WLS国際私法T

(1)及び(2)の答案:奥田敦貴

(1)及び(2)の別の答案:劉 揚

(3)の答案:佐藤菜都季

(4)の答案:福田匡宏

(5)の答案:佐藤菜都季

赤字の加筆/修正は道垣内による。

参考裁判例:神戸地裁平9・1・29判決

(1)      ACのした乙国での婚姻は乙国法の定める方式に適合するものであったとする。ACP市役所に郵送した婚姻届はいかなる意味があるか。

1 について

1 乙国の方式による婚姻について

(1) 婚姻の方式については、婚姻挙行地法による(通則法242項)ほか、原則として当事者のいずれか一方の本国法によることもできる(同条3項本文)。もっとも、例外として、日本人が外国人と日本で婚姻する場合は、常に婚姻挙行地である日本法によらなければならない(同条3項但し書き)。したがって、この場合は、日本法に基づく婚姻届けがない限り有効と認められない。

(2)ア 本件において、AとCは乙国において婚姻している。婚姻挙行地は乙国であり、243項但の適用はない。

イ AとCは乙国において、乙国古来の伝統的な儀式に従って婚姻を執り行っている。これは、乙国法の定める方式に適合する婚姻を執り行っているとされており、である。そうすると、婚姻挙行地たる乙国法によれば、婚姻の方式は有効である。よって、実質的要件を備えていれば、日本においてもAとCの婚姻は成立し、その効力が発生する。

2 戸籍法上の便宜

(1) 通則法243項によれば、AとCがP市役所に婚姻届出書を郵送したことで、婚姻は日本法の方式上有効に成立することになる(設問において後述する。)。しかし、上記の通り、AとCの婚姻は既に乙国の方式上有効に成立している。このことから、P市役所へのの届出は、乙国法の方式が争われた場合の保険以上の意味を見いだせないとも思える。

(2) もっとも、日本の戸籍法上、外国に在る日本人が、その国の方式に従って婚姻した場合、婚姻成立の日から3か月以内に、婚姻に関する証書の謄本を、日本語訳を添付したうえ、日本の在外公館に提出するか、本籍地の市役所、区役所又は町村役場に提出又は郵送する義務がある(戸籍法41条)。重婚や相続に関する問題等を防ぐため、戸籍に婚姻の事実を記載する必要があるからである。しかし、仮に日本法によっても婚姻が方式上有効に成立していれば、この届出は不要である。日本法に適合した婚姻届書の提出によって、婚姻の事実が日本の戸籍に記載されることになるからである。この届出をしなくて済むという意味で、AとCの婚姻届出書の郵送は有意味であるといえる。上記の届出は、この報告的届出である。

以上、奥田敦貴の答案、以下、劉 揚の答案

第1          設問(1)

1. 婚姻の成立

(1) AC間の婚姻は有効に成立したか。婚姻の形式的成立要件の準拠法が問題となる。

(2) 通則法24条2項は、婚姻挙行地主義を原則としており、同条3項本文において選択的連結として当事者の一方の本国法による方式も認めて、絶対的挙行地法主義を緩和している。婚姻挙行地主義をとる理由は、当事者が婚姻関係を結ぶことを挙行地において他の人に公示するためには、婚姻挙行地の方式によるのが良いことにある[1]

(3) 本問では、AC間の婚姻は乙国で挙行され、乙国法での定める方式に適合するものであった。

(4) したがって、AC間の婚姻は日本法上からみて方式上有効となる。

. 婚姻届の意味

 上記の場合、日本法上婚姻は方式上有効に成立している以上、ACが日本のP市役所に郵送した婚姻届は独自に法的(創出的届出ではなく、報告的届出)な意味を有さないものである。

以上、劉 揚の答案、以下、奥田敦貴の答案

(2)      ACのした乙国での婚姻は乙国法の定める方式に適合しないものであったとする。ACP市役所に婚姻届書を郵送したことにより、婚姻は方式上有効に成立したか。

2 について

1 通則法242項を適用する場合

(1) 戸籍先例(昭和24.1.12民事局長通達、昭和26.3.6民事局回答)によって、外国に居住する日本人が日本人又は外国人との婚姻届けを直接本籍地に郵送するのも婚姻挙行地を日本であると解して方式上有効とされてきた。現在では同条3項の存在によって戸籍実務もそれに従っている。そのため、議論の意義は薄れている。

(2) もっとも、離婚・認知・養子縁組・離縁の方式についての議論との整合性を確保し、新たな事態に対応可能な枠組みを構成しておくべき必要性がある[[2]]。そのため、同条3項が存在する現在においても、婚姻届けを受理した地を婚姻挙行地とすることに一定の意義がある。しかし、婚姻挙行地を、婚姻届けを受理した地と解するこのような見解は、民法上の解釈をそのまま国際私法に持ち込んだものであり、採用することはできない[[3]]。当事者が挙行地に現在することを必要とするべきである(神戸地判平成9.1.29[参考として末尾に貼り付けています。])。よって、本件においても同条2項によって、日本を婚姻挙行地とすることはできない。

2 通則法243項を適用する場合

(1) 通則法243項は、2項の規定にもかかわらず、「当時者の一方の本国法に適合する方式は、有効とする」としている。そのため、AとCの婚姻において、Aの本国法である日本法に適合する方式は有効ということになる。

(2) 日本の民法によれば、婚姻は戸籍法の定めるところにより届けることによって、その効力を生ずる(民法7391項)。その際、届出は、当時者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面でする必要がある(同条2項)。また、戸籍実務上、当事者当時者の一方が日本人である場合、本人の本籍地の市町村長に外国から婚姻届書を直接郵送する方法が認められている[[4]](戸籍法25条参照)。

(3) 本件では、A及びCは婚姻届出書に必要事項を書き込み、さらにCの両親が証人として署名している。そして、Aは本籍地であるP市役所宛に婚姻届書を国際郵便で提出し、これが受領されている。よって、日本法の定める方式に適合した婚姻がされているといえる。以上より、AとCの婚姻は方式上有効に成立したといえる。

以上、奥田敦貴の答案、以下、劉 揚の答案

第2          設問(2)

1. 婚姻の成立

(1) AC間の婚姻は挙行地である乙国の法の定める方式に適合しないものであるから、有効に成立していないように思われる。そこで、日本人Aが、乙国から婚姻届を日本に郵送してきた場合に、日本を婚姻挙行地と解することはできないか。

(2) いわゆる絶対的挙行地法主義をとっていた平成元年改正前法例は、このような郵送による届出の場合の「挙行地」を日本と解し、その届出の受理によって挙行地法たる日本法上の方式により婚姻が有効に成立するとされてきた。もっともこの解釈は、他の人に公示するという、婚姻挙行地法主義をとる理由とは相容れないものであるから、当事者のいる外国を婚姻挙行地と解すべきとする批判もあった。この議論は、平成元年の法例改正により、郵送における婚姻届出は当事者の一方の本国法上の方式として有効とされることで解決がなされ、これは通則法にも踏襲されている[5]。この場合には、戸籍実務上、通則法24条2項ではなく、同条3項に基づいて受理することになる[6]

 しかし、日本法上の戸籍制度における届出・受理と言う外部形式を要求するタイプの方式については、婚姻挙行地法は届出を受理する行政機関の所在地であると解すべきとする見解もある[7]

 婚姻以外の親族関係についての法律行為の方式の準拠法を定める通則法34条2項の「行為地」は、日本法の戸籍制度の行政法的側面と私法的側面の両面性、当事者間の意思表示とは別に、国家機関への届出・受理といった外部形式を要求するタイプの方式の特殊性などから、行為地を日本と解し、その受理により方式要件が具備されるとの扱いをする。とすると、婚姻の形式的成立要件についても、かかる場合との理論的整合性を確保しなければならないし、こうした制度を整えることによって新たな事態にも対応可能な枠組みとなる。すなわち、通則法24条2項を適用し、「挙行地」を日本と解すべきである。

(3) 本問でも、郵送における婚姻届出は、「挙行地」(通則法24条2項)たる日本法上有効な方式である。

(4) したがって、AC間の婚姻は方式上有効に成立した。

以上、劉 揚の答案、以下、佐藤菜都季の答案

(3)      ACの婚姻は201031日に有効に成立したとする。そして、その直後にACは日本に戻り、Aの住居で同居を始めた。そして、婚姻の日から210日目にAは子Dを出産した。そして、D1歳半を迎える頃、CDが自分に全く似ていないことを理由に、自分の子ではないと主張し始めた。甲国法によれば、婚姻中に懐胎したか否かに関わらず、子の親について争いが生じた場合にはDNA検査等の方法により誰の子かを定めることとされている。日本の裁判所での提訴につき管轄権等の手続法上の問題はないとして、日本の裁判所において、Cは、Dが自分の子ではないことを確認する判決を得ることができるか。

設問(3)

1 問題点 

 まず、Cは、Dとの間の親子関係の不存在を主張しているところ、これは、@そもそもCD間に実親子関係が認められるか、A実親子関係が認められる場合に、その不存在の訴えを提起できるかという2つの問題に分けられる。

2 実親子関係成立の準拠法の適用関係

 まず、@について、実親子関係成立の準拠法規定において、通則法は、嫡出親子関係に関する通則法28条と、非嫡出親子関係の成立に関する通則法29条を設け、嫡出親子関係と非嫡出親子関係を別個の単位法律関係としている。そして、これをどの順序で適用するかは通則法上明文が設けられていないため検討する。

 この点、子が非嫡出子であるか否かは、子が嫡出子であるか否かの消極面であることに加え、嫡出親子関係の方が非嫡出親子関係よりも子の保護に適うことから、まず28条を適用し、それが否定された場合に、29条の問題となると考える[8]。判例[9]も、法例17条と18条の関係についての事案であるが、同様の結論をとっていた。

  したがって、本件ではまず通則法28条の問題と法性決定される。

 3 通則法28条の検討

(1) 連結政策 

 同条1項は、夫の本国法と妻の本国法の選択的連結を採用している。

 これは、嫡出親子関係の性質上、夫婦の一方とのみ親子関係が成立するということは避けるべきであり、婚姻関係にある以上は、一方の本国により子が嫡出子とされれば、他方の配偶者との関係でもその子が嫡出子とされても不当ではないこと、及び子に嫡出子たる身分の与えられる機会をなるべく増やそうとする連結政策によるものである。

(2) 本問でのあてはめ

 本問では、Aの本国法は日本法、Cの本国法は乙国法であるから、日本法と乙国法のいずれかによってDが嫡出子となるのであれば、CD間の嫡出親子関係が成立するといえる。

 ここで、日本法によると、日本民法722条で、婚姻成立後200日経過後に生まれた子は、夫の子と推定されるから、201031日の婚姻後210日目に生まれたDは、Aの子と推定される。そして、ACが同居していたことから、別居や海外出張などで妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白であるという事情もないため、推定を覆す事情はない。

 次に、乙国法によると、これは親子関係について夫婦の婚姻関係を問わずに血縁で定めるものとする事実主義を採用し、嫡出と非嫡出の区別をしない法である。この場合には、「嫡出となるべき」には当たらないため、Cは嫡出子とはならないと考える。

 したがって、CD間には、乙国法によると嫡出親子関係は成立しないことになるが、日本法によると嫡出親子関係が成立する以上、嫡出親子関係が成立している。

4 嫡出否認の訴えの可否

 では、Aの問題として、嫡出否認の訴えは認められるか。

 嫡出否認という単位法律関係は通則法上設けられていないが、嫡出否認は嫡出推定と表裏をなす問題であるから[10]、通則法28条の「子が嫡出子となるべきとき」には嫡出推定と嫡出否認の両者が含まれると解し、同条の問題と法性決定されると考える。

 そして、本条は、夫の本国法と妻の本国法の選択的連結を採用しているところ、嫡出否認が認められるためには、夫婦の片方の本国法のみで嫡出とされている場合にはその法によって決し、夫婦の本国法の双方によって嫡出とされているときは、双方の本国法により嫡出が否認されなければならないと考える。裁判例[11]も同様の結論をとっている。

  本問では、日本法でのみ嫡出子とされている場合であるから、嫡出否認が認められるか否かの問題は日本法が準拠法となる。そして、日本民法777条によると、嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならないと規定されている。ACは同居しており、Dの出生時からCDの出生を知っていたといえるから、それから1年半を経過している本件では嫡出否認の訴えの出訴期間が過ぎており、日本法上認められない。

5 結論 

 したがって、日本の裁判所において、Cが、Dは自分の子ではないことを確認する判決を得ることはできないと考える。

以上、劉 揚の答案、以下、福田匡宏の答案

(4)      ACの婚姻関係が円満を欠く状況になりつつあった201110月、Aは、日本にいては感性が鈍ると考え、Cと別居し、また子DAの両親に託して、単身甲国で生活を始めた。Aは、甲国に居住するようになってますます国際的名声は高くなった。そして、ソロのバイオリニストとして世界中で公演をする日々を送りつつ、甲国に戻っている間は日本からDAの両親を呼び寄せて、Dとの親子関係の円満の維持に努めている。その間、Aと別居して日本で生活を続けていたCは、CMソングをはじめとする様々な商業音楽の作曲を細々と続けていた。そして、ACの別居から3年を経た201310月、Cは、日本の裁判所において、Aに対する離婚並びに慰謝料及び離婚後の扶養料の支払いを求める訴えを提起した。この訴えについて日本の裁判所に国際裁判管轄が認められると仮定して、Cのこれらの請求に適用される準拠法はいずれの国の法か。

    第1             設問(4)について

        1              まず初めに、Aに対する離婚について検討する。離婚という単位法律関係について、通則法は27条に規定を置いている。同条は本文で婚姻の効力の準拠法に関する同法25条を準用し、段階的連結によるとしている[12]。連結政策の観点から、まず先に27条ただし書きをまず検討する。

                (1)      同ただし書きは「夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による」としており、本件において、Aが日本人であることから、Aが日本に常居所を有するか否かを検討する。常居所の有無の認定については「戸籍実務の取扱いについての通達」に加えて、居住期間のみでなく、居住目的や居住状況などの諸要素を総合的に考慮する[13]。本設問においてAは日本を離れ、甲国を生活の本拠地としているが、Aの出国後2年が経過した時にCが本設問の訴えを提起している。前記通達第八の一()及び二()、そしてAが国際的名声を得たのち世界中で公演するようになったが、Dの住む日本に戻ることはなくわざわざ甲国にDを呼び寄せているという事情から、Aは日本に常居所を有するとは言えないと解する。

                (2)      ただし書きの適用が排除されたので、次に準用される通則法25条を検討。連結点について検討すると、@ACの本国法はそれぞれ、日本法、乙国法であるので、本国法は同一ではない。次に同一本国法がない場合には、同一常居所地法があるときにはその法が準拠法となるが、AAの常居所地は(1)で検討したように甲国であり、Cの常居所地は生活の本拠地であり、自身の家計を支える音楽業の本拠地でもある日本であると解する。したがって、常居所地は同一でないと解する。@Aで同一本国法、同一常居所地法のいずれの法もないときは、「夫婦に最も密接な関係がある地」が連結点となる。ACにとっての密接関係地は、両者が円満な婚姻生活を営んでいた地であり、両者がもともと音楽業を共に仕事の本拠地としていたのは日本であることから、最密接関係地である日本を連結点として、適用される準拠法は最密接関係地法たる日本法であると解する。

        2              次に、CAに対する慰謝料の請求について検討する。そこで、まず慰謝料の性質をどのように解するかによって、適用規定は異なる、具体的には慰謝料の性質について、@離婚そのものから慰謝料が発生すると解される場合には離婚準拠法によると解するが、A離婚そのものではなく、離婚に至る諸事情が社会的にどのように評価されるかの問題として不法行為と性質決定すべき場合がある[14]。本件では家庭内暴力等のAからCに不法行為に該当するような行為が婚姻関係中に行われていたとは考えられないので、Aの性質決定は妥当ではない。

したがって、慰謝料の請求については、離婚の準拠法によるべきであり、本設問において、離婚の準拠法は日本法であるので、日本法が準拠法となる。

        3              扶養料の支払いについては扶養料の支払い自体が扶養義務履行の具体化であり、扶養義務に当然に付随するものと考えると夫婦間の扶養義務の問題として解決されるべき問題であり、通則法431項によって通則法第2章の規定の適用はないことから、扶養義務の準拠法に関する法律の適用があると解される(なお、同法6条により同法の適用範囲が定められており、直接的には扶養料の支払いについては適用範囲として明文化されていないが、前述した理由から当然に同法を適用する)

扶養義務を単位法律関係とする準拠法の決定に関しては同法2条に規定があるが、同法4条により離婚をした当事者間の扶養義務について2条は適用除外とされ、離婚について適用された法によると規定されている。本件では、まだ離婚は確定していないものの、実質的に婚姻関係が破綻しており、離婚は時間の問題であることから離婚を前提とした4条の規定の適用が本設問においては適切であると解する。したがって、前述したように離婚の準拠法は日本法であるので、扶養料の支払いについての準拠法も日本法によると解する。

以上、福田匡宏の答案、以下、佐藤菜都季の答案

(5)      DCの子ではないとされ、ACは離婚したとする。そして、201410月、A4歳になるDはともに日本国籍を離脱し、甲国に帰化したが、その後、日本に戻り、日本で生活するようになったとする。それから2年後の201610月、日本人Bが現れ、Dの認知をしようとしている。これに対して、甲国法上、認知の対象となっている子の実母には父と称する者からの認知を阻止する権利があるとされており、Aはこの権利を行使できるのであれば行使する意向である。この認知について、日本から見て、いずれの国の法がどのように適用されるか。

設問(5)

  1 法性決定

 Bの、Dに対する認知が認められるか否かは、「認知」として通則法291項・2項の問題に法性決定される。

2 通則法29条の連結政策

(1) 非嫡出親子関係

 非嫡出親子関係の成立についての各国の実質法には、出生という事実によって当然に親子関係の成立を認める事実主義と、親による認知などの一定の方式を要求する認知主義があるところ、通則法29条は、そのどちらをも含む「嫡出でない子の親子関係の成否」を単位法律関係としている。そして、嫡出親子関係とは異なり、父子関係と母子関係が別個に判断がなされ、それぞれ子の出生児の父母それぞれの本国法を準拠法としている。

 これは、嫡出親子関係の成立は、父母とされる者が婚姻をしているため、一方の本国法により子が嫡出子となるならば、他方との関係でもその子が嫡出子となるとされても不当とはいえないが、非嫡出子の場合には、父母が共同体を形成している訳ではないから、父子関係と母子関係を分けて考える必要があるという連結政策に基づくものである。

(2) 認知主義の場合の連結政策(セーフガード条項)

  そして、嫡出親子関係の父子関係の成否について、子の出生時の父の本国法が認知主義をとっている場合には、@子の出生時の父の本国法(通則法291項前段)に加え、A認知時における父の本国法、又はB認知時における子の本国法(同条2)のいずれかの選択的連結が採用されている。

  これは、認知主義の場合、子の出生後しばらくの期間を経た後に認知されることもあるため、出生時点に固定する不変更主義は採用せず、認知がなされる時点で適切な準拠法適用されるように時間的配慮をするという連結政策に基づいている。

   さらに、上記@Bの場合、つまり父の側の本国法による場合には、その実質法上の要件に加え、子の本国法上、子本人あるいは第三者の同意や承諾が認知の要件になっている場合には、その要件を累積的に適用する(セーフガード条項、子の出生時の認知については通則法291項後段、出生後の認知については同条2項後段)としている。

   これは、認知が必ずしも子の福祉に沿うものとはいえないため、子の福祉の観点から、父の本国法上の要件に加えて、子の本国法上の保護要件をも満たすことを要求し、子の保護を図るという連結政策によるものである。

 3 本件の選択的連結による準拠法 

 本件について考えると、@子の出生の当時における父の本国法は、Bの国籍が現時点と変わっていないことを前提とすると、日本法となる。Aそして201610月の認知時のBの本国法は日本法、B認知時の子Dの本国法は、201410月にDが甲国に帰化していることから、甲国法となる。

4 Bの場合(Dの本国法を準拠法とする場合)

 Bの場合、後述の反致が成立しないと仮定すると、甲国法によることになる。と、甲国法によれば母には認知を阻止する権利があり、母Aはこの阻止する権利を行使するつもりであるから、甲国法を準拠法とすると、認知は認められない。

5 選択的連結の場合の反致(通則法41)の適用の有無

(1) Bの場合は、「当事者の本国法によるべき場合」に当たるから、甲国の国際私法によると日本法が準拠法と指定される場合には、反致が成立し、日本法を適用することになるのではないか。選択的連結を採用している場合に通則法41条の反致が適用されるか問題となる。

(2) 通則法41条によれば、反致とは、法廷地の国際私法通則法当事者の本国法として指定する準拠法が外国法である場合に、その外国の国際私法によると、法廷地日本が準拠法とされるときに、法廷地日本法を適用することをいう。

 本来、国際私法によって準拠法とされるのは、当該外国の実質法であり、法選択規則はその国の法を最密接関係地法と考えるから準拠法として指定しているのに、反致はこれを根本から覆すおそれがあることから、その根拠が問題とされる。

 ここで、@国際的判決調和が保たれることや、裁判所は日本法を適用できることになることから、事件処理が容易になるという内国法適用の利便があるという点が根拠としてあげられている。もっとも、準拠法として指定された法の国も反致を採用すると、国際的調和は崩れるし、内国法適用の利便の安易な肯定は、国際私法の基本原則である内外平等に反することになるため、その根拠は不完全なものであるが、裁判実務は反致を積極的に認める傾向にある。[15]

(3) 選択的連結を採用している場合に、反致に批判的な立場から、反致によって準拠法の数が減ることは合理性がないから、本国法によれば要件が具備されるのに、反致の結果日本法が選択されると要件が具備されない結果となる場合には反致は認められればよいとする見解もあるが、条文の解釈上そのような使い分けをすることは無理であり、適用除外として規定されていない以上、反致の適用はあると考える。[16]

(4) したがって、甲国の国際私法によると日本法が準拠法として指定される場合には、Bの場合にも日本法を準拠法として適用することができると考える。そして、子の本国法による場合には、セーフガード条項の適用はないため、以下で述べるような日本法上の認知の要件を満たせば、BD間の非嫡出親子関係の成立が認められることになる。

6 @Aの場合の検討 

(1) @Aの場合は、日本法が準拠法となり、Dがまだ未成年であると仮定すると、Bは、日本民法779条ないし782条及び戸籍法60条によると、認知能力があること、及び認知の届出をすることが要される。

(2) 次に、セーフガード条項の適用があるか、つまり、甲国法上認められている実母の認知を阻止する権利が「第三者の承諾又は同意があることが認知の要件となっている」に当たるかが問題となるところ、認知を阻止する権利とは、認知の要件として母の同意があることを消極的に定めたものと同視できるから、「第三者の承諾又は同意があることが認知の要件となっている」といえ、阻止権の行使を母Aがするつもりでいることから、認められないことになりそうである。

7 セーフガード条項の反致

  ここで、通則法291項後段・2項後段のセーフガード条項についても通則法41条の反致の適用があるのかが問題となる。

 セーフガード条項は、子の本国実質法上与えられている保護を確保する趣旨から、反致の適用はないと考えるべきである。

なお、戸籍実務も反致を認めない立場をとっている。[17]

5 結論

 @Aの場合(通則法241項前段・2項前段により、父であるDの本国法が準拠法となる場合)は、日本法が準拠法となり、日本民法及び戸籍法により要求されるBの認知能力と認知の届出という要件を満たすことに加え、Dの本国法である甲国法により、母Aの認知の阻止権の行使がない場合に、BD間の非嫡出親子関係の成立が認められるが、本問では母Aは認知の阻止権を行使するつもりであるため、行使された場合にはBD間の非嫡出親子関係は成立しない。

 Bの場合(通則法292項前段「認知の当時における……子の本国法」が準拠法となる場合)は、反致が認められないときは、甲国法が準拠法となり、母Aが認知の成立を阻止する以上、BD間の非嫡出親子関係は認められない。

 反致が認められる場合は、日本法が準拠法となり、日本民法及び戸籍法を適用して、Bに認知能力があり認知の届出をした場合には、BD間の非嫡出親子関係の成立が認められる。

[甲国法により認知を阻止することが通則法42条の公序に反しないかという点も触れるべきかと思います。]

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神戸地裁平9・1・29判決(婚姻取消等請求・婚姻無効確認反訴請求事件)

平六(タ)五号、五〇号

原告(反訴被告) AR花子

右訴訟代理人弁護士 中山知行

被告(反訴原告) A ほか一名

右両名訴訟代理人弁護士 元原利文

同 田中久雄

同 米田耕士

       主   文

一 原告(反訴被告)と被告(反訴原告)Aとを離婚する。

二 原告(反訴被告)・被告(反訴原告)A間の長女A・春子(昭和五三年三月三一日生)及び長男A・一郎(昭和六〇年七月一一日生)の親権者を原告(反訴被告)と定める。

三 岡山県久米郡柵原町長に対する平成四年五月一三日付届出による被告(反訴原告)Aと被告Bf春子との婚姻を取り消す。

四 被告(反訴原告)Aは原告(反訴被告)に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成六年二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五 被告Bf松子は原告(反訴被告)に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成六年二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六 原告(反訴被告)のその余の請求及び被告(反訴原告)Aの反訴請求を棄却する。

七 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを四分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余は被告(反訴原告)A及び被告Bf松子の負担とする。

八 この判決第四、第五項は、仮に執行することができる。

       事実及び理由

第一 請求

一 本訴

1 主文第一ないし第三項と同旨

2 被告(反訴原告)A及び被告Bf松子は原告に対し、各自金三〇〇〇万円及びこれに対する平成六年二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3 被告(反訴原告)Aは原告(反訴被告)に対し、金二〇〇〇万円を支払え。

二 反訴

 昭和五〇年一〇月一七日広島市長に対する届出によってなされた被告(反訴原告)Aと原告(反訴被告)との婚姻は無効であることを確認する。

(以下、原告(反訴被告)を「原告」、被告(反訴原告)Aを「被告A」、被告Bf松子を「被告Bf」という。)

第二 事案の概要

 本件本訴は、原告が、(1)原告と婚姻中の夫被告Aが被告Bfと重婚をしたとして、右被告らに対し、民法七三二条、七四四条二項に基づく右重婚の取消し、(2)被告Aに対し、民法七七〇条一項一号及び五号に基づく離婚、(3)被告ら各自に対し、共同不法行為に基づく慰謝料として三〇〇〇万円及びその遅延損害金の支払い、(4)被告Aに対し、離婚に伴う財産分与として二〇〇〇万円の支払いの各請求(付帯請求は訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金請求)をし、併せて原告・被告A間の未成年の子の親権者の指定を求めた事案であり、本件反訴は、被告Aが、同被告と原告との婚姻届は婚姻届の有効要件を欠くものであるとして、その無効確認を請求した事案である。

一 前提事実

 (証拠省略)によれば、以下の事実が認められる。

1 原告(昭和二二年四月六日生)は、昭和四七年九月、カナダのB大学大学院に入学したが,同年秋ころ同大学で被告A(西暦一九四九年一一月二日生)と知り合い、昭和四九年九月三日、同被告と神戸市中央区内の聖BN教会で結婚式を挙げた。

 当時、被告Aは、出生時に取得した連合王国(以下「英国」という。)と、一九七三年ころ取得したカナダ国(以下「カナダ」という。)の各国籍(二重国籍)を有していた。 

2 その後、原告と被告Aは、二、三週間カナダのトロントで過ごした後、昭和四九年一〇月、被告Aが英国のC大学大学院に入学したことから英国に渡り、英国で生活するようになった。

3 原告と被告Aの右英国滞在中の昭和四九年一〇月一七日、右両名の婚姻届であるとして婚姻届書(以下「本件婚姻届書」という。)が英国駐在日本領事館に提出されて受け付けられ、これが同領事館より昭和五〇年一〇月一七日原告の本籍地である広島市長に送付された。広島市長は、右送付にかかる本件婚姻届書による婚姻届は、同市長に対する適法な婚姻届であると判断し、同日付でこれを受理し、その旨原告の戸籍に記載した(以下、右の広島市長受理の婚姻届を「本件婚姻届」という。)。

 本件婚姻届書には、被告Aの国籍は英国、氏名欄の氏名は「A」と記載されていた。

 また、本件婚姻届書には、(1)「この婚姻届は、昭和五〇年一〇月一七日本市に送付されたことにより、昭和一一年二月三日民事甲第四〇号民事局長回答により、同日付をもって受理するものである。」と記載された、昭和五〇年一〇月一七日付の広島市長名義の付箋(以下「本件広島市長名義の付箋」という。)及び(2)「本婚姻証明書は、一九七四年九月神戸市の英国教会で発給されており英国法上有効であっても日本法上有効な婚姻と看做されない(法例第一三条但書違反)。よって、本婚姻証明書を婚姻要件具備証明書と看做し貴市役所で受理されたとき日本法上有効に成立する。」と記載された付箋(以下「本件無名義の付箋」という。)が貼付され、本件婚姻届書の記入欄枠外(右付箋貼付部分付近)に、鉛筆書きで「夫の婚姻要件具備証明書を添付せしめること」との記載(以下「本件婚姻届書の鉛筆書き」という。)がなされている。

 本件婚姻届書には、被告Aについての「婚姻条件具備証明書」あるいは「婚姻障害不存在証明書」又は被告Aが英国総領事の面前で宣誓のうえ供述した「宣誓供述書」のいずれも添付されていなかった。

4 昭和五三年三月三一日、原告と被告Aの間に長女春子が生まれた。同年六月、原告がカナダのD大学に専任講師として一年間の契約で採用されたことから、原告と被告Aは長女を連れてカナダ(バンクーバー市)に渡り、生活した。

5 昭和五四年四月、原告の右D大学との契約が切れたため、原告ら家族三人は日本で生活することとなり、被告Aは同月よりCC大学の専任講師として勤め始め、原告は同年一一月から自宅で英語塾を始めた。

6 昭和五四年春ころ、被告AはCC大学の学生であった被告Bfと知り合った。

7 昭和五七年四月、原告と被告Aら家族は神戸市須磨区に転居し、原告はDF短期大学の専任講師、被告AはDA大学の専任講師としてそれぞれ勤めるようになった。そして、昭和五八年八月、原告が神戸市北区青葉台に居宅を購入して転居した。

 昭和六〇年七月一一日、原告と被告Aの間に長男一郎が生まれた。

8 被告Bfは、被告Aとの間に、昭和五九年五月三〇日第一子二郎及び昭和六二年四月七日第二子三郎をもうけ、後記婚姻届出後の平成七年三月三日第三子夏子をもうけた。被告Aは、右第一子につき昭和五九年九月二六日、第二子につき昭和六二年五月七日、それぞれ認知届をした。

 平成四年五月一三日、被告Bfと被告Aは、両名の婚姻届を本籍地の柵原町長になした。右婚姻届では、被告Aの国籍はカナダ、氏名は「A」とされていた。

9 原告は、平成五年六月二五日、神戸家庭裁判所に被告Aと被告Bfの婚姻の取消及び被告Aとの離婚を求めて調停を申立てたが、話し合いがつかず、右調停はいずれも同年一二月一四日不成立に終わった。

二 争点

1 本件婚姻届書の被告A作成部分は、同被告の意思に基づいて作成されたものか。

(原告の主張)

 本件婚姻届書の被告Aの署名は同被告がなしたものであり、本件婚姻届書の被告A作成部分は同被告の意思に基づくものである。

(被告らの主張)

 被告Aは本件婚姻届書に署名しておらず、本件婚姻届書は原告が被告Aの同意なく作成したものであり、そのことは以下の事情から明らかである。

(一)本件婚姻届書の夫欄に、原告の筆跡で、被告Aの本名の「A」ではなく、同被告が名乗ったこともない「Aダッシュ」と記載されている。

(二)被告Aは、聖BN教会の挙式のみでは英国法上の婚姻として効力がないことは自覚しており、日本法に従った婚姻のためには、被告Aの婚姻条件具備証明書が必要であり、本件婚姻届書が日本の英国総領事に提出された当時原告及び被告Aは英国に滞在していたのであるから、被告Aが英国官庁の係官の面前で宣誓供述書を作成し、婚姻条件具備証明書の発行を受けることは容易であったのに、被告Aはこれを提出していない。

(三)本件婚姻届書は、昭和四九年一〇月一七日、英国駐在日本領事館により受理されたが、一年後の昭和五〇年一〇月一七日、右領事館から広島市長へ送付され、同日同市長名で受理されている。

 右の一年間、英国駐在日本領事館が何をしていたかを考えると、本件婚姻届書の鉛筆書きの記載より見て、当初提出時にはおそらく、神戸の英国教会の発行の婚姻証明書の写しのみが添付され、かつ、「その他」の欄に、「一九九四年九月三日、英国の法律により結婚」と記載されていたので、館員は、この証明書は日本法上有効な婚姻をしたものとはならない旨を、本件婚姻届書の持参者(おそらく原告)に告げ、その他の欄の右記載を抹消させ、心覚えとして右鉛筆書きの「夫の婚姻要件具備証明書を添付せしめること」との記載をし、その証明書の提出を持参者に求めたものと思われる。また、原告が「婚姻要件具備証明書」の内容の説明を館員に求めたならば、館員は、法務省の通達に従い、夫が英国人であるならば、a英国政府の発行した、夫が英国法上婚姻の成立に必要な要件を具備している証明書、b夫が英国の官庁あるいは公証人の面前で、婚姻要件を具備している旨の宣誓供述書、がそれに当たる旨の説明を受けたはずである。

 ところが、原告は、同居している被告Aに右の如き書類の取得を求めた形跡がない。また、本件婚姻届書が一年間も英国駐在日本領事館に留め置かれたのであるから、幾度となく右領事館に足を運び、追加すべき書類につき十分な指導を受けたはずであるのに、原告は法廷ではその間の経緯について口を濁し、明確な供述をしていない。この原告の態度は、被告Aに領事館員の指示するような「婚姻要件具備証明書」の取得を求めれば、自己が右領事館に被告Aの署名を自ら記載した婚姻届を提出していたことが被告Aに知られることを恐れたことを示すものとしか考えられない。

(四)また、本件婚姻届書には、本件無名義の付箋及び本件広島市長名義の付箋が貼付されている。

 本件無名義の付箋は、その記載内容(「貴市役所」と記載されている)から、英国駐在日本領事館員が記載したものと推定される。しかし、右領事館員は、本件婚姻届書の鉛筆書きの内容からしても、英国教会の婚姻証明書が日本法で受理する条件としての「婚姻要件具備証明書」には該当しないことを知っていたはずである。そうだとすれば、領事館員の右〔1〕の記載は、届出人の希望により一応本件婚姻届書を送付するが、英国教会の右証明書を婚姻要件具備証明書とみるかどうかは、広島市役所の判断に任す趣旨に解するほかはない。

 本件広島市長名義の付箋の記載中の「昭和一一年二月三日民事甲第四〇号民事局長回答」というのは、在外公館長は、当事者の一方が外国人である場合の婚姻の創設的届出を受理する権限を有しないが(民法七四一条の反対解釈)、もし在外公館長がこの届出を誤って受理し、日本人の本籍地市町村長に送付したときは、送付を受けた市町村長が届出を受理したときに届出の効力を生じるものとしたものであり、婚姻の実質的要件の存否には触れていない。むしろ、かかる便宜的取扱を認める前提として、婚姻の実質的要件を満たした婚姻届、すなわち、外国人である配偶者については、婚姻要件具備証明書が添付された婚姻届であることが当然の前提とされていると解すべきである。

 ところが、本件婚姻届書には外国人の夫たる被告Aの婚姻要件具備証明書が添付されていなかったのみか、在外公館員の前記鉛筆書きの注意書きがあるのに、即日受理という誤った扱いがなされたのである。

(五)原告は、本件婚姻届が広島市長により受理されたことは当然知っていたものと思われるが、そのことを被告Aに告げなかった。それのみか、原告は、被告Aが渡英した際に被告Bfが同行したことを知り、自殺騒ぎを起こしたと主張しているのに、被告Aが日本へ戻った時(昭和五六年八月ころ)でも、また、被告Aが昭和五九年五月被告Bfとの間に子供ができたことを原告に告げた時でも、被告Aに対し、原告と被告Aが戸籍上の夫婦であることを告げて被告Bfとの関係の解消を要求した形跡はないのである。原告が被告Aとの間で、日本戸籍上夫婦となっていること、したがって被告Aの被告Bfとの結婚は重婚となる旨を明確に主張し出したのは、平成五年六月、神戸家庭裁判所へ調停申立したときが初めてであり、本件婚姻届受理から実に一八年も経過した後のことであった。

 このような原告の態度は、本件婚姻届書の被告Aの署名が、同被告の自署ではなく、また、同被告の意思に基づかずになされたものであることを示すものというべきである。

2 本件婚姻届書の被告A作成部分が同被告の意思に基づいて作成されたものとして、その届出による本件婚姻は無効のものか。

(被告らの主張)

 本件婚姻届による婚姻は、以下のとおり婚姻の実質的成立要件及び形式的成立要件のいずれをも欠く無効のものである。

(一)本件婚姻届は、被告Aにつき婚姻の実質的成立要件(婚姻意思の存在)を欠くものである。

(1)被告Aは、英国とカナダ両国の国籍を保有していたが、カナダ国籍の取得が後であるから、後に取得した国籍であるカナダの法律が、被告Aの本国法(平成元年法律第二七号による改正前〔以下「旧法例」という。〕一三条本文〔法例一三条一項〕)となる(旧法例二七条一項本文)。

 更に、カナダは、旧法例二七条三項の「地方ニ依リ法律ヲ異ニスル国ノ人民ニ付イテハ其者ノ属スル地方ノ法律ニ依ル」の定めの適用を受くべき国であるので、被告Aの属する州であるオンタリオ州の法律を適用すべきことになる。

 そして、オンタリオ州法によっても、他の立法例と同じく、法律上の婚姻をなす意思の欠除は婚姻の無効原因となる。

 オンタリオ州法においては、婚姻意思の確認のため、「如何なる婚姻も、本法による婚姻許可書がなく、または婚姻予告(バンズ)の公表がなく、儀式を行ってはならない」(婚姻法第四項)と定めるほか、婚姻許可書の発行手続の詳細と発給台帳の記載方法を定め(第五ないし第一三項)、婚姻予告(バンズ)の公表の方法(第五ないし第三項)、婚姻の儀式の挙行者と挙行方法(第二〇項ないし第三〇項)等を詳細に定めている。

 以上のように、オンタリオ州法の下では、婚姻の手続の過程で当事者の婚姻意思の存否が自ずから確認されることとなっているのであるから、かかる手続を履践しない限り、婚姻意思の存在は勿論、婚姻自体の存在も否定されることとなる。(右の、婚姻の成立についての、(a)婚姻当事者による婚姻許可書またはこれと同旨できるものの取得、(b)教会その他これに準ずる場所における婚姻予告〔バンズ〕の公表、(c)資格のある司祭による婚姻式の挙行、の要件は、英国法〔一九四九年婚姻法、一九七三年婚姻原因法〕も同様である。)

(2)被告Aには原告と婚姻する意思はなかった。その事情は以下のとおりである。

(a)カナダや英国における前記のような婚姻のあり方は、数世代以上にわたり続いている民族的な習俗であり、国民一般の常識である。したがって、かかる手続を経ずして男女が同棲生活を始めても、その男女が婚姻したものと社会的に認知されることはなく、またその男女も、自己が婚姻したものと主張することもない。その男女は国法に則った「婚姻」をする意思を有しないことは、自らが良く認識しているからである。

 被告Aが原告と聖BN教会で結婚式を挙げたのは、学生時代に始まった同棲生活に一応の区切りをつけるためであり、被告Aは、右の挙式が英国法ないし日本法上、法律上の婚姻となる認識は有していなかった。

(b)法律上有効な婚姻の実質的要件の第一は婚姻する意思の存在であり(民法七四二条一号)、婚姻意思とは、いわゆる実質意思説の立場から、「夫婦関係を設定する意思であって、その夫婦関係とは、習俗的標準にてらしてその社会で一般に夫婦関係と考えられる男女の精神的肉体的結合を意味する」(最高裁判所昭和四四年一〇月三一日第二小法廷判決・民集二三巻一〇号一八九四頁参照)と解されている。そして、右の「習俗的標準」とは、戸籍官史に対する婚姻の届出であるから、右最高裁判所判決の意味するところは、夫婦として戸籍役場へ届出を行う意思をもってする男女の精神的肉体的結合を「婚姻意思」とすることとなる。

(c)被告Aは、英国またはカナダにおける習俗にはなじんでいるものの、日本における習俗には全く無縁な人物である。したがって、英国またはカナダの習俗に従い、婚姻許可書の取得、バンズの公書を経た司祭による婚姻式の挙行の意思をもって同棲を開始し、右手続を完結したときは、被告Aについて婚姻意思の存在は揺るぎないものとしてこれを認知することができよう。

 あるいはまた、被告Aは日本法に従った婚姻の方法もあること、そのためには、自国の日本駐在領事館において宣誓供述書を作成しなければならないことを知っていたようであるから、婚姻のための宣誓供述書を作成し、これを日本法に従った婚姻を行う目的で原告に交付していれば、その時点で「婚姻意思」を有していたと認めることもできよう。ところが、被告Aがかかる書類を作成した経過のないことは明らかである。

(3)以上のとおり、被告Aには、原告との婚姻意思を有していたと認められるものがない。

(二)本件婚姻届は、婚姻の形式的成立要件を欠くものである。

(1)本件婚姻届書がロンドンの日本総領事に提出された当時の旧法例一三条一項但書(「婚姻ノ方式ハ婚姻挙行地ノ法律ニ依ル」)にいう「婚姻挙行地」は、国際私法規定が当該法律関係を特定の国に連結せしめる要素であり、したがって、論理的には、内国実質法上の概念あるいは法廷地法上の概念による「婚姻挙行地」の意味内容の決定に先行すべきものである。原告が主張するように、婚姻の方式について届出主義を採用している日本法において、届出のなされた場所が日本国内であれば婚姻挙行地も日本であるというのは、論理が逆転している。そして、旧法例一三条一項但書が、同条二項による民法七四一条(日本人間の領事婚)の例外を除き、厳格な婚姻挙行地法主義を採用していたことに異論はなかった。そもそも、「婚姻挙行地」なる概念は、ヘーグ国際私法条約の「婚姻の挙行及び婚姻の有効性の承認に関する条約」(一九七〇年三月一四日作成)も採用している概念であって、世界的に承認されている統一的概念であり、これによれば、婚姻挙行地は、婚姻当事者が現在し、実質的婚姻関係に入り、これを社会的に公示しようとした場所を指すものとされており、法例上(旧法例上も同様)の婚姻挙行地もこれと同様に解さなければならない。日本人間の領事婚の例外を日本人・外国人間の婚姻にも実質的に拡張適用せんとする見解は、法の例外は厳格に解釈適用すべしとの法解釈の一般原則にも反することになる。

 本件婚姻届は、その届出前に外国法による適法な婚姻が先行していなかったから、創設的婚姻届である。創設的婚姻届は、届出がなされた場所が挙行地であるから、本件婚姻届の婚姻の挙行地はロンドン(英国)である。もし、広島市であるとすると、届出受理時に当事者はいずれも広島市に不在であったから、民法七四一条のように法律で挙行地の擬制をなさない限り、広島市を婚姻挙行地とすることはできない。

 したがって、本件婚姻届による婚姻の挙行地が英国であったことは否定し難く、本件婚姻届による婚姻の形式的成立要件は英国法に依拠しなければならなかった。

(2)それ故、外国からの郵送により日本人当事者の本籍地役場へ送付された婚姻届である本件婚姻届は、旧法例一三条一項但書の定めに反し、効力の認められないものである。

 その根拠は、前記の理由に加え、次の諸点も指摘されてきた。

(a)発信地が外国であり、かつ渉外案件であるから、法例の適用があるところ、法例(旧法例も同様)九条一項によれば、「法律ヲ異ニスル地ニ在ル者ニ対シテ為シタル意思表示ニ付テハ其通知ヲ発シタル地ヲ行為地ト見做ス」との発信主義を定めているので、離婚届(官庁に対する単独法律行為である)を発信した地が婚姻挙行地となる。

(b)外国にある日本人には、日本の戸籍法の定めが属人的に及ぶとしても(この意味で日本人間の婚姻届を当事者が本籍地役場へ直接送付し、これを役場が受理できることが肯認される。)、外国に居住する日本人と外国人間の婚姻届については、当該外国人に、日本の戸籍法の行政管轄が及ばない以上、かかる届が郵送されても、本籍地役場においてこれを受理する権限は存しない(山田鐐一・現代全集国際私法三四三頁、沢木敬郎・国際私法入門一一一頁)。

 平成元年法律第二七号による改正で、法例一三条に三項を加え、婚姻の方式につき、婚姻挙行地のほか当事者一方の本国法による方式の選択的適用を認めたのも、右のような学説上の非難を受入れ、問題を解消せんとするものであった。

(3)在外日本領事館へ提出された日本人と外国人間の婚姻届について、従来の取扱い先例には、かかる届出でも領事館から一方の当事者である日本人の本籍地役場へ転送され、戸籍に記入されれば、婚姻挙行地を日本とする届出として有効視するものがあった。

 しかしながら、かかる取扱は、日本人間の婚姻にのみ領事婚を認めた法例一三条但書、民法七四一条の趣旨を全く没却する上、届出の名宛人も本籍地の首長ではなく、在外総領事であるのに、これを首長に対する届出とみなすことができる旨の法律上の定めもないので、無効な届出であることは極めて明らかである。行政事例による取扱には法律上の根拠は全くない。

 右のような届出が誤って受理されても、その効力を認める余地はないから、本件婚姻届は無効のものである。

(4)本件婚姻届は、被告Aについて必要な「婚姻障害不存在証明書」等の添付がなく、受理が拒絶されるべきところ、広島市係官の過誤により受理されたもので、無効な届出である。

(原告の主張)

(一)原告と被告Aとの婚姻挙行地は日本である。

 婚姻挙行地とは、「夫婦関係の実体が存在した場所でもなければ、単に儀式が行われたところでもなく、婚姻関係の存在が法的に公然と表示された場所であり、わが国に関していえば、婚姻届が提出された場所にあたり、一般的にいえば、婚姻の方式が要式行為であって、官庁の協力を要するような場合には、そうした協力官庁の所属国が挙行地とされえよう。したがって、外国にある日本人相互または日本人と外国人間の婚姻届が、日本人たる当事者の本籍地市町村に郵送された場合、わが国を挙行地とみて差し支えない(本浪章一・渉外判例百選〈増補版〉九九頁、久保岩太郎・国際私法講座第二巻五三一頁参照)。右は戸籍実務のとるところである。

(二)外国にある日本人と外国人との間の婚姻は、たとえ在外公館長に届出があってもこれを受理してはならないが、誤って受理され、その書類が本籍地市町村長に送付されてきたときは、市町村長は、これをわが国における婚姻であると擬制するまでもなく、日本の方式によって婚姻が成立するものと解されている(平成元年一〇月二日民二第三九〇〇号通達)。

(三)日本人と外国人との婚姻の届出がなされた場合には、市町村長はこれを受理するに当たり、婚姻成立の実質的要件及び形式的要件を具備しているか否かについて審査する。このうち形式的要件については、婚姻届出書に所定の事項が記載され、当事者及び証人の署名、押印がなされているかを審査すれば足りる。外国人の場合は、押印は不要である。

 また、実質的要件については、外国人は、婚姻要件を具備していることを立証しなければならないが、その証明については、要するに「婚姻について本国法上なんら障害がないという包括的なものでも差し支えない。」とされている。

(四)婚姻要件具備証明書または本国の総領事の面前において婚姻要件を具備していることを宣誓した旨の書面等を得られない外国人については、要件具備の立証に関して緩和された取り扱いが認められている。

 その場合は、右証明書が得られない旨を申述した書面または外国人の身分関係に関する書面等に基づき要件具備の審査をする取扱いである。

(五)以上述べたように、原告と被告Aとの本件婚姻届は、まさに右(四)の場合に該当し、両名の婚姻は日本法上有効に成立しており、したがって、イギリス法上有効か無効かは、日本法上有効に成立した右婚姻の効力に影響を与えないものである。

3 被告Aと被告Bfとの婚姻の取消事由の有無

(原告の主張)

 原告と被告Aの婚姻は前記1、2の原告主張のとおり有効に成立しているから、被告Aの被告Bfとの婚姻は重婚に当たり、取消事由がある(民法七三二条、七四四条)。

4 原告と被告Aの婚姻が有効に成立したとした場合、その離婚原因の有無

(原告の主張)

(一)被告Aは、昭和五四年春ころ、当時CC大学の学生であった被告Bfと知り合ったが、その後、昭和五六年七、八月に被告Bfとイギリス、ヨーロッパ旅行に出かけ(原告は右被告らの行動を知ってショックを受け、長女と入水自殺を図ったが、長女の泣き叫んだため遂げられなかった。)、昭和五七年四月原告ら家族と神戸市須磨区に転居した後も、被告Bfを神戸へ呼んで交際を続け、たびたび外泊した。そして、被告Aは、昭和五九年三月、原告に対し被告Bfが妊娠しているので離婚をほしいと言ってきたが、原告は同意しなかった。このころには、原告と被告Aとの間には、夫婦生活はほとんどなくなっていた。被告らの関係は、その後も続き、被告Aは毎日のように外泊していた。

 平成五年四月末、原告が買い物に行く際、被告Aに一郎の面倒を見てくれるように頼んだところ、被告Aは被告Bfの家庭の都合で一郎の面倒を見ることができないということであった。そのことで、原告と被告Aは口論となり、被告Aは原告を殴りつけた。それを見た長女は、原告に「離婚してくれ」と頼んだ。

 それに加えて、被告Aが被告Bfと婚姻届をしていたことが判り、原告は離婚を決意した。

(二)右被告Aの行為は、民法七七〇条一項一号(不貞行為)及び五号(婚姻を継続し難い重大な事由)に該当するから、原告は被告Aとの離婚を求める。

(被告Aの主張)

(一)原告と被告Aは、イギリス滞在中、始終口論をしていた。原告は午後になると、Gという独身男性の部屋に入り浸り、夕方には行き先きを告げずに外出し、三日間も所在不明になったこともあった。また、H・カレッジの事務室に忍び込み、秘密のファイルを盗み見ることさえもした。また、テレビのチャンネルを他の学生が変えたとして、被告Aにその学生を殴るよう要求したことさえあった。原告のこれらの言動は、被告には耐え難いものであり、両者の性格の相違による感情的亀裂は増大するばかりであった。

(二)原告は、広島で英語塾を開いたが、所得の申告を全くしなかった。また,原告は、被告に断りなく被告の写真を塾の宣伝文に掲げて広島市中に配付し、被告は勤務先のCC大学から注意を受けた。

(三)被告Aは、昭和五四年春ころ、CC大学で被告Bfが被告Aの授業を受ける学生であったことから同被告を知るに至った。当時、被告Aは原告との関係が破綻し、右大学の研究室で寝起きしており、原告方へは昼間子供の顔を見に訪れる状況にあった。原告は、そのころ被告Aに対し、他の女性が被告Aに関心を持つはずはないと侮辱し、被告Aに他の女性を見つけるよう告げた。被告Aは、昭和五六年春頃被告Bfと性的関係に入り、間もなく被告Bfのアパートを訪れるようになったが、生活の中心は右大学の研究室にあり、原告方へは時々子供の顔を見に訪れていた。原告は、間もなく被告らの関係を知ったが、特に問題視することはなかった。 

(四)被告Aは、原告と神戸へ転居し、DA大学専任講師として勤めるようになった後も、殆ど大学の研究室で寝起きしており、週末には洗濯物を持って広島の被告Bf方へ往復した。原告は被告Aの右のような生活を熟知していた。

(五)被告Aは、昭和五九年三月ころ、原告に対し被告Bfが妊娠したことを告げたが、原告は被告Bfの話をしないよう以前から被告Aに言っていたので、聞きたくないと言ったのみであった。

5 原告の被告Aに対する離婚請求が認められる場合の親権者の指定

6 原告の被告Aに対する慰謝料請求権の有無及びその慰謝料額

(原告の主張)

(一)離婚慰謝料

 原告は、被告Aに対し、同被告の婚姻中の不法行為及び同被告により離婚を余儀なくされたことによる精神的苦痛に対する慰謝料は、以下の事情等を考慮すれば三〇〇〇万円が相当である。

(1)離婚原因慰謝料 一二〇〇万円

(a)不貞行為・重婚 四〇〇万円

 被告Aは、被告Bfと、昭和五四年ころから(遅くとも昭和五六年七月ころから)性的関係を持つようになり、これを現在まで続け、この間婚姻届(重婚)をした。

(b)悪意の遺棄(同居・協力・扶助義務違反)四〇〇万円

 被告Aは、昭和五五年ころから毎日のように外泊し、原告の家では寝泊まりしなくなった(同居義務違反)。また、被告Aが原告に金銭を渡してきたのは、子供達の学校の授業料分のみであり、原告ら親子は被告Aから生活費を貰ったことはない。

(c)精神的虐待及び暴力、その他 四〇〇万円

 原告は、昭和五六年七、八月に被告Aが被告Bfとイギリス、ヨーロッパ旅行に行ったことを知って長女と入水自殺を図るなど、被告らからいわば生殺しのような状態におかれたままとなっている。また、被告Aは平成五年四月に原告を殴った。

(2)離婚自体慰謝料 一八〇〇万円

 被告AはDA大学の教授で、年収はおよそ一三〇〇万円である。右被告Aの年収、婚姻期間、有責度、過去の婚姻費用の負担割合等からして、原告が被告Aに請求し得る離婚自体慰謝料は一八〇〇万円が相当である。

(二)仮に、原告と被告Aの婚姻が有効に成立していなかったとしても、原告と被告Aとの本件婚姻届前後の生活関係は事実上の夫婦としての生活関係(内縁関係)にあったものである。

 被告Aは、平成四年五月一三日に被告Bfとの婚姻届(重婚)をするなどして、そのころまでに正当の理由なく原告との内縁関係を破棄したものであり、右被告Aの行為は原告に対する不法行為を構成するところ、右被告Aの行為により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は前記(一)と同様三〇〇〇万円が相当である。

(三)よって、原告は被告Aに対し、慰謝料として三〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年二月二〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払(後記被告Bfの債務と連帯債務)を求める。

(被告Aの主張)

(一)被告Aが被告Bfと知り合った昭和五四年春ころには、被告Aと原告との夫婦関係(内縁にしろ法律上にしろ)は既に破綻していた。

(二)(損害賠償請求権の時効消滅)

(1)原告が被告Aとの離婚原因慰謝料請求の原因事実として主張する被告Aの不法行為のうち、

(a)被告Bfとの不貞行為(遅くとも昭和五六年七月ころから)、

(b)悪意の遺棄行為(昭和五五年ころから)、

(c)精神的虐待行為(被告Aと被告Bfのイギリス、ヨーロッパ旅行は昭和五六年七、八月)

については、原告は右被告Aの各行為を右各時期のころ知ったから、右各時期から順次三年の経過により消滅時効が完成した。

(2)また、仮に被告Aに原告主張の内縁破棄による不法行為が成立し、これによる慰謝料請求権を原告が取得したとしても、右原告の慰謝料請求権は、原告主張の内縁破棄の時期である平成四年五月一三日から三年の経過により消滅時効が完成した(なお、原告が被告Aに右慰謝料請求を初めてしたのは、平成七年一一月三〇日同被告代理人受領の同日付準備書面においてである)。

(3)被告Aは、右各時効を援用する。

(三)(過失相殺)

 仮に、原告が被告Aに対して慰謝料請求権を有するとしても、その発生と拡大については原告にも次のとおり少なからず責任があるから、大幅な過失相殺がなされるべきである。

 すなわち、昭和五〇年一〇月本件婚姻届受理完了時、昭和五六年八月原告において被告Aが被告Bfとイギリスで落ち合った事実を知った当時あるいは昭和五九年五月被告Aが被告Bfとの間の子の出生を原告に告げた当時に、もし原告が被告Aに対し本件婚姻届が受理され、両名が日本戸籍上の夫婦である旨告知していたならば、原告・被告A間で本件婚姻届書の真否を巡って結論が出ていたであろうし、少なくともその後の同被告の行動を慎重ならしめ、同被告の被告Bfとの同棲や被告Bfとの間の子の出生ということも生じなかったであろう。

7 原告の被告Bfに対する慰謝料請求権の有無及びその慰謝料額

(原告の主張)

(一)被告Bfは、前記4の原告主張のとおり、被告Aが原告の夫であることを知りながら、そうでないとしても過失によりそれを知らず、被告Aの不貞行為及び重婚の相手方となったものであり、民法七〇九条、七一九条に基づき、右行為により原告に与えた精神的損害を賠償すべき義務があるところ、その慰謝料の額は三〇〇〇万円が相当である。

(二)仮に、原告と被告Aの婚姻が有効に成立していなかったとしても、前記6の原告主張(二)のとおり原告と被告Aは内縁関係にあったところ、被告Bfは右被告Aと私通し、婚姻届(重婚)までしたものであり、右被告Bfの行為は原告に対する不法行為(被告Aとの共同不法行為)を構成する。そして、右被告Bfの不法行為により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は右(一)と同様三〇〇〇万円が相当である。

(三)よって、原告は被告Bfに対し、慰謝料として三〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年二月二〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払(前記被告Aの債務と連帯債務)を求める。

(被告Bfの主張)

(一)(不法行為の不存在)

(1)被告Bfは、被告AとはCC大学の教師と学生として知り合った。当時学内では、原告と被告Aとは以前内縁関係にあって子供が一人生まれたが別れたとの噂があり、被告Aが右大学の研究室で寝起きしていることもこれを裏付けるものと理解した。被告Aは、原告について、「自分とは余りにも価値観の違う人間で、一緒にはやっていけなかった。」と打ち明けた。このように、被告Bfは、被告Aと原告との内縁関係は終わっているものと思っていたので、昭和五六年春ころ、被告Aと性的関係に入ることに抵抗感はなかった。

(2)被告Bfは、原告と被告Aとは内縁関係にあったが、それも被告Bfが被告Aと知り合う以前に終了しているものと信じて被告Aを性的関係に入り、本件婚姻届がなされていることも知らずに被告Aとの婚姻届をしたものである。

 この間、原告は、被告Aと被告Bfとの関係を知っていたのに、被告Bfに対して被告Aとの関係につき何らの申し出も、法律上、事実上の関係の告知もしなかった。もし、原告が早い時期に、本件訴訟で主張している事実を被告Bfか被告Aに告げていさえすれば、今日のような事態は避け得たものと思われる。

(3)したがって、被告Bfには原告主張の不法行為を構成するような故意、過失はない。

(二)(損害賠償請求権の時効消滅)

(1)被告Bfが被告Aと原告主張の時期(遅くとも昭和五六年七月)のころから性的関係をもったとしても、原告はそのころ被告Bfと被告Aの右関係を知った。

(2)仮に、被告Bfに原告主張の不法行為が成立し、これによる慰謝料請求権を原告が取得したとしても、被告Bfの被告Aとの不貞行為の開始及びこれを原告が知った時から三年の経過により(原告の本訴提起前)に時効消滅している。

 また、原告主張の内縁の不当破棄の相手方としての慰謝料請求権が成立するとしても、原告主張の内縁破棄の時期である平成四年五月一三日から三年の経過により消滅時効が完成した(原告が被告Bfに右慰謝料請求を初めてしたのは、平成七年一一月三〇日同被告代理人受領の同日付準備書面においてである)。

(3)被告Bfは、右各時効を援用する。

8 原告の被告Aに対する財産分与請求権の有無

(原告の主張)

(一)被告Aは次のとおりの財産を有する。

(1)土地

所在 兵庫県三木市(番地省略)

地番(省略)

地目 宅地

地積 二六四・一七平方メートル

(2)建物

所在 兵庫県三木市(番地省略)

家屋番号(省略)

種類 居宅

構造 軽量鉄骨造スレート葺二階建

床面積 一階 四五・五四平方メートル

    二階 四一・三九平方メートル

(以下、(1)(2)の土地、建物を「本件土地、建物」という。)

(3)銀行預金

(a)住友銀行神戸支店 普通預金口座(番号(省略))

 平成六年三月二八日現在残高 八四万五〇二三円

(b)住友銀行神戸支店 普通預金口座(番号(省略))

 平成六年三月二八日現在残高 一三万三二〇六円

(二)右被告Aの財産は同被告の特有財産ではないから財産分与の対象となるし、仮に右財産が同被告の特有財産であったとしても、原告の離婚後の扶養的要素、過去の婚姻費用の分担の態様、右財産形成についての原告の寄与(被告Aが右財産を形式・維持することができたのは、原告に対して支払うべき婚姻費用を支払わなかったからであり、更にいえば、被告Aが右財産を取得できる程の収入がある大学教授の地位を得ることができたのも、原告の献身的な協力があったからこそである。)等を考慮し、原告は、被告Aに対し、財産分与として二〇〇〇万円の支払を求める。

(三)仮に、原告と被告Aとの婚姻が有効に成立していなかったとしても、内縁関係が当事者の一方の死亡以外の事由で解消した場合には、離婚の場合に準じて財産分与の請求権を認めるべきであるから、原告は右(二)のとおりの財産分与を求める。

(被告Aの主張)

(一)本件土地、建物は、被告両名が平成元年一二月二六日に購入したものであるが(その代金約三八〇〇万円のうち、頭金の約一〇〇〇万円は被告Bfが支払い、残金は住宅金融公庫その他のローンにより手当し、現在返済中である。)、原告と被告Aが(内縁もしくは法律上)の夫婦としての関係を打ち切ったのは遅くとも昭和五四年ころで、本件土地、建物の購入時はそれよりも一〇年も後のことであり、本件土地、建物はいかなる見地からも原告・被告Aが共同して形成・取得した財産ではない。のみならず、被告Aの失職により、被告らは平成七年八月二一日本件土地、建物を売却して借入金を清算したので、現在は本件土地、建物を所有していない。

(二)被告Aは、平成六年三月二八日現在、(1)住友銀行神戸支店普通預金口座(番号(省略))に二六万六九二〇円、(2)同支店普通預金口座(番号(省略))に一三万三二〇六円の預金残高を有していたが、それらはいずれも被告Aが原告と別居後の収入により預金したものであるから、財産分与対象財産に属しない。

(三)財産分与にあたり、過去の婚姻費用の分担の態様も「一切の事情」(民法七六八条三項)に含ませ得るとしても、それは分与対象財産が存在することが前提である。原告と被告Aの間にはかかる分与対象財産は存在しない。

 また、原告は有職の女性で、被告Aも妻と二人の子を扶養する。日常の生活費は各人が自己の収入で支弁すべきが当然であり、清算を必要としない。

 更に、原告は、被告Aの大学教授の地位の取得に原告の寄与があった旨主張するが、原告と被告Aの立場は等価かむしろ被告Aの側の出超となる。何故ならば、原告が無事にB大学大学院やF大学大学院で各修士号を取得し得たのは被告Aの大きな助力があったからであるし、原告がEg大学へ就職し、EO大学で非常勤講師の職を得たのも、被告Aの推薦等の協力があったからである。

 したがって、いずれにしても原告の財産分与の主張は理由がない。

9 なお、原告及び被告らは、次のとおりの主張もしている。

(一)原告

 仮に、本件婚姻届書の被告Aの作成部分が同被告の意思に基づかないで作成されたもので、本件婚姻届が無効なものであったとしても、本件婚姻届による原告と被告Aの婚姻は、次の理由に遡って有効なものとなった。

(1)事実上の夫婦の一方が他方の意思に基づかないで婚姻届を作成提出した場合においても、当時右両名に夫婦としての実質的生活関係が存在しており、かつ、後に他方の配偶者が届出の事実を知ってこれを追認したときは、右婚姻は追認によりその届出の当初に遡って有効となると解される(最高裁判所第三小法廷昭和四七年七月二五日判決・民集二六巻六号一二六三頁参照)。

(2)仮に、本件婚姻届が被告Aの意思に基づかないで作成提出されたものであったとしても、原告と被告Aとの間には、実質的に、本件婚姻届の後一〇年以上の生活関係があり、

その間、被告Aは原告との婚姻関係を前提として種々の行為をなしており、右両名の婚姻は本件婚姻届の当初に遡って有効であると解すべきである。

(二)被告ら

 被告Aは、終始原告と法律上婚姻するとの意思を有していなかったのであるから、原告の追認の主張は理由がない。

第三 判断

一 事実経過

 前記第二、一の事実に(証拠省略)を総合すれば、以下の事実が認められる。

1 前記(第二、一1、2)のとおり、原告と被告Aは、結婚式を挙げた後、短期間のカナダ滞在を経て、英国で四年間生活した(同地では、被告Aはカナダ・カウシル奨学金〔年七〇〇〇ドル〕を受けて研究生活をし、原告はE図書館に勤務し、F大学の日本語の非常勤講師をしていた)ところ、原告は、ロンドンの英国駐在日本領事館に本件婚姻届書が提出された後の昭和四九年一二月一七日付で、英国内務省より英国永住許可の通知を受けた。

2 原告と被告Aは、昭和五四年四月から日本で生活するようになり、被告AはCC大学に英語の専任講師として勤めるようになったことは前記のとおりであるが、被告Aは、昭和五五年二月ころから、外泊して帰宅せず、定期的に朝帰宅するというようになった。被告Aは、博士論文の作成のためにCC大学の研究室で寝泊まりするようになったものであるが、その後被告Bfと性的な関係をもつようになり、原告に対する愛情も冷めて原告を避け、ただ長女に会うのを目的に定期的に帰宅するというようになったものであった。

 そして、被告Aは、昭和五六年六月、C大学の博士論文の口頭試問を受けるために英国へ渡ったが、その際被告Bfも同行した。原告は、右被告Aの渡英中に、旅行社の社員から被告Aと被告Bfが一緒の旅行の手続をとっていたことを聞かされて衝撃を受け、長女を連れて入水自殺を図ったが、途中で思い止まった。原告が英国から帰国した被告Aに被告Bfとの関係を問い質したのに対し、被告Aは、被告Bfと昭和五五年二月ころから性的関係をもっていたことを認め、被告Bfとの関係を絶つ意思はないと述べた。

4 昭和五七年四月、前記のとおり、原告はAp学園DF短期大学の専任講師、被告AはDA大学の専任講師としてそれぞれ勤めることになり、原告と被告Aら家族は、右DA大学が用意した神戸市須磨区のアパートに転居した。当時、被告Aは月約三三万円の給料、原告は月約一七万円の給料をそれぞれ受けていた。

 しかし、被告Aは、変則的に土曜日の夜半に帰宅して右自宅で寝ることがある程度で、殆ど帰宅せず、被告Bfと同棲状態の関係を続けていたところ、昭和五九年三月ころ、原告に対し、被告Bfと右のような関係にあり、被告Bfが被告Aの子を妊娠していると告げて、離婚してほしいと求めた。原告も、被告Aに被告Bfとの間の子ができたことを知って一時は離婚を考えたが、被告Aが長女の監護につき共同監護を主張して譲らなかったこともあって、結局離婚を思い止まり、被告Aの要求に応じなかった。その後も、被告Aは、長女に会うために原告宅を訪ねることがあった。その間、原告と被告Aの間には殆ど性的交渉はなかったが、昭和六〇年七月一一日長男が生まれた。

 しかし、原告は、被告Aや被告Bfに対し、二人の関係を解消するよう要求することはしなかった。

5 被告A、前記のとおり被告Bfとの間に二子をもうけた後、平成元年一二月被告Bfと共同して本件土地、建物を購入し、そのころから被告Bfと右建物に居住するようになった。その後も、被告Aは、時々春子及び一郎に会うために原告宅を訪ねることはあった。

6 平成五年六月、原告は、DA大学を経営する学校法人Ap学園の理事長から被告Aと被告Bfの前記婚姻届の記載のある戸籍謄本を見せられ、初めて被告Aが被告Bfと婚姻届をしていたことを知り、同月二五日、前記(第二、一9)のとおり調停を申立てた。

二 争点1(被告Aの本件婚姻届書の作成)について

1 原告は、その本人尋問において、本件婚姻届書の「届出人署名押印」欄の「夫」欄の署名は被告A自身がなしたものであり、それ以外の被告A関係部分は原告が記載した旨供述し、これに対し、被告Aは、その本人尋問において、右被告Aの署名は同被告がなしたものではなく、本件婚姻届書が作成され、提出されていたことは、平成五年の夏ころまで知らなかった旨供述する。

2 ところで、(証拠省略)によれば、一九七四年(昭和四九年)九月三日(挙式の日)付で、原告及び被告Aが署名し、証人として聖BN教会の牧師の署名のある婚姻証明書が作成されているところ、被告Aは、一九七五年(昭和五〇年)五月二〇日付で、「Cf」宛てに、「私の妻(my wife)、ハナコは、ここしばらくの間、彼女の婚姻当事者としての地位が、日本で承認されるかどうかという問題について連絡をとりあってきた。貴方は、彼女に地方登録事務所で婚姻登録証明書を取得するよう求めた。私共が、オックスフォードの登録事務所に連絡をとったところ、そこでは、オックスフォード以外の土地で行われた婚姻の登録は扱わないということだった。登録事務所によると、私共の婚姻証明書は、神戸で私共が婚姻(marriage)した事実を、連合王国内で法律上認めるに足りる証拠であったとのことであった。そして、その事実は、英国内務省が、私の妻の連合王国での永住滞在を認めたことで示されているということであった。したがって、貴方が更に、婚姻(marriage)についてどのような種類の証明の追加を求められているのかがはっきりしない。」旨の手紙を出し、右「Cf」に前記聖BN教会の婚姻証明書の写しを送付したこと、右手紙や婚姻証明書の写しは、原告の戸籍謄本、被告Aの出生証明書の写し等と共に本件婚姻届書に添付編綴されて広島市役所に保管されていること、が認められる。

 右手紙の上部に被告Aが在学していたH・カレッジの名と電話番号が記載されていること、その発信日及び右手紙の内容等に照らせば、右手紙の宛先の「Cf」は、本件婚姻届書を扱った英国駐在日本領事館の職員であったと推測され、また、右手紙が本件婚姻届書に添付されている事実は、右領事館が、右手紙を、受理した本件婚姻届書に添付して広島市長に送付したことを推認させるものである。

 そして、右手紙の内容は、原告が被告Aとの日本の法律に基づく婚姻の手続をとろうとして英国駐在日本領事館と連絡をとり、同領事館の担当者からそのための必要書類の提出を求められており、それに対して被告Aが地方登録事務所に問い合わせた結果等を記載したものであり、このような右手紙の内容、本件婚姻届書に添付されている本件無名義の付箋、本件婚姻届書の鉛筆書き(右付箋及び鉛筆書きは、その内容からして英国駐在日本領事館員によってなされたものと推認される。)等に照らすと、右被告Aの手紙は、本件婚姻届が英国駐在日本領事館に提出されていることを前提とし、これに関して出されたものであり、したがって、被告Aは右手紙を出した当時本件婚姻届書が英国駐在日本領事館に提出されていることを知っていたものと推認される。

 被告Aは、原告との聖BN教会における結婚式当時もそれ以降も、終始原告と法律上の婚姻をする意思はなかった旨供述するが、右手紙の内容は被告Aにおいて原告と法律上の婚姻(marriage)をする意思でいたことを示すものであることは明らかであるから、右被告Aの供述は採用できない。

 以上のところからすれば、原告が供述するとおり、本件婚姻届書の被告Aの署名は同被告がなしたものであり、本件婚姻届書の被告A作成部分は同被告の意思に基づいて作成されたものと認められる。

 原告本人尋問の結果中には、本件婚姻届書が英国駐在日本領事館に提出された経緯及びその後の本件婚姻届書に関する処理について、あいまいで不明確なところもないではないが、それらは右認定を左右する程のものではない。

三 争点2(本件婚姻の効力)について

1 本件婚姻の実質的成立要件について

(一)本件婚姻についての実質的成立要件は、婚姻当事者の本国法による(旧法例一三条本文)。そして、当事者の本国法によるべき場合において、その当事者が二箇以上の国籍を有するときは、最後に取得した国籍によって本国法が定められる(旧法例二七条一項本文)。

 したがって、原告については日本法、被告Aについてはカナダの法律が適用される。

 そして、カナダは、「地方ニ依リ法律ヲ異ニスル国」(旧法例二七条三項)であり、被告Aはカナダのオンタリオ州に属するから(被告A、弁論の全趣旨)、被告Aについてはカナダのオンタリオ州法が適用される(旧法例二七条三項)。

(二)オンタリオ州法においては、婚姻意思の存在は婚姻の実質的成立要件である(右意思の確認のため、同法に定める婚姻許可証がなく、又は婚姻予告〔バンズ〕の公表なく、儀式を行ってはならないと定められている〔オンタリオ州法第256章婚姻法第4項〕)。

(三)本件婚姻届書の被告A作成部分が同被告の意思に基づいて作成されたことは前述(二2)のとおりであり、これに前記「Cf」宛の手紙の内容を合わせ考慮すれば、本件婚姻届書が英国駐在日本領事館に提出された当時被告Aは原告と法律上婚姻する意思を有していたものと認められるところ、右婚姻意思が、本件婚姻届書が広島市長に受理されるまでに撤回された形跡はないから、右受理当時も被告Aに原告との婚姻意思が存在したものと推認される。

 そして、本件婚姻届書が広島市長に受理された当時、被告Aには,オンタリオ州法上の他の婚姻障害事由も存在しなかった。

2 本件婚姻の形式的成立要件について

(一)本件婚姻についての形式的成立要件については、「婚姻挙行地」の法律が準拠法となる(旧法例一三条一項但書)。 

 婚姻の方式について婚姻挙行地の法律による(形式的成立要件に関する婚姻挙行地法主義)とする趣旨は、婚姻は挙行地において婚姻として社会的に公認される必要があり、その意味で婚姻の方式は挙行地の公益と密接な関係をもつので、挙行地法の定める方式に従うことを要するものとされるところにあるのであり、この趣旨に照らしても、旧法例一三条一項但書の「婚姻挙行地」は、婚姻という法律行為をなす地であって、身分登録官吏に対する届出、宗教的儀式、公開の儀式等をする地を意味するものであり、当事者が現在しない地は右「婚姻挙行地」には当たらないと解される。

 戸籍の実務において、在外の日本人が、外国人との婚姻届を本籍地の市町村長宛に直接郵送した場合にも、婚姻挙行地は日本であると解して受理する取扱いがなされていたが(昭和二六年三月六日民事甲第四一二号民事局長回答)、右取扱いは、戸籍吏に対する届出を日本において受理することから婚姻挙行地は日本とするものであるが、当事者が不在で実質的婚姻関係の社会的な公示もない地を婚姻挙行地とするもので妥当ではないし、旧法例九条一項の「法律ヲ異ニスル地ニ在ル者ニ対シテ為シタル意思表示ニ付イテハ其通知ヲ発シタル地ヲ行為地ト看做ス」との規定からも疑問である(右規定からすれば、郵便に付した地が婚姻挙行地となるものと解される。)。

 したがって、本件婚姻届書による婚姻届(この婚姻届は、それまでに外国法による適法な婚姻が先行していなかったから、創設的婚姻届である。)は、本件婚姻届書が英国駐在日本領事館に提出してなされたものであるから、右婚姻の挙行地は、ロンドン(英国)であるといわざるをえない。

(二)英国の一九七三年の婚姻原因法一一条a項は、一九四九年以降一九八三年改正までの婚姻法の規定によって効力を有しないときは無効とする旨定めているところ、一九四九年ないし一九八三年の婚姻法は、婚姻は、(1)特別許可書、(2)通常許可書、(3)バンズ(婚姻予告)の公表、(4)a許可書があるか、b許可書がない場合に監督登録官の証明書、のいずれかの方法によりとり行わなければならない旨定め、一九七三年の婚姻原因法は、婚姻に関する一定の形式的要件を守らなかったときを、婚姻は初めから無効となる事由と定めている。

 本件婚姻届書による婚姻の届出については、右英国法の方式は具備されていない。

 そうすると、本件婚姻届書による婚姻の届出は、婚姻の形式的成立要件を欠くことになる。

3 ところで、広島市長は、英国駐在日本領事館から送付された本件婚姻届書を、婚姻当事者である原告及び被告Aから同市長に対する適法な婚姻届であると判断してこれを受理し、その旨原告の戸籍に記載したものであることは前記認定のとおりである。

 しかし、本件婚姻届書による婚姻は、前記のとおり婚姻挙行地である英国法に準処しないもので、旧法例一三条一項但書に違反するものであったから、広島市長としてはこれを受理すべきではなかったと解される(民法七四〇条)。また、仮に本件婚姻届による婚姻の婚姻挙行地は婚姻届がなされた地であると解釈して取り扱うとしても、その場合には、本来は婚姻要件具備証明書の提出を要求すべきであったであろう(渉外的要素を含んだ婚姻届については、当該外国人の本国法の定める婚姻の実質的成立要件の内容が市区町村長に必ずしも明白でない場合が多いので、当事者が原則としてその本国法の定める婚姻の要件を具備していることを自ら立証する〔大正八年六月二六日民事局長第八四一号回答〕、その立証方法としては、権限を有する本国の官憲が、本国法上その婚姻の成立に必要な要件を具備している旨証明した書面(婚姻要件具備証明書)を婚姻届書に添付する〔昭和二二年六月二五日民事局長甲第五九五号回答、昭和二四年五月三〇日民事甲第一二六四号回答〕という、戸籍実務上の取扱いがなされている。広島市長は、英国駐在日本領事館から送付された婚姻証明書、被告Aの出生証明書、前記の被告Aの手紙等の資料から、被告Aについて婚姻要件は具備されていると判断したものと推認される。)。

4 しかし、原告と被告Aの本件婚姻届による婚姻は、その広島市長による受理当時においては有効なものでなかったとしても、原告と被告Aが昭和五四年四月日本で婚姻生活を始めた時点において、広島市長による本件婚姻届受理の時点に遡って有効なものとなったと解するのが相当である。

 なぜなら、日本人の婚姻の相手方である外国人にその本国法による婚姻障害事由がなく、既に婚姻届がなされている日本の地において後に婚姻の実質を有する共同生活が営まれるようになった場合には、少なくともその時点においては右婚姻生活の営まれる日本が「婚姻挙行地」となるものとして、日本の法律における婚姻の形式的成立要件を具備している限り、これを婚姻届出の時点に遡って有効なものと扱うのが、婚姻の保護に適うものと解されるからである。

 本件婚姻届については、被告Aにつき「婚姻要件具備証明書」そのものは提出されていないが、広島市長が英国駐在日本領事館から送付された諸資料等により婚姻要件は具備されているものと判断して本件婚姻届を受理し、実際にも被告Aに婚姻障害事由は存在しなかった以上、右「婚姻要件具備証明書」の不提出故に、本件婚姻届による婚姻を無効とするのは相当でないというべきである(無効とすべき実質的理由はない)。

 したがって、本件婚姻届による婚姻は、結局本件婚姻届時点に遡って有効なものとなったと認めるのが相当である。

四 争点3(被告らの婚姻の取消)について

 本件婚姻届による原告と被告Aの婚姻が有効なものであることは前述のとおりであるから、被告らの婚姻は重婚として許されず(民法七三二条)、被告Aの配偶者たる原告において取消請求をすることができる(同法七四四条二項)。

 したがって、原告の被告らに対する婚姻取消請求は理由がある。

五 争点4(原告と被告Aの婚姻の離婚原因)について

1 被告Aに被告Bfとの不貞行為があったことは前記認定のとおりであり、また、原告は被告Aとの離婚を求め、被告Aは原告との婚姻の事実自体を否定していることはその主張から明かであり、原告と被告Aの婚姻は既に回復不能なまでに破綻していることは明かである。

2 そして、前記(第三、一)認定の事実によれば、右婚姻破綻の原因は、主として被告Bfとの性的関係をもってこれを継続した被告Aにあったものと認めるのが相当である。

 

 被告Aは、同被告が被告Bfと知り合った昭和五四年春ころには、原告と婚姻は既に破綻していた旨主張し、その旨供述するが、被告Aは、昭和五四年四月に原告と一緒にカナダから来日したばかりであったのであり、もしその当時既に夫婦としての信頼関係が失われていたのであれば、被告Aにおいて来日し、原告と共同生活を開始することはなかったであろうと考えられるし、その後被告Bfと知り合うまでの間に、原告との間の夫婦としての愛情ないし信頼関係が失われるような事態が発生したことを認めるに足りる証拠はない。

 原告の離婚請求は理由がある。

六 争点5(親権者の指定)について

 離婚に伴う親権者の指定については、法例二一条によりわが国の法律(民法)に従うべきところ、前記認定の原告と被告Aの婚姻生活の状態、右両名間の長女春子及び長男一郎の監護養育の経緯ないし状態等にかんがみれば、右未成年の二子の親権者には原告を指定するのが相当と認められる。

七 争点6(原告の被告Aに対する慰謝料請求権)について

1 原告と被告Aの婚姻破綻の主たる原因が被告Aの被告Bfとの不貞行為にあったことは前述のとおりであるから、被告Aは原告に対し、右婚姻破綻(離婚)により原告が被った精神的苦痛を慰藉すべき義務がある。

2 被告Aは、原告が離婚原因慰藉料請求原因事実として主張する被告Aの、(1)被告Bfとの不貞行為、(2)悪意の遺棄及び(3)精神的虐待についての損害賠償請求権は、消滅時効が完成した旨主張する。

 しかしながら、原告が被告Aに対して請求する慰謝料は、右被告A主張の各個別の行為を不法行為とすることに基づくものではなく、右のような各行為による離婚へと発展する契機となる精神的苦痛及び最終的に離婚に至ったことによる精神的苦痛に対する慰藉料(右の前者が離婚原因慰藉料、後者が離婚自体慰藉料、合わせて離婚慰謝料とも呼ばれているもの。)であることはその主張から明らかであるところ、右慰謝料請求権(不法行為に基づく損害賠償請求権)の右被侵害利益は身分権である配偶者たる地位であり、個別的有責行為がその原因となり、結果である損害は配偶者たる地位の喪失(離婚)によって発生すると解されるものである。

 したがって、右慰藉料は、有責配偶者に対する離婚請求の時点でこれを請求することが可能となるものであるから、右慰謝料請求権については、離婚請求の時から消滅時効が進行すると解するのが相当である。

 そうすると、被告Aの主張は、被告Aの個々の有責行為それ自体を不法行為ととらえてのものであるし(そのような損害賠償請求も可能であるが、原告の請求はそれではない。)、原告は本訴の提起により被告Aに対し離婚を請求し、併せて前記離婚慰謝料の請求をしているものであるから、被告Aの主張は理由がない。

3 そして、原告と被告Aの離婚破綻に至る経過・原因、原告の年齢、婚姻期間等のほか、原告の被告らに対する対応(原告は被告らに不貞行為関係の解消を要求したことがなかったこと)、その他記録に顕れた諸般の事情を総合しん酌すれば、原告が被告Aに対して請求し得る慰藉料は三〇〇万円をもって相当と認める。

4 被告Aは、原告が被告Aに対して本件婚姻届のなされたことを告知しなかったことを過失相殺の事情として考慮すべきである旨主張するが、被告Aが本件婚姻届書を作成し、その届出のなされたことを知っていたと認められることは前述のとおりであるから、右被告Aの主張は理由がない。

八 争点7(原告の被告Bfに対する慰謝料請求権)について

1 被告Bfの原告に対する不法行為について

(一)被告Aと被告Bfは、遅くとも昭和五六年六月ころまでには性的関係をもち、遅くとも昭和五九年三月ころまでには同棲状態の生活に入り、これを継続したこと、原告は、昭和五六年六月ころ、被告Aから同被告が被告Bfと性的関係にあること及びその関係を解消する意思のないことを告げられ、また、昭和五九年三月ころ、被告Aから被告Bfが被告Aの子を妊娠したことを告げられ、被告らの右関係を知ったことは、前記認定のとおりである。

 また、(証拠省略)によれば、被告Aが被告Bfと不貞ないし同棲関係をもつようになる前、原告と被告Aは夫婦として共同生活をしており、その関係は被告Bfが通学していたCC文教女子大学内で知られていたことが認められるから、被告Bfは、原告と被告Aとの右関係を知った上で同被告と右のような関係をもったものと推認される。

(二)更に、被告Bfは、平成四年五月一三日、被告Aと婚姻届をして同被告の重婚状態を作り出したものであり、右行為も被告Aの妻たる原告の権利を侵害するものであるところ、被告Bfは、右婚姻届当時、被告Aが原告と夫婦の関係にあることを知っていたことは前記認定のとおりであるから、右被告Bfの行為は被告Aとの共同不法行為を構成する。

 仮に、被告Bfが被告Aから同被告と原告との関係は解消された旨聞き、それを信じていたとしても、被告Bfにおいて原告と被告Aが夫婦であったことを知っていた以上、右被告Aとの婚姻届をなすに当たって、原告に尋ねあるいは戸籍を調べるなどして事実関係を調査すべき注意義務があったというべきであり、そうすれば容易に原告と被告Aの婚姻関係の存在を知り得たと認められるところ、被告Bfは右のような調査・確認をしていないから(弁論の全趣旨により認められる。)、被告Bfが被告Aとの婚姻届をしたことについては過失があったというべきであり、やはり被告Aとの共同不法行為を構成する(なお、被告Aは、「英国」の国籍で外国人登録をしているのに、被告Bfとの婚姻届は国籍をカナダとしているのは、原告との婚姻届が英国国籍でなされていたため、これが被告Bfとの婚姻届の障害になることを危惧したためではないかと疑われる。)。

2 原告の損害賠償請求権の時効消滅について

(一)夫婦の一方の配偶者が他方の配偶者と第三者との不貞行為ないし同棲により第三者に対して取得する慰謝料請求権については、一方の配偶者が右の不貞行為ないし同棲関係を知ったときから、それまでの間の慰謝料請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である。けだし、右の場合に一方の配偶者が被る精神的苦痛は、右不貞関係ないし同棲関係が解消されるまでの間、これを不可分一体のものとして把握しなければならないものではなく、一方の配偶者は、不貞関係ないし同棲関係を知った時点で、第三者に慰謝料の支払を求めることを妨げられるものではないからである。(最高裁判所平成六年一月二〇日第一小法廷判決・裁判所時報第一一一五号参照)

(二)これを本件について見るに、前記1(一)の事実関係からすれば、前記被告Bfの不法行為に基づく原告の損害賠償請求権のうち、原告の本訴(被告Bfに対する慰謝料請求訴訟)が提起された平成六年一月一六日(記録上明らかである。)から三年前の平成三年一月一六日より前の右被告Bfの不法行為(同被告の被告Aとの不貞ないし同棲関係)によるものは、時効により消滅したものというべきである。

3 原告が被告Bfに請求し得る損害賠償額

 被告Bfの平成三年一月一六日以降の原告に対する不法行為の内容(被告Aとの同棲関係及び婚姻届)、その間の原告の被告Bf及び被告Aに対する態度(原告は被告らにその関係の解消を要求したことがなかったこと)等、記録に顕れた諸般の事情を総合しん酌すれば、原告が被告Bfに対して請求し得る慰謝料は一〇〇万円が相当と認められる。

九 争点8(原告の被告Aに対する財産分与請求権)について

1 証拠によれば、次の事実が認められる。

(一)原告の取得財産、収入等

(1)原告は、昭和五八年八月、自宅の土地、建物を代金約五〇〇〇万円で購入し、右代金の支払はすべて原告の収入からしている(右代金の一部はローンを組んで支払ったが、そのローンの残債務は未だ約一六〇〇万円あり、原告がその収入から支払をしている)。

(2)原告は、現在、Eg大学の専任講師、その他の大学の非常勤講師等をし、年間約一〇〇〇万円の収入を得て、長女及び長男を養育している。

(二)被告Aの取得財産、収入等

(1)被告Aは、被告Bfと同居生活する自宅として、被告Bfと共同して平成元年一二月本件土地、建物を購入した(代金約三八〇〇万円のうち約二八〇〇万円につきローンを組んだ。)が、被告Aが平成六年四月Ap学園を解雇されて失職したこともあり、被告らは平成七年八月二一日本件土地、建物を売却して右ローン債務を清算した。

(2)被告Aは、平成六年三月二八日現在、住友銀行神戸支店普通預金口座に約四〇万円の預金を有している。

(3)被告Aは、昭和五四年広島で生活するようになったころから、平成五年六月原告が離婚調停の申立をするころまで、長女春子と及び長男一郎の学費を負担して支払ったが、それ以外の生活費は殆ど支払わなかった。

(4)被告Aは、現在、EZ大学の非常勤講師として年間約二一〇万円の収入を得ている。

2 ところで、前記認定の本訴提起に至るまでの原告と被告Aの生活状態にかんがみれば、被告Aは、昭和五六年ころから殆ど別居状態にあって、少なくとも、被告Bfとの間に第一子(昭和五九年五月生)及び第二子(昭和六二年四月生)が生まれたころまでには被告Bfとの共同生活関係が確立され、原告との夫婦としての共同生活の実体はなくなっていたものと認められ、このような被告Aの原告との関係に照らすと、被告Aの本件土地、建物の取得及び前記認定の銀行預金は、右原告との共同生活が失われた後に取得された被告Aの特有財産であると推認されるし、本件土地、建物は既に売却されて存在しないから、右預金及び本件土地、建物は原告・被告A間の財産分与対象財産とはいえない。

 また、原告は、原告の離婚後の扶養的要素、過去の婚姻費用の分担等を考慮し、被告Aから原告に対する財産分与がなされるべきである旨主張するが、前記認定の原告と被告Aとの婚姻の破綻状況ないし夫婦共同生活の実体(少なくとも現在まで一〇年近くにわたって夫婦共同生活は失われてきている。)、原告及び被告Aの各収入、資産状況等を総合して考えれば、右原告主張の諸要素を考慮しても、原告の被告Aに対する財産分与を認めることはできない。

第四 結語

 よって、原告の本訴各請求中、被告らに対する婚姻取消請求及び被告Aに対する離婚請求は理由があるからこれをいずれも認容し、原告・被告A間の未成年者の親権者を原告と定め、被告Aに対する慰謝料請求及び被告Bfに対する慰謝料請求はそれぞれ主文第四項及び第五項の限度で理由があるからそれぞれ右範囲で認容し(右被告らの慰謝料支払義務は、被告Bfの支払義務額一〇〇万円の範囲で不真正連帯債務である。)、その余は理由がないから棄却し、被告Aの反訴請求は理由がないから棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官 小林秀和)

 裁判官加藤員祥は転補につき署名捺印できない。

(裁判長裁判官 竹中省吾)



[1] 松岡博『国際関係私法入門3』(有斐閣、2012180

[2] 道垣内正人「ポイント国際私法(各論)[2]53

[3] 木棚照一・松岡博・渡辺惺之「国際私法概論[5]205

[4] 中西康・北沢安紀・横溝大・林貴美「LEGAL QUEST国際私法」294

[5] 脚注1, 182

[6] 道垣内正人『ポイント国際私法各論[第2版]』 53

[7] 澤木敬郎・道垣内正人『国際私法入門[7]』(有斐閣双書、2012) 101

[8]櫻田嘉章・道垣内正人『注釈国際私法 2 §§123(2011,有斐閣)67項参照       

[9] 最判平成12127民集5411

[10]松岡博『国際関係私法入門』(2015,有斐閣)200頁参照

[11] 名古屋家審平成7519家月482153

[12] 澤木,道垣内前掲116

[13] 水戸家裁平成334日審判(家月451257頁、百選4事件)、澤木,道垣内前掲91頁参照

[14] 澤木,道垣内前掲115頁、東京地裁平成17218(判時1925121頁、百選62事件)、百選62事件解説参照

[15] 松岡博『国際関係私法入門』(2015,有斐閣)51頁参照

[16]道垣内正人『ポイント国際私法・各論』(2000,有斐閣)104

[17] 平成1102民二3900号基本通達第41(2)