早稲田大学法科大学院2016年度夏「国際私法II」及び「国際民事訴訟法」試験問題
ルール
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参考文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること及び他人の見解に従うことは禁止します。
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解答作成時間は自由ですが、解答送付期限は、2016年7月3日(日)21:00です。
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解答は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください(emailアドレス中の_はアンダーバーです)。
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メールの件名は、必ず、「国際私法II」については「WLS2016国際私法II」、「国際民事訴訟法」については「WLS2016国際民事訴訟法」としてください(分類のためです)。
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文書の形式は下記の通り。
・ A4サイズの紙を設定すること。
・ 原則として、マイクロソフト社のワードの標準的なページ設定とすること。
・ 頁番号を中央下に付け、最初の行の中央に「国際私法II」については「WLS2016国際私法II」、「国際民事訴訟法」については「WLS2016国際民事訴訟法」と記載し、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載してください。
・ 10.5ポイント又は11ポイントの読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。
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枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。
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判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典が必要です。
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答案の作成上,より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。
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これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものです。
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各設問記載の事実関係は、当該設問においてのみ妥当するものとします。
問題
日本でミュージカル、サーカスなどの興業を企画・実施している日本法人A(本店東京)は、国際的に人気のあるスウェーデン国籍(ニューヨーク在住)女性歌手Bを2016年5月1日から18日まで日本に招聘して全国各地で計6回のコンサートを開催する企画をした。そして、2015年1月、Aの代表者自らニューヨークに赴き、Bのエージェントと称するニューヨーク州在住アメリカ人Cに連絡を取り、Bとの面談を求めたが、多忙を理由にそれは実現しなかったものの、同年1月15日にBの上記来日公演に係る契約を締結することに成功した。この契約にはA、B及びCの義務等が詳細に定めらており、署名欄には、A(代表者)・Cの署名のほか、Cが「Bのために」との記載した上で署名しており、B自身は署名していない。このA・B・C間の契約書は英文であり、CがBの音楽活動に係る契約書としてニューヨーク州弁護士のチェックを受けた上で従来から使ってきたものをもとに、A・C間で協議の上、若干の加筆修正を加えたものである(紛争解決条項及び準拠法条項は存在しない。)。
これを受け、Aは、日本各地でのコンサート会場や人員を確保するとともに、売り出し中で人気急上昇中の韓国人女性音楽グループDをBの前座として上記各コンサートで公演させるプランを立て、エージェントである韓国在住の台湾人Eに来日するように連絡し、日本での交渉の結果、A・Eの間で契約が締結された(D側のことはすべてEが取り仕切ることとされ、Dのメンバーは契約当事者となっていない。)。
その後、上記のコンサートの準備作業は順調に進み、2016年4月上旬にはAは全ての準備を整えた。
ところが、2016年4月15日、CからAに対して、Bの体調不良を理由とする来日公演キャンセルの通知があった。Aは、4月15日当日にBがハワイで元気に遊んでいる動画をネット上で発見したことを指摘しつつ、Cに対して予定通りのBの来日を強く要請したが、CからはBは精神的な疾患の治療をハワイで行っており、指摘された動画はその治療の様子である旨の回答とともに、キャンセルは確定的であるとの回答があった。以上、「第1のトラブル」。
他方、AはEに対して、Bの日本でのコンサートが中止になったので、Dの日本公演についてはキャンセルする旨の通知をした。しかし、Eからは、Dは他の仕事を断って5月1日から5月18日までの日本公演のスケジュールを確保しており、多額の損害が発生するので、Dだけの日本公演とすることを提案された。そこで、Aは、Eが一定のリスクは負担する旨を定めた追加契約を締結することを条件にこのプランを受け容れることとし、追加の契約交渉を行った。そして、1コンサート3,000万円(ほぼ経費分に相当)を基準として、それを下回る収入しか得られない場合にはEがそのマイナス分をAに補填し、3,000万円を上回る収入が得られた場合には、A:E=3:7でその収入を分配する旨の定めを置く追加契約が締結された。A・E間の当初の契約書も追加契約書も当事者間の交渉により独自に起草した英文のものであり、管轄条項も準拠法条項もない。
そして、AはBの公演のために確保済みであった各地の会場でDの単独コンサートを6回実施したものの、客の入りは悪く、AとD・Eとの間でトラブルが発生した。その主たる争点は、そもそも各コンサートの収入は3,000万円を超えたのか否かであり、Aの示した収入の計算書の記載の正確なのか否かが問題となった。以上、「第2のトラブル」。
その後、スウェーデンの弁護士から、次のような連絡が入った。すなわち、@スウェーデン人の消費者であるFをはじめとする計50人は、Bの熱心なファンであって、インターネットを通じてスウェーデンの自宅からAの英語版ウェブサイトに接続してBの本件6回のコンサートのチケットを各自すべて(計30万円)購入していたこと、ABの本件コンサートがキャンセルになった旨の告知はAのウェブサイトに日本語及び英語でされただけであり、Aのウェブサイトで購入したFらへの個別の連絡は可能であったはずであるのに、個別の連絡はなかったこと、BAの上記告知においては、Dのコンサートへの切り替えに同意しない場合にはキャンセルする選択肢も用意されていたようであるが、その期限は4月25日までであって、FらがBの本件コンサートのキャンセルを知ったのは4月26日以降であり、Dのコンサートへの切り替えに同意したものとされたのは不当だと考えていること、Cそこで、Fらは日本への旅行を全てキャンセルし、その結果、チケット代金、航空券・ホテルのキャンセル料等、1人あたり日本円で90万円、計4,500万円の損害を被ったこと、Dしたがって、Fらを代理して、Aに対して4,500万円の賠償を請求すること、以上の連絡であった。以上、「第3のトラブル」。
[以下の問題のうち、「国際私法II」の試験問題は網掛けのある設問((c)、(d)、(h)、(i)、(l))です。他方、「国際民事訴訟法」の試験問題は網掛けのない設問((a)、(b)、(e)、(f)、(g)、(j)、(k))です。両科目を受験する場合にも、答案は別々に作成し、別々のemailに添付して提出してください。]
民事訴訟法は「民訴法」と、法の適用に関する通則法は「通則法」とそれぞれ略すこと。通貨がすべて円表示であることが不自然であるとしても、その点はこのままでよいこととする。
1.
第1のトラブル
(a)
Aは、第2・第3のトラブルが全て決着し、損害額が確定した後、Bの来日キャンセル理由は、A・B・C間の契約上、Bには正当な理由のないキャンセルをした責任があり、CにはBの来日コンサートを円滑に実現させる義務に違反した責任があるとの理由でAが被った損害3億円の支払いを求める訴えを東京地裁で提起した。この訴えのうち、Bに対する訴えに対して、Bは、本案前の抗弁として、かつてCは自分のエージェンであったことがあり、代理契約等をしてもらっていたが、数年前にトラブルがあってエージェント契約を解除しており、CがBのために契約を締結する権限はなく、そもそもBに対する訴えについて日本の裁判所が本案判断をすることはできないというべきだと主張している。東京地裁は本案前の段階の判断として、この主張をどのように判断すべきか。
(b)
(a)記載の訴えのうち、Cに対する訴えについて日本の裁判所は国際裁判管轄を有するか。
(c) (a)記載の訴えのうち、Bに対する訴えに対して東京地裁は本案についての判決手続に進むことができるとする。本案の判断として、Bの(a)記載の主張、すなわち、CがBの代理人ではないとの主張の当否を判断する準拠法は何か。
(d) (a)記載の訴えのうち、Cに対する訴えについて東京地裁に国際裁判管轄が認められるとする。本案について、Cは、A・B・C間の上記契約上、自分の義務はBの来日公演についてB側のアレンジをすることにあり、その義務は完全に果たしているので、責任はないと主張している。その主張の当否を判断する前提として、A・B・C間の上記契約の準拠法何か。
2.
第2のトラブル
(e)
Eは、ソウル地方法院において、Aに対して独自の計算に基づき、A・E間の追加契約に基づく1コンサートにつき3,000万円を超える収入金額の70%分として、計7,000万円の支払いを求める訴えを提起した。これに対してAは、Eの上記ソウル訴訟の提起から数日後、東京地裁において、Eに対して同追加契約に基づく損害の補填として、計6,000万円の支払いを求める訴えを提起した。Eは、東京地裁において、日本に国際裁判管轄はないと主張するとともに、ソウル訴訟を理由として国際訴訟競合による訴えの却下も主張している。東京地裁として、これらのEの主張についてどのように判断すべきか。
(f)
(e)記載の争点について東京地裁が判断をしていない段階で、同記載のソウル地方法院は、Aが適法な送達を受けていながら出廷を拒んだため、Eの主張のみに基づき、Aに対してEに7,000万円を支払えとの判決が下され、確定したとする。この判決は日本において執行することができるか。
(g)
(e)・(f)記載の訴訟が終結した後、DのメンバーD1は台湾でのコンサートにおける曲の合間に、上記の日本公演ではAにひどい扱いを受け、いやな思いをした上にお金をごまかされたと発言し、それは日本・韓国・台湾で大きく報道された。これに対して、Aは信用を毀損されたと主張し、東京地裁においてD1に対する損害賠償請求訴訟を提起した。この訴えについて日本の裁判所は国際裁判管轄を有するか。
(h) A・D・E間の当初の契約及び追加契約の準拠法はそれぞれいずれの国の法か。
(i) (g)記載の訴えについて東京地裁に国際裁判管轄があるとして、本案判断において、D1行為が不法行為となるか否かを判断する準拠法はいずれの国の法か。
3.
第3のトラブル
(j)
Fをはじめとする50名は、スウェーデンのストックホルム地方裁判所において、Aに対する訴訟を提起し、同裁判所は、本件が消費者契約事件であることを理由にFらの住所地国であるスウェーデンには国際裁判管轄があるとし、A欠席のまま、その他の点についてもFらの主張を認めた上で、Aに対してFら50名に各90万円を支払えとの判決を下し、これは確定した。この判決の日本での執行について、スウェーデンに間接的国際裁判管轄(民訴法118条1号)が認められるか。
(k)
Fは日本の弁護士を選任し、東京地方裁判所において、Fだけが原告となって、50名全員のために、(j)記載のストックホルム地方裁判所の判決の日本での執行を求める訴えを提起した。Fは、スウェーデンでは任意的訴訟担当が認められる立場にあると主張している。Fのこの任意的訴訟担当を認めることができるか。
(l) (j)・(k)記載の事実がないとする。Fら50名は、東京地方裁判所においてAに対する損害賠償請求訴訟を提起した。この請求権の準拠法はいずれの国の法か。