WLS国際民事訴訟法
問題1・4・9:匿名
問題4:西村祥一郎
問題5:高橋尚美
問題1 [国際民訴法@]:2年前の時点(Aは甲国で生活)にD・EはA・BとCとの間の離縁を求める訴えを日本の裁判所に提起したとする。日本の裁判所は国際裁判管轄を有するか。
1. A・BとCの間でなされた養子縁組は特別養子縁組である。
特別養子縁組の離縁の審判の国際裁判管轄については家事事件手続法3条の7による。
2. 本件では、Aは2年前の時点では甲国で生活しているため、「養親の住所が日本国内にあるとき」という3条の7第1号の要件は充たさないが、「養子の実父母」であるD・Eからの申立てであって、Cは日本の児童養護施設で生活していることから、「養子の住所が日本国内にあるとき」に該当し、3条の7第2号の要件を充たす。したがって、日本の裁判所に管轄権が認められる。
3. 3条の14の「特別の事情」の有無を検討する。
まず、被告であるBは日本在住だが、Aは甲国在住であるため、日本で裁判をすることはAにとって負担であるとも考えられる。
しかし、Aは長らく日本で生活しており未だ日本の居宅に身の回りの品を残していたりするなど日本との関係性が無くなったわけではなく、申立人と相手方との間の衡平を害することとなるとは言えない。
また、A・B・Cの生活の拠点は長らく日本にあり、離縁の原因となる虐待等のA・B・Cの生活状態についての証拠も日本にある。したがって、適正かつ迅速な裁判を妨げることもない。
さらに、養子であるCは生まれたばかりのころから10年間日本で生活し、現在も日本の養護施設にいるため、日本国外で裁判をすること、特に被告であるAの居住する甲国で裁判をすることはCにとって全くなじみの無い土地で裁判をすることになり、Cにとって大きな負担である。
したがって、「特別の事情」は認められない。
4. 以上より、日本に国際裁判管轄が認められる。
問題4 [国際民訴法A]:2年前の時点で、D・Eによる訴えによってA・BとCとの間の離縁が認められた後に、D・EがCのためにA・Bを被告としてCの被った損害の賠償請求の訴えを日本の裁判所に提起した場合、D・Eに原告適格は認められるか。また、日本の裁判所は国際裁判管轄を有するか。
第1. 原告適格
1. D・EはCの親権者としてCを代理して本件訴えを提起しようとしていると考えられる。そこで、訴訟担当における当事者適格の判断方法について検討する。
(1) 訴訟担当における当事者適格の判断方法については、見解が分かれている。
手続法上の問題として全面的に法定地法によるとするもの、実体準拠法によるとする説、法定地法と実体準拠法の重畳適用とする説がある。
裁判例においては、任意的訴訟担当の当事者適格について、実体準拠法として指定された国の手続法について考慮しているものもある。
しかし、担当者と被担当者の間の実体法上の法律関係は実体準拠法に依存するため、実体準拠法により画されるべきである一方で、手続きは法廷地法によるべきである。
したがって、実体準拠法により実体法上訴訟担当権限があるかを検討し、それを前提に法廷地である日本の手続法上、訴訟担当を認める要件にあてはめるべきである。
(2) 本件について検討する。
ア まず、D・EにCの代理権があるか否かは代理権の発生原因である法律関係の準拠法の適用によるところ、D・EはCの親権者として訴えを提起していると考えられることから、D・EとCの間の親子関係についての問題と性質決定し、通則法32条により準拠法が決せられる。
(ア) 同条の適用のためにはD・EとCの間に親子関係が成立している必要があるところ、その前提としてA・BとCの間の養子縁組の成立、離縁、それによるD・E間の親子関係の回復について検討する必要がある。
養子縁組については、「縁組の当時における養親となるべき者の本国法によるべき」であるところ(通則法31条1項前段)、本件縁組当時のAの本国法は甲国法であり、Bの本国法は常居所のある日本法である(同法38条1項)。
本件縁組は甲国法上及び日本法上の要件を全て満たしてなされている。
また、「養子となるべき者」であるCの本国法は乙国法であって、乙国の養子縁組の成立要件を具備している必要があるが(同法31条1項後段)、D・Eは縁組に同意しているためこの要件も充たしている。
したがって、A・BとCの間の養子縁組は成立している。
(イ) また、養子と実方の血族との親子関係の終了は養子縁組の当時における養親の本国法によるところ(同法31条2項・1項)、甲国法及び日本法から、断絶型養子縁組によりD・EとCの親子関係は断絶した。
(ウ) 次に、A・BとCの間の離縁についても養子縁組の当時における養親の本国法によるところ(同法31条2項・1項)、日本法上A・BとCとの間の離縁も認められており、甲国法も日本法と同一であるから、A・BとCの間の離縁が認められる。[問題文から離縁は成立しているとされているので、養子縁組の成立に遡って検討する必要はありません。なお。取消線を付したセーフガード条項の検討(3つ上のパラグラフ)は、もしするのであれば、乙国法が適用される事項は限定的ですので、そのようにきちんと書くべきです。]
(エ) D・EとCの間の親族関係が本件離縁によって回復するか検討する。
離縁によるD・EとCの間の親子関係の回復は、離縁の効果であるから、離縁の問題として性質決定され、通則法31条2項によるべきである。[「養子とその実方の血族との親族関係の終了」の問題だから、という理由付けもあり得ると思われます。]
したがって、養子縁組の当時における養親の本国法が準拠法となり、日本法及び甲国法においてA・BとCの間の養子縁組の終了によりD・EとCの間の親子関係は回復しているため(民法817条の11)、D・EとCの間には親子関係が認められる。
イ Cの親であるD・EにCの代理権が認められるか検討する。
上述のように、D・Eの代理権の有無は親子関係の問題として性質決定 され、通則法32条により準拠法が決定される。
Cは帰化しており、「子」であるCの本国法は日本法であって乙国法を本国法とするD・Eと本国法が異なるため、Cの常居所地法である日本法が準拠法となる。
日本法において、成年に達しない子は、父母の親権に服し(民法818条1項)、親権を行う者は子の代表権を有する(同法824条)から、D・Eは日本法上Cの代理権を有する。
ウ 日本の手続法上訴訟担当権がD・Eに認められるか検討する。
当事者能力、訴訟能力及び訴訟無能力者の法定代理は、民法の規定に従うところ(民訴法28条)、上述のようにD・Eは日本民法上Cの法定代理権を有するため、日本の手続法上も訴訟担当権がD・Eに認められる。
2. 以上より、D・Eには原告適格が認められる。
第2. 国際裁判管轄
1. Bに対する訴え
(1) Bの住所は日本国内であるため、日本の裁判所に管轄権が認められる(民訴法3条の2)。
(2) また、Bは日本国内に居住しているため日本で裁判をすることについてBにとっての負担は小さく、Cに対する虐待も日本国内において行われているため、証拠も日本国内にあると考えられる。したがって、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる「特別の事情」(同法3条の9)は無い。
(3) よって、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる。
2. Aに対する訴え
(1) Aが日本国内に住所を有しているかは問題文からは明らかではないが、有していない場合には、3条の2によっては管轄権は認められない。
(2) D・EのAに対する訴えは損害賠償請求であるため、「財産権上の訴え」に当たり、「差し押さえることができる被告の財産が日本国内にあるとき」には、「その財産の価額が著しく低いとき」に当たる場合を除いて日本の裁判所に管轄権が認められる(同法3条の3第3号)。
ア まず、Aは身の回りの品を日本国内の住居に残しているため、「差し押さえることができる被告の財産が日本国内にあるとき」に該当する。
イ 「その財産の価額が著しく低いとき」に当たるか検討する。
(ア) 上記限定の趣旨は、請求と関係の無い財産の所在を理由に広く財産所管轄を認めると過剰管轄となることにある。したがって、「価額が著しく低い」か否かは、当該財産と請求額との関係で相対的に大きな割合の額であるか否かによって判断する。
(イ) 本件では、Aの身の回りの品がどのようなものか判然としないが、スリッパや日用品のようなものに限られるとすれば、請求額との関係で相対的に割合が大きいとは言えず、「その財産の価額が著しく低いとき」に該当し、管轄権は認められない。
しかし、Aの身の回りの品の中に高値の物が多数含まれているような場合には、請求額との関係で相対的に割合が大きいと言うことができ、「その財産の価額が著しく低いとき」に該当せず、管轄権は認められる。
(3) 本件訴えはA・BのCに対する虐待によりCの被った損害についての賠償請求であるから、「不法行為に関する訴え」ということができる(同法3条の3第8号)。
A・Bによる虐待が行われたのは日本であり、「不法行為があった地が日本国内にあるとき」と言えるため、日本には管轄権が認められる。
(4) 「特別の事情」の有無について検討する(同法3条の9)。
Aは2年前の時点では甲国に居住しており、日本で裁判をすることはAにとって負担であるため、当事者間の衡平を害するとも考えられる。
しかし、A・B・Cの共同生活は日本で行われており、A・Bによる虐待は日本国内において行われているから証拠については日本国内に多く存在し、B・Cは日本に居住していることから、日本国内において審理することが適正かつ迅速な裁判に資する。
したがって、「特別の事情」は認められない。
(5) 以上より、Aに対する訴えについても日本の裁判所は管轄権を有する。
(大井)
1 D・Eの当事者適格
当事者適格は実体法上の法律関係に依存することがあり、その法律関係の準拠法に基づいて関係を判断した上で、当事者適格に関する日本の民事訴訟法に照らして適格を認めるか否かを判断すべきである
。
(1) Cの被った損害の賠償請求については、不法行為の問題と法性決定し、通則法17条以下によって準拠法が指定される。
通則法17条は、不法行為によって生じる債権の成立及び効力について、加害行為の結果が発生した地の法によるとしている。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法によるとする。
これを本件についてみると、A・Bの虐待という加害行為による、Cの精神的損害という結果が発生した地は日本であり、また、A・Bはこれを通常予見することができたといえる。
したがって、準拠法は日本法となる。
(2) 日本の民事訴訟法では、原告適格が認められるためには、訴訟物たる権利または法律関係についての訴訟の結果に法的利益を有していることが必要である
。
(3) これを本件についてみると、A・Bに対する損害賠償請求権はCが有しているものであるところ、確かに未成年者は単独で損害賠償請求をすることができない。そのため、親権者又は未成年後見人といった法定代理人として、Cの代わりに請求をすることは想定できる。しかし、そうではなくD・Eが自ら当事者として請求するような法的利益を有するとはいえない。
(4) 以上より、D・Eに原告適格は認められない。
2 損害賠償請求の訴えについての国際裁判管轄
(1) 人に対する訴えは、被告の住所が日本国内にある場合は、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる(民訴法3条の2 第1項)。「住所」とは生活の本拠地をいう(民法22条)。
これを本件についてみると、Bに対する訴えについては、Bは出生以来日本で生活をしているため、日本が生活の本拠地であるといえる。したがって、日本国内に住所があるから、国際裁判管轄が認められる。
しかし、Aに対する訴えについては、Aは2年前の当時、甲国で生活をしている。Bと離婚はしておらず、身の回り品は日本の居宅に残したままであったが、いつ日本に帰国するかといった明確な予定等がないため、生活の本拠は日本ではなく甲国であるといえる。したがって、Aに対する訴えは、民訴法3条の2 第1項によって国際裁判管轄を認めることはできない。
(2) もっとも、本件の損害賠償請求は財産権上の訴えといえるから、請求の目的が日本国内にあるとき、又は当該訴えが金銭の支払を請求するものである場合には差し押さえることができる被告の財産が日本国内にあるときは、その財産の価額が著しく低いときを除いて、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる(民訴法3条の3第3号)。財産の価額が著しく低いときとは、その財産の価額自体が著しく低いか否かに着目するものであると解する
。
これを本件についてみると、損害賠償請求は金銭の支払いを求めるものであり、Aの財産である居宅や身の回り品は日本国内にある。そして、これらの財産は一般的に著しく価額が低いとはいえない。
したがって、Aに対する訴えについても、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる。
(3) また、本件の損害賠償請求は不法行為に基づくものであるから、民訴法3条の3第8号によっても国際裁判管轄が認められるか検討する。
民訴法3条の3第8号は、不法行為があった地が日本国内にあれば国際裁判管轄が認められるときてしている。「不法行為があった地」には、加害行為地・結果発生地のいずれも
含まれる 。
これを本件についてみると、加害行為地・結果発生地のどちらも日本であり、「不法行為があった地」は日本となる。
したがって、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる。
(4) 民訴法3条の2以下によって国際裁判管轄が認められる場合であっても、「事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他の事情」を考慮し、「特別の事情」があるといえる場合は、国際裁判管轄は否定される(民訴法3条の9)。
本件では、そのような特別の事情は存在しないため、国際裁判管轄は否定されない。
(5) 以上より、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる。
(西村)
問題5 [国際民訴法B]:2年前の時点で、Aが甲国においてBに対する離婚請求訴訟を提起したとすれば、甲国の裁判所は、甲国の判例に従って、A・Bがともに甲国国籍を有することを理由に国際裁判管轄を認めたと予想される。甲国裁判所が半年間の審理の後A・Bの離婚判決を下し、これが確定した場合、この判決は民訴法118条1号の要件を満たしているとされたか。
1 本件では、甲国裁判所の下した確定判決という「外国裁判所の確定判決」(民訴法118条柱書)が、日本から見て同条1号の間接管轄の要件を充足するかが問題となっている。
2(1) 間接管轄の判断基準については、明文の規定がなく、直接管轄と同一の基準によるべきとする見解と、間接管轄の基準を直接管轄の基準よりも緩和する見解との対立がある。
後者の見解は、既に外国ではその判決が確定して効力を有している以上、直接管轄よりも緩やかに認めてよいとするものであり、判例(最判平成10年4月28日民集52巻3号853頁、最判平成26年4月24日民集68巻4号329頁)も間接管轄について直接管轄と完全に同一の基準を要求している訳ではなく、かかる見解と親和的である。
しかし、間接管轄も直接管轄も結局は裁判機能の国際的配分という同一の問題にすぎず、両者を異なるルールに服させる必要はない。また、そもそも日本で直接管轄を否定すべき場合に間接管轄を肯定することは、訴訟法上の正義や主権の観点から問題がある[ ]。よって、間接管轄も直接管轄と同一の基準によって判断すべきであると解する(鏡像理論)。
(2) 具体的には、本件裁判は「離婚の訴え」という「人事訴訟」(人訴法2条1号)であるから、人訴法3条の2以下の規定を準用し、「日本」を当該外国に読み替えて間接管轄の有無を判断する。
3 本件において、夫Aは甲国籍を有し、妻Bも日本国籍と甲国籍の二重国籍者である。よって、「身分関係の当事者」たる夫婦の「双方」が当該外国、本問では甲国籍を有する場合にあたるから、人訴法3条の2第5号に基づく間接管轄が認められる。
4 もっとも、本問では、人訴法3条の5の「特別の事情」が認められるとして、上記管轄原因が否定されないか。
本件において、被告Bは、日本において出生し、以来50年近く継続して日本で生活してきたのであり、この間頻繁に甲国を訪れていた等の事情もない。よって、Bの生活の本拠地は専ら日本にあったのであり、このようなBに甲国での本件離婚訴訟の応訴を強いることは、Bにとって過大な負担となり、当事者間の衡平を害する。
また、AとBは日本で婚姻し、20年近く日本で婚姻共同生活を送ってきたのであるから、本件離婚訴訟における重要な証拠は日本に集中しており、事案の性質としても日本と密接な関連性を有する。よって、証拠の所在地等の観点から、甲国で裁判を行うと適正迅速な審理の実現が妨げられることになる。
更に、A・Bの間には未成年の養子Cがおり、Cも出生以来日本に居住している。よって、甲国で裁判を行うと、Cが自らの意思を裁判に反映させるための手続的利益が害されることになる。
したがって、本問では、当事者間の衡平・適正迅速な審理の実現を妨げる「特別の事情」が存在するといえるから、間接管轄は認められない。
5 以上より、甲国裁判所の確定判決は、民訴法118条1号の要件を満たさない。
(高橋)
問題9 [国際民訴法C]:TはQに対して解雇無効確認等を求める訴えを日本の裁判所に提起することができるか。仮に、上記の専属管轄条項が、甲国を仲裁地とする仲裁条項である場合にはどうか。
1. 本件訴えの国際裁判管轄について検討する。
(1) まず、Qは甲国法人であって「主たる事務所又は営業所」は日本国内に無いため、民訴法3条の2による管轄権は認められない。
(2) 同法3条の4第2項により管轄権が認められないか検討する。
ア 本件解雇無効確認等の訴えは、TQ間の労働契約から発生した問題であるため、「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争」に該当する。
また、「労働者」であるTから「事業主」であるQに対する訴えである。
イ 「労務の提供地」とは労働契約に基づき事業主の指揮命令により労働者が勤務する地を言う。
本件では、Tは日本に常居所を有する客室乗務員であり、TQ間の雇用契約によれば、日本を拠点とする場合には、外国の空港到着後はホテルに宿泊し、翌日の便で日本に戻り、日本で休日が与えられることになっているから、ベースとなる勤務地国は日本であって、労働者が勤務する地は日本であると言える。
したがって、「労務の提供地」が日本国内にあるということができ、日本の裁判所に管轄権が認められる場合に当たる。
(3) しかし、TQ間の雇用契約には、解雇を含む雇用契約をめぐる一切の紛争は甲国の裁判所の専属管轄である旨の合意があるため、同法3条の7に照らして本件合意が有効か検討する。
ア 「将来において生ずる個別労働関係民事紛争を対象とする」管轄合意については、同法6項各号の要件を満たす必要がある。
イ 本件合意はQT間の雇用契約内の規定であるから、QT間の雇用契約時にされたものであり、「労働契約の終了の時にされた合意」に当たらず、1号の要件は満たさない。
ウ Tは専属管轄の合意がされた甲国裁判所では無く、日本の裁判所に訴えを提起しているため、「労働者が当該合意に基づき合意された国の裁判所に訴えを提起したとき」にも当たらない。
また、労働者であるTからの訴えであるため、「事業主が日本若しくは外国の裁判所に訴えを提起した場合」にも当たらない。
よって、2号の要件も充たさない。
(4) したがって、専属管轄の合意は無効であり、甲国の専属管轄は認められない。
(5) 日本で裁判をした場合に当事者間の衡平を害し、適正迅速な審理の実現を妨げることとなるような「特別の事情」も存在しない(同法3条の9)。
(6) 以上より、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められ、Tは日本の裁判所に訴えを提起することができる。
2. 専属管轄条項が甲国を仲裁地とする仲裁条項である場合の国際裁判管轄について検討する。
(1) 仲裁合意の場合、「将来において生ずる個別労働関係紛争を対象とするもの」は一律に「無効」となるから(仲裁法附則4条)、本件合意は無効となる。
(2) したがって、上述のように日本に民訴法3条の4第2項により管轄権が認められ、「特別の事情」(同法3条の9)も無い本件では、日本に国際裁判管轄が認められ、Tは日本の裁判所に訴えを提起することができる。
(大井)