WLS国際私法II:2018

問題1-2: 柴 大輔

問題2-1: 武中裕貴

問題2-3: 武中裕貴

問題2-4: 倉田晏奈

問題3-2:  武中裕貴

問題12 労働契約の準拠法

1 @について検討する。※1

まず、法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による(法の適用に関する通則法(以下、「通則法」とする。)7条)。

本件において、J2Qとの間の雇用契約には、日本法に準拠する旨の条項がある。

よって、両者間の雇用契約の効力については、原則として準拠法は日本法になる。

もっとも、Qに対する解雇が無効か問題となっており、この問題は、「労働契約」の効力についての問題と法性決定できる。

そして、労働者は、使用者との関係で弱い立場に置かれることが類型的に多い。そこで、通則法12条は、労働者保護のため、労働契約の準拠法について特例を設けている。

具体的には、通則法121項は、労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択または変更により適用すべき法が、当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても、労働者が当該労働契約に最も密接関係のある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用すると規定している。また、通則法122項は、前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定すると規定している。

本件において、Qの労務提供地は、甲国であることから、甲国法がJ2Qとの間の雇用契約に最も密接な関係を有する地の法ということができる。そして、かかる推定を覆す事情は存在しない。そうすると、QJ1に対する意思表示により、甲国の強行規定をも適用すべきことを求めた場合には、当該強行規定をも適用すべきこととなる。したがって、甲国判例における労働法が強行規定である場合には、甲国法の強行法規が適用され、Qの解雇が無効となる。

2 次に、Aについて検討する。

未払賃金の請求は当該労働契約に基づいてなされるものである考えられることから、「労働契約」の効力の問題と法性決定できると考えられる。

したがって、@と同様に、QJ1に対する意思表示により、甲国の強行規定をも適用すべきことを求めた場合には、当該強行規定をも適用すべきこととなる。

よって、甲国判例における労働法が強行規定である場合には、甲国法の強行法規が適用され、未払賃金請求が認められる。

3 Bについて検討する。※2

不当労働行為に基づく損害賠償請求とは、労働契約とは別の問題であり、不法行為の問題として法性決定される。[不法行為責任が生ずるかという問題と、労働契約違反かという問題は両立し、前者は17条・20条、後者は7条・12条により、それぞれ定まる準拠法が適用されるという考え方もあります。前者については、20条により、当事者間にある契約の準拠法(日本法+甲国法の強行規定)を勘案して準拠法を定め、22条により適用される日本法の範囲内で適用することになり、結局、後者だけの場合と同じ法が適用される可能性があるように思われます。]

そして、不法行為の準拠法は、通則法17条本文により、「結果が発生した地の法」となる。

「結果が発生した地」とは、直接に侵害された客体や権利が侵害発生時に所在した地のことをいう。

本件において、被害者Qは、甲国在住の甲国人であることから、「結果が発生した地」とは、甲国となる。

したがって、準拠法は甲国法となり、甲国の判例よれば労働者は手厚く保護されるのであるから、不当労働行為に基づく損害賠償請求は認められる。

●参考資料

※1 大阪地堺支判平28.3.17【平成28年重判国際私法4事件】

※2 広島地裁平成261030

 [柴 大輔]

問題2-1 不法行為の準拠法

第1.本問の請求の法性決定

(1)S1J2に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を追及することになる。もっとも、生産物については、生産から事故の発生まで原因となる生産物が転々とし、結果発生地が偶然の事情に左右されることがある[1]。そのため、17条の一般則により準拠法を決定することは必ずしも適切とはいえないので、生産物責任については特則が存在する(18条)。

(2)Rが製造・販売した「Jの花」は、「生産物」にあたる。また、Jという名称が製品に含まれることから、J2は「生産物にその生産業者と認めることができる表示をした者」(18条)にあたる。

(3)したがって、本問は「生産物責任」の問題として性質決定される。

第2.通則法18条の適用について

生産物責任においては、原則として「被害者が生産物の引渡しを受けた地の法」が準拠法となる。そして、引渡しが通常予見できないものであった場合には、生産業者の主たる事業所の所在地法が適用される。

本問において、「Jの花」が販売されたのは乙国であると考えられる。また、乙国で販売されている以上、引渡しは通常予見できる。したがって、乙国法が準拠法となる。

[武中裕貴]

問題2-3 不法行為に基づく損害賠償請求権の準拠法

第1.S2の請求について

S2J2に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を追及することになるところ、上記と同様にこの請求は「生産物責任」の問題として性質決定される。

S2は乙国を訪れていた際に「Jの花」を購入しているため、「被害者が生産物の引渡しを受けた地の法」は乙国法である。また、乙国で販売されている以上、引渡しは通常予見できる。したがって、乙国が準拠法として適用される。

第2.S3の請求について

まず、生産物の引渡しを受けた者以外の者(いわゆるバイ・スタンダー)による損害賠償請求が、18条の単位法律関係に含まれるかが問題となる。

18条は「被害者が生産物の引渡しを受けた地」と規定しており、文言上は生産物の引渡しを受けた者のみが被害者であることを前提としている。また、実質的にも、引渡しを受けた地が偶然巻き込まれた者の準拠法としてふさわしいという合理性はない[2]

よって、バイ・スタンダーからの損害賠償請求についての準拠法は17条によって定められるべきである。

もっとも、生産物の引渡しを受けた者の従業員や同居家族のように、引渡しを受けた者と一体視できるほどの密接な関係が認められる者が被害を受けた場合には、なお18条の適用が認められるべきである[3]

本問では、S3S2の同居家族であり、引渡しを受けたS2と一体視できるほどの密接な関係が認められる者である。したがって、S3には18条が適用され、「被害者が生産物の引渡しを受けた地の法」である乙国法が適用される。

第3.S4の請求について

S4S2の友人であり、引渡しを受けたS2と一体視できるほどの密接な関係が認められない。したがって、バイ・スタンダーからの損害賠償請求として17条が適用される。

17条は準拠法選択につき、原則として結果発生地法によるとしつつ、その地における結果発生について予見可能性のない場合には加害行為地法によるとする。

本問において、S4は丙国において食中毒になっている。したがって、結果発生地は丙国である。

では、丙国における結果発生について予見可能性はあるか。

「予見」の対象は、その地における当該具体的な結果の発生ではなく、その地におけるそれと同種の結果の発生である。したがって、S4のような者が丙国において被害を受けることが「予見」できるかが問題となる。

本問では、丙国に「J堂」の店舗はあるが販売している製品の中には「Jの花」はない。しかし、「Jの花」以外の製品で食中毒が発生することは通常予見できるため、S4のような者が丙国において被害を受けることにつき、予見可能性は認められる。

よって、準拠法は17条の原則通り、結果発生地である丙国の法となる。

[武中裕貴]

問題2-4 信用毀損の準拠法

1 @損害賠償について

(1)          RJ2に対してする損害賠償請求の準拠法はどの国の法が適用されるか。信用毀損とは、人の経済的側面における社会的評価を低下させる行為である。RJ2の出した声明や報道がRの経済的信用を低下させたとして損害賠償を請求するため、信用毀損の問題であり、通則法19条の問題となる。複数の法域で信用毀損された場合においても通常は被害者の常居所のある国で最も重大な損害が生じていると考えられることから、通則法19条により「被害者の常居所地法」が適用される。

本件においてRは法人であるため、常居所地は主たる営業所がある地になると考える。そのため「被害者の常居所地法」は乙国法であり、乙国法が適用されるように思える。

(2)          しかし、「明らかに前3条の規定により適用すべき法に属する地よりも密接な関係がある他の地があるときは、当該他の地の法」が適用されるとしている(通則法20条)。本件でRは乙国のみならず甲国や丙国においても自社独自の菓子を製造・販売している。J2の声明は日本語のみならず世界共通言語である英語でも掲載されており、これはメディアにより世界中に報道されている。これによりRは乙国のみならず、甲国や丙国でも商品の売れ行きが悪化して損害が生じている可能性がある。そもそも被害者の常居所地が連結点とされている理由は被害者の常居所のある国が最も重大な損害が生じていると考えられる点にある。世界展開している会社では、主たる営業所の所在地のみで損害が生じているとはいえず、各国の損害ごとに損害賠償請求を考えるべきである。そのため甲国における損害は甲国法、乙国における損害は乙国法、丙国における損害は丙国法が準拠法となる。

2 A声明の削除について

Rが声明の削除を請求することはどこの法が適用されるか。声明の削除は当該声明がRの経済的な社会的信用を低下させることに対する救済であると考える。そのため信用毀損の問題であり、通則法19条の問題となる。通則法19条によると「被害者の常居所地法」が適用される。

通則法19条は「被害者の常居所地法」によると規定しており、これは前述の通りRの主たる営業所の所在地法である乙国法である。よって乙国法が準拠法となる。

3 B謝罪広告について

(1)          謝罪広告の掲載要求はどこの国の法が適用されるか。謝罪広告はJ2の生命によりRの経済的信用が低下したことに対して、この信用を挽回するために行うものである。そのため謝罪広告は信用毀損がされたことに対する救済であると考えられ、通則法19条の問題となる。

通則法19条は「被害者の常居所地法」によると規定しており、これは前述の通りRの主たる営業所の所在地法である乙国法である。よって乙国法が適用されるように思える。

(2)          しかし、前述(@損害賠償請求について)と同様、他に明らかにより密接な関係地がある場合にはその法により判断される(通則法20条)。本件では甲・乙・丙国でそれぞれ最も発行部数の多い日刊新聞に紙面1頁の4分の1以上のスペースを設けて掲載することを要求している。謝罪広告の掲載というのは新聞の紙面を割いて行うものである。さらに、異なる国の法により掲載が認められるとしても、当該地と関係のない地の法により掲載を余儀無くされることになる。これでは通則法19条により指定された国の法は掲載する国とは関係のない地ということになる。そのため、謝罪広告を掲載する国の法が、被害者の常居所地よりも明らかに密接な関係がある地の法といえる(通則法20条)。よって甲国では甲国法、乙国では乙国法、丙国では丙国法が準拠法となる。

[倉田晏奈]

問題3-2 フランチャイズ契約の解除の準拠法

本問では、P2J2間の契約の解除に適用される準拠法が問題となっている。

(1)当事者の合意による準拠法決定

契約の準拠法は、当事者が法律行為の当時選択した地の法となる(7条)。当事者が準拠法を「選択」(7条)したといえるためには、明示的合意だけでなく黙示的合意によっても認められる。そこで、P2J2間で準拠法の選択につき、明示または黙示の合意があるといえるか検討する。

ア P2J2間の契約では準拠法条項はないため、明示の合意は認められない。

イ では、黙示の合意は認められるか。P2J2間のフランチャイズ契約は甲国語で書かれており、甲国語での四半期毎の報告書の提出義務が定められていることから、甲国法を準拠法として指定する趣旨であるといえるかが問題となる。

まず、契約書が書かれた言語を重視してその国の法が準拠法として指定されていると解釈することは、当事者の現実の意思に反するうえ、多言語国家の存在からも妥当ではない。また、特定の言語での報告書の提出義務が定められているとしても、それによって特定の国の準拠法の適用が予定されているとはいいがたい。

したがって、本問では、甲国法を準拠法とする黙示の合意は認められない。

ウ よって、明示・黙示いずれの合意も認められないので、準拠法は選択されていないことになる。

(2)特徴的給付の理論の適用の可否

当事者による準拠法の選択がなされていない場合、最密接関係地法を準拠法とすることになる(81項)。このとき、「法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるとき」は、その当事者の常居所地法(事業所を有する場合は事業所の所在地法)が最密接関係地法であると推定される(82項、特徴的給付の理論)。では、本問において特徴的給付の存在は認められるか。

フランチャイズ契約とは、フランチャイザー(本部)が商号・ノウハウ等をフランチャイジー(加盟者)に提供し事業活動を指導する一方、フランチャイジーがロイヤリティーを支払いつつ、フランチャイザーの統制を受ける契約関係をいう[4]。双務契約においては一般に金銭債権の反対給付が特徴的給付にあたると考えられるが、フランチャイジーはロイヤリティーを支払うだけではなく実際の事業活動を行うことから、どちらが特徴的給付の債務者にあたるか確定することは困難である。

したがって、本問において82項の推定は働かないとするべきであり、81項所定の最密接関係地を、同条2項によることなく判断せねばならない。

(3)最密接関係地の判断

この場合、最密接関係地の判断基準として、特徴的給付の理論に代わる原則として経済的弱者の牴触法的保護を挙げ、フランチャイジー、販売店がより弱い立場にある当事者であることを重視し、フランチャイジー、販売店の常居所地を最密接関係地とするという見解がある[5]

この見解によると、フランチャイジーであるJ2の常居所地が日本であることから、日本が最密接関係地となり、日本法が準拠法として選択されることになる。

[武中裕貴]



[1] 中西康ほか『リーガルクエスト国際私法』(有斐閣、2014240

[2] 澤木=道垣内・前掲注(1)230

[3] 中西康ほか・前掲注(3)242

[4] 野木村忠度「フランチャイズ・システムの在り方についての一考察―公取委排除措置命令を契機として―」『中央学院大学紀要』第10巻第166

[5] 寺井里沙『国際債権契約と回避条項』(信山社、2017284