で裁判管轄合意条項がないことから、民訴法3条の7による合意管轄も認められないため、民訴法3条の9が適用されうる(民訴法3条の9括弧書き)。そこで、民訴法3条の41項に基づいて国際裁判管轄が認められるにしても、民訴法3条の9の「特別な事情」が認められるとして訴え却下とはならないか検討する。

(1) ア 民訴法3条の9は、「事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別な事情があると認める場合には、」裁判所は訴えを却下することができるとする。そして、同条に該当するか否かは、前段に定められる事柄を考慮要素として、当事者間の衡平、審理の適正・迅速を妨げる特別の事情がないかを審査し、総合的に判断する。

イ 本件についてみると、被告の応訴の負担については、Aは自ら甲国に赴いてDと契約を締結していることから、Dにとっては日本で訴訟を提起されることは当然に予測可能であったとはいえない。しかし、Dは画商として絵画を預かり保管していることから、詳細は知らないとしてもAが日本においてなんらかのゆかりがあることは知っていたはずであり、日本での訴訟提起を認めてもDの予測可能性を害するとまではいえない。そして、証拠の所在地についても、確かに絵画αを保管する倉庫の所在地は甲国であるものの、持ち出しを禁ずる条項の有無など保管契約の詳細は契約書の証拠調べによって判断可能であるし、持ち出しの末オークションにかけられたのは日本であることから必ずしも甲国に証拠が集中しているとはいえない。またDは資金繰りに困っていたとされているものの、甲国内に倉庫を有し、絵画αをオークションにかける際に日本に来日していることなどからすると日本で訴訟活動をさせることが酷だとはいえない。そうだとすると、本件においては日本の裁判所が審理及び裁判をすることが、当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別な事情があるとはいえない。

ウ したがって、ADに対する訴えは民訴法3条の9に基づき訴え却下とすべきではない。

6 結論

 以上より、ADに対する訴えにつき日本の裁判所は国際裁判管轄を有する。

 なお、Aは債務不履行構成を主張しているように思われるものの、仮に不法行為構成であるとすれば、絵画αの無断持ち出しおよびEへの売却が日本でなされていることから、「不法行為があった地が日本国内にあるとき」として民訴法3条の38号により国際裁判管轄が認められよう。

[以上、比嘉隼人の答案。以下は、佐藤菜都季の答案]

(3)         Eの絵画αの落札から6ヶ月後、Aは、E及びFに対して、絵画αの返還請求をした。この返還請求の当否を判断する準拠法は何か。

1 法性決定

 AE及びFに対する絵画αの返還請求は、絵画αの所有権に基づく返還請求権であると考えられる。

 そして、所有権に基づく返還請求は、物権的請求権であり、これは所有権の本質的効力の問題であるから、不法行為の問題ではなく、13条の物権の問題と法性決定される。

2 通則法13条における連結政策 

() ここで、同条は、1項では「動産又は不動産に関する物権及びその他登記すべき権利」つまり物権問題には変更主義を採用した上で目的物所在地法を準拠法と定めている。ただし、「物権の得喪」については2項で原因たる事実が完成した当時の目的物所在地を連結点とし、不変更主義を採用している。

() この趣旨は、動産又は不動産に関する物権は、権利の客体である目的物に対する排他的支配権であり、その規律はもっぱら当該目的物が所在する場所の秩序・公益と直接関係する問題であるから、属地法である目的物の所在地法を適用することが合理的である点にある。また、対世的効力を有する物権の問題は、権利者以外の第三者との関係も問題となるところであり、目的地の所在地法を準拠法とすることで準拠法の明確性を確保することができること、目的物の所在地の経済秩序との密接関連性、執行の容易性の観点も、目的物の所在地法を準拠法とすることの根拠とすることの根拠として挙げられる。

 そして、権利の得喪の問題の連結点に関し不変更主義を採用したのは、一度所在地法によって完成した物権の得喪が、後の目的物の所在地の変更によって影響を受けないようにするための連結政策によるものである。もっとも、現在の所在地に既得の物権と同種のものがあれば、当該同種の物権としてその所在地法上の効力が認められるが、所在地法に同種の物権がない場合には、その地に目的物が所在する限り、その物権の効力は認められない。対世効のある物権の性質上、所在地に存在しない物権の効力を認めることは物権法秩序を混乱させる結果となるからである。

3 物権的請求権発生の準拠法

() 問題点

 本件において、まず物権的請求権が発生しているか否か、つまりAのαの所有権取得の有無及びE及びFの占有権の有無は、「権利の得喪」の問題だから、同条2項により原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法によって判断することになる。ここで、「原因となる事実」は準拠法を適用してみなければ分からないから、目的物の所在地法上物権変動が生じているか否かを時系列にそって考えることになる。

() Aの所有権取得の有無

 Aの所有権の取得の原因はAC間の売買契約であるが、この契約の準拠法は売買契約の成立・効力に関する問題として、設問1と同様に通則法8条によって、甲国法が準拠法となる。そして、甲国法上売買契約が有効に成立していると認められる場合、Aの所有権の取得の有無は、その契約成立時のαの所在地である甲国法が準拠法となる。甲国法上の物権変動の原因(物権的法律行為が債券的法律行為とは別に必要とされているか、その方式として何かが要求されているか等)は問題文からは不明であるが、ここでは、甲国法上Aの所有権取得が認められたとして検討を続ける。

() Aの所有権喪失の有無

 甲国で取得したαの甲国法上の所有権は日本法における所有権に相当することを前提とする。としてそして、Dがαを日本に持ち込み、αが日本にある間、日本においては、Aの有する物権は日本法上の所有権に相当することを前提とする。が認められる場合、Dがαを日本において持ち込み競売しオークションにかけEが買い受けたことでAは所有権を喪失したといえないか。この原因事実たる競売は日本法を準拠法として完成しており、このときαは日本に所在しているから、Aの所有権の喪失の有無の準拠法は日本法となる。

 ここで、日本民法上、本件におけるオークションでの落札のように、「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、」競売による取得には即時取得(民法192)が成立すると解されており、本件でもEの即時取得が認められる。もっとも、民法193条・194条により、即時取得から2年間はAEに対してEが支払った対価を弁償することにより、その物をの物権的請求権たる回復すること請求権が認められており、この間の所有権はAに留保されていると解されているから[4]、競売から6ヶ月の本件では、Eはαを即時取得しているものの、Aにはこの回復請求権が残っており、これは物権的請求権である[ここに注4を移す]の所有権及び物権的請求権は日本法上消滅していないことになる。 

4 乙国法上の物権的請求権の当否の準拠法 

 そして、日本法上成立したαに対するEの即時取得による日本法上の所有権が乙国法においていかなる効力を有するかは乙国法によるほかなく、131項と2項の趣旨から、日本法上の所有権は乙国法上の類似の物権に読み変えて乙国法上認められることになる。そして、これを前提として、Aの物権としての回復請求権の扱いが問題となる。これは、競売によって他人が即時取得した物が他の国に移動した後、その物に対して真実の所有者が日本民法193条・194条のような物権的請求権を有するかその内容はどうかという物権的請求権の内容や存続は物権の効力の問題であるから、通則法131項より目的物の現在の所在地法である乙国法が準拠法となる。そして、仮にAにそのような物権的請求権が認められるとしても、本件においては即時取得者であるEは乙国において既にαを担保としてFに引き渡しているので、Aの物権的請求権がFに対しても主張できるのか否か、その条件は何かは乙国法によることになる。

5 結論

 以上より、@Aの物権的請求権の発生につき、AC間売買契約によるAのαの所有権の取得の有無の判断の準拠法は甲国法、A甲国上認められた所有権が日本法上そのような効力を有するかの準拠法は日本法、B日本法上所有権と認められた場合に、Aが、Eの競売によるαの落札取得によりEがいかなる物権を取得するか、また、Aがなお何らかの物権的請求権を有するか所有権を喪失するか否かの判断の準拠法は日本法、CA所有権喪失がない場合に、その日本法上認められた物権的請求権所有権が乙国法上いかなる効力を有するかの判断の準拠法は国法、D所有権が乙国法上の所有権として認められた場合に物権的請求権が認められるか否かの準拠法は乙国法となる。

(4)         Cは、上記(1)の主張に基づき、甲国で絵画αの返還請求訴訟をAに対して提起し、甲国の裁判所はCの請求を全面的に認め、この判決は確定した。この甲国判決の日本での効力を判断するに当たって、民事訴訟法1181号の要件は満たされているか。

1 国際裁判管轄の有無の判断基準

() 本件甲国裁判所における判決の日本での効力を判断するにつき、国際裁判管轄(民事訴訟法(以下「民訴法」という。)1181)が認められるか。判決裁判所の国際裁判管轄の有無の判断基準が問題となる。

() 民訴法1181項が判決裁判所に国際裁判管轄権があったことを外国判決の承認の要件とした趣旨は、判決国裁判所の不当な管轄権の行使による権利侵害から被告を救済することにあり、日本でその判決の効力を認めるか否かという日本の法秩序の問題である。そしてこの管轄審査を判決国法に従うとすると、判決国の裁判所は管轄を肯定して裁判をしているのであるから、単なる事後的な確認作業となり、同条の趣旨に沿わない。したがってから、判決裁判所の国際裁判管轄権の有無の判断は、承認国である日本の基準によるべきである。

()さらに、間接管轄及び直接管轄はいずれも裁判機能の国際的配分という同一の問題であり、同一の基準が妥当するから、間接管轄の有無は直接管轄と同じ基準で判断すべきである(鏡像理論)[鏡像理論をとるとしても、鏡像理論をとっているとは読むことができない最高裁平成26424日判決に触れる必要があります。道垣内正人・平成26年度重要判例解説300-301[2015]]

 したがって、以下民訴法3条の2以下を検討する。

2 消費者住所地管轄(民訴法3条の41)

  本項は、消費者の裁判所へのアクセスの保証の趣旨から、消費者契約に関し消費者が事業者を訴える場合、消費者の住所地に管轄を認めている。

 しかし設問1で述べたとおり、本件売買契約は消費者契約ではないため、本項の適用はない。

3 履行地管轄(民訴法3条の31)

 本号の「契約において定められた履行地」及び「契約において選択された地の法によ」る「当該債務の履行地」に管轄を認めており、準拠法選択がない場合における最密接関係地(通則法8)で定まる履行地は当たらないから、準拠法選択のない本件には適用の余地がない。

4 不法行為地管轄(民訴法3条の38)

() 設問()の3で述べたとおり、同条は、「不法行為に関する訴え」には、契約関係事件であっても、請求が不法行為に基づいているならば、当該請求については不法行為地管轄を利用することができる[5]。そして「不法行為」と認められるかについては、管轄原因事実と請求原因事実の符号の問題が生じるが、不法行為の存在が一応の証拠調べに基づく一定程度以上のたしかさをもって証明されればよいと考える(一応の証明説)

[この結論をとるとしても、一応の証明説を否定した最高裁平成1368日判決(ウルトラマン事件判決)に触れる必要があります。]

() 本件では、日本で価値が上昇している事実を知りながらACに告げなかった不作為を加害行為として、αの所有権を侵害されたことからその返還を請求していると構成すると、不法行為に関する訴えとして主張しているとも考えられる。

 ここで、不法行為の存在が一応の証拠調べに基づく一定程度以上のたしかさをもって証明されればよいと考える(一応の証明説)

() そして、本件不法行為責任が認められるか否かの本案の問題の準拠法はCの主張を前提とすると、「加害行為の結果が発生した地の法」は甲国法であるから(通則法17)、管轄原因事実として不法行為の有無を判断するのも甲国法の不法行為に関する規定によるべきである。とすると、甲国法上、不法行為の成立にいかなる要件を満たすことを要求されるかが問題となるが、日本と同様の不法行為制度を有していたと仮定して検討を続けると、加害行為の存在とそれに基づく損害の発生という不法行為の重要な一部の要件について考えても、設問1で述べたようにAが事業者と認められる可能性は小さく、ACは絵画愛好家として交流があり、当事者間で情報力・交渉力の差が大きいと認められる事情もない上、Aに故意・過失がある事情も伺われないから、不法行為であると一応いえる程度と裁判所が判断する見込みは低いのではないかと考えられる。

[ウルトラマン事件判決のいう客観的要件具備必要説であればもちろん、一応の証明説をとるとしても、Cの主張する不法行為は詐欺であり、その主張が本案において認められるか否かに関わらず、行為のすべては甲国で生じており、実際にCは値上がり益を得る機会を失い、Aはそれを利得しているのであるから、一応は本案審理を必要ならしめる程度であるという判断もあり得ると思われます。そして、民訴法3条の9の適用による管轄否定は困難ではないかと思われます。]

  したがって、裁判所が甲国法上の不法行為の規定に照らして判断した結果が、不法行為の存在が一定程度以上のたしかさがあるとはいえないというものであるとすると、「不法行為に関する訴え」とはいえないと考えられる。

() よって、不法行為地管轄も認められない。

5 以上より、甲国に国際裁判管轄は認められないと考える

 

[以上,佐藤菜都季。以下は、第4問の別の解答として、前里康平のもの。]

 

第4 設問(4) 

 1 民事訴訟法118条1号の要件は満たされているか、すなわち、「法令又は条約により」甲国の裁判所に「裁判権」が認められるか検討する。「裁判権」という要件は、「判決を言い渡した裁判所が、国際法上の裁判権を有しているだけではなく、国際裁判管轄(間接管轄)を有することをも要求するものである。」(澤木・道垣内,2012年,330頁)。国際法上の裁判権は存在することを前提とし、以下、間接管轄があるかを検討する。旧法下で、判例は、「どのような場合に判決国が国際裁判管轄を有するかについては、これを直接に規定した法令がなく、よるべき条約や明確な国際法上の原則もいまだ確立されていないことからすれば、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により、条理に従って決定するのが相当である。」(最判平成10年4月28日民集52巻3号853頁)としている。[平成10年判決と同じく、民訴法改正後も、鏡像理論をとっているとは読むことができない最高裁平成26424日判決があります。道垣内正人・平成26年度重要判例解説300-301[2015]] そうすると、判例に従えば、日本の国際裁判管轄(直接管轄)が認められる場合よりも、間接管轄が認められる場合のほうが多い、つまり、間接管轄は直接管轄よりも広いと解することもできる。「しかし、そもそも日本で直接管轄を否定すべき場合に間接管轄を肯定することは訴訟法上の正義や主権の理念に反するものというべきであり、直接管轄と間接管轄は全く同じルールに服すべきである(鏡像理論)」(澤木・道垣内,2012年,330頁)と私も考える。よって、以下、甲国に日本の民事訴訟法3条の2以下の管轄原因が認められるか検討する。

 2 本問でCは絵画αの返還請求をAに対してしている。設問(1)の主張に基づき返還請求しているとのことだから、当該返還請求は売買契約解除によりCに絵画αの所有権が帰属したことを理由とした、所有権に基づく絵画αの返還請求であると考えられる。そうすると、右請求は民事訴訟法3条の3第3号の「財産権上の訴え」に当たる。よって、鏡像理論から、請求の目的たる絵画αが甲国内にあれば甲国に間接管轄が認められる。本問では、Aは甲国内のDに絵画αを預けていたが、その後Dは絵画αを日本に持ち込み、オークションにかけられ、結果、絵画αは乙国内に存在することになったという事情がある。管轄があるか否かの判断は訴え提起時に判断されるから、Cが甲国の裁判所に本問の訴えを提起した時点で、絵画αがいまだ甲国内に存在していれば、民事訴訟法3条の3第3号による管轄原因が認められる。他方で、右訴え提起時に絵画αが甲国内に存在しなければ同号による管轄原因は認められず、民事訴訟法3条の2以下で規定する他の管轄原因も認められないので、甲国に間接管轄は認められないことになる。

   甲国に民事訴訟法3条の3第3号による管轄原因を認めた場合、同法3条の9の「特別の事情」がないか検討する。本問の事案は絵画αの返還請求であるから、請求目的物の所在地である甲国と本問事案の関連性が十分であるといえる。また、Aは少なくとも一度は甲国に赴いているし、事業家として資金も十分あると考えられるので、「応訴による被告の負担」は大きくはないといえる。また、請求目的の絵画αが本問では重大な証拠となると考えられるので、甲国に重要な証拠が存在するといえる。したがって、本問請求に「特別の事情」はないと考えられる。

  以上より、鏡像理論を前提とすると、Cの訴え提起時に絵画αが甲国内に存在すれば、甲国に間接管轄が認められる。この場合、甲国判決の日本での効力を判断するに当たって、民事訴訟法118条1号の要件は満たされている。それ以外の場合は、甲国に間接管轄は認められず、同号の要件は満たされないことになる。

                                      以上

〜参考文献〜

・澤木敬郎・道垣内正人 『国際私法入門』(有斐閣、第7版第1刷、2012年)

・最判平成13年6月8日民集55巻4号727頁

・最判平成10年4月28日民集52巻3号853頁

                         

以上



[1] 松岡博『国際関係私法入門[3]』(有斐閣、2012 265

[2] 澤木敬郎・道垣内正人『国際私法入門[7]』(有斐閣双書、2012 289

[3] 脚注2, 289

[4] 最判平成12627民集5451737

[5] 松岡博『国際私法入門〔第3版〕』(2015,有斐閣) 266頁参照