早稲田大学法科大学院2020年度夏
「国際私法I」・「国際私法II」・「国際民事訴訟法」試験問題
ルール
n 文献その他の調査を行うことは自由ですが、この試験問題について他人の見解を求めることは禁止します。答案作成時間に制限はありません。
n 答案送付期限は、2020年7月12日(日)21:00です。
n 答案は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付して下さい。
o 受験する科目について答案を作成して下さい。
o メールの件名は、必ず、「WLS国際私法I」・「WLS国際私法II」・「WLS国際民事訴訟法」と記載して下さい。
o 複数の科目を受験する場合には、それぞれ別のメールで送って下さい。
o 答案は、原則として、マイクロソフト社のワードで、A4サイズの標準的なページ設定にして下さい。
o 答案の最初の行の中央に「WLS国際私法I」等、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載して下さい。
o 頁番号を中央下に付けて下さい。
o 注を付ける場合には脚注にして下さい。
o 10.5ポイントか11ポイントの読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトして下さい。
n 枚数制限はありません。ただし、不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。
n 判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典を記載して下さい。
n 答案の作成上、より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成して下さい。
n これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものにするものです。
n 以下の問題につき、日本の裁判官の立場で、事案の発生時点がいつであれ、すべて現在の法の適用に関する通則法、民事訴訟法、民事執行法(以下、それぞれ「通則法」、「民訴法」、「民執法」という。答案において同じ。)等のもとで検討して下さい。
問題
Aは、甲国人の女性である。甲国は連邦制の国家であり、30の州で構成されている。甲国の連邦法が定めているのは、軍事、通貨等のごく一部の国家秩序に関係する事項だけであり、私法はすべて州法に委ねられている。また、国際私法も州ごとに異なっている。
Aは、1974年に日本で出生した。Aは、12歳から18歳までは、毎年夏休みの1か月、甲国の甲1州に住む父方の祖父母と一緒に過ごしていた経験があり、甲1州の風土が大好きだと12歳の時から一貫して言っており、40歳の時に、将来甲1州に移り住む計画のもと、同州内の湖に面した土地を購入している。なお、Aが18歳の時、上記の祖父母は死亡している。
Aは、18歳までは日本で暮らし、日本で高等学校までの教育を受け、19歳から26歳までの8年間は、甲国の甲2州の大学及び大学院に在籍した。この間も、Aは甲1州を何度か訪問していた。26歳の時、甲国において物理学の分野で博士号を取得した。そして、27歳の時、日本に戻り、甲国での研究成果に基づく発明について甲国及び日本で特許(X特許)を取得した上で、この特許技術と自ら編み出した製造ノウハウを組み合わせて製品Yを作り出した。
他方、Bは、乙国人の男性であり、乙国の一部族である乙1族に属することが乙国法に基づく家族関係ファイルに記録されている。乙国の中で乙1族は独特の文化・伝統を有しており、社会的・政治的にこれを尊重する必要があることから、乙国法は、親族・相続法に関してだけは、一般法とは別に、乙1族の男性が当事者となる場合を適用対象とする乙1親族・相続特別法が存在する。
Bは、1975年に乙国で出生し、音楽大学の卒業まで乙国で生活した後、22歳の時に来日した。
AとBは、A28歳・B27歳の時に日本に所在地する乙国大使館で乙国法上の方式に適合する外交婚をした。この外交婚は乙国法上の方式を具備している。
問題1[国際私法I-1]:A・Bの婚姻の実質的成立要件の準拠法を決定する際のA・Bの本国はそれぞれどこか。
AとBとは日本で暮らし、1年後、その間に子Cが生まれた。
その後、Aは、製品Yの事業化のために日本法人Pを設立し、事業は急速に拡大していき、成功した女性起業家として世界的な名声を勝ち得た。他方、Bは、作曲家と自称し、自由奔放な生活をしてきた。
Bは、15年前、30歳の時、日本に住む当時25歳の丙国人女性Kと深い仲になり、1年後にKは子Lを出産した。LはKの子として丙国国籍を有している。Lは現在14歳であり、Kとともに日本に住んでいる。Bは、Lを認知することをKと約束していたが、なかなかこの約束を果たせないままになっていた。
Bは、曲のインスペレーションを得るため、丙国・丙1市に旅行した。当初の予定では現地に5泊して日本に戻る予定だった。しかし、到着翌日、丙1市で致死率80%に達する新型ウィルス感染症の大量発生があり、丙国は直ちに丙1市を封鎖した。そのため、Bは丙1市のホテルに監禁されたような状況となった。有り余る時間の中、Bはインターネット経由でKと話合い、Kが住む日本の日本1市のウェブサイトから日本の認知届をダウンロードして、これによりLを認知する旨の認知届を適式に作成し、郵便で日本1市役所に送付し、到達した。
なお、乙国は認知制度を有しておらず、裁判によって親子関係の事実認定がされなければならない。他方、丙国は認知主義を採用しているが、認知をするためには公証人が本人の署名であることを認証した公正証書による必要があるとされており、Bはこの要件を具備していない。
問題2[国際私法I-2]:BによるLの認知の実質的成立要件にはいずれの法が適用されるか。
問題3[国際私法I-3]:BによるLの認知は、方式上有効なものか。
Aは女性起業家として名を馳せていることから、複数のジャーナリストから注目されていた。様々な取材活動の過程で、Aの夫であるBには、外に子までなした女性がいることが嗅ぎ付けられ、甲国/甲3州に本店を有するインターネット・ニュース配信会社Sがそのニュース・サイトに英語で記事を掲載した。そして、各国のメディアはS社の記事を要約する形で報道した。
S社の記事には、事実と合致する部分もあるものの、Aのプライバシーを暴露する部分及びAの名誉を侵害する部分が含まれていた。そのため、P社の主な市場である日本及び甲国でのビジネスに支障が生ずるに至り、Aの所有するP社株式の資産価値は毀損された。Aは、Sに対して、@記事の削除、A日本及び甲国での謝罪広告、B損害賠償、以上を求める訴えの提起を考えている。
問題4[国際民訴-1]:Aの上記の各請求の訴えについて日本の裁判所は国際裁判管轄を有するか。
問題5[国際私法II-1]:日本の裁判所の国際裁判管轄が認められるとして、Aの各請求に適用される法はいずれの国の法か。
甲国法人Qは、P社の製品Yに対抗する製品Zを甲国/甲2州で製造し、日本、甲国及び乙国で販売した。Q社による製品Zの販売開始だけの結果か否かは定かではないが、日本、甲国及び乙国におけるP社の製品の売上げは減少した。Aは、製品Zは、X特許のもととなったAの発明を無断で使用するとともに、P社の製法ノウハウを盗用している可能性が高いと考えた。
問題6[国際民訴-2]:P社が、Q社を被告として、日本の裁判所で、日本特許侵害及び甲国特許侵害を理由として、損害賠償及び甲国での製品Zの製造差止めを求める訴えを提起しようとしている。日本の裁判所は、この訴えについて国際裁判管轄を有するか。
問題7[国際私法II-2]:問題6について日本の裁判所の国際裁判管轄が認められるとして、損害賠償及び甲国特許権侵害に基づく製造差止めについて適用されるべき法はいずれの国の法か。
問題8[国際民訴-3]:Q社は、P社の営業秘密を不正の利益を得る目的で使用しており、日本の不正競争法21条6項により同条1項2号違反として処罰されるべきものとする。このことは、P社が、Q社に対して、日本の裁判所で、ノウハウ侵害に基づく損害賠償請求訴訟を提起するとした場合の日本の裁判所の国際裁判管轄の判断に影響を与えるか。
不正競争防止法
21条1項 「次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
・・・
二 詐欺等行為又は管理侵害行為により取得した営業秘密を、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、使用し、又は開示した者」
同条6項
「第1項各号(第9号を除く。)、第3項第1号若しくは第2号又は第4項(第1項第9号に係る部分を除く。)の罪は、日本国内において事業を行う営業秘密保有者の営業秘密について、日本国外においてこれらの罪を犯した者にも適用する。」
問題9[国際私法II-3] 問題8について日本の裁判所に国際裁判管轄があるとして、適用される法はいずれの国の法か。
日本法人Pの工場は日本にもあるが、甲国・甲2州にも同規模の工場がある。今年に入り、甲国にも新型ウィルスの蔓延が始まり、P社の甲国工場では従業員の欠勤が増加し、また原材料の入手にも滞りが生じ、製品Yの生産に支障が生じてきた。そのため、社長のAは陣頭指揮をとるべく日本から甲国に出張した。
P社は、甲2州にある甲国支店の営業努力により、乙国法人R社との間で、かなりの量の製品Yの製造販売契約を獲得し、この契約はP社甲国支店の扱いとされていた。しかし、タイミング悪く、まさにR社向けの生産にとりかかった時点で、上記の通り甲国工場の生産能力の低下に至り、この契約の履行が困難となってきた。この契約は日本語で作成され、製品Yは甲国・甲3州・甲3市の港で引き渡すこと等が定められていたが、明示の準拠法条項は置かれていない。
問題10[国際民訴-4]:今後の展開として、@P社は、甲国の裁判所において、R社に対して債務不存在確認を求める訴えを提起し、P社の請求を認容判決(以下「甲国判決」という。)が甲国法に基づき確定する、Aその後、R社が、日本の裁判所において、P社に対する損害賠償請求訴訟を提起する、BP社は、この日本訴訟において、甲国判決が日本で承認されるので、その既判力に触れる旨の主張をする、以上のシナリオがあり得る。P社のBの主張は認められるか。なお、甲国判決に至る甲国訴訟においては送達は問題なくされ、日本と甲国との間では全てのタイプの判決について相互の保証があるものとする。
問題11[国際私法II-4]:問題10におけるP社のBの主張が認められず、日本の裁判所で、本案審理がされ、R社に対してP社が債務不履行責任を負うか、又は不可抗力を理由に免責されるかが争われることになる場合、いずれの国の法によるか。
P社の資金繰りは急激に悪化してきた。P社の社長Aは、S社の記事による名誉毀損及びプライバシー侵害に心を痛めていたこともあり、P社の事業縮小を考えるようになった。そこで、P社の特許権及びノウハウの侵害をしている疑いがあるQ社に和解を持ちかけ、@発明Xについての甲国特許の譲渡、AP社の甲国工場の譲渡を主な内容とする譲渡契約案(B従業員が望めばQ社が雇用を引き継ぐ旨の条項を含む。)をQ社に提案することを考えている。
問題12[国際私法II-5]:上記の譲渡契約に日本法を準拠法とする旨の条項を置くつもりであり、日本法上問題はないことのチェックを日本の弁護士に依頼する予定である。仮にQ社がこの準拠法条項を受け容れるとして、将来日本においてこの譲渡契約の履行をめぐって問題が生ずる場合、日本法以外の法が適用される事項があるとすれば、その事項については当該法のもとで資格を有する弁護士にチェックを依頼しなければならないと考えている。そのような事項はあるか、あるとすればその事項は何か。
Aは、甲国に滞在してP社の甲国工場の生産体制の立て直しに尽力をしていたところ、甲国のホテルで遺体となって発見された。甲国の当局は本来であれば犯罪性の有無等を調べるために解剖を行うべきところ、新型ウィルスの感染症のおそれがあるため、臨時の行政命令により、Aの遺体は解剖されず、焼却された。そのため、Aの死亡推定時刻は不明とされた。
他方、同じ頃、Aの配偶者であるBは丙国を旅行中に新型ウィルスのため丙国のホテルに閉じ込められていたところ、ホテルの居室で死亡した。丙国においても、甲国の措置と同じく、Bの遺体は解剖をされることになく焼却され、Bの死亡推定時刻も不明とされている。
問題13[国際私法I-4]:AとBとのいずれが先に死亡したと推定されるか(たとえば年長者が先に死亡したと推定する法もある。)、あるいは同時死亡と推定されるかによって、Aの巨額の遺産の行方は大きく影響を受ける。AとBとの相互の相続関係を定める準拠法はいずれの国の法か。
A・Bの間の子Cについて、後見人Dが適法に選任された。DはBによりLが認知されていることを知り、Cのためにその認知の有効性を検討したところ、疑義があると思われることから、BによるLの認知の無効確認請求訴訟を提起しようとしている。
問題14[国際民訴-5]:この訴えについて日本の裁判所は国際裁判管轄を有するか。
問題15[国際私法I-5]:問題14の訴えについて日本の裁判所の国際裁判管轄が認められるとして、認知無効確認請求を判断する準拠法はいずれの国の法か。なお、認知の方式については全く問題ないとする。