WLS国際私法・Hosei国際関係法(私法系分野)
問題4-2: TY
問題5-1・6-1・6-2: 武中 裕貴
問題6-3: 河田 健太郎
問題4-2:離婚等の準拠法
1.@J1とK1との離婚の準拠法
(1) 裁判上の離婚請求の単位法律関係は「離婚」(通則法27条)であり、婚姻の効力に関する25条が準用される(通則法27条本文)。
(2) ただし、「夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるとき」は、離婚は 「日本法」による(法27条ただし書き)。ただし書きという条文構造からも、この規定は段階的連結であり、25条より先に27条ただし書きの問題となる。
(3) 本件においてK1は乙国人であるが、「夫婦の一方」であるJ1は「日本人」である。また、J1は老舗和菓子店J堂を運営する日本法人J2の社長であり、J2は世界十数か国に相当数の直営店やフランチャイズ店を展開しているので、J1は海外出張等をしているであろうが、在住しているのは日本である。そうすると、J1は、同ただし書きの「日本に常居所を有する日本人」に該当する。
(4) したがって、@の請求について判断する準拠法は、日本法である。
2.ALの親権者をJ1と定める場合の準拠法
(1) まず法的性質を検討する。
ア 離婚の際に親権者を定める場合の法的性質は、離婚手続きの一環として「離婚」(通則法27条)であるのか、それとも親権は夫婦の関係ではなく親の子に対する権利義務として親子関係(通則法32条)であるのか、問題となる。
イ あくまでも離婚に伴う法律関係であるし、子の親権の帰属は父母の離婚に際して主要な争点となりがちで、離婚をめぐる他の法律問題と統一的に解決する必要があること等から、単位法律関係を離婚として、27条によるべきとする学説もかつては有力であった(櫻田嘉章=道垣内正人編『国際私法判例百選(第2版)』(有斐閣、2012年)148頁(井上泰人執筆部分))。
しかし、離婚はこれまでの夫婦関係の解消の問題であるが、親権者の指定は将来的な親と子の関係性を設定する問題である点で、本質的に異なる。また、親権者の定めは子の福祉を充実させることが目的であり、純粋な夫婦間の問題ではない。そして、通則法32条が子についての連結点を中心とした連結政策を採用していることからすれば、その性質は親子関係であると決定すべきである(澤木敬郎=道垣内正人『国際私法入門(第7版)』(有斐閣、2017年)114−115頁)。
なお、裁判例も同様の見解(前橋家審平21年5月13日家月62巻1号111頁(百選73事件))である。
ウ したがって、離婚に伴う親権者の定めの単位法律関係は、親子関係であり、通則法32条による。
(2) 次に、連結点を検討する。
ア 親子関係の法律関係では、子の本国法が父又は母の本国法と同一である場合には子の本国法が準拠法となる(通則法32条前段)。
本件において「父」であるJ1の「本国法」は日本法で、「母」であるK1の「本国法」は乙国法であり、「子」であるLは日本と乙国の二重国籍であるところ、いずれの国籍から「子」の「本国法」を認定すべきか問題となる。
イ 最密接関係地法を決定するという国際私法の役割からは、内国国籍の優位を認めることは妥当ではないとの考え方もある。
しかし、二重国籍者であっても自国民であることには違いはないので、内国国籍を重視し、内国法を本国法とする扱いが通例である(前掲・澤木=道垣内・入門86頁)。通則法でも、当事者が2以上の国籍を有する場合、いずれかが日本の国籍であるときは、日本法を当事者の本国法とすると規定されている(通則法38条1項ただし書き)。
ウ 本件のLは二重国籍であるが、その1つは「日本の国籍」であるから、日本法がLの「本国法」となる。上述のように、「父」であるJ1の本国法も日本法であり「同一」である。
(3) よって、Aの請求について判断する準拠法は、日本法である。
3.BK1がLをJ1に引き渡す請求の準拠法
(1) J1は、K1がLを連れて乙国に帰国してしまったことから、Bの請求をしている。親が監護権に基づいて子の引渡しを請求するものであり、単位法律関係は親子関係であると考える。すなわち、通則法32条の問題となる。
判例も通則法32条によることを前提に人身保護法に基づく子の引渡し請求の可否を検討している(最判昭53年6月29日家月30巻11号50頁)。
(2) 上述のように「子」であるLの「本国法」は日本法で、「父」であるJ1のそれと「同一」である(通則法32条前段)。
(3) したがって、Bの請求について判断する準拠法は、日本法である。
4.CK2・K3がK1の上記Bの引渡し請求を妨害しないことの請求の準拠法
(1) Cの請求も、親が監護権に基づいて子の引渡しを妨害しないことを請求しているものであるから、法的性質は親子関係であると考えるべきで、通則法32条の問題となると考える。[Lの祖父母であるK2・K3とJ2との関係が「親子関係」というのは違和感があります。通常の不法行為と性質決定するか、又は親権の第三者に対する効力と考えて32条によって定まる法によるというべきではないでしょうか。]
(2) 上述のように「子」であるLの「本国法」は日本法で、「父」J1の本国法と「同一」である(通則法32条前段)。
(3) したがって、Cの請求について判断する準拠法は日本法である。[不法行為と性質決定すれば、妨害行為を行っている乙国の法が準拠法となるのではないでしょうか。]
5.DK2・K3が連帯してJ1に慰謝料100万円を支払うことの請求の準拠法
(1) J1は離婚を契機にDの請求をしている。しかし、K2・K3はK1の両親であり、J1のDの慰謝料請求は離婚に伴うものではない。そのため、通則法27条によることはできない。また、既に生じた法益侵害に対する損害賠償請求である点でCの請求と異なり、32条によるべきではないと考える。
そうすると、K2・K3は、子の引渡しを妨害して、親であるJ1の監護権や親としての人格権を侵害しているのであるから、単位法律関係は、不法行為である。すなわち、通則法17条によるべきである。
(2) 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、原則として、加害行為の結果が発生した地の法による(通則法17条本文)。もっとも、明らかに結果発生地よりも密接な関係がある他の地があるときは、その地が準拠法になる(通則法20条)
本件において、J1が乙国に渡航した事実はないことから、K2・K3の引渡し妨害によりJ1が精神損害を負った場所は日本であると評価できる。そうすると「加害行為の結果が発生した地」は日本である。そして、当事者の常居所が同じであるとか契約上の義務がある(櫻田嘉章=道垣内正人編『注釈国際私法(第1巻)』)(有斐閣、2011年)440頁)等の事情はないので、結果発生地である日本よりも明らかに密接な関係がある地は、特にない。[乙国にいる子の引渡しの妨害ですので、結果発生地は乙国であり、乙国法によるべきではないでしょうか。]
(3) したがって、Dの請求について判断する準拠法は日本法である。
[TY]
問題5-3 認知の準拠法
第1.強制認知の可否に関する準拠法
認知請求の準拠法は、@子の出生時における認知者の本国法(29条1項)または、A認知時における認知者の本国法もしくはB子の本国法のいずれかである(29条2項)。そして29条にいう「認知」には、任意認知のほか裁判所の判決による強制認知も含まれる[1]。
本問では、子M2は甲国・乙国の二重国籍であるが、M2が甲国に常居所を有していることから、M2の本国法は甲国法となる(38条1項本文)。
よって、強制認知の可否に関する準拠法は、@Aによれば日本法となり、Bによれば甲国法となるので、いずれかを選択することになる。
[第2.選択的連結における反致(41条)の適用の有無
Bによって甲国法を準拠法とした場合、甲国の国際私法において日本法が準拠法とされる場合には反致(41条)が成立し、日本法を適用することになるのではないか。選択的連結においても反致が適用されるかが問題となる。
まず、41条ただし書は、反致を認めないものを例示的に表明したものであるとして、ただし書を柔軟に適用しようとする見解がある。この見解の中には、選択的連結の場合に反致を認めると準拠法の選択肢の数が減少するおそれがあり、選択的連結を採用した目的に反するとして反致の適用を一律に否定する立場がある。しかし、反致の成否を選択的連結が目指す実質法上の結果の実現という目的にゆだねる解釈は、国際的調和とは別の目的を反致規定にもたせることとなり妥当ではない[2]。
そこで、41条ただし書は、反致が否定される場合を限定的に列挙したものであり、選択的連結の規定は列挙されていない以上、当然に反致は認められるとするべきである[3]。
したがって、甲国の国際私法において日本法が準拠法とされる場合には、反致によって、日本法を準拠法として適用することができる。] [甲国の国際私法の内容を書いておらず、反致のことを問う問題という認識はありませんでした。これを閲覧する他の人のために書いておきますが、この点は必ずしも触れる必要はありません。]
第3.異教徒は認知ができないとする甲国のルールの取扱い
1.まず、甲国法に照らすとJ1がM2を認知することはできないとするルールは、日本法を準拠法として選択した場合には問題とならない。[ここまでで結論は出ているのではないでしょうか.]また、前述の通り、反致が成立する場合も関係がない。したがって、以下では甲国法を準拠法として選択したうえで、かつ反致が成立しないことを前提として検討する。
2.J1・M2間に嫡出親子関係が認められないという結果は日本国にとって容認しがたいものであるとして、公序(42条)違反となるかが問題となる。
(1)本問では、甲国法を準拠法として選択しているので「外国法によるべき場合」(42条)にあたる。では、適用結果が「公の秩序又は善良の風俗に反するとき」にあたるか。
ア 公序則が発動されるかは、@外国法適用結果の異常性と、A事案の内国関連性との度合との相関関係で決まるとされる[4]。
イ 本問において、甲国法を適用すると、M2が甲国の国家宗教の信者であるから、異教徒であるJ1がM2を認知することはできないことになる。
日本では遺言による認知や死後認知の制度があるうえ、非嫡出子の出生届に認知届としての効力があるとするなど[5]、認知を広範に認めて子の保護を図っているといえる。このことからすると、異教徒であることを理由に認知の効力を認めない甲国法の適用結果は、異常性が高いといえる。
一方、本問で認知の訴えを提起したM1は甲国在住であり、今後も甲国に生活の拠点を置くと考えられる。したがって、内国関連性の度合いは低いといえる。
ウ 国際私法は、外国法を準拠法とした場合に自国法と異なる結果も受け入れるものであることからすると、公序則はやむにやまれぬ場合に限定して発動すべきといえる。そのため、甲国の適用結果の異常性は高いが内国関連性があまりない本問の事例においては、公序則は発動されないとするべきである。
(2)以上より、甲国法により、J1がM2を認知することはできないとするルールは、日本での強制認知の可否の判断にあたって考慮される。
[武中 裕貴]
問題6-1 養子縁組の準拠法(その1)
第1.本問の請求の法性決定
本問は、「養子縁組」(31条)の問題であると性質決定される。
養子縁組では、縁組の当時における養親のなるべき者の本国法が準拠法とされる(31条1項)。本問では、養父となろうとするJ1の本国法は日本法であり、養母となろうとするN1の本国法は乙国法である。
第2.夫婦共同養子縁組の扱い
(1)夫婦共同養子縁組について
本問においてJ1は、N1と婚姻したうえで子N4との断絶型養子縁組をしようとしており、これは夫婦共同養子縁組にあたる。そこで、まず通則法上に規定が存在しない夫婦共同養子縁組がどのように認められるかが問題となる。
夫婦共同養子縁組の成立要件については、夫婦の共通常居所地法によるという説、婚姻の効力準拠法説、養父または養母の本国法の選択的連結説等があるが、夫婦共同縁組は各当事者それぞれについて別個の縁組行為が存在するものであり、また通則法の条文に反する考え方であるので、妥当ではない[6]。
そこで、養父、養母のそれぞれにつき、養子縁組が成立するかを判断することになる[7]。すなわち、一方の本国法上養子縁組が成立しない場合で、他方の本国法上成立するときには、その者との間で単独養子縁組が成立するにすぎない。以下、J1とN1それぞれにつき、断絶型養子縁組が可能かを検討する。
(2)J1の断絶型養子縁組の可否
本問において、J1は断絶型養子縁組をすることができるか。
養子縁組については、養親の本国法に、一定の事項に限って養子の本国法を累積的に適用する。その事項は、養子本人「もしくは第三者の承諾もしくは同意」または「公的機関の許可その他の処分」に限定されている(31条1項後段、セーフガード条項)。
子が2歳未満であるとの要件は、承諾・同意の要件と公的機関の許可要件のいずれにもあてはまらない。したがって、養子の本国法である乙国の要件は適用されないことになる。
よって、J1は、N4との間で断絶型養子縁組をすることが可能である。
(3)N1の断絶型養子縁組の可否
次に、N1は断絶型養子縁組をすることができるか。
乙国法の断絶型養子縁組では、子が2歳未満であることが要件とされている。
よって、乙国法上N1とN4の断絶型養子縁組をすることは不可能である。
(4)夫婦の一方で養子縁組が認められない場合の処理
以上より、J1については本国法上断絶型養子縁組が成立するが、N1については本国法上断絶型養子縁組が成立しないことになる。したがって、J1が単独で断絶型養子縁組をするしかない。
しかし、日本民法上、特別養子縁組において養親となる者は、夫婦が共同して養親とならなければならない(民法817条の3)。よって、実質法上の制約により、J1がN4と断絶型養子縁組をすることはできない。
[武中 裕貴]
問題6-2 養子縁組の準拠法(その2)
第1.セーフガード条項の適用の有無
本問では、N4の祖父であるN5がJ1とN4の断絶型養子縁組に反対している。そこで、N5の同意が、セーフガード条項における「第三者の承諾若しくは同意」(31条1項後段)に含まれるかが問題となる。
一般には、子の本国上、養子縁組の成立にあたって必要とされる承諾・同意はすべて31条1項後段の「第三者の承諾若しくは同意」に該当するとされる[8]。
本問において、甲国法では、「実親が死亡している場合には、その配偶者及び子以外の者であって、相続順位が最も高いもの」の同意を要求しており、N5はこれに該当する。したがって、N5の同意は「第三者の承諾若しくは同意」(31条1項後段)に含まれるので、N5が反対する以上、断絶型養子縁組はできないとも思える。
第2.公序(42条)の発動の有無
では、N5の同意が得られないことにより断絶型養子縁組が認められないということが、公序(42条)違反とならないか。
公序則が発動されるかは、@外国法適用結果の異常性とA事案の内国関連性との度合との相関関係で決まるとされる。
本問において、実親が死亡している場合に相続順位が最も高いものの同意を要求していること自体は、代わりの承諾者又は同視やを要求しているもので、子の保護にとっても異常とはいえない。なお、N5は、N4にN5が代々受け継いでいる伝統芸能を承継してほしいとの考えから断絶型養子縁組に反対していることから、子の保護に値しないような承諾・同意について認める必要はないとも考えられる。しかし、31条1項後段は承諾・同意という行為を要求しているだけで、実質的に子が保護されるかは考慮していないことから、このような事実は考えるべきではない。また、何が子の保護に値するかは一概には決められない。したがって、外国法適用結果の異常性は低いといえる。
よって、J1とN4は今後日本に生活の拠点を置くと考えられることから事案の内国関連性は高いといえるものの、公序則を発動する必要まではないと考えられる。
以上より、J1がN4と断絶型養子縁組をすることは認められない。
[武中 裕貴]
問題6-3 養子縁組の準拠法(その3)
1 まず、甲国に帰化した場合には、「養子縁組」は「縁組の当時」における養親となるべき本国法によることになるため(31条1項)、公的機関の許可の要否も準拠法である養親の本国法である甲国法によることになる。
そこで、甲国法上、契約型の養子制度であるのか、それとも決定型の養子制度であるのかを、調査する必要がある。契約型で家庭裁判所の許可が必要とされている場合には、家庭裁判所の許可審判により行うなど、手続の代行の問題が生じるため、特別養子縁組の方法では認められない可能性があるからである。
したがって、甲国法上公的機関の関与についていかなるものが要件として要求されているのかを調査するようにアドバイスをすることが考えられる。
2 次に、「養親縁組」(31条)は「本国法によるべき場合」(41条)に当たるため、甲国国際私法上、日本に常居所を有している場合に日本法によるべき旨定めている場合などには、反致が成立し、J1について日本法が適用される可能性もある。
したがって、送致される養子縁組という法律関係について、甲国国際私法の規定がどのようなっているかを調査するようアドバイスし、仮に反致が成立する場合には帰化しても特別養子縁組はできないことを指摘する必要がある。
3 また、甲国法に基づいて特別養子縁組が認められるとしも、日本法上認められない特別養子縁組をすることになるから、公序則(42条)の適用可能性がある。
本件では、J1・N1・N4は日本で生活していく予定があるため、内国関連性は一定程度認められる。そこで、子の福祉の観点から養子の年齢が6歳未満の場合に限定している日本民法817条の5が適用されずに、甲国法により特別養子縁組を認めた場合には、その適用結果が異常であると判断され、公序により、甲国法の適用が排除される可能性がある。
したがって、現時点においてもN4は6歳を3歳上回っている上に、これ以上歳を重ねると、適用結果の異常性が裁判所により認定されやすくなるため、公序により特別養子縁組が認められない可能性があることを指摘した上で、できる限り速やかに帰化して特別養子縁組の申請をするようにアドバイスをすることが考えられる。
[法律の回避(準拠法を自己に都合のよい内容のものにするために連結点を操作すること)の問題があることと、日本では一般に法律回避のための連絡点変更の効果は否定されない点にも念のため触れるべきではないでしょうか.]
[河田 健太郎]