WLS国際私法T
47162059 田中将也(問題4及び5)
第1 問題4[X・Pの婚姻]について
問題4−1
1(1) 外交婚とは、海外に駐在する自国の大使、行使、あるいは領事の下で自国法の方式により婚姻することである。本件では、X・Pは日本大使館に赴いて外交婚を申し出ていることから、日本法の方式により婚姻しようとしていることが考えられる。日本大使館の職員としてはX・Pが自分らの婚姻の方式をそもそも日本法によってすることが出来なければ、X・Pの申出を拒否することが出来るため、はじめに婚姻の方式の準拠法が問題となる。[この部分の記載は(2)よりも後にした方が収まりがいいと思われます。]
(2) 婚姻の方式は、婚姻挙行地の法により有効とされればよいことに加えるが、当事者の一方の本国法に適合する場合にも方式上は有効となる。(法の適用に関する通則法(以下、「法」という。)24条2項・3項本文)そして、同条2項の趣旨は、婚姻は挙行地において婚姻として社会的に公認される必要があり、その意味で婚姻の方式は挙行地法の定める方式に従うことを要するものとされるところにある。したがって、婚姻挙行地とは婚姻という法律行為をなす地であって、身分登録官吏に対する届出、宗教的儀式、公開の儀式等をする地を指すものと解する。[i]
本件では、X・PはD国の日本大使館において外交婚の申出をしているから、X・Pの婚姻の方式の準拠法は、婚姻挙行地法たるD国法であると同時に、X・Pの本国法である日本法、B国法に適合する婚姻の方式を具備していれば方式上は有効となる。
(3) よって、X・Pの婚姻の方式は日本法によってもすることができ、本件では、X・Pは日本大使館に赴いて外交婚を申し出ていることから、日本法上の外交婚の方式により婚姻しようとしていることが考えられる。
2 では、X・Pは日本法上、外交婚の方式での婚姻をすることができるの婚姻の方式は日本法に適合しているか検討する。なお、外交婚とは、海外に駐在する自国の大使、行使、あるいは領事の下で自国法の方式により婚姻することである。
外交婚については民法741条が定めており、「外国に在る日本人間で婚姻をしようとするときは、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事にその届出をすることができる」としている。本件では婚姻の一方当事者であるPはB国人であるから、「外国に在る日本人間で婚姻」する場合に当たらない。
3 よって、X・Pの外交婚の申出は日本法上適法なものではなく、その申し出を拒否した駐D国日本大使館の職員の対応は日本法上正しいものであった。
問題4−2
1 X・Pの婚姻の形式的成立要件(方式)
前述した通り、X・Pの婚姻の方式の準拠法は、婚姻挙行地法たるD国法に適合する場合のほかであると同時に、X・Pの本国法である日本法、B国法に適合する場合にも方式上婚姻の方式は有効となる。
よって、日本の国際私法に照らすと、駐D国B国大使館での婚姻の儀式がB国法の方式に適合しているから、X・Pの婚姻の方式上は有効であり、婚姻は日本法上有効に成立したということができる。
2 Xの本籍地への婚姻届書の郵送の法的意味
日本では婚姻の方式は届出婚(民法739条)を採用しており、このように届出をもって初めてその身分関係に関する効力が生じる届出を創設的届出という。1で前述した通り、B国法の方式に適合したX・Pの婚姻は日本からみて法上でも有効であるから、その後さらに創設的届出をする意味はないように思われる。
もっとも、届出には報告的届出が存在し、海外で外国人とその外国人の本国の方式で婚姻した日本人は三ヶ月以内に本籍地の市区町村に婚姻証書等を送付しなければならない。(戸籍法41条、42条類推適用、平成元・10・2民二3900通達参照)
よって、Xの婚姻届書の送付は、報告的届出としての意味を有し、Xの戸籍に婚姻の事実が記載されることになる。
問題4−3
X・P間の婚姻が日本法の方式に適合するものである場合、有効となる点については前述のとおりである。そして、日本法では届出婚を採用し、戸籍法は郵便によって発送した届出を認めているので(戸籍法47条参照)、XがD国からXの本籍地へ婚姻届書を郵送すれば、この届出は、当事者の一方の本国法である日本法による方式に基づくものとして受理されることになる。
したがって、日本法上、X・Pの婚姻は有効に成立したということができる。
問題4-3についての別の答案その1
石井康弘
(1) D国法にあるB国大使館での婚姻の儀式が、当事者の一方であるPの本国法であるB国法には適合しない方式であったため、XP間の婚姻は、B国法によっては成立していないこととなる。
もっともその後、婚姻届を日本に郵送している。そのためこれによってXPの婚姻が有効に成立するか。
(2) これと同様の事案として神戸地裁平成9年1月29日判決がある。これは、平成4年に日本人とイギリス人がイギリスの日本領事館に婚姻届を提出したところ、形式的成立要件を欠くとされ、その後に婚姻届を日本人の本籍地へ郵送したときに、有効な婚姻となるかが問題となった事案である。
判旨は、「渉外婚姻の形式的成立要件について準拠法は婚姻挙行地法であるが、日本人と外国人との婚姻届がイギリスの日本領事館に提出されたところ、婚姻挙行地であると認められるイギリス法では婚姻の形式的成立要件を欠く場合、右婚姻届が日本人の本籍地で正式に受理された時には、その後当事者二名が現実に日本で婚姻生活を始めた時点で、受理に遡って有効な婚姻となる」と判断した。
平成4年当時施行されていた平成元年改正後の法例13条2項・3項は、通則法24条2項・3項と同じく、選択的連結方式を採用しており、挙行地法に適合する場合に加え、当事者の一方の本国法に適合する方式であれば、婚姻は方式上有効に成立するとされている。この平成元年改正前は、通則法2項に当たる規定だけしかなく、24条3項に当たる規定がなかった(絶対的挙行地主義)。そのため、しかし一方で、現実に日本で営まれている婚姻の保護を図る必要性から、「当事者の現在しない地」を婚姻挙行地と解するという回答の理論上の問題点を現実に即して解釈することにより結論を導いていると言える(種村好子 判例タイムズNo.1005(1999)141頁)。
もっともこれは通則法が制定される法例時代の裁判例である。この時には上述のように、外国からの郵送による婚姻届での婚姻挙行地を日本と見るか発送地と見るかで学説が対立していた。そして婚姻挙行地を発送地だとする立場からは、日本だとする立場に対して、戸籍吏に対する届出を日本で受理する際の「受理」をもって婚姻の挙行であるとする法務省回答の解釈は、当事者の不在地を婚姻挙行地とするとう擬制の上に成り立つもので、絶対婚姻挙行地法主義を形骸化する解釈であると指摘されていた(澤木敬郎『渉外判例研究』ジュリスト(1966)357号105頁、山田゙一『国際私法(現代法学全集四七)(旧版)』(筑摩書房、1982)343頁)。そのため裁判例はこの批判を意識して、発信地を挙行地であるとした上で、結論の妥当性を確保するために、「現実に日本で婚姻生活を始めた時点で、受理時に遡って有効な婚姻となる。」と判断したと言える。
(3) しかし、平成元年改正の法例は当事者のいずれかの本国法上の方式に適合すればよいとする規定を導入していたのであるから、そうだとすると現在においてはもはやこの議論は立法によって解決されており、通則法24条の趣旨は、方式の面で婚姻の成立を容易にすると共に、跛行婚の発生を防止するという国際的配慮にあるとすれば、判旨のように現実に日本で婚姻生活を始めたかどうかに関わらず、日本法上の婚姻の届出により方式上有効な婚姻を認めるべきであると言える。
(4) 本件でこれを前提として見ると、まず郵送による場合には、発送地が婚姻の挙行地と考えられるので 、D国法が通則法24条2項によって婚姻の成立を判断する準拠法になると思える。
しかし通則法24条は選択的連結政策をとっており、当事者の一方であるXの本国法、日本法に適合する方式であれば婚姻は有効に成立する。
そして日本においては、婚姻届は外国から本籍地へ直接郵送によるものであっても、日本法の方式に適合するものとして有効であるとされる 。
(5) したがって婚姻届の本件郵送による婚姻届も、日本法に適合したものであり、通則法24条3項柱書によってすでにXP間の婚姻は有効に成立したと言える。
問題4-3についての別の答案その2
前里康平
小問3 D国から日本への婚姻届書の郵送により日本法上婚姻が有効に成立したか
1 D国から日本への婚姻届出書の郵送により、日本法上、X・Pの婚姻は有効に成立したかという問題は、婚姻が法的に有効に成立するために必要とされる外面的行為に関わる問題であるから婚姻の「方式」に該当する問題である。
2 このような郵送による婚姻届出の場合、通則法24条2項の「婚姻挙行地」の解釈が問題となる。この点について、婚姻以外の親族関係についての法律行為の方式の準拠法を定める通則法34条2項にいう「行為地」については、日本法の戸籍制度の行政法的側面と私法的側面の両面性、当事者間の意思表示とは別に国家機関への届出・受理といった外部形式を要求するタイプの方式の特殊性などから、外国から日本の戸籍窓口に届出があった場合には、行為地は日本であるとの解釈をし、この解釈との整合性から、24条2項のいう「婚姻挙行地」についても、届出というタイプの方式については届出を受理する行政機関の所在地(婚姻が公にされる地)を「婚姻挙行地」と解すべきとする見解がある(道垣内・澤木『国際私法入門』第7版101頁-102頁)。しかし、この見解は日本民法の解釈を国際私法の解釈に持ち込むものであり妥当ではない。「婚姻挙行地」は、婚姻という法律行為を為す地であって、当事者が現在しない地は右「婚姻挙行地」には当たらないと解すべきである(神戸地判平成9年1月29日参照)。
3 そうすると、本問において、婚姻届書が受理された日本は当事者たるX・Pが存在せず「婚姻挙行地」ではないので、XのD国から日本への婚姻届書の郵送により日本法上X・Pの婚姻が有効に成立したかという問題には、通則法24条3項本文により、当事者の一方たるXの本国法である日本法が適用される。本問ではXはX・Pの婚姻について予め用意しておいた日本の婚姻届書に日本法上認められるとおりに記載したとある(日本民法739条参照)。そして、日本の戸籍実務上、当事者の一方が日本人である場合、本人の本籍地の市町村長に外国から婚姻届書を直接郵送する方法が認められている(戸籍法25条参照)ので、Xの届出書の郵送は日本法に適合するといえる。したがって、当該郵送は有効であるから、日本法上、X・Pの婚姻は有効に成立したということができる。
第2 問題5[相続と反致]について
1 本問の単位法律関係
本問はPの相続人であるX及びQの相続分がどうなるかという問題であるから、相続の問題と法性決定して法36条を適用すべきである。
2 本問の準拠法
法36条は相続の準拠法を「被相続人の本国法」とし、動産相続と不動産相続を区別することなく、相続の問題すべてを被相続人の属人法によって規律しようとする相続統一主義を採用している。そして、「被相続人の本国法」は、条文では明記されていないが、被相続人の死亡時の本国法、すなわち被相続人が死亡時に有していた国籍所属国の法を指すと解されている。
本件では、Qはその死亡時にB国の国籍を有していたのだから、相続の準拠法はB国法であが指定される。
3 反致
(1)なお、B国法は「被相続人の本国法」として指定されているから、「当事者の本国法によるべき場合」(法41条本文)にあたり、相続は同条但し書きの場合に該当しないから、反致の成否についてが成立しないか検討する。
(2)法41条は文言上「当事者の本国」の法(この法は国際私法であると解されている)が日本法を準拠法として指定する場合(いわゆる狭義の反致)を対象としており、転致は認められていない。
(3)ア B国の国際私法は相続分割主義を採用し、不動産の相続についてはその所在地法、動産の相続については被相続人の常居所地法を準拠法としている。そして、B国の判例上、不動産投資証券は不動産とみなされ、複数国に所在する不動産を投資対象としている場合には、その割合に応じてそれぞれに所在する不動産とみなされる。
イ Pは不動産投資証券を合計1億円(分)有しており、その投資比率は日本に所在する不動産に60%、C国に所在する不動産に40%であるから、Bの国際私法上、Pは日本に所在する不動産(価値総額6000万円)とC国に所在する不動産(価値総額4000万円)を有しているとみなされ、その相続の準拠法は、それぞれの所在地法である日本法、C国法が指定される。
ウ Pはさらに日本の銀行に300万円の預金口座を有しており、不動産以外の財産であるから相続の準拠法はB国国際私法上では常居所地法によるから、Pの常居所地がどこかが問題となる。
反致の判断にあたっては、本国の国際私法上の連結点が日本を指し示しているか否かが問題となる。本件では、B国の国際私法上の常居所地が問題となるところ、一般に常居所を決定する際にはの具体的基準については法に規定がなく、居住の目的、期間、状況等の諸要素を総合的に考慮して判断されるといってよいであろう。[ii]
Pは2014年12月にXと婚姻してからは、C国に居住し、C国にあるMの子会社M’に勤務しており、Q出産の際の医療過誤によるものかと思われる体調不良がなければ今も継続してC国で生活している状況にあった。Pは2016年5月から日本に居住していたが、約7ヶ月と短期間のものであるし、M’を退職ではなく休職していることから、Pは治療が完了すればC国に帰国する予定であり、日本への居住は一時的なものだったことがうかがえる。
以上のことを鑑みればC国が常居所地であるというべきである。よって、その相続の準拠法はB国国際私法においては常居所地法であるC国法が指定される。したがって、狭義の反致のみ認める法42条の反致は成立しない。
(4)よって、日本に所在する不動産に投資する証券(6000万円分)については、「その国の法に従えば日本法によるべきとき」に該当しであり、これについてのみ狭義の反致が成立しそうにも思えるが、このような所謂部分反致が認められるかが問題となる。
たしかにこのような部分反致を認めれば、法36条が採用している相続統一主義の理念に反することになり、妥当でないようにも思われる。現に相続統一主義を採用する我が国の国際私法の立場を尊重し、反致が認められるのは、相続統一主義の原則が破られない時に限られるとする学説もあった。[iii]
しかし、各国の立法上、統一主義と分割主義が対立し、その対立が克服されそうにない現在の法律状態の下では、相続統一主義の立場を徹底するよりは、両主義の対立を調整し、判決の調和が得られるような共通の解決を探ることが緊要であるから、部分反致は認めるべきと解する。[iv]
よって、部分反致が認められる日本に所在する不動産に投資する証券の相続の準拠法は日本法であり、そうでないC国に所在する不動産に投資する証券及び銀行預金の相続の準拠法は被相続人Pの本国法たるB国法となる(前述の通り、法41条は転致を対象としておらず、よってC国法は準拠法にならない)。
4 各相続人の具体的な相続額
(1) 日本に所在する不動産に投資する証券(6000万円(分))の相続には日本法が適用されるところ、配偶者と子の相続分は1:1であるから、XとQはそれぞれ3000万円(分)を相続する。
(2) C国に所在する不動産に投資する証券(4000万円分)の相続にはB国法が適用されるところ、配偶者と子の相続分は3:1であるから、XとQはそれぞれ3000万円(分)、1000万円(分)を相続する。
(3) 銀行預金300万円の相続にはB国法が適用されるから、XとQはそれぞれ225万円、75万円を相続する。
(4) したがって、Xは計6225万円(分)、Qは計4075万円(分)を相続することになる。B国法の適用結果について公序(法42条)に反するとはいえないからこの相続額で確定される。
内山悠太郎
問題6-1
(1)法性決定
Pの遺産について、XZがそれぞれいくら相続するかという問題は、各人の具体的相続分を問題とするものであるから、「相続」(通則法36条)の単位法律関係に法性決定される。
(2)先決問題(同時死亡)
ア.相続における同時死亡の準拠法
(ア)本件ではPの遺産について、Qの相続分があるか否かによって、XZの相続分も変わりうる。そこで、Qの相続分があるかが先決問題となる。
もっとも、本件ではPとQの死亡の先後は明らかでない。そこで、このような場合にもQは相続分を有するといえるか。Qの相続能力の有無、およびそれを判断する準拠法が問題となる。
(イ)ここで、相続能力は相続についての権利能力の問題にすぎないから、一般的権利能力の準拠法によるべきとも思える。
しかし、相続能力は、相続権という権利を享有するか否かの問題であって、相続権それ自体と密接不可分の問題である。そうすると、相続の単位法律関係こそが最も密接に関係するといえる。
したがって、Qの相続能力の問題は、通則法36条により指定される準拠法で判断されるべきである 。
イ.連結点
通則法36条は、相続の問題について、被相続人の本国法によるとしている。
そして、被相続人Pの本国法であるB国法によれば、死亡の先後が不明の場合、年長者が先に死亡したとみなされ、相続が生じる。
したがって、Pが先に死亡したとみなされることになるから、Pの遺産につきQに相続分が生じることになる。
(3)XZの具体的相続分の検討
そこで、以下Qも相続人であったことを前提に、XZの具体的相続分について検討する。
ア.P→XQZの相続
(ア)まず、Pの死亡によって、その財産は、XQZに相続されることになる。そして、各人の具体的相続分は、被相続人Pの本国法であるB国法により、Xが3/4、Qが1/4×1/2、Zが1/4×1/2となる。
(イ)したがって、Xが7500万円、Qが1250万円、Zが1250万円を相続する。(@)
イ.Q→XZの相続
(ア)次に、Qの死亡によって、その財産は、XZに相続されることになる。そして、各人の具体的相続分は、被相続人Qの本国法によって判断される。
(イ)もっとも、被相続人であるQは、日本、B国、C国の3つの国籍を有する。そこで、通則法38条1項により、本国法を確定する必要がある。
ここで、通則法38条1項は、重国籍者の本国法につき、第一次的には常居所、第二次的にはその他の事情を考慮した最密接関係地法を本国法とする。
但し、同条項但書は、内国国籍を有する場合には、日本法を本国法とする。これは、仮にこのような規律がなければ、日本人の本国法確定に際し、その全てにつき重国籍者か否かを確かめなければならず、迂遠だからである。
本件についてみると、Qは3つの国籍の中に日本国籍を有している。ゆえに、Qの本国法は日本法となる。
(ウ)そして、日本民法887条、889条1号によれば、子が死亡した場合には、その子に配偶者や子供がいない限り、直系尊属である親のみが相続人となるのが原則である。ゆえに、Qの遺産はQの親であるXのみが相続する。
したがって、@のうち、Xの相続分7500万円にQの相続分1250万円を加えた者が、最終的なXの相続分となる。
(3)結論
よって、Pが残した1億円について、Xの相続分は8750万円、Zの相続分は1250万円となる。
問題6-2
(1)法性決定
Qの遺産について、XZがそれぞれいくら相続するかという問題も、各人の具体的相続分を問題とするものであるから、「相続」(通則法36条)の単位法律関係に法性決定される。
(2)先決問題(同時死亡)
ア.相続における同時死亡の準拠法
ここで、本件でもQの遺産について、Pの相続分があるか否かによって、XZの相続分が変わりうる。そこで、Pの相続能力の有無、およびそれを判断する準拠法が問題となる。
そして前述の通り、相続能力の問題については、36条の単位法律関係の問題とされるべきである。
したがって、Pの相続能力の問題は、通則法36条により指定される準拠法(被相続人Qの本国法)で判断されるべきである。
イ.本件におけるPの具体的相続分
もっとも、前述のように、被相続人であるQは、日本、B国、C国の3つの国籍を有する。そこで、通則法38条1項但書により、Qの本国法は日本法となる。
ウ.本件におけるPの具体的相続分
以上から、通則法36条、38条1項により、Pの相続能力を判断する準拠法は、日本法となる。そして、日本民法32条の2によれば、本件のような場合、同時死亡の推定がされ、PQ間に相続は生じない。
したがって、Qの遺産について、Pに具体的相続分はない。
(3)XZの具体的相続分の検討
ア.その上で、XZの具体的相続分は、前述の通り、通則法36条及び38条1項により、被相続人Qの本国法である日本法により判断される。
イ.そして、日本民法887条、889条1号によれば、子が死亡した場合には、その子に配偶者や子供がいない限り、直系尊属である親のみが相続人となるのが原則である。したがって、Qの遺産はQの親であるXのみが相続する。
(4)結論
よって、Qが残した600万円について、Xの相続分が600万円、Zの相続分は0円となる。