2021年度国際私法I

問題2:長谷川裕一

問題3:高橋尚美

問題6:高橋尚美

問題13長谷川裕一

問題2 [国際私法I@]上記の訴えについて、日本の裁判所が国際裁判管轄を認めて本案の審理をしたとする。A・BとCとの間の離縁の準拠法はいずれの国の法か。

 

1.離縁の準拠法の問題については、法の適用に関する通則法(以下、通則法とする)31条2項に規定されており、これに従って準拠法を判断する。通則法31条2項は、離縁について前項前段、すなわち31条1項前段で定まる法を準拠法としている。

これは一般に、断絶型養子縁組においては実方の血族との親族関係が終了しているので、離縁の要件は厳しく制限されているのに対して、普通の養子縁組では比較的緩やかな要件で離縁を認めているため、断絶型養子縁組後、養親が国籍を変更して普通養子縁組制度しかない方が本国法となった場合に、その法に従って離縁することを認めるのは不都合であるから、あくまでも成立の準拠法が認める場合にのみ離縁をすることができるようにする趣旨である。[1]

2.上記の通り離縁の準拠法については通則法31条2項により、同条1項前段で定まる法を準拠法としているところ、これについて検討する。

()まず、本問においてA及びBは夫婦でCと養子縁組をしているところ、通則法には夫婦共同養子縁組についての特別の規定はない。ゆえに、通則法31条1項により、養親である夫婦の夫A、妻Bそれぞれとの間で判断することとなる[2]。そのため、養親たる夫婦の国籍が異なり、夫婦いずれか一方しか自らの本国法上の要件を満たさない場合には問題が生じるが、本問ではAは甲国上の、Bは日本法上のすべての要件を満たしている旨記載されているので、上記の問題は生じない。

よって、本問におけるAC間の離縁の準拠法は、通則法31条1項により、甲国国籍を持つ養親Aの本国法であるので、甲国法ということになる。

()次にBC間の準拠法であるが、これについてはBが二重に国籍を有していることから、二重に国籍を有している者の本国がどちらになるのか別途問題となる。

重国籍者の本国法については、通則法38条に規定があるところ、有している両国籍のうちいずれかが日本の国籍であるときは日本法を当事者の本国法にする旨定められており(通則法38条1項但書き)、本問におけるBは甲国と日本の国籍を有するため、日本法が本国法となる。そのため、BC間の離縁の準拠法は養親Bの本国法である日本法(通則法31条1項)ということになる。

3.以上から、離縁の準拠法について、AC間は甲国法、BC間は日本法が準拠法となる。

(長谷川)

問題3[国際私法IA]2年前の時点で、ABCとの間で離縁が成立する前に、D・EがCのためにそのような行為ABに対して虐待による精神的損害と医療費の賠償を請求する行為>をする法定代理権を有しているか否かを判断する準拠法はいずれの国の法か。DEがそのような行為をするには、いずれの国の法律に基づいてどのような手段を講じればよいか。

 

1 設問前段

 (1) D・EがCのために損害賠償請求をする法定代理権を有するかという問題は、法定代理の内部関係の問題であるから、代理の問題に法性決定される。もっとも、通則法には代理に関する規定が存在しないため、その準拠法は条理によって決するべきである。

まず、代理はその発生原因により法定代理と任意代理の2種類に大別することが出来る。本問で問題となっているのは法定代理であるところ、これは一定の法律関係から当然に発生するものであるから、発生原因たる法律関係の準拠法を適用すべきであると解する[3]

 本問では、D・Eの法定代理権の発生原因は親権であるから、親子間の法律関係の準拠法(通則法32条)を適用することになる。

(2)ところで、通則法32条は、「親子間の法律関係」についての準拠法を定めており、同条の適用の前提として、問題となる者の間に親子関係が存在することが必要となる。つまり、同条の適用をするには、その前に、通則法28条から31条までに定める準拠法により、@嫡出親子関係、A非嫡出親子関係、B養親子関係、以上のいずれかの親子関係が成立していることをチェックする必要があり、これらのいずれもが否定される場合には、もはや32条の適用はあり得ないことになる。

本件問題においては、CABとの間でそれぞれ甲国法及び日本法上の断絶型の養子縁組が成立しており、2年前の時点ではなおこの関係は存続している。

そして、Cとその実父母であるDEとの関係は、通則法32条2項の定める「養子とその実方の血族との親族関係の終了」に該当する問題であるので、同条1項の定める養子縁組当時の養親の本国法、すなわち、本件では、ABの本国法である甲国法・日本法によることになる。そして、両国の法律の内容はこの点では同じであるとされているので、日本民法187条の2とそれと同様の内容を定める甲国法上の規定により、CDEとの親子関係は終了していることになる。

したがって、親子関係に基づいてDECの法定代理人となることはなく、またこの他にCDEとの間に法定代理権が生ずる関係があることは窺われないので、DEにはCの法定代理人となる資格はない。

 (2)ア 本件において、子Cは日本に帰化し、乙国籍を喪失すると同時に日本国籍を取得しているから、同人の本国法は日本法である。これに対し、父D・母Eの本国法は乙国法であるから、子と父又は母の本国法は一致しない。よって、子の常居所地法が準拠法となる。

  イ では、Cの常居所地について、どのような基準で判断すべきか。

常居所地とは、人が相当期間居住することが明らかな地のことであり、これは意思的要素を除いた事実的概念である[4]。したがって、常居所地の決定に際しては、居住意思などの主観的要素ではなく、居住の経緯、居住期間、居住状況等の客観的要素[5]を考慮して判断すべきである。

これを本件についてみるに、Cは、A・Bとの養子縁組によって出生直後に乙国から来日し、以来10年ものあいだ一貫して日本での居住を続けているのであり、人生の殆どを日本で過ごしているといえる。現在は養親A・Bの下を離れ、日本国内の児童養護施設で生活しているとの事情はあるものの、同施設の保護のもと、依然としてCの生活の拠点は専ら日本にあるといえる。また、同人は日本への帰化もしている。これらの事情を考慮すると、Cが相当期間にわたって日本に居住することは明らかであるといえるので、Cの常居所地は日本である。

よって、日本法が準拠法となる。

 (3) 以上より、D・EがCのために損害賠償請求をする法定代理権を有しているか否かを判断する準拠法は、日本法である。

2 設問後段について

(1) 日本民法上、親権者(民法818条)はその子について法定代理権を有するとされているところ(民法824条本文)、「養子」の場合は「養親」以外は親権者となることができない(民法818条2項)。

Cが「養子」にあたるか否かは、養子縁組の準拠法(通則法31条1項前段)として指定される養親の本国法によって判断すべきところ、Aの本国法たる甲国法とBの本国法たる日本法のどちらによっても(特別)養子縁組が成立していることから、Cは「養子」にあたる。そして、その「養親」はA・Bである。

よって、Cの「養親」でないD・EはCの親権を有しないから、その法定代理人となることができない。

 (2) では、D・EがA・Bに対する損害賠償請求を行うために、他にどのような手段によることが可能か。

  この点、法定代理権は後見によっても発生することから、D・Eとしては、後見の準拠法(通則法35条)に基づきCの後見人に就任することで、法定代理人として上記損害賠償請求を行えるようになるとも思える。

  しかし、子の保護はあくまで親権者によるのが原則であり、未成年後見は子の保護のために親権を補充する制度である。すなわち、未成年者が親権者を欠く状態になった時に初めて後見の問題が生ずるのであるから、D・Eとしては、まず@親子間の法律関係の準拠法(通則法32条)に基づき養親A・BのCに対する親権を消滅させ、その上でA後見の準拠法(通則法35条)に基づきCの後見人に就任すべきである。

  なお、前提として、Cは現在10歳であるから、「人の行為能力」の準拠法(通則法4条)として指定される日本法上、未成年者にあたる(民法4条)。

 (3) @A・Bの親権の消滅について

通則法32条に従って準拠法を検討すると、子Cと母Bはいずれも日本が本国であるから、日本法が準拠法となる。

  日本法上、「父又は母による虐待」があるときは、家庭裁判所の審判によってその父又は母の親権を喪失させることができるとされている(民法834条)。そこで、まずD・Eとしては、A・BからCに対する虐待があったことを理由として、家庭裁判所に対し親権喪失の審判の申立てを行うべきである。

(4) ACの後見人への就任について

  次に、後見については被後見人の本国法が準拠法となるところ(通則法35条1項)、Cは日本人であるから、日本法が準拠法となる。

  日本法上、未成年後見は「未成年者に対して親権を行うものがないとき」に開始し(民法836条1号)、最後の親権者の遺言による未成年後見人の指定等(民法839条)があった場合を除き、家庭裁判所が本人又は親族その他の利害関係人の請求によって未成年後見人を選任することになる(民法840条1項)。

よって、D・Eとしては、A・Bの親権を喪失させた後、家庭裁判所に対しCの未成年後見人選任の申立てを行い、自ら未成年後見人に就任すべきである。

 (5) 以上より、D・Eとしては、日本法によって@A・Bの親権を喪失させた上でACの未成年後見人に就任し、その法定代理権に基づいてA・Bに対する損害賠償請求を行うことが考えられる。

(高橋)

問題6 [国際私法IB]1年半前の時点で、上記の甲国のA・B離婚判決は、少なくとも民訴法1184号の相互の保証の要件を満たしていないとの理由で日本では承認されないとする。とはいえ、甲国では離婚は成立しているので、AとFとは婚姻をしたとする(既述の通り、これより先、AはGを認知している。)。甲国の準正に関する法が日本法と同じであるとして、日本から見て、Gは準正によりA・Fの嫡出子になったとされたか。

 

1 Gの準正による嫡出子の身分の取得は、それが通則法の指定する準拠法に適合している場合に限り、日本での効力が認められる。

2 本件では、認知後に父母が婚姻したことによって準正が成立するかが問題となっていることから、準正の問題と法性決定し、通則法30条によって準正の準拠法を決定する。

 (1) 通則法30条1項は、「準正の要件である事実が完成した当時」における、父若しくは母または子の本国法を準拠法として定めている。その趣旨は、通則法28条が嫡出親子関係成立の準拠法として父または母の本国法を指定し、通則法29条2項が認知の準拠法として子の本国法を指定していることを踏まえ、できる限り子の嫡出性が容易に認められるよう父、母、子の本国法の選択的連結を採用した点にある[6]

 (2) もっとも、通則法30条1項にいう「準正の要件」とは何か、いつ要件に該当する事実が完成したのかといった点は、準拠法たる実質法を適用しなければ判断することができない<この答案作成上の問題ではなく、一般的に注意すべき点は、準拠法によっては、婚姻+認知、認知+婚姻という日本法上要件とは異なり、さらに親による準正の意思表示を要するとか、裁判所の許可を要するといった要件もあり得るということです。多くの答案はこの段階ですでに婚姻準正の問題に限定した書き方をしていましたが、この一般論の段階では、この答案のように、特定の国の法律を前提としない書き方が求められます。>。そこで、父、母、子の本国法を適用し続け、いずれかの法によって準正が成立した場合には、日本から見ても子が嫡出子としての身分を取得すると解するしかない[7]

(3) では、本問において、父、母、子の本国法は、それぞれいずれの国の法であるか。

ア まず、父Aは、甲国人であるから、甲国法が本国法となる。

 イ 母F及び子Gは、甲国と乙国の二重国籍を有していることから、通則法38条1項によってその本国法を判断すべきである。

同項本文前段は、国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国があるときには、その国の法を本国法とすると定める。

問題3にて述べた基準を本問にあてはめると、F及びGはいずれも出生以来甲国に居住しており、その居住期間の長さを踏まえると、双方とも相当期間にわたって甲国に居住することは明らかであるといえる。よって、F及びGの常居所地は甲国である。

したがって、F及びGについても、甲国法が本国法となる。

 (4) 以上より、本問は父、母、子の三者とも甲国法を準拠法とする事例であることから、甲国法上準正が成立する場合には、日本においても準正が認められ、GはA・Fの嫡出子としての身分を取得するといえる。

(1) そして、甲国法の準正に関する法は日本法と同じであるから、日本民法789条1項と同様、@父の認知による非嫡出親子関係の成立及びA父母の婚姻が準正の要件となる。

 (2) では、本問において、@Aが認められるか。

  ア まず、@Aの認知によってAG間に非嫡出親子関係が成立しているかが問題となるが、これは非嫡出親子関係の成立の問題に法性決定されるから、通則法29条によって準拠法を決定する。

そして、父の認知による非嫡出親子関係成立の場合、同条1項前段及び2項より「子の出生の当時における父の本国法」又は「認知の当時における認知する者又は子の本国法」を選択的に適用することができる。法が選択的連結を採用した趣旨は、出生後長期間が経過してから認知がなされることもあるから、認知の時点での適切な準拠法の選択を可能にし、また認知の成立が容易になるよう配慮する点にある[8]

本問では、子Gの出生当時の父Aの本国法も、認知の当時における父A・子Gの本国法も、同じ甲国法であるから、同条1項前段と2項のいずれによっても甲国法が準拠法となる。

そして、甲国法上、Aは有効にGを認知しており、AG間に非嫡出親子関係が成立している。<このあたりは、問題文からAGを有効に認知しているとだけ書いてもよいです。>

  イ 次に、AA・F間の婚姻が成立しているかが問題となる。まず、婚姻のが、これは婚姻の実質的成立要件についてはの問題に法性決定されるから、通則法24条1項により準拠法を決定する。

   同項は、「各当事者につき、その本国法による」とする配分的連結を採用しているところ、本問では、婚姻の当事者たるAとFがいずれも甲国法を本国法としていることから、両者ともに甲国法上の婚姻の実質的成立要件を具備する必要がある。

  () 設問の記述によると、甲国法上に重婚禁止の規定が存在するものと解されるから1年半前の時点でA・Bの離婚が成立していたかが問題となる。

ABは甲国の裁判所で離婚判決を得ているが、その判決は日本では承認されないものであった。そのため、日本から見る限り、ABはなお婚姻関係にあると評価される。<ある問題について外国の裁判所が判決を下すと、もはや準拠法は問題とならず、民訴法118条の要件を具備するか否か(通則法が定める準拠法が適用されたことは要件ではない。)だけが問題となり、同条の要件を具備していないと判断されると、日本から見る限り、その判決はないものとなる。そのことは、当該外国法によれば有効な判決であって、当該外国では権利義務及び法律関係は判決通りに評価されているとしても、そのことは日本から見れば無関係である。>

離婚の成否は、離婚の実質的成立要件の問題に法性決定されるから、通則法27条によって準拠法を決定する。同条但書はいわゆる日本人条項であり、夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人である場合、日本法が準拠法となると定める。

これを本問についてみるに、妻であるBは日本国籍を有し、また出生以来日本に居住していたのであるから、その常居所地は日本である。よって、日本法が準拠法となる。

  () 本問では、日本法上、1年半前の時点でA・Bの離婚は成立していない。

   したがって、A・Gの婚姻は重婚に当たり、認められない。

4 以上より、@父の認知による非嫡出親子関係は成立しているものの、A父母の婚姻が認められないから、Gは準正によってA・Fの嫡出子の身分を取得することができない。

5 尚、本件は甲国法という「外国法によるべき場合」であるから、仮に甲国では重婚が許されるとすればAFの婚姻は有効とされる可能性もあり得ることから、公序則(通則法42条)の発動によって甲国法の適用が排除されないかが問題となるも、甲国法の準正に関する法は日本法と同じ内容であり、日本の公序を保護するという趣旨に照らして異常な適用結果とはいえない。よって、甲国法の適用が排除されることはない。

(高橋)

問題13 [国際私法IC]HIは、特別寄与者(日本民法1050条と同じ規定が甲国法にもある。)として相続人らに対してAの療養看護のためにHIが支出した費用及び仮に同等の療養看護を第三者に委託したとすれば支払うことになった費用の合計額を請求している。この請求の成否・内容を判断する準拠法はいずれの国の法か。

 

1.本件はHIの相続人らに対する特別寄与者としての特別寄与料請求(民法1050条)の成否・内容を判断する準拠法についての問題であるが、民法1050条は近年新設された規定であり、文献等にも記載が見つからなかったため、以下完全な私見であるが、述べていく。

2.()まず、特別寄与者の特別寄与料請求の法律関係の性質決定について、民法1050条は相続関係の規定の定めがある第五編に位置するが、<国際私法上、>本件の単位法律関係は相続であるか、あるいは別の単位法律関係であるのか。

()この点に関して、相続人が不存在の場合の相続財産の国庫への帰属及び特別縁故者の財産分与<これでは日本法が準拠法になることを前提としているような表現ぶりですので、「相続人が不存在の場合の相続財産の国庫帰属等の措置」と国際私法上の単位法律関係らしい書き方をすべきです。>の議論を若干の参考にしたい。

相続人が不存在の場合に相続財産が国庫へ帰属するかどうかの問題については、多数説によれば、被相続人と人的関係がある者への財産の承継である相続の問題ではなく、そのような関係のない国庫への帰属の問題であるから、相続の準拠法による問題ではないと解されている[9]

また相続人不存在の場合に、特別縁故者へ財産が分与されるかという問題についても、多数説によれば特別縁故者への財産分与は、権利として認められている相続とは異なり、裁判所の裁量で認められるものであるから、相続とは性質を異にするものであると解されている[10]。これに関連して、特別縁故者への財産分与について、相続財産の処分の問題であるから、条理により、相続財産の所在地法によるとした裁判例<引用>がある[11]

()上記議論は財産分与の問題であり、本件の特別寄与料請求とは性質が異なるが、特別寄与料請求の問題も「被相続人と人的関係がある者への財産の承継である相続の問題とは性質を異にする」という点においては、上記議論と共通すると思われる。民法1050条は相続人ではない者が相続人に対して行う請求権としての性質があり、この性質と財産の承継の問題である相続の性質は、異なるものであるといえるからである。

()では、相続の問題ではないにしても、特別寄与者としての特別寄与料請求の具体的な性質はどのようなものであるか。これについて2つの考え方を提示する。

まず、本件請求権が通則法14条が定める「不当利得によって生ずる法定債権の性質を有するという考え方である。これは、国際私法上、相続人らが法律上の原因なく他人(特別寄与者)の財産又は労務によって利益を受け、そのために当該他人(特別寄与者)に損失を及ぼしていると評価できるからである本来特別寄与者として、もらえるはずである金額分まで相続人らが取得してしまっており、その部分について特別寄与者に返還を請求するという性質の法定債権であるという説明である

もう1つは、本件請求権が通則法14条が定める「事務管理によって生ずる法定債権の性質を有するという考え方である。これは、法律上の義務がないのに看護等の他人[MD1] (被相続人)の事務を処理する事務管理を行い、これによって生じた費用を本来は本人(被看護者でありかつ被相続人) であるものからに請求するところ、本人が死亡したために本人の権利義務を承継した相続人に対して費用償還請求をするという性質の法定債権であるという評価するものである。

上記の2つの考え方について個人的には事務管理としての性質と捉えるのが妥当ではないかと考えている。なぜなら、相続人が不当に利得したものの返還を請求するというよりは、特別寄与者らが支出した費用の返還としての性質を持つと考えるのが自然であるとからである。<これでは理由付けになっていません。むしろ、どちらかを議論することは国際私法上は意味がないことをもっとしっかり書くべきです。>

もっとも、通則法14条から16条までの規定は、「事務管理」と「不当利得」とのいずれについても全く同じ扱いをする旨を規定しており、上記2つのいずれであるかを議論することは国際私法上は意味がない。にしても、事務管理又は不当利得によって生ずる債権の成立及び効力についてはしたがって、本件請求権については、「事務管理又は不当利得によって生ずる債権の成立及び効力」に関して定める通則法14条から16条までの規定の定めるによることになる。

3.通則法14条では事務管理又は不当利得によって生ずる債権の成立及び効力については、その原因となる事実が発生した地の法を準拠法とする旨規定されているところ、本件では、HIAの入院する日本の病院において、病院近くのホテルに滞在しつつ交代でAの療養看護に努めていたため、本件債権の原因となる事実が発生した地は日本であるといえる。

ところで、通則法15条は「前条の規定にかかわらず、事務管理又は不当利得によって生ずる債権の成立及び効力は、その原因となる事実が発生した当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたこと、当事者間の契約に関連して事務管理が行われ又は不当利得が生じたことその他の事情に照らして、明らかに同条の規定により適用すべき法の属する地よりも密接な関係がある他の地があるときは、当該他の地の法による。」と定めているので、この規定の適用により日本よりもより密接な関係がある他の地があるか否かを検討する。本件では、HIの常居所地法は甲国であり、Gの常居所地法も甲国である(BCの常居所地は日本)ので、15条の定める例示に該当することから、HIGに対する請求については甲国法によることが考えられる。甲国はAの本国であって、相続準拠法は甲国法になっているという関係もあり、同じく甲国に常居所を有するHIGとの間で甲国人Aの相続に関連して生じた事務管理・不当利得の問題が甲国法によることは、日本との関係も少なららずあったものの、生前最後の半年の日本滞在は治療のためだけであって、日本での療養看護が行われたことはむしろ偶然ともいうことができる。これに対して、BCが常居所を有する日本での療養看護により不当利得・事務管理の問題が生じているので、HIBCとの間では日本以上に関係がある地は見当たらない。

この点、HIに法が与える債権の内容が相続人の一部との関係では日本法、他の一部との関係では甲国法とすることは何らかの混乱を招く恐れもなくはないが、国際私法の構造上、モザイク的な処理になることは当然あり得ることであって、そのような理由によって最密接関係地法を適用しようとする国際私法の目的に反する処理を正当化することはできないと解される。

4.以上から本件請求の成否・内容を判断する準拠法は、HIGとの間では甲国法であり、HIBCとの間日本法である。

(長谷川)



[1] 澤木敬郎=道垣内正人『国際私法入門[第8版][2018]121122

[2] 松岡博『国際関係私法入門[第4版][2021]219

[[3]] 澤木=道垣内・前掲注[2]213

[[4]] 松岡・前掲注[1]44

[[5]] 水戸家裁平成334日家月451257頁参照

[[6]] 松岡・前掲注[1]212

[[7]] 澤木=道垣内・前掲注[2]116

[[8]] 澤木=道垣内・前掲注[2]112

[9] 松岡博『国際関係私法入門[第4版][2021]246

[10] 松岡・前掲247

[11] 名古屋家審平成6年3月25日家月47巻3号79


 [MD1]