WLS国際民事訴訟法
問題4・6:小林新吾
問題8:野本和希
問題10・14:山尾柚子
問題4
1 AのSに対する@記事の削除、A日本及び甲国での謝罪広告、B損害賠償の請求は全て不法行為を原因とするものであり、民訴法3条の3第8号の適用対象となる。
不法行為に関する訴えは、「不法行為があった地が日本国内にあるとき」に日本に国際裁判管轄が認められる。そして「不法行為があった地」とは、加害行為地のみならず結果発生地も含まれる。不法行為地管轄が認められる趣旨は、一般的に不法行為があった地には証拠が所在していることが多いからである。
もっとも、「外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することができないものであったとき」には管轄原因とはならない。その趣旨は、加害行為者の予見可能性を担保する点にある。
2 本件では、Sのなした加害行為はAのプライバシーを暴露し、また、名誉を侵害する内容の記事をニュース・サイトに掲載したというものである。これは甲3州のSの本店においてなされたものであるから不法加害行為地は甲国となる。
そして、現実にAのプライバシー権及び名誉権が侵害されたのは日本であるから、結果発生地は日本となる。
3 そこで、当該不法行為が日本国内における結果発生が予見できるか否か検討する。
(1) Aは日本法人P社を設立した女性起業家及びP社オーナーとして世界的な名声を得て、複数のジャーナリストから注目されるほどに有名であったことからすると、本件Sの不法行為により、Aが日本国内におり、日本においてAのプライバシー権及び名誉権が侵害され、Aの精神的損害が発生することはSにおいて通常予見され得るといえる。
(2) もっとも、Aの所有するP社株式の資産価値の毀損に基づく財産的損害については、Aのプライバシー権及び名誉権の侵害によりP社のビジネスに支障が生じた結果発生した損害であり、派生的な損害であるといえる。ここでかかる派生的損害についても不法行為管轄の適用対象であるかが問題となる。
この点、先述した不法行為管轄の趣旨から、加害者が行為当時予見可能であったと認められる派生的損害については適用対象になると考える。
本件で、A はP社のオーナーであり、世界的な認知を得ていたことからすると、Sの行ったAのプライバシー権及び名誉権侵害により、Aの発明した商品を販売するP社の信用が毀損され、その結果P社株式の経済的価値は低下することはニュース配信会社であるSにおいては容易に予見することができると考えられる。
そして、先述の通り、Sの不法行為により、日本国内においてAの上記財産的損害が発生することは通常予見できるといえる。
(3) よって、Aの所有するP社株式の資産価値の毀損に基づく財産的損害賠償請求についても不法行為地管轄が認められる。
4 以上より、日本の裁判所は国際裁判管轄を有する。<3条の9への言及も一応しておくべきだと思います。>
問題6
1 日本特許侵害を理由とする損害賠償を求める訴え
(1)専属管轄
民訴法3条の5第3項は「知的財産権のうち設定の登録により発生するものの存否又は効力に関する訴え」については日本の裁判所に専属する旨規定している。
本件で問題となっている権利は特許権であり、「知的財産権」であり「設定の登録により発生するもの」である。
もっとも、同条にいう「効力」とは、特許権者が具体的に有する特許権の具体的効力を差すのではなく、外国裁判所に判断を委ねることが国家行為としての特許権付与を侵害するとみられるものでなければならない。よって「効力」とは単に有効性を意味するものと考える[1]。
本件では、日本特許権侵害に基づく損害賠償請求であって、具体的効力に基づくものであるから「効力」には当たらない。
したがって、日本の裁判所に専属管轄は認められない。
(2)不法行為地管轄
本件ではQのX特許の元となったAの発明を無断に使用し、P社の製法ノウハウを盗用して製造されていると疑われる製品Zの販売によってP社の製品の売上の減少に基づく損害賠償請求をするものである。
ア そこで不法行為地管轄の有無の検討以前に、管轄の原因たる不法行為と認められるか、その判断の方法が問題となる。
(ア) 判例は不法行為と主張されている行為が日本に行われたこと又はそれに基づく損害が日本で発生したという事実が証明されることが必要であり、かつそれで足り、故意・過失の存否や違法性阻却事由の不存在といった主観的事情については本案審理において判断すればいいという客観的要件具備必要説を採用している[2]。
この見解によると、客観的要件については完全な証明が必要となる。しかし、不法行為責任追及訴訟の中には全くの言いがかりといったものも存在することから、被告の応訴の負担にも配慮する必要があるところ、上記見解ではこれを考慮することができず妥当ではない。
そこで、不法行為があったことについての一応の証拠調べ証明が必要であり、本案審理を必要ならしめる程度の心証で足りるとする一応の証明説が妥当であると考える。
(イ) 本件では、Q社による製品Zの販売が開始されてから、製品Zの販売国である日本、甲国及び乙国においてのみP社の製品の売上は減少している。また、製品Zは製品Yに対抗する製品であって、製品YはAの発明したX特許技術と自ら編み出した製造ノウハウを組み合わせて製造された独自性の高い製品であることから、Aの主張通り、製品Zは、X特許のもととなったAの発明を無断で使用するとともに、P社の製法ノウハウを盗用している可能性が高いと考えられる。
よって、本案審理によって詳細に証拠調べをし、不法行為の有無を判断すべき必要性が認められるといえる。
(ウ) したがって、管轄原因たる不法行為といえる。民訴法3条の3第8号の「不法行為」に該当する。
イ 不法行為に関する訴えの国際裁判管轄の有無の判断は先述の通りであるところ、本件では日本特許権侵害がなされた加害行為地はQが製品Zを販売した地である日本である。したがって、日本の裁判所に不法行為地管轄が認められる。<3条の9への言及も一応しておくべきだと思います。>
2 甲国特許侵害を理由とする損害賠償請求及び甲国での製品Zの製造差止め
<上記1(1)の検討をした以上、その裏返しとして、民訴法3条の5第3項を甲国に当てはめて検討し、甲国が専属管轄を有する訳ではない旨の記述を要するのではないでしょうか。そして、外国特許権に基づく損害賠償請求権は不法行為の問題であるとすればいいものの、外国特許権に基づく製造差止請求権は3条の5第3項の「効力」に含まれ、その請求については当該外国の裁判所に専属管轄があるとの判断もあり得ると思います。そうすると、道垣内が教科書で「効力」とは有効性を意味するという部分は修正を要するかも知れません。>
(1)不法行為地管轄
甲国特許侵害なされた加害行為地はQが製品Zを販売した地である甲国である。次に結果発生地もなお甲国特許権が存在する甲国である。
したがって、日本の裁判所に不法行為地管轄は認められない。
(2)併合管轄(民訴法3条の6)
本件ではAは「一の訴えで」日本特許侵害及び甲国特許侵害を理由とする損害賠償請求及び甲国での製品Zの製造差止め請求をしようとしている。
ア そして、先述の通り、このうち日本特許侵害を理由とする損害賠償請求については日本の裁判所に国際裁判管轄が認められ、それ以外の請求については認められない。そこで上記請求の間に「密接な関連がある」かが問題となる。
本件請求は、日本特許侵害を理由とする請求と甲国特許侵害を理由とする請求であるところ、特許権の具体的効力などについてはその国の実質法によって定まるものであり、日本特許と甲国特許は別物であると考えるべきである。また、特許権は国家によって付与されるものであり、主権的行為としての性質を有しているため、日本において外国の特許権の効力などを判断することは消極的にあるべきであると考える。<ここで再び「効力」に言及するのは論理的に問題を生じかねないように思われます。>
したがって、「密接な関連」は認められない。
イ 以上より、日本の裁判所に併合管轄は認められない。
<エ したがって、甲国特許侵害を理由とする損害賠償請求及び甲国での製品Zの製造差止請求については日本には国際裁判管轄がない。>
問題8
1 この場合、Q社は甲国法人であるため、民訴法3条の2の管轄原因はなく、民訴法3条の3以下により検討されることになる。Q社の行為は日本法上刑事罰に相当する行為であるから、不法行為に関する管轄(3条の3第1項8号)を有することになる検討することになるが、P社の製法ノウハウが盗用されているため、加害行為はQのZの製造であり、加害行為地は甲国ということになり、括弧書きの検討が必要となる。結果発生地は被害者が日本法人であるP社であるので、日本ということになる。
<加害行為はノウハウが管理されていた地から持ち出されたことであると考えられ、それを用いて製造したのは持ち出しと一体となる加害行為であって、結果は、当該ノウハウを保持・管理していた者に損害を与えた行為、すなわち、盗取者による製品販売である考えられるのではないでしょうか。そうすると、本件では、加害行為地は、P社がノウハウを管理していたP社日本工場かP社甲国工場かのいずれかであり、結果発生地は、Q社が製品Zを販売している甲国・乙国・日本ということになります。日本は、いずれにしても不法行為地のひとつであるということができると思われます。>
そして、この日本で結果が発生することについてQは予見することができたといえなければならないが、ノウハウの侵害は盗まれた会社が被害者となるため会社の所在地が結果発生地となる。Q社がP社のノウハウを盗用しておいて、P社がどこの国の法人であるか知らないわけはない。そのため、Q社は日本で結果が発生することを通常予見することができたと認定できる。
2 よって、Q社の行為が不正競争防止法に違反であるという事情は、不法行為が明白であるということのほかには、国際裁判管轄の判断において影響はない。
<不正競争防止法21条6項は、平成30年(2018年)改正で挿入されたものです。2012 年以降、新日本製鐵(現・日本製鉄)の高性能鋼板の製法に係る営業秘密が、韓国製鉄メーカーであるポスコに不正取得・使用されたとされる事例や東芝のNAND型フラッシュメモリに係る営業秘密が、韓国電機メーカーであるSハイニックスに不正取得・使用されたとされる事例等、企業の製造ノウハウ、基幹技術の漏えいをめぐる大型の事案が相次いで発生したことを背景に、国外犯処罰を定め、同種の事件の発生を防止しようとしたものです。その要件は、「日本国内において事業を行う営業秘密保持者」の「営業秘密」が盗取等され、不正の利益を得る目的等で、それを日本国外で使用等したことです。したがって、本件に当てはめると、日本で事業を行うP社のノウハウをQ社が直接盗取しなくても、そのノウハウを不正の利益を得る目的等で甲国において使用しているとすれば、この規定により刑事罰の対象となることになります。
問題文では、不正競争防止法によりQ社の行為は処罰されるべきものであるとの条件が与えられているので、そのことが当該行為を理由とする民事訴訟の国際裁判管轄にどのような影響を与えるかが問題となります。本件では、この点を考慮しなくても国際裁判管轄があるとされるとの結論が導かれるのでクルーシャルではありませんが、それでも、より強い議論として、日本で刑事罰を科されるべき場合に民事事件の国際裁判管轄が否定されることがあり得るのか、あり得ないとすれば、一般の管轄原因の検討をするまでもなく、あるいは、一般の管轄原因が仮に認められなくても、緊急管轄として民事事件の国際裁判管轄は認められるということがいえるか否かが問題となり、そのようなことを論じることを期待した問題でした。>
問題10
1 甲国判決は日本で民訴法118条により承認されるか。
2 まず、甲国判決は「外国裁判所」である甲国の裁判所がした「確定判決」といえる。
3 甲国裁判所は、P社のR社に対する債務不存在確認を求める訴えについて「裁判権」(民訴法118条1号)を有するか。「裁判権」有している場合とは、国際法上の裁判権を有しているだけでなく、間接管轄も有する場合を指すところ、本件においては甲国裁判所に間接管轄があるかが問題となる。
⑴
間接管轄の有無については、直接管轄より緩やかに認めてよいとの学説もあり、判例もそのような立場にあると解せる。しかし、そもそも日本で直接管轄を否定すべき場合に間接管轄を肯定することは訴訟法上の正義や主権の観念に反するといえ、直接管轄と同様に判断すべきである(鏡像理論)[3]。
⑵
そこで、本件債務不存在確認を求める訴えについて、甲国裁判所が裁判権を有するか民訴法3条の2以下で検討する。
ア まず、P社は甲国内に主たる事務所又は営業所を有さず、代表者等も甲国内にいないことから民訴法3条の2によっては国際裁判管轄は認められない。
イ 次に、債務不存在確認請求は「契約上の債務に関する請求を目的とする訴え」(民訴法3条の3第1号)であり、P社とR社との間の製造販売契約の履行地は甲国・甲3市の港であったから「契約において定められた当該債務の履行地」が甲国にあるといえるから、裁判管轄が認められる。
⑶
したがって、甲国裁判所は「裁判権」(民訴法118条1号)を有するといえる。
4そして、送達は問題なく行われていることから、同条2号の要件を満たす。
5また、甲国判決は公序に反するような事情もうかがわれず、同条3号の要件を充足する。
6さらに、日本と甲国で相互の保障も認められるから同条4号の要件も充足する。
7よって、甲国判決は日本で承認され、P社のBの主張は認められる。
問題13
1 DのBによるLの認知の無効確認請求訴訟は、「人事訴訟」にあたる(人事訴訟法(以下「人訴法」とする)2条2号)。
人事訴訟の国裁判所管轄については、民訴法3条の2から3条の10までの適用が除外されている(人訴法29条1項)ことから、人訴法3条の2以下の規定により判断する。
2 本件についてみると、認知無効確認の訴えは「身分関係の当事者の双方に対する訴え」(人訴法3条の2第2号)であり、Lは日本に住所を有するから、国際裁判管轄が認められる。
3 また、日本において裁判が行われることで未成年者Lの利益が害されるといった事情もうかがわれないことから、人訴法3条の5の「特段の事情」はないといえる。
4 よって、本件訴えについて日本の裁判所の国際裁判管轄が認められる。