早稲田・上智・法政大学法科大学院2018年度夏(道垣内正人)
「国際私法I」「国際私法II」「国際民訴」試験問題
ルール
- 文献その他の調査を行うことは自由ですが、この試験問題について他人の見解を求めることは禁止します。答案作成時間に制限はありません。
- 答案送付期限は、2018年6月30日(土)18:00です。
- 答案を作成すべき問題は「・・・」との記載があるものです(@から順に番号を付けています)。
- 答案は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付してください。
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メールの件名は、必ず、「・・・」と明記して下さい(分類のためです)
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原則として、マイクロソフト社のワードで、A4サイズの標準的なページ設定にして下さい。
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最初の行の中央に「・・・」と明記し、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載して下さい。
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頁番号を中央下に付けて下さい。
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10.5ポイント以上の読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトしてください。
- 枚数制限はありません。不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。
- 判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典を記載して下さい。
- 答案の作成上、より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成してください。
- これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものにするものです。
- 以下の問題につき、日本の裁判官の立場で、事案の発生時点がいつであれ、すべて現在の法の適用に関する通則法、民事訴訟法、民事執行法(以下、それぞれ「通則法」、「民訴法」、「民執法」という。答案において同じ。以下同じ。)等のもとで検討しなさい。人事訴訟法及び家事事件手続法(以下、それぞれ「人訴法」、「家事法」という。)については、平成30年法律第20号が施行されていることを前提とし、それらのもとで検討しなさい。
- 問題に関する質問は、講義中又は上記emailアドレス宛にして下さい。全員に知らせるべき質問・回答は、この出題と同じ方法で受験者全員にお知らせします。
事案
J1(日本在住の日本人男性)は、老舗和菓子店「J堂」を運営するJ2(日本法人)の社長として、伝統を活かしつつ、斬新なアイデアを盛り込んで世界市場に乗り出し、今や十数か国において、相当数の直営店とフランチャイズ店を展開するに至っている。他方、P1(甲国在住の甲国人女性)は、様々な茶葉を使った飲料を提供する「Pティー」という店舗を世界展開しているP2(甲国法人)の社長である。J1とP1とは日本で開催された経済フォーラムで知り合ったことをきっかけに、J2は「Pティー」の日本でのフランチャイズ店となり、日本では「J堂」の隣には必ず「Pティー」を出店するという戦略で相乗効果を発揮している。
J1は、上記のビジネスに関連していくつかのトラブルを抱え、また、J1はその私生活においてもいくつかの問題に悩まされている。
問題1:解雇事件
最近、甲国所在のJ2の直営1号店の売り上げが減少したことから、従業員の賃金の引き下げを実施したところ、この店舗勤務の従業員Q(甲国在住の甲国人)が労働組合の結成のため、勤務時間の内外を問わず従業員を組織化する活動を始めた。そこでJ2は、勤務懈怠を理由にQに対して解雇通知をした。
問題1-1:制裁的性格を含む金員の支払いを命ずる外国判決の執行[国際民訴@]
解雇通知を受けたQは、甲国裁判所においてJ2を被告として、@解雇無効の確認、A未払賃金の支払い、及びB不当労働行為による損害賠償、以上を請求する訴えを提起した。そして、甲国裁判所は、甲国の労働法に関する判例に従い、Qの主張を全て認め、解雇無効の確認とともに、6か月分の未払賃金5万コム(甲国通貨)及び不当労働行為の場合に上乗せして支払われるべき3年分の賃金30万コムの支払い、以上を命ずる判決を下し、これは確定した。なお、3年分の賃金の支払いは、甲国法上、不当な扱いを受けた慰謝料としての性格に加え、制裁的性格もあるとされている。
Qは、日本において、J2を被告としてこの甲国判決の執行を求める訴えを提起した。J2は、この甲国判決のうち、30万コムの部分の日本での執行について、J2はその全額が民訴法118条3号の要件に反すると主張している。他方、Qは、少なくとも不当労働行為による慰謝料等の実損害を填補する賠償の部分の執行は認められるべきであり、日本の多くの裁判例を挙げ、日本の同様の事例においては慰謝料として少なくとも10万コムに相当額の賠償が認められると主張している。いずれの主張がどのような理由で採用されるべきか。
問題1-1におけるQが、甲国裁判所ではなく、日本の裁判所においてJ2 に対する同様の訴えを提起したとする。J2 とQとの間の雇用契約には日本法に準拠する旨の条項があるが、Qは、問題1-1記載の甲国の判例によれば労働者は手厚く保護されていると主張し、@からBの請求をしている。
これらの各請求について、いずれの国の法により、どのように判断すべきか。
問題2:食中毒事件
乙国において、「J堂」のフランチャイズ店を運営しているR(乙国法人)が製造・販売した製品「Jの花」を食べた消費者多数が食中毒症状を呈するという事故が発生した。被害者のうち、10名死亡、190名重症、2800人は軽症ではあるものの入院加療を要し、総被害者数は約15,000人に達した。被害者の大多数を占める乙国在住の乙国人に対しては、Rによる損害賠償の支払いにより裁判外で解決したが、一部の被害者とJ2との間、そして、R とJ2 との間では訴訟に発展している。
問題2-1:不法行為の準拠法[国際私法IIA]
被害者のひとりであるS1は、食中毒の原因はJ2によるRへの品質管理指導において乙国の高温多湿の気候を考慮した対策が十分にされず、日本でのマニュアルをRに押しつけた結果であると主張し、J2に対して、Rと連帯して損害賠償責任を負うべきである旨主張している。J2がこれに応じず、日本でS1が提訴することになった場合、J2の責任につき、いずれの国の法が適用されるか。
被害者のひとりであるS2は、丙国在住の丙国人であるところ、観光のため乙国を訪れていた際にRが運営している「J堂」で「Jの花」を購入し、丙国に持ち帰り、家人S3と友人S4 とともに食したところ、全員食中毒となったと主張している。丙国にも「J堂」の店舗はあるが、これはJ2 の直営店であり、Rは全く関与しておらず、また、販売している製品の中には「Jの花」はない。S2・S3・S4は、丙国裁判所においてR・J2を被告として提訴した。J2の責任についてのS2らの主張は問題2-1におけるS1の主張と同じである。
丙国裁判所は、この訴えについて国際裁判管轄を肯定した上で、準拠法に触れることなく、R・J2は連帯してS2らに各25万コムを支払えとの判決を下し、これは確定した。この金額は丙国の不法行為法に基づいて算定された通常の填補賠償金額である。
S2・S3・S4は、J2に対し、この丙国判決の日本で執行を求める訴えを提起した。日本からみて、この判決を下した丙国の裁判所に間接管轄は認められるか。
問題2-3:不法行為に基づく損害賠償等の準拠法[国際私法IIB]
問題2-2におけるS2・S3・S4が、丙国裁判所ではなく、日本の裁判所において、J2を被告として提訴したとする。S2・S3・S4の各請求に適用されるのはいずれの国の法か。
問題2-4:信用毀損の準拠法[国際私法IIC]
乙国での食中毒事件発生直後、J2は、その運営しているウェブサイトにおいて、英語及び日本語で次のような内容の声明を掲載し、これはメディアにより世界中に報道された。なお、このウェブサイトの情報を管理しているサーバーは、甲国法人Tが甲国に設置しているものをJ2 が借りて利用しており、コンテンツのアップロード等の作業は全て日本で行っている。
「消費者の皆様へ
いつも当社製品をご購入頂き、ありがとうございます。
一部のメディアにより報道がありましたように、乙国において、Rが運営している「J堂」で製造・販売された製品が原因ではないかと疑われる食中毒が発生しました。これにつきまして、お客様方から当社へのお問い合わせを頂いており、ご心配をおかけしていることに深くお詫び申し上げます。
この食中毒の原因はまだ不明であるものの、「J堂」は品質管理を徹底しており、当社の長い歴史上、お客様にご迷惑をおかけするような事故は一度もございません。懸念されるのはRの品質管理であり、当社といたしましては、Rとのフランチャイズ契約を即刻解除し、被害者の方々の側に立ってRの責任を追及していく所存であります。なお、Rが関与していない他の全ての「J堂」製品には全く問題がないことをここにお知らせし、ご安心いただきたいと存じます。」(日本語版)
Rは乙国のみならず、甲国及び丙国においても自社独自の菓子の製造・販売をしているところ、上記の声明及びその報道により、これらの国におけるRの信用が毀損されたと主張し、日本の裁判所において、J2に対して、@損害賠償、A声明のウェブサイトからの削除、B甲・乙・丙国でそれぞれ最も発行部数の多い日刊新聞に紙面1頁の4分の1以上のスペースの謝罪広告をそれぞれの公用語で掲載すること、以上を求める訴えを提起した。これらの請求に適用されるのはいずれの国の法か。
問題3:フランチャイズ契約解除事件
事案(つづき)
J2はP2の日本におけるフランチャイジーとして順調に「Pティー」の売上げは拡大し、J2とP2 の実務レベルでは他の国にも同様のビジネスモデルでの事業展開の協議が行われていた。ところが、P2は突然、P1 の判断により方針変更を決定し、日本での「Pティー」事業を直営化するため、J2に対して今年末で期限が切れるフランチャイズ契約の更新をしない旨の通知をした。このフランチャイズ契約によれば、契約終了の3か月以上前に通知することが定められているところ、この要件を満たしており、これ以外に契約上の解除を制限する条項はない。
問題3-1:フランチャイズ契約上の地位確認の訴えの国際裁判管轄[国際民訴B]
P2からフランチャイズ契約の解除の通知を受けたJ2は、日本の裁判所において、フランチャイジーとしての地位確認を求める訴えを提起した。
このフランチャイズ契約には、甲国の裁判所を指定する専属的管轄合意条項がある。J2の弁護士として、どのような理由に基づいて日本の裁判所の国際裁判管轄を認めるべき旨の主張を展開することができるか。
問題3-2:フランチャイズ契約の解除の準拠法[国際私法IID]
問題3-1について日本の裁判所の国際裁判管轄が認められるとする。P2 のフランチャイズ契約の解除に適用されるのはいずれの国の法か。このフランチャイズ契約はP2 がドラフトし、日本以外の数か国におけるフランチャイジーとの間で締結されているものと基本的には同じものであり、甲国語で書かれており、甲国語での四半期毎の報告書の提出義務が定められている。他方、P2・J2間の契約では、日本円でのフランチャイズ料を日本国内のP2が指定する銀行口座に支払うことが定められている。準拠法条項はない。
問題4:離婚事件
事案(つづき)
J1は、J2の社長就任より前、乙国から日本の大学院に留学してきていたK1(乙国人女性)と日本で婚姻し、日本での生活を始め、ふたりの間には子L(日本・乙国の二重国籍)が誕生した。しかし、J1が社長としてビジネスが多忙を極めるようになってきた頃、K1はJ1の不在中にLを連れて日本から乙国の実家に帰国してしまった。J1は、乙国に行く時間的余裕がない中、様々な方法でK1との連絡を試み、Lとの接触も望んだが、K1の両親K2 ・K3 は、K1の意向及びLの安定した生活環境の維持を理由にJ1 からのアプローチを全て遮断している。
問題4-1:離婚等請求事件の国際裁判管轄[国際民訴C]
上記のような状況の中、J1は日本の裁判所において、K1 に対して、@J1とK1との離婚、ALの親権者をJ1と定めること、BK1はLをJ1に引き渡すこと、また、K2・K3に対して、CK2・K3はB記載のK1の行為を妨害しないこと、DK2・K3は連帯してJ1に慰謝料100万円を支払うこと、以上を求める訴えを提起した。これらの各請求について日本の裁判所は国際裁判管轄を有するか。
問題4-2:離婚等の準拠法[国際私法I@]
問題4-1の訴えについて日本の裁判所に国際裁判管轄が認められるとして、@からDまでの各請求について判断する準拠法はいずれの国の法か。
問題5:強制認知事件
事案(つづき)
問題4-1の離婚等請求訴訟より前、J1はP1との協議のため頻繁に甲国を訪問し、その協議にP1が用意した通訳として同席していたM1(甲国在住で甲国・乙国の二重国籍の女性)と親密な関係になった。その後、子M2(甲国在住で甲国・乙国の二重国籍)を出産したM1は、J1に対して、M2の父親はJ1であると主張したが、J1はこれを否定した。
問題5-1:外国強制認知判決の日本における承認(その1)[国際民訴D]
M1は、M2 の親権者として、甲国の裁判所においてJ1に対して認知を求める訴えを提起し、甲国裁判所は裁判管轄を認め、本案についても強制認知請求を認めた。
この甲国裁判所の判決が日本において効力を有するか否かの判断に当たって、日本からみて甲国裁判所に間接管轄は認められるか。
問題5-2:外国強制認知判決の日本における承認(その2)[国際民訴E]
甲国裁判所の手続において、J1は、J1とM2との血縁関係を否定するために血液検査(それによっては血縁関係が否定されない場合にはDNA検査)を求めたが、甲国においては血液を採取することは甲国の国家宗教上禁止されていることを理由に検査はされなかった。そして、M1が当該宗教上真実を述べると宣誓した上でした証言が証拠採用され、他方、当該宗教の信者でない者の証言は証拠とすることはできない旨の甲国法の定めに従い、信者ではないJ1の証言は一切証拠採用されなかった。以上の結果、J1とM2は親子であり、J1はM2を認知したとの意思表示がされたとするのが本件における甲国判決であるとする。
この甲国裁判所での証拠調べの点は、日本での甲国判決の効力を判断するに当たって、どのように評価されるか。
問題5-3:認知の準拠法[国際私法IA]
問題5-1・5-2のM1が、甲国では裁判を起こさず、同様のことを求める訴えを日本の裁判所において提起したとする。強制認知の可否に関する準拠法はいずれの国の法か。甲国法が問題5-2記載の内容と異なり、甲国の国家宗教の信者である子を異教徒が認知することはできない旨のルールを有しており、甲国法に照らすと、M2はこの宗教の信者であると認定されるため、異教徒とされるJ1がM2を認知することはできない。このルールは日本での強制認知の可否の判断に当たってどのように扱われるか。
問題6:養子縁組事件
事案(つづき)
J1は、問題4記載のK1との離婚が成立した暁には、N1(乙国在住の乙国人)と婚姻し、N1の妹N2(乙国から甲国に帰化し、現在は甲国在住の甲国人)と死亡した夫N3(死亡時には甲国在住の甲国人)との間の子N4(甲国在住の甲国人・3歳)との間で断絶型養子縁組(日本民法では特別養親組とされているタイプのもの)をし、将来はJ堂の事業を承継してもらいたいと考えている。
問題6-1:養子縁組の準拠法(その1)[国際私法IB]
乙国法にも断絶型養子縁組はあるが、子が2歳未満であることが要件とされており、現在3歳のN4とJ1・N1との間の断絶型養子縁組はできない。断絶型養子縁組の成立について日本法・甲国法・乙国法が要求している要件のうち他のものはすべて具備されているとして、日本においてJ1がN4と断絶型養子縁組をすることはできるか。
問題6-1記載のところと異なり、甲国法にも断絶型養子縁組はあるが、実親の同意要件として、実親が死亡している場合には、その配偶者及び子以外の者であって、相続順位が最も高いものの同意を要求している。これに該当するN4の祖父であるN5は、N4にN5 が代々受け継いでいる伝統芸能を承継してほしいと考えており、J1とN4との断絶型養子縁組に反対している。断絶型養子縁組の成立について日本法・甲国法・乙国法が要求している要件のうち他のものはすべて具備されているとして、J1がN4と断絶型養子縁組をすることはできるか。
問題6-3:養子縁組の準拠法(その3)[国際私法ID]
問題6-1・6-2記載のところと異なり、N4は現在9歳であり、N5 のようなJ1とN4との断絶型養子縁組への反対者はいないとする。弁護士に本件養子縁組について相談していたJ1は、@日本の民法817条の5によれば、N4 の年齢の点で断絶型養子縁組はできないこと、A甲国法によれば、断絶型養子縁組は子が12歳まではできること、B甲国の国籍法によれば、一定額の金銭を支払えば帰化は容易かつ迅速にできること、C日本及び乙国の国籍法は国籍離脱の自由を認めていること、以上のことを知った。そこで、J1・N1は、婚姻後速やかに甲国に帰化し、J1・N1・N4が全員甲国人となった上で、甲国法に基づいてJ1・N1 とN4との特別養子縁組をするという方法を思いついた。なお、J1・N1・N4は日本で生活していく予定である。
この相談を受けた弁護士として、このプランについて日本の国際私法に照らしてどういうアドバイスをするか。
以上