WLS国際私法T
<取消線と赤字は道垣内による追加修正>
問題1・2・3・13・15の答案:佐々木里紗
問題13:尾高大輝
問題1[国際私法T-1]
1 婚姻の実質的成立要件の準拠法決定について定めた、通則法24条1項は、配分的連結を採用し、各当事者につき本国を連結点とするところ、A・Bの本国はそれぞれどこかを検討する。
2 Aについて
(1)Aは甲国人であり、甲国の国籍を有するところ、甲国は私法について全て州法に委ねており地域的不統一国である。そこで、Aの本国は通則法38条3項により判断する。
(2)通則法38条3項は、間接指定主義を原則としつつ、「規則」がないときは直接指定主義をとるとしている。そこでA国に「規則」が存在するかが問題となる。
「規則」について、本国の内部的な関係において、当事者がどの地域に属するかを決定する準国際私法であるとする見解[1]と、その国の準国際私法ではなく、その国からみて外国の国際私法によって自国法が本国法として指定されたときに、いずれの地域の法を本国法とするかを定める規則であるとする見解[2]がある。<答案としては、次に記載の通り、いずれにしても甲国には「規則」はないことになるので、ここでいずれの見解をとるかを明らかにする必要はありません。ただ、理論上は、道垣内としては、@準国際私法で用いられている単位法律関係の大きさは日本のそれと異なるので、実際の当てはめは困難であること、Aそもそも、国際事案に適用され、外国法を準拠法として決定する場合もある「国際私法」と、国内事案に適用され、国内の法域の法のみを準拠法として決定することだけを任務とする「準国際私法」とが異なるものとして併存していることは、国際事案と国内事案との区別の困難及び国内の法域のみを指す連結政策だけを採用することの不自然さから、あり得ないと考えられること、以上から、前者の見解は成り立たないと考えています。>
前者の見解に立つ場合、甲国の連邦法には私法についての定めがなく、統一的な準国際私法の規則が存在しないので、「規則」はない。後者の見解に立つ場合、自国では適用機会のない規則を有している国があるとは一般に考えられないため、「規則」は常に存在せず、通則法38条3項の前半部分は空文となる。
以上から、直接指定によることになる。通則法38条3項は、直接指定のための具体的連結基準を定めず、最密接関係地法によるとする。
(3)確かに、Aは出生から18歳までの18年間という、これまでの人生の半分以上を、日本で暮らし、日本で高等学校までの教育を受け、27歳で再び日本に戻ってきているから、出生地、常居所地、育成地が日本にあり、最密接関係地が日本にあるとも思える。
しかし、38条3項括弧書きはその国<本国>の中で「最も密接な関係がある地の法」を適用すべきことを規定しており、本国の中で一番密接な関係がある地域の法を本国法とすべきで、横浜地裁平成10年5月29日判決[3]もかかる考え方に立っている。
本件でAは、19歳から26歳までの8年間は、甲2州の大学及び大学院に在籍している。
もっとも、Aは12歳から18歳までは、毎年夏休みの1か月間、甲1州に住む祖父母と一緒に過ごしており、通算7か月間は甲1州で生活している。さらに、18歳の時に祖父母が死亡して、甲1州を訪ねたとしても、祖父母に会うことができなくなった後も、26歳までの間甲1州を何度か訪問している。これは、Aが12歳の時から一貫して、甲1州の風土が好きだと言っているところ、かかる意思が客観的にあらわれているものである。加えて、Aは40歳の時に、将来甲1州に移り住む計画のもと、甲1州内に居住用の土地を購入しているから、甲1州を終の棲家とする意思が客観化している。<この点を指摘している答案は他にも多くありましたが、ここでの問題は婚姻時点である28歳での最密接関係地ですので、40際の時のことカウントすることはできません。婚姻後のことから振り返るとそのことが裏付けられるという趣旨であれば、そのように明記すべきです。>
よって、Aに「最も密接な関係がある地域」は、甲1州である。
(4)以上から、Aの本国は、甲1州である。
3 Bについて
(1)Bは乙国人であり、乙国の国籍を有するところ、乙国法には、一般法とは別に、乙1族の男性が当事者となる場合を適用対象とする乙1親族・相続特別法が存在し、人的不統一国である。そこで、Bの本国は通則法40条1項により判断する。
(2)通則法40条1項は、地域的不統一国法と同様に、間接指定主義を原則とし、直接主義を補則とする旨定めている。
しかし、以下の通り、間接指定主義以外の方法は採り得ない。人的不統一法国は地域的には統一された一つの国であって、その国の法が指定されれば、その先は実質法秩序内の解釈問題である。よって、人的不統一国法の指定の場合には、「その国の規則」によって適用されるルールが指定される。そして、人的不統一法国においては、その国内実質法秩序を維持するために、何らかの形で人的抵触の解決が図られているはずであるため、「その国の規則」がないことは想定し得ないからである。
(3)乙国法は、親族・相続に関してだけは、一般法とは別に、乙1族の男性が当事者となる場合を適用対象とする乙1親族・相続特別法が存在する。よって、親族・相続に関しては「その国の規則」により乙1族の男性は乙1族親族・相続法を指定される。
Bは男性で、乙1族に属することが乙国法に基づく家族関係ファイルに規定されているから、通則法24条1項の本国法は乙1族法<「乙国法(実際に適用されるのはそのうち乙1続法)」と書く方が上記の記述とは整合的です。>となる。
(4)以上から、Bの本国法は乙1族法<同>である。
問題2[国際私法T-2]
1 父BによるLの認知の実質的成立要件にはいずれの法が適用されるか、検討する。
2 通則法29条は、「嫡出でない子の親子関係の成立」という単位法律関係を設けており、認知の実質的成立要件の準拠法は同条による。通則法29条1項・2項は選択的連結を採用しており、1項前段が定める「子の出生当時における父の本国法」に加えて、2項前段の定める「認知の当時における認知する者又は子の本国法」のいずれにもよることができる。このような選択的連結が採用されているのは、出生後、長期間を経てから認知される場合もあること<認知の時点では子の出生時の父の本国との関係は薄れ、むしろ、認知時の最密接関係地法を適用することが相応しく、また、その時点では子の本国は、出生時のそれが母によって決められる独自性のないものであるのに対して、子との一定の関係を示していると考えられるので、準拠法となる資格があると考えられること>への配慮とともに、認知の成立を容易にしようとするものである。
そして、29条は、以上の連結政策に加え、子の保護を図るための規定である、セーフガード条項を置いている。そのため、父の本国法によって認知がされる場合は、子の本国法上その子又は第三者の同意または承諾が認知の要件とされているときはその要件も具備しなければならず、その限りで子の本国法が累積的に適用される(29条1項後段・2項後段)。
3 以上から、本問における認知の実質的要件の準拠法は、L出生当時の父Bの本国法、認知当時の父Bの本国法、あるいは認知当時の子Cの本国法となる。第1<問題1を「第1」としているのですが、ここでは「第1」という記載は削除しています。以下同じ。>で述べた通り、Bの、親族法における本国法は乙1族法<既述の通り「乙国法」>であるところ、これはL出生当時も、認知当時も同じである。そして、Lは丙国国籍を有しているから、認知当時の本国法は丙国法である。
<「いずれの法が適用されるか、という問題ですので、「したがって、乙国法(この場合には丙国法上の一定の要件が適用される。)又は丙国法が適用される。」との結論までで完結しています。以下は、与えられている情報から、それぞれの法を適用してみると、乙国法を適用すると本件の認知は認められず、丙国によると認知が成立するかもしれないということだけです。なお、問題3で丙国法が認知の実質的成立要件の準拠法となることが意味を持ちます。>
なお、乙国は認知制度を有しておらず、裁判によって親子関係の事実認定がされなければならないが、Bは裁判を経ていないから、乙国法によればBによるLの認知が有効となることはない。そして、丙国法は、子の本国法であるから、これを準拠法とするときは、セーフガード条項は登場しない。
4 以上から、丙国法が適用される。
問題3[国際私法T-3]
1 BによるLの認知は、方式上有効なものか、検討する。
2 認知の方式は、通則法29条が規定する親族関係についての方式の問題であるから、通則法34条が適用される。
通則法34条は、適用対象となる法律行為の成立の準拠法と行為地法との選択的連結を定めている。これは、方式が法律行為の成立の問題の1つであるので、実質的成立要件の準拠法として定められる法によるのが相応しいことに加え、方法要件具備のために他の国に出かけていって法律行為を行わなければならない<「成立の準拠法国又は同じ方式を定めている国でなければ当該法律行為をすることができない」という方がより正確です。>という不便を解消するためである。
3(1) 第2<問題2について>で述べた通り、通則法29条により認知の準拠法は丙国法となる<乙国法は認知による非嫡出親子関係の成立を認めていないので、認知制度を認めている丙国法が認知の実質的成立要件の準拠法となる>。丙国法では認知をするためには<方式として>公証人が本人の署名であることを認証した公正証書による必要があるとされているところ、Bはこの要件を具備していないため、方式は丙国法の定める方式に適合しない(34条1項)。
(2)では、行為地法に適合しないか(34条2項)。本問でBは丙国から認知届を発信し、日本で受信されているところ、「行為地」の意義が問題となる。
法律行為の方式には@当事者間での法律行為の意思表示の仕方を定めるタイプの方式と、A行政機関への届出・受理や聖職者・立会人の前での儀式といった方式の具備を求めるタイプの方式の2種類があると解する[4]。そして、Aの場合、意思表示は当事者間でされるわけでなく、「公」に対してされ、どこで通知が受信され、公にされるかが重要であるから、「行為地」は、意思表示の通知が受信された地となる。
本問で、認知届は日本1市役所という行政機関に届出られており、Aにあたるところ、「行為地」は認知届が受信された行政機関の所在地である日本である。
日本法では、認知の方式につき届出による(民法781条1項)と定められており、届出によってした本問認知は日本法に適合する。
4 以上から、本問認知は、有効である。
問題13[国際私法T-4]
1 AとBの相互の相続関係を定める準拠法は、いずれの国の法か、検討する。
2 確かに、本問では、相続関係を決するにあたり、AとBとのいずれが先に死亡したと推定されるか、あるいは同時に死亡したと推定されるか、という死亡時期が問題となるから、権利能力という単位法律関係の問題であるとも思える。
しかし、本問で死亡時期が問題となっているのは、A B間の相続関係を判断するためであるところ、そのような局面においてどう扱うべきかは、相続権という権利のあり方と密接不可分の問題であって、相続の準拠法によって解決されるべきである。よって、相続という単位法律関係の問題であって、通則法36条によると解する。
3 通則法36条は、被相続人の本国を連結点としている。第1<問題1>で述べた通り、Aの本国法は甲1州法、相続におけるBの本国法は乙1族法<乙国法>である。
よって、Aの相続人を決する、すなわち、BがAの相続人となるかについては、甲1州法が適用される。Bの相続人を決するすなわちAがBの相続人となるかについては、乙1族法が適用される。
なお、甲1州法、乙1族法の定め次第では、A Bが相互に相続人となるという適応問題が生じうる。
4 以上から、Aの相続関係を定める準拠法は甲国の法で、Bの相続関係を定める準拠法は乙国の法である。
<以上、佐々木里紗>
AとBとのいずれが先に死亡したと推定されるか、あるいは同時死亡と推定されるかという問題は、権利能力の問題とも見ることができるが、それらが相続との関係で問題となる限り、相続という単位法律関係の問題である[5])。
通則法36条は、相続は被相続人の本国法による。
したがって、Aの本国法である甲1州法、Bの本国法である乙国法(乙1親族・相続特別法)となる。
次に、Aの本国法、Bの本国法ともに相続準拠法の定め次第では、相互に相続人となるという適応問題が生じる。すなわち、Aの本国法によればAの相続人としてBが、Bの本国法によればBの相続人としてAが、それぞれなるような場合である。これは、論理的に両立せず、秩序がない結果となり、いわば不適応問題となる[6])。
通則法は不適応問題に対処する規定は何ら無く、条理により決せられる。
このような場合の国際私法上の処理としては、矛盾する複数の相続関係が法律上成立してしまうことは看過できない秩序破壊であると考え、Aの本国法及びBの本国法を比較し、一方の法律が日本法又は日本法と類似の規定をするのであれば、その適用を優先すべく、それと矛盾する結果をもたらす他方の法律の適用結果を通則法42条の公序則により排除すべきであると考える[7])。<本件では具体的にはどうすべきなのでしょうか? 甲1州法が男性が早く死んだと推定するとし、乙国法が年長者が早く死んだと推定するとしている場合、双方が他方から相続することになってしまいます。この場合、A・Bとも日本との関連性は十分に大きいので、いずれの法か一方の適用結果のみを異常とすることはできず、結局、これらの双方の適用結果が異常な自体を生ぜしめと判断してその結果を排除し、同時死亡の推定をすることは可能でしょうか。>
<以上、尾高大輝>
問題15[国際私法T-5]
1 認知無効確認請求を判断する準拠法はいずれの国の法か、検討する。
2(1) 本問では、認知の方式については問題がなく、実質的成立要件を欠くことによる認知の無効が問題となっている。かかる認知の無効は、認知の成立自体に関わる問題であるから、通則法29条の定める認知の準拠法によると解する。
(2) 通則法29条は、選択的連結を採用しており、複数の法が認知の準拠法となり得るため、いかなる法によるべきかが問題となる。
認知の無効は認知の事後的な否認であり、認知を認めた法によってのみその認知を否認することで足る。また、同条が選択的連結を採用した趣旨は、子の保護の観点から親子関係を成立しやすくする点にある。認知を認めた法によってのみその認知を否認すれば、最小限の無効を認め得るにとどまるため、かかる趣旨に合致する。
よって、選択的に適用される法のうちの一つによって認知が認められた場合は、当該法が認知無効の準拠法となるが、複数の法により認知が認められた場合には、そのいずれの法によっても認知の無効が認められなければならないと解される。
(3) 本問で、29条により準拠法となるのは、乙国法、丙国法である。
そして、乙国は認知制度を有しておらず、裁判によって親子関係の事実認定がされなければならないが、Bは裁判を経ていないから、乙国法によればBによるLの認知が有効となることはない。そのため、選択的に適用される法のうちの丙国法のみによって認知が認められた場合にあたり、丙国法が認知無効確認請求につき判断する準拠法となる。
(4) 以上から、準拠法は丙国法である。
以上。
[1] 櫻田嘉章=道垣内正人編『注釈国際私法(2)』[2011]261頁[国友明彦]
[2] 澤木敬郎=道垣内正人『国際私法入門[第8版]』[2018]39頁
[3] 判タ1002号249頁
[4] 澤木敬郎=道垣内正人『国際私法入門[第8版]』[2018]127頁
[5]) 澤木=道垣内・前掲134頁
[6]) 道垣内・前掲140頁
[7]) 道垣内正人『渉外親子関係の成否の準拠法と国際裁判管轄』判タ1100号196頁<「・・・たとえば、前婚を解消・取消をした女性の再婚禁止期間と嫡出推定との関係は、一国内においては整合的に定められているところ、その期間は国によって異なり得る以上、前婚の夫の本国法はその嫡出と推定され、後婚の夫の本国法上もその嫡出子と推定されるという事態が生じ得る。これは、法例17条<通則法28条>が夫婦の側の本国を連結点として用いて準拠法を複数導き出すという選択的連結をしていることの帰結であって、個々の準拠法のレベルでは処理できないものであり、いわば「不適応問題」である。このような場合の国際私法上の処理としては、矛盾する複数の親子関係が法律上成立してしまうことは看過できない秩序破壊であると考え、上記の嫡出推定をする法律の一方が日本法又は日本法と類似の推定をするものであれば、その適用を優先すべく、それと矛盾する結果をもたらす他方の法律の適用結果を法例33条<通則法42条>により排除すべきであろう。これは通常の場合とは異なる公序側の発動であるが、法例には他に適当な道具は用意されていないように思われる」>