WLS国際私法II
<取消線及び赤字は道垣内による加筆修正>
問題5・12(3):尾高大輝
問題7:里見麻祐
問題9:山尾柚子
問題11:山本卓
問題12(1)(2):境歩美
問題5〔国際私法U−1〕
@記事の削除
Aの記事の削除請求はプライバシー・名誉を違法に侵害されたとして人格権に基づいて、侵害行為の差止めを求めるものである。
そこで、プライバシー・名誉毀損を含む人格権の侵害に基づく本件記事削除請求の性質決定をいかにするか問題となる。
名誉毀損とプライバシーとを区別し、プライバシー侵害は名誉毀損に包含されないとし[1])、プライバシーを含むその他人格権の侵害は、通則法17条により、名誉毀損については通則法19条によるとの見解がある[2])。しかし、名誉及びプライバシーはいずれも人の社会的評価にかかる人格権であり、通則法19条の「名誉又は信用」はプライバシーを含む概念であり[3])、それに基づく差止請求は名誉毀損という単位法律関係に該当する[4])。
よって、本件記事削除請求について通則法19条により性質決定される。
通則法19条は被害者の常居所地法によるとし、Aの常居所地は日本であるところ日本法が準拠法となると考えられる。もっとも、通則法20条は「明らかに前3条の規定により適用すべき法の属する地よりも密接な関係がある他の地の法があるときは、当該地の法による」とする。
本件では、AはSに対し記事の削除を求めているのであり、S社は甲国/甲3州に本店を有する。この場合、S社の記事の削除(差止をできるか否か)を日本法で判断するより、甲国/甲3州に本店を有するS社の記事の削除をできるか否かという問題の最密接関係地は、甲国/甲3州であるというべきである[5])。
したがって、AのSに対する記事の削除を求める請求の準拠法は甲3州法による。
A日本及び甲国での謝罪広告
謝罪広告請求について、違法法行為に対する民事上の救済の一環にほかならないから、法律関係の性質は不法行為であり、その準拠法については、通則法17条によるべきとする見解がある[6])。しかし、本件では名誉毀損に対する救済手段としての謝罪広告請求権であり、通則法19条の射程の範囲内と解するのが相当である。よって、通則法19条の「名誉又は信用を毀損する不法行為によって生ずる債権の成立及び効力」として、「被害者の常居所地法」によるべきである。
(1) 日本での謝罪広告
日本での謝罪広告について、Aの常居所地法である日本法によるべきである。
(2) 甲国での謝罪広告
甲国での謝罪広告については、甲国での謝罪広告ができるか否かを日本法で判断するということはあまり説得的ではないと考えられる。むしろ、甲国での謝罪広告ができるか否かという問題の最密接関係地は甲国であるとの判断をするのが合理的である。したがって、通則法20条により、甲国での謝罪広告については甲国法が準拠法となる。
以上より、(1)日本での謝罪広告については通則法19条により日本法(通則法20条によったとしても結論は同じ)、(2)甲国での謝罪広告については通則法20条により甲国・甲3州法が準拠法である。
B損害賠償
損害賠償請求について、AはSに対し、(1)Aのプライバシー・名誉毀損を理由とする損害賠償、(2)P社の主な市場である日本及び甲国でのビジネスに支障が生ずるに至った損害賠償および(3)Aの所有するP社株式の資産価値は毀損されたことに基づく損害賠償が考えられる。それぞれ以下検討する。
(1)について、プライバシーも「名誉又は信用」に含まれると考え、通則法19条の「名誉又は信用を毀損する不法行為によって生ずる債権の成立及び効力」として、「被害者の常居所地法」によるべきであり、Aの常居所地である日本法が準拠法である。
(2)について、Aは日本法人Pを設立したものであり、Pの代表者はAであると考えられるところ、P社が日本及び甲国でのビジネスに支障が生ずる至った損害の原因事実はSによるAの名誉毀損に始まるものである。この場合、P社がSに対して基づく請求は、通則法19条かっこ書の「被害者が法人」であることに基づくのであり、主たる事業所の所在地が必ずしも明らかでないが、日本法人であるPは日本に主たる事業所を有していると考えられ、日本法になる。
また、主たる事業所を甲国にも有していたとして日本及び甲国が通則法19条の準拠法となることが考えられるが、この場合、通則法20条により、日本法人であるPの最密接関係地は日本であるとして、日本法が準拠法となる[7])。
次に、P社の日本及び甲国でのビジネスに支障が生ずるに至った損害が通則法19条でなく、通則法17条によるとして、結果発生地法がそれぞれの市場地であり、日本での損害は日本法、甲国での損害は甲国法によることも考えられるが、通則法20条により、最密接関係地法として日本法が選択され、準拠法が日本法である。
(3)について、AはP社の株主であり、株主は「法人」の構成員であるとして、通則法19条に基づいて損害賠償請求をすることが考えられる。この場合、P社は日本法人であり、P社の株式価値の下落は、P社の所在地法である日本法による。
また、通則法19条によらず、通則法17条によった場合でも、日本法人であるPの株式価値が下落しているのであり、結果発生地は日本であり、日本法が準拠法となる。
問題7〔国際私法U−2〕
1.損害賠償請求について
(1)その性質について、特許権侵害に基づく損害賠償請求については特許権特有の問題ではなく、財産権の侵害に対する民事上の救済の一環にほかならないから、不法行為の問題と決定すべきである(判例[8]に同旨)。よって、17条本文により、結果発生地法が準拠法となる。
そして、本件では、製品Yに対抗する製品Zが販売されたことを一原因としてP社の製品の売り上げが減少するなどの侵害が生じた地、そしてそもそも製品Yの特許的価値の低下が生じた地は、販売地である日本、甲国及び乙国であり、これらの地が結果発生地であるといえる。
もっとも、これらの地での結果発生につき通常予見することができなかった場合は加害行為地が準拠法となる(同条ただし書き)ので、その検討が必要である。「予見」の対象は、その地における当該具体的な結果の発生ではなく、その地におけるそれと同種の結果の発生である。また、「通常予見すること」ができるか否かが基準であるので、当該加害者の注意義務を基準とするのではなく、それと同種の行為を行う者に期待される通常のレベルの注意義務が基準となる[9]。
本件では、加害者であるQ社は、製品Zの販売場所を自ら日本、甲国、乙国に設定していたといえるので、製品を販売する者に通常期待される注意義務をもってすれば、そこでの特許権侵害の結果発生は当然に予見することができたといえるから、加害行為地は準拠法とならない。
よって、各国での侵害につき、それぞれ日本法、甲国法、乙国法が準拠法となる。
(2)また、P社とQ社は不法行為当時常居所を異にしており、両社間にはなんらの契約も存在せず、その他にも明らかにより密接な関係地があるといえる事情(20条)はない。
(3)さらに、上記判例によれば、22条1項により日本特許法が累積的に適用され、自国の領域外で誘因行為を違法とする米国特許法に基づく侵害の成立を、日本の特許法は属地主義に基づいていて自国の領域外での行為による特許権侵害を認めていないことを理由に、不法行為の成立を否定しているることとなる。もっとも、同規定が問題としているのは行為の悪性(違法性)自体であって、その判断においては、準拠法決定段階での問題である法の地域的適用範囲は視野の外におくべきである[10]。
よって、甲国法、乙国法を準拠法とする各侵害についてのこれらの特許法により不法行為が成立する場合、同種の行為が日本の領域内で発生した場合に日本の特許法が不法行為の成立を認めるか否かにつき22条1項により日本特許法を累積適用し、また、いずれの法によっても不法行為の成立が認められる場合に、22条2項により、日本特許法の認める救済以上の救済は与えないこととなる。の累積適用はなされるべきでない。
2.製造差止請求について
(1)その性質について、上記判例は、ある国の特許権侵害に基づく差止請求は、正義や公平の観念から被害者に生じた過去の損害のてん補を図ることを目的とする不法行為とは趣旨も性格も異にするとした上で、同請求は当該国の特許権の独占的排他的効力に基づくものであることから、特許権の効力の問題と決定した。そして、かかる効力は条理により登録国法によるという準拠法選択を行った。
もっとも、特許権等の産業財産権の系統の権利は国家行為として創設されるのであり、当然にその国家の法による[11]のだから、かかる判例の判断は、ある国の特許権の効力の問題は当該国(登録国)の法によるという実のない準拠法選択の手法を採用したものと評価できる。そこで、属地主義の原則を理由に、外国特許権に基づく差止めを国内裁判所に求めることはできないとした原審[12]と同様、準拠法決定の問題が生じる余地はないと考えるべきである。
よって、本件で侵害された甲国特許権の差止めは、準拠法選択の過程を介することなく甲国法による。
(2)さらに、上記判例によれば、選択された準拠法が属地主義の原則を採る我が国の特許秩序法という公序(42条)に反することを理由に、当該準拠法の適用は排除されうる。もっとも、外国実質法の内国への適用結果を問題とする国際私法上の公序概念に法規の地域的適用範囲を定める属地主義の原則を取り込むことがそもそも妥当ではなく[13]、かかる理由をもって公序違反とされるべきではないと考えられる。
よって、甲国法の適用は排除されない。
問題9〔国際私法U−3〕
1ノウハウ侵害に基づく損害賠償請求の準拠法について、通則法に明文がないため問題となる。
この点、不正競争の問題として既存の準拠法選択規則とは別個独立の性質決定の単位法律関係を設定すべきだとする見解もある[14]が、国際私法の構造上、ノウハウ侵害に基づく損害賠償請求についても当然に原則として通則法のいずれかの単位法律関係に含まれると考えるべきである。
そして、ノウハウ侵害に基づく損害賠償請求も、財産権の侵害に対する民事上の救済の一環にほかならないことから、不法行為の問題と性質決定し、通則法17条によるべきと解するのが相当であると解する。したがって、通則法17条本文により加害行為の結果発生地の法が準拠法となる。
2 では、本件における結果発生地はどこか。Q社はP社のノウハウを取得してから、その後製品Z を製造し、販売していることから、問題となる。
この点、仮に複数の国で損害が生じたとしても、加害者の行為が1つの不法行為であると国際私法上評価される限り、最初に不法行為が成立する国の法が不法行為準拠法であるといえ、以後の損害はすべてかかる法に基づいて評価されると解すべきである[15]。
本件についてみると、製法ノウハウの取得とは、当該ノウハウに基づいて製品を製造・販売することが当然に予想される行為であり、Q社のノウハウの取得とその後の製品Zの製造・販売は1つの不法行為であると評価できる。
したがって、Q社がP社のノウハウを取得した行為の結果発生地が17条のいう結果発生地といえる。
3 Q社がノウハウを取得した行為の結果発生地は具体的にどこになるか。
この点、企業のノウハウは属地的な性質のものではないため、企業が実際にノウハウを管理していた地がどこであったか、本店の所在地や製造状況等を総合考慮して決定する必要がある。
本件については、P社にとって日本と甲国が主な市場であり、日本と甲国で製品Yを製造しているという事情もあるが、Aは日本において自ら製造ノウハウを編み出しており、日本法人であるP社の本拠地は日本にあることから、P社がノウハウを管理していたのは日本であると考えられる。
したがって、他の地域でノウハウを管理していたという事情が具体的にない限りは、結果発生地は日本である。
4 よって、本件請求については日本法が適用される。
<不正競争防止法21条6項により日本法により処罰されるべきものである以上、不正競争防止法に基づく損害賠償請求について外国法が適用され、不法行為が否定されるといったことは日本の法秩序として受け容れがたいことだとすれば、不正競争防止法に基づく損害賠償請求に関する日本法が絶対的強行法規(overriding mandatory rules)として適用されるという考え方もあり得ると思われます。>
問題11〔国際私法U−4〕
1 R社に対してP社が債務不履行責任を負うか、又は不可抗力を理由に免責されるかという問題は、P R間の製品Yの製造販売契約(以下、本件契約という)の効力の問題であるから、本件契約の準拠法による。[i]
したがって、法律行為の効力の問題として通則法7条以下により準拠法が定まる。
2 本件契約には明示の準拠法条項は置かれていないし、黙示の選択も認められないから、7条の適用はない。
3 そこで、準拠法の選択がない場合の客観的連結点を定める規定として、8条により再密接関係地法が準拠法となるが、特徴的給付の理論によって最密接関係地が推定される(8条2項)。[ii]
同項の適用の要件としては、当事者の一方のみが特徴的な給付を行うことがその法律行為の内容となっていることが必要であり、その契約内容にもよるが、交換契約や合弁契約のように一方当事者の給付内容のみが当該契約を特徴づけるとは言えない場合には本項は適用されない。[iii]
本件では、R社のP社に対する給付は、製品Yの代金の支払いであると思われるが、これはその他の契約類型でもみられる普遍的なものであるから、本件契約を特徴づける給付とはいえない。他方、P 社のR社に対する給付は製品Yの引渡しであり、本件契約特有の給付であるから、この給付が当該契約を特徴付けるといえ、「特徴的給付」に当たる。そうすると、一方当事者たるP社のみが特徴的給付を行うことになる。
そして、同項括弧書きは、当事者が当該法律行為に関係する事業所を有する場合にあっては当該事業所の所在地の法を最密接関係地と推定しているところ、本件契約は甲2州にあるP社甲国支店の取り扱いとされているから、同項括弧書きにより、甲2州が最密接関係地と推定される。
4 もっとも、8条2項はあくまで推定規定にすぎないから、かかる推定を覆す事情があるか検討する。
例えば、本件契約がいわゆるOEM契約であるような場合には、発注者たるR社の側に契約の重点があるものと考えられるから、R社の主たる営業所の存する乙国が最密接関係地とされることがありうる[iv]が、本件ではそのような事情は伺われない。
次に、製品Yの引渡しは甲3州で行われることからすると、同州が最密接関係地となることが考えられる。しかし、甲3州で引渡すことになっているのは、単に配送の便宜にすぎないとも考えられるし、本件契約は製造と販売を要素とするものであるところ、製造するのは甲2州に所在するP社の工場であるし、契約当事者であるP社甲国支店も甲2州に所在していることからすると、前記推定を覆すまでの事情とも思われない。
したがって、甲2州よりも密接な関係がある地は認められない。
5 以上より、8条1項及び同条2項括弧書きにより、甲2州法が本件契約の準拠法として指定されるから、R社に対してP社が債務不履行責任を負うか、又は不可抗力を理由に免責されるかという問題には甲2州法が適用される。
問題12〔国際私法U−5〕
1 本件譲渡契約の履行をめぐって問題が生ずる場合,日本法以外の法が適用される事項はあるか,それは何か。
⑴ @発明Xについての甲国特許権の譲渡契約
特許権の譲渡・実施(利用許諾)契約については,物権の場合と同様に,譲渡の原因となる債権行為については譲渡・実施(利用許諾)契約の準拠法により特許権の物権類似の支配関係の変動については保護国法によると解すべきであり,これを支持する裁判例[16]もある。よって,特許権の譲渡・実施(利用許諾)契約の成立,債務不履行の場合の効果等の問題は7条以下が適用されることになる。これに対し,特許権の移転に関する要件,第三者に対する対抗要件等の問題は保護国法によることになる[17]。また,外国特許を受ける権利の譲渡対価の問題については,譲渡契約の準拠法によるとの判例[18]がある。
したがって,譲渡契約を日本法とする本件においては,特許権の譲渡・実施(利用許諾)契約の成立,債務不履行の場合の効果等の問題,外国特許を受ける権利の譲渡対価の問題には日本法が適用される。しかし,特許権の移転に関する要件,第三者に対する対抗要件等の問題は保護国法によるため,これらの事項には甲国法が適用される。
⑵ AP社の甲国工場の譲渡を主な内容とする譲渡契約
工場の譲渡契約については通常の売買契約であると考えられるため,7条により,契約準拠法を日本法としていれば,当事者間の債権債務関係については日本法が適用される。もっとも,工場に関する物権及びその他の登記すべき権利(13条1項),物権の得喪(同条2項)については目的物所在地が適用されるため,これらの事項には工場の所在地である甲国法が適用される。
⑶ B従業員が望めば Q 社が雇用を引き継ぐ旨の条項を含む
通則法12条1項は、当事者による準拠法の選択があっても「労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する」としている。そして、2項により、「当該労働契約において労務を提供すべき地」を最密接関係地法と推定し、労務を提供すべき地が特定できない場合は、「当該労働者を雇い入れた事業所の所在地の法」とすることとされている。
本件では、譲渡契約の準拠法を日本法としているが、当該従業員の最密接関係地が日本以外である場合には、当該最密接関係地の特定の強行規定をも適用されることになる。
したがって、従業員の最密接関係地法を調べ、当該最密接関係地法の弁護士に特定の強行法規についてチェックして貰う必要がある。
[1]) 裁判例:東京地判平成28年11月30日判タ1438号・186頁
[2]) 羽賀由利子『平成29年度重要判例解説(ジュリスト1518号)』307頁(東京地判平成28年11月30日解説)
[3]) 羽賀由利子・前掲
[4]) 道垣内正人『ポイント国際私法 各論[第2版]』262頁
[5]) 道垣内・前掲263頁(出版差止請求の事案について、通則法20条の最密接関係地法によるべきと説明)
[6]) 裁判例:知財高判平成30年1月15日判タ1452号80頁(ただし、事案は営業秘密使用差止が問題となった事案)
[7]) 澤木敬郎=道垣内正人『国際私法入門[第8版]』228頁
[8] 最判平成14年9月26日
[9] 澤木敬郎=道垣内正人『国際私法入門〔第8版〕』・222頁
[10] 澤木敬郎=道垣内正人・前掲235頁
[11] 澤木敬郎=道垣内正人・前掲253頁
[12] 東京高判平成12年1月27日
[13] 島並良『国際私法判例百選〔第2版〕』105頁
[14] 国際私法判例百選・79頁
[15] 澤木・道垣内「国際私法入門」220頁
[16] 東京高判平成13年5月30日
[17] 松岡博(2020)『国際私法関係入門』第4版 有斐閣 169頁
[18] 最判平成18年10月17日。