2018WLS国際民事訴訟法・Sophia国際民事紛争処理

問題1-1: 福田 匡宏

問題2-2: 土屋 桜子

問題3-1: 土屋 桜子

問題4-1: 浅岡 光輝

問題5-1Ryang Ji Owon(上智LS

問題5-2: 土屋 桜子

問題1-1 制裁的性格を含む金員の支払いを命ずる外国判決の執行

1 当事者の主張と甲国判決の分析

(1) 原告Qの主張

 Qは、少なくとも不当労働行為による慰謝料等の実損害を填補する賠償の部分の執行は認められるべきであり、日本の多くの裁判例を挙げ、日本の同様の事例においては慰謝料としても少なくとも10万コムに相当額の賠償が認められると主張している。

改正民執法245項で執行判決の要件として必要となる、民訴法118条柱書「判決」該当性について、一つの判決に含まれる実損害を填補する部分と懲罰的部分を切り離すことができるとすることを前提とする主張であり、そもそも一つの判決のある部分についてまでは承認し、執行できるかが問題となるので2以下で詳述する。

(2) 被告J2の主張

 J2はこの甲国判決のうち、30万コムの部分の日本での執行について、J2はその全額が民訴法1183号の要件に反する、具体的には「判決の内容」(同号前段)の公序(実体的公序)違反を主張している。

同号前段の実体的公序については、Bの判決が承認され、執行した場合の結果が日本法と異質なものであるか(適用結果の異常性)、日本との関連性が認められるか(内国関連性)、それぞれの点の相関関係で公序違反を決する。

(3) 甲国判決

 甲国裁判所は、甲国の労働法に関する判例に従い、Qの主張をすべて認め、解雇無効の確認(@に関して認容)とともに、6か月分の未払賃金5万コム(甲国通貨)(Aに関して認容)及び不当労働行為の場合に上乗せして支払われるべき3年分の賃金30万コムの支払(Bに関して認容)、以上を命ずる判決を下し、確定している。

なお、3年分の賃金の支払は、甲国法上、不当な扱いを受けた慰謝料としての性格に加え、制裁的性格もあるとされている。

2 いずれの主張がどのような理由で採用されるべきか

(1) Qの主張について

 「判決」(改正民執法245項、民訴法118条柱書)は、民事手続法に規定があることからもちろん、民事判決に限られる(刑法5条も参照)

そもそも制裁的性格を有する部分が後述するように民訴法1183号の実体的公序違反とされることに鑑みると、填補賠償部分と懲罰的損害賠償部分とで切り離すことは、その基準が不明確であり、また、具体的にいくらまでが前者に当たり、いくらまでが後者に当たるかについて、裁判所が外国判決の執行判決の際にその都度それぞれの部分がいくらか計算することになり、過度の負担をかけることとなる。さらに、実質的再審査の禁止(改正民執法244)との関係で、公序違反かどうかを判断することについては実質的再審査にあたらないとしても、結局は理由中の判断を見たうえで、上記計算を行わなくてはならなくなることから、実質的再審査を行っていることに変わりなくなってしまう。

また、「判決」の内容を切り分けることを前提とすると、本件のような外国判決の執行を求める訴えの被告となる者が、懲罰的損害賠償部分について民訴法1183号の実体的公序違反に当たるかについて、公益的事項であり、裁判所の職権事項であるとして具体的にいくらまでがこれに相当するかを立証する必要はないとしても、争点とされていない場合には少なくとも主張しなくてはならなくなるおそれがあり、被告の負担になるとも考えられる。

以上の見地から、Qの主張は採用できない。

(2) J2の主張について

 制裁的性格をもつ損害賠償について判例 は実体的公序違反としている。以下、判旨を抜粋する。

民訴法118条「3号は、外国裁判所の判決が我が国における公の秩序又は善良の風俗に反しないことを条件としている。外国裁判所の判決が我が国の採用していない制度に基づく内容を含むからといって、その一事をもって直ちに右条件を満たさないということはできないが、それが我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものと認められる場合には、その外国判決は右法条にいう公の秩序に反するというべきである。」そのうえで、「カリフォルニア州民法典に定める懲罰的損害賠償の制度は」「加害者に制裁を加え、かつ、将来における同様の行為を抑止しようとするものであることが明らかであって、その目的からすると、むしろ我が国における罰金等の刑罰とほぼ同様の意義を有するものということができる。これに対し、我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は」「加害者に対する制裁や、将来における同様の行為を抑止、すなわち一般予防を目的とするものではない。」「我が国においては、加害者に対して制裁を科し、将来の同様の行為を抑止することは、刑事上又は行政上の制裁にゆだねられている」ため、かかる懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分は「我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものであると認められ、」「我が国の公序に反するから、その効力を有しないものとしなければならない。」

 以上の判例の見解に対しては、当該判例の原審 と学説 においては前述したように「判決」(民訴法118条柱書)が民事判決に限られることに鑑みて、判例でも述べられているような刑事上又は行政上の制裁(罰金)の性質を有する以上、懲罰的損害賠償判決の懲罰部分は「判決」の要件を欠くとしている。

 前者の判例の見解に立つとすれば、J2の主張は当該判例と趣旨を同じくするので、採用することができる。また仮に後者の見解に立つとしても、厳密には構成が異なるところではあるが、実体的公序に反する理由と「判決」に含まれないとする理由は多分に重なり合うので、結果的にはJ2の主張を採用することができるものと解する。

[福田 匡宏]

問題22:外国判決の執行における管轄要件

1.丙国裁判所の下した、RJ2に対してS2らへの各25万コムの支払いを命じる判決(以下、本問において「本件丙国判決」という)が日本において執行力を有するには、前問で述べた通り、民訴法118条各号要件を充たす必要がある(民執法22条六号、243項)。

本問では、本件丙国判決において、民訴法118条一号規定の間接管轄が認められるか問題となっている。

2.(1) 間接管轄の判断基準については、明文に規定がない。判例(最判平成10428日)には、「当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により、条理に従って決定するのが相当である。具体的には、基本的に我が国の民訴法の定める土地管轄に関する規定に準拠しつつ、個々の事案における具体的事情に即して、当該外国判決を我が国が承認するのが適当か否かという観点から、条理に照らして判決国に国際裁判管轄が存在するか否かを判断すべきものである。」とするものがあり、直接管轄の判断基準と完全に同一とはしていないようである。しかし、直接管轄と異なる基準による必要はなく、直接管轄も判旨がいう「具体的事情」を考慮して決められるのであり、「我が国が承認するのが適当か否か」の判断基準はまさしく民訴法118条そのものである。同条一号は、我が国から見て、当該事案についての管轄権を当該外国が有するかを判断するのであるから、むしろ直接管轄と同じルールに服すべきと考える。

よって、本件丙国判決につき、民訴法上の国際裁判管轄の基準において、「日本」を「判決国」に読み替え、判決国たる丙国の間接管轄が認められるか、検討する。

 (2)ア. 不法行為に基づく損害賠償請求なので、民訴法3条の3八号の基準に照らし、丙国に間接管轄が認められるか検討する。「不法行為があった地」とは、結果発生地も加害行為地も含まれる(澤木=道垣内・後掲284頁)ところ、Jの花を食して食中毒をS2らが発症したのは丙国内であるので、結果発生地は丙国である。

イ. では同号括弧書の除外事由に該当するか。同号括弧書は、加害者たる被告の予見可能性を担保する規定であると考えられるところ、J2は丙国内でも直営店を経営しており、丙国内における結果発生を予見しうるとも思える。しかし、丙国内で販売しているJ堂の店舗ではJの花を販売していないため、Jの花を食したS2らにおける損害発生について予見可能性があったといえるか。予見可能性の内容として、製品の特定までも要するか問題となる。

複数国に製品を販売する製造業者は、各国の制度や社会状況、気候など諸条件を考慮した上で、それぞれの国で販売する製品を選定するのが通常であると考える。そうであるからこそ、製造業者ら加害者に責任を負わせうるのであるし、その予見可能性を担保する必要性があるといえる。したがって、予見可能性の内容として、特定の製品による結果発生まで含むと解する。

本問でも、丙国内でのJの花による食中毒被害発生について、J2が通常予見できたといえなければならない。問題文から具体的事実は明らかではない。しかし、丙国内ではJの花を製造・販売していない以上、乙国と丙国とが地続きであるなど、Jの花が丙国でも消費されうる可能性が十分に見込まれたこと、あるいは実際に丙国内においてJの花が消費されているという事実をJ2が認識できた状況にあったこと、などの事実がない限り、J2は「結果の発生が通常予見することのできな」かったといえる。よって、これらの事実がない限り、同号括弧書に該当し、丙国の裁判所に間接管轄は認められないと解する。

ウ. なお、S2の被害に関し予見可能性が認められる場合、S3及びS4の被害についても予見可能性は認められると考える。同号括弧書にいう予見可能性は、被害者たる原告の特定や被害の範囲の画定までは不要であるからである。よって、この場合、請求すべてにつき管轄は認められるので、併合管轄(民訴法3条の6)は問題とならない。

 (3) もっとも、本件丙国判決は「財産権上の訴え」でもあるので、民訴法3条の3三号から、J2の財産が丙国内にあるときは丙国の裁判所に間接管轄が認められる。J2は丙国内でも事業を行っているので、財産を丙国内に有している可能性は高い。

 (4) しかし、民訴法3条の3三号や八号に該当するときでも、同法3条の9を考慮して、丙国の裁判所に管轄を認めるべきでない「特別の事情」があるといえるときは、例外的に間接管轄を認めないとすべきである。

本問では、これにあたる事情は見当たらないので、同法3条の3三号・八号に該当するときは、丙国の裁判所に間接管轄が認められると解する。

[土屋 桜子]

問題31:フランチャイズ契約上の地位確認の訴えの国際裁判管轄

1. J2P2間のフランチャイズ契約(以下、本問内において「本件契約」という)には、甲国裁判所を指定する専属管轄合意条項があるため、民訴法3条の71項により、甲国裁判所に裁判管轄が認められる結果、日本の裁判所の裁判管轄が認められない可能性がある。そこで、J2の弁護士として、いかなる反論が可能であるか、以下検討する。

2.(1)まず、専属管轄合意が書面によらない場合や、その合意が概括的なものである場合は、同条2項違反により、専属管轄合意条項は無効であると主張することができる。本問では、条項と書かれている以上、専属管轄合意は書面に表されており、また、本件契約という「一定の法律関係に基づく訴え」に関するものであることも明らかであると考えられる。

しかし、同項が合意の方式として書面を要求しているのは、当事者に慎重を期させるためでもあるので、少なくとも当事者双方が書面に合意が記載されていることの認識を有していることが必要である(澤木=道垣内・後掲306頁)。J2が、専属管轄合意条項につき認識していないという事実があるとき、同項違反による無効を主張できる。もっとも、具体的事実は明らかでないものの、法人同士の契約である以上、この主張は認められ難いと考えられる。

(2) 次に、同条4項違反による無効主張を検討する。

「法律上又は事実上裁判権を行うことができないとき」とは、原告の権利保護の利益を保護するため、当該外国裁判所が管轄原因その他の訴訟要件を欠くとして裁判を行わないときや、裁判所が機能していないときなどをいうと解される(澤木=道垣内・後掲307頁)。このような事情が認められる限りで、無効主張が可能である。

(3) 訴訟法上有効な「合意」がないと主張することも考えられる。J2において、詐欺や錯誤を主張できるときは、専属管轄につき意思の合致がないと主張できる。

(4) 公序法要件を欠き、専属管轄合意条項は無効であると主張することも考えられる。

最判昭和501128日は、「…右管轄の合意がはなはだしく不合理で公序法に違反するとき等の場合は各別、原則として有効と認めるべきである」と判示し、公序法違反のときに管轄合意が無効となるとしている。改正民訴法では明文化されていないが、3条の74~6項では保護されない場合でも、法定地法潜脱の可能性に鑑みると、現行法下でも公序法要件を認める必要性があり(百選・後掲201頁)、管轄合意に従うことがはなはだしく不合理であるときは、やはり公序法違反として合意を無効と解すべきである。

本件契約は日本国内におけるフランチャイズ事業に関するものなので、本件契約に基づくフランチャイジーとしての地位確認請求は、仮に甲国で認容判決を得ても、日本において承認されない限り、原告たるJ2は満足を得られない。甲国と日本との間に相互の保証がないなど、日本における承認要件(民訴法118条)を欠くことが予見されるとき、日本での訴え提起を認めないことは、法廷地法を潜脱させ、J2の権利保護の利益を否定することとなり、はなはだしく不合理な結果となる。

よって、甲国判決が日本において承認されがたい事情が存するとき、専属管轄合意条項は公序法要件を欠き、無効であると主張できる。

3. 以上のように、専属管轄合意条項の無効を主張するとともに、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められると主張することが必要となる。

本問の訴えは、本件契約に基づき、日本における契約上の地位の確認を求めるものであるので、「契約上の債務の履行の請求」の一態様であると考えられる。したがって、民訴法3条の3一号により、債務の履行地たる日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる。

また、P2が日本において営業所を有し、J2との本件契約がその営業所における業務といえるときは、同条四号にも該当し、この点からも国際裁判管轄が認められる。

P2は日本において本件契約を通じて営業し、「日本において事業を行う者」にもあたり、本問の訴えは、本件契約に基づくものとして「日本における業務」にも該当するので、同条五号からも、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる。

[土屋 桜子]

問題4-1 離婚等請求事件の国際裁判管轄

1 問題点

 本件では、@からDまでの請求がJ1によりなされているところ、これらの請求については身分関係に関する訴えが含まれているから、どのように国際裁判管轄が定まるかを検討する必要がある。

2 K1に対する請求の検討

 まず、@については、日本国内に住所があるJ1からの訴えであって、J1・K1は日本国内で連れ去りが生じるまで共通の住所を有していたと考えられることから、人訴法3条の26号に該当し、日本の裁判所の国際裁判管轄が認められる。特段の事情が認められるかについて検討すると、K1が日本において一定の期間居住していたことからすれば、被告の負担はそれほど大きくないと考えられるため、人訴法3条の5は適用されないと考えられる。

 次に、Aについては、親権者の指定についての裁判であるから、人訴法3条の41項により@の請求について日本の裁判所の国際裁判管轄が認められることから@と同様に日本の裁判所の国際裁判管轄が認められる。特段の事情が認められるかについて検討すると、親権者の指定については離婚とは異なり、子の利益の保護も検討する必要が生じる。人訴法3条の5では、未成年の子の利益が考慮要素となっているところ、本件では、Lが乙国において既に安定して生活しているとの事情があることから、親権者について新たに指定を行うことは子の利益に反することとなると考えられる。したがって、Aの請求は却下すべきである。

 次に、Bについては、子の引渡しに関する請求であるから、子の監護に関する処分についての裁判であり人訴法3条の41項により上記と同様の理由で、日本の裁判所の国際裁判管轄が認められる。特段の事情が認められるかについて検討すると、子の引渡しについては、Aと同様に未成年の子の利益を検討する必要があるところ、Lは乙国において既に安定して生活していることから子の引渡しについての裁判を行うことは子の利益に反することとなる。したがって、人訴法3条の5により却下すべきである。

3 K2・K3に対する請求の検討

 まず、Cについては、K2・K3によってなされる妨害差止の請求であり、不法行為に関する訴えであると考えられる。したがって、民訴法3条の38号により不法行為があった地が日本国内であることが必要となるが、差止請求であるから、不法行為がなされる地と読み替える必要がある。本件では、日本でのLの引渡しについて妨害がなされるのであるから、結果発生地が日本国内であり日本の裁判所の国際裁判管轄が認められる。[Lは乙国にいるので、K2K3が引渡しを妨害しているのは乙国においてではないでしょうか。]

 次に、Dについては、離婚の原因となった行為による特定の損害の賠償の請求であり、これについては、不法行為に関する訴えと考えるべきである。なぜならば、本件のような慰謝料については、離婚の有無と関係なくそれ自体によって独立の不法行為責任発生原因たり得る事実に関するものであるからである 。したがって、民訴法3条の38号の規定により不法行為があった地が日本国内であることが必要となる。本件では、Lの連れ去りが日本国内で起きていることから要件を満たし、日本の裁判所の国際裁判管轄が認められる。[請求の相手はK2J3です。彼らがLの引渡しを妨害したのは乙国においてであり、その損害も同国で生じているのはないでしょうか。]

4 結論

 以上から、本件では、@からDまでの各請求について日本の裁判所は国際裁判管轄を有すると考えられる。しかしながら、A、Bの請求については特段の事情があるとして却下すべきである。

[浅岡 光輝]

問題5-1 外国強制認知判決の日本における承認

1 認知の訴えの間接管轄

本件の甲国裁判所によるM1のJ1に対する認知請求訴訟の認容判決につき、日本における効力が問題となっている。

甲国裁判所判決の日本における承認(民訴法1181号)について、間接管轄の判断は、直接管轄と同様の基準によることは前述した(前記第21参照)。

2 人訴法の適用

本件において問題となっているのは、認知の訴えであるところ、これは民事訴訟でなく、人事訴訟による(人訴法22号)。

そうすると、直接管轄の有無の判断も人訴法による。人訴法3条の2以下に国際裁判管轄に関する規定がある。

3 人訴法3条の2第7号該当性

本件の認知の訴えは、身分関係の当事者の一方に対する訴えであり、原告たるM1は甲国に住所を有し、一方、被告たるJ1は日本在住で甲国に住所を有しないから、人訴法3条の2第1号から6号には該当しない。

そこで、人訴法3条の2第7号該当性が検討されなければならない。

本件において、J1は行方不明でなく、日本において同一身分に関する判決はないから、同号の列挙事由には該当しない。

しかし、本件訴えが認知の訴えであるところ、認知においては子の利益の保護が重要視される。さらに、甲は、住所こそ日本に有していないものの、P1との協議のために頻繁に甲国を訪問していたというのである。

そうすると、子たるM2の住所地である甲国に管轄を認めることは子の利益保護にかなうとともに、J1にとって不意打ちとなるものでもない。すなわち、甲国裁判所が「審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情」が認められると解される。[反対の結論もあり得ると思います。]

なお、以上のような理由から、人訴法3条の5には該当しない。

4 結論

  よって、人訴法により甲国裁判所に間接管轄が認められるから、民訴法118条のその他要件を充たす場合には、甲国裁判所による本件判決を日本で承認することができる。

                 [Ryang Ji Owon]

問題52:外国強制認知判決の日本における承認(その2

1. 本件甲国判決が我が国において承認されるためには、民訴法118条規定の要件を充足することが必要である。甲国裁判所での証拠調べにおいては、㋐J1の求めに反し、血液検査やDNA検査が行われなかったこと、㋑M1の証言が証拠採用されたのに対し、J1の証言が一切証拠採用されなかったこと、の2点が問題点として挙げられる。

2. まず、民訴法118条柱書「判決」とは、「私法上の法律関係について当事者双方の手続保障の下に終局的にした裁判をいう」(最判平成10428日)と解される。㋐及び㋑の点により、J1は宗教を理由に生物学的検査も自己の証言採用もしてもらえないという立場に立たされ、証拠調べ手続における手続保障が実質的になされなかったといえるため、本件甲国判決は、手続保障を欠く点で「判決」にあたらないといえる。

3. 本件甲国判決が出されるにあたって甲国裁判所でなされた証拠調べの点は、訴訟手続についての問題なので、同条三号の「訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと」という要件の充足性においても問題となる。

公序違反にあたるか否かについては、前述の通り、承認・執行の結果が日本の法秩序を害する程度と、事件の内国関連性の程度との相関関係により判断する。

まず、㋐の点は、甲国の国家宗教上禁止されていることが理由とされており、宗教的観点を訴訟にいれていない我が国にはない制度である。また、我が国の裁判制度における基本原則ないし基本理念として、民訴法においては公正な裁判(民訴法2条)のため事実主義が採用されていること、憲法上裁判官の独立(憲法763項)が保障されていることを考慮すると、国家宗教に拘束された証拠採用がなされることは、これらの我が国の基本原則ないし基本理念と大きく乖離するものであり、法秩序を害する程度は大きい。また、被告たるJ1は日本人なので、内国関連性も相当程度認められ、公序違反にあたると解される。

次に、㋑の点は、㋐と同様、国家宗教に基づく証拠採用がされているため、上記の我が国の裁判制度における基本原則ないし基本理念と大きく乖離する。これに加えて、特定の宗教の信者であるか否かによって証言の証拠採用の可否を決することは、宗教を理由に一方当事者のみを有利に扱うこととなり、信教の自由(憲法201項・3項)、平等原則(同141項)、訴訟上の手続保障及び当事者間の公平といった我が国の基本原則ないし基本理念に反し、相いれない。この点も合わせて、法秩序を害する程度は大きく、また、J1が日本人であることから内国関連性も認められ、公序違反にあたると解される。

3. 以上より、甲国裁判所における証拠調べは、手続保障の欠如として民訴法118条柱書違反、訴訟手続の公序違反として同条三号違反の事由として評価される。

[土屋 桜子]