法政大学法科大学院2021年度夏
「国際関係法(私法系分野)I」試験問題
ルール
n 文献その他の調査を行うことは自由ですが、この試験問題について他人の見解を求めることは禁止します。答案作成時間に制限はありません。
n 答案送付期限は、2021年7月4日(日)21:00です。
n 答案は下記の要領で作成し、[email protected]宛に、添付ファイルで送付して下さい。
o 問題番号の次に「国際私法 I」との記載のある4問について答案を作成して下さい。他の問題についての答案を書いても結構ですが、成績評価には影響しません。
o メールの件名は、必ず、「HLS国際私法I」と記載して下さい。
o 複数の科目を受験する場合には、それぞれ別のメールで送って下さい。
o 答案は、原則として、マイクロソフト社のワードで、A4サイズの標準的なページ設定にして下さい。
o 答案の最初の行の中央に「WLS国際私法I」等、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載して下さい。
o 頁番号を中央下に付けて下さい。
o 注を付ける場合には脚注にして下さい。
o 10.5ポイントか11ポイントの読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトして下さい。
n 枚数制限はありません。ただし、不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。
n 判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典を記載して下さい。
n 答案の作成上、より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成して下さい。
n これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものにするものです。
n 以下の問題につき、日本の裁判官の立場で、事案の発生時点がいつであれ、すべて現在の法の適用に関する通則法、民事訴訟法、人事訴訟法、民事執行法(以下、それぞれ「通則法」、「民訴法」、「人訴法」、「民執法」という。答案において同じ。)等のもとで検討して下さい。
A(甲国国籍・男)は、30年前18歳の時に甲国から来日し、以来日本に住み、日本で、28歳の時、同じく28歳であったB (日本・甲国の二重国籍・出生以来日本在住・女)と婚姻した。その間には実子はない。
10年前、38歳になったA・Bは、当時生まれたばかりのC(乙国国籍・出生時乙国在住・女)との間で養子縁組をし、Cは来日して日本での生活が始まった。甲国法は養子縁組に関しては日本法と同一であって、Aは甲国法上の、Bは日本法上のすべての要件をそれぞれ満たし、断絶型養子縁組(日本法上は特別養子縁組)をした。乙国法には断絶型養子縁組はないものの、Cの実親であるD・E(ともに乙国人・乙国在住)は甲国法及び日本法上の同意をし、CとD・Eとの実親子関係は断絶している。Cはその後しばらくして日本に帰化した。Cは現在10歳になる。
Aは6年前から、F(甲国・乙国の二重国籍・女)と特別の関係となり、その間に子G(甲国・乙国の二重国籍・男)が生まれ、現在5歳になっている。FとGは出生以来甲国に居住し、Aは頻繁に甲国を訪問し、その際にはF宅に滞在している。
4年前頃、BはFの存在に気が付き、A・Bの関係は険悪となった。そして、その頃から、ストレスが一因となってか、A・BはともにCを虐待するようになった。そのため、Cは日本の児童養護施設で生活している。また、Aは3年前から日本にあるA・Bの居宅を出て、甲国のF宅で生活するようになっている(以来2年半の間はAは甲国を出国していないが、後述のように半年前に入院のため来日している。)。しかし、Aは、Bと離婚したわけではなく、身の回りの品は日本の居宅(その所有権はAにあり、Bは引き続き居住している。)に残したままであった。そのような中、今から2年前、Cの実父母D・EはA・BとCとの間の離縁を求め、Cを引き取りたいと考えた。
問題1 [国際民訴法@]:2年前の時点(Aは甲国で生活)にD・EはA・BとCとの間の離縁を求める訴えを日本の裁判所に提起したとする。日本の裁判所は国際裁判管轄を有するか。
問題2 [国際私法I@]上記の訴えについて、日本の裁判所が国際裁判管轄を認めて本案の審理をしたとする。A・BとCとの間の離縁の準拠法はいずれの国の法か。
ところで、Cは、A・Bから酷い虐待を受けたことが一因になってか、病的な精神不安定症状を示している。乙国法には断絶型養子縁組はなく、乙国法によれば、D・EとCとの親子関係は存続している。そこで、2年前に上記の離縁について検討する際、D・EがCのためにA・Bに対して虐待による精神的損害と医療費を賠償する請求をすることができないかも検討した。
問題3 [国際私法IA]:2年前の時点で、A・BとCとの間で離縁が成立する前に、D・EがCのためにそのような行為をする法定代理権を有しているか否かを判断する準拠法はいずれの国の法か。D・Eがそのような行為をするには、いずれの国の法律に基づいてどのような手段を講じればよいか。
問題4 [国際民訴法A]:2年前の時点で、D・Eによる訴えによってA・BとCとの間の離縁が認められた後に、D・EがCのためにA・Bを被告としてCの被った損害の賠償請求の訴えを日本の裁判所に提起した場合、D・Eに原告適格は認められるか。また、日本の裁判所は国際裁判管轄を有するか。
既述の通り、Aは、3年前から甲国に生活の場を移した(もっとも、日本との関係を完全に絶っているわけではない。)。3年前、甲国に移って直ちに、AはGを甲国法に基づいて認知した。そして、2年前、Aは、Fと婚姻するため、Bとの離婚をすることを検討し始めた(実際には実行しなかった)。
問題5 [国際民訴法B]:2年前の時点で、Aが甲国においてBに対する離婚請求訴訟を提起したとすれば、甲国の裁判所は、甲国の判例に従って、A・Bがともに甲国国籍を有することを理由に国際裁判管轄を認めたと予想される。甲国裁判所が半年間の審理の後A・Bの離婚判決を下し、これが確定した場合、この判決は民訴法118条1号の要件を満たしているとされたか。
問題6 [国際私法IB]:1年半前の時点で、上記の甲国のA・B離婚判決は、少なくとも民訴法118条4号の相互の保証の要件を満たしていないとの理由で日本では承認されないとする。とはいえ、甲国では離婚は成立しているので、AとDとは婚姻をしたとする(既述の通り、これより先、AはGを認知している。)。甲国の準正に関する法が日本法と同じであるとして、日本から見て、Gは準正によりA・Fの嫡出子になったとされたか。
Aは甲国法人Pの社長である。Pは運輸業者であり、陸上運送業から始め、現在では、航空運輸業・海運業にも幅を広げている。2019年冬に始まったCOVID-19の蔓延により世界中の社会・経済活動が著しい影響を受ける中、Pは、その直前の2019年夏に、全席ビジネスクラスの座席を有する定員180名のジェット機を甲国と世界中の重要都市とを結ぶ路線に大量投入していたことから、ビジネス客の激減による大きなダメージを被った。そこで、Aは、Pの事業のうち航空旅客運送事業を分社化して、甲国法人Q社とした(甲国法によるこの分社化に問題はないものとする。)。そして、Pは、その保有するQの全株式を、COVID-19による混乱を最小限に抑えて世界で唯一好調な経済を維持している乙国の法人Rに売却した。
日本法人である銀行Sは、上記のビジネス専用機の導入のために必要な資金をPに融資していた。この融資は日本法を準拠法とする旨の条項を含む契約に基づいて実行された。PによるQの新設分割により、SのPに対する債権はQに対する債権に付け替えられることとされていたため、SとPとの協議が甲国において行われ、QのSに対する債務についてはPが保証する旨の確約書(その旨の記載が宛先S銀行、日付、Pの社長Aのサインとともにある書面であって、S側のサイン等はない。)をSに差し入れたことにより、SはPによるQの新設分割に異議申し立てはしなかった。
問題7 [国際私法II@]:甲国法上の会社分割に関する定めは、日本法のそれと同一であるとする。SのPに対する日本法準拠の債権は、甲国法による新設分割によりQに対する債権に付け替えられたとされているが、日本法が適用される事項と甲国法が適用される事項とに分けて、法の適用関係を述べなさい。
問題8 [国際私法IIA]:QのSに対する債務についてのPの保証については、準拠法の定めのない上記の確約書があるだけである。これにより保証契約が成立したということができるか否を判断する準拠法について、形式的成立要件と実体的成立要件に分けて述べなさい。なお、甲国法には、日本の民法446条2項に相当する規定はなく、保証契約であっても無方式で成立するとされているが、それ以外の点については、甲国法と日本法は同じであるとする。
Pの航空旅客運送事業に従事していた社員は、甲国法による労働者保護を受けつつ(甲国のこの点に関する法は日本法と同じである。)、円滑にQに移籍した。日本を拠点として旅客機に搭乗していた日本在住の客室乗務員も、Qに移籍した(各乗務員とPとの間で締結された甲国法を準拠法とする旨明記された雇用契約によれば、日本を拠点とする場合には、外国の空港到着後はホテルに宿泊し、翌日の便で日本に戻り、日本で休日が与えられるという循環で仕事をすることとされていた。)。
しかし、PからRへのQ株式が全部譲渡され、新たな株主となったRは、世界中にいくつも客室乗務員の拠点を置いていることは非効率であるとし、日本を含む甲国以外の拠点を廃止し、甲国の拠点に集中することとした。そのため、日本に常居所を有する客室乗務員にも甲国へ移るように指示され、大半の客室乗務員は会社の指示に従った。しかし、Tは年老いた両親の介護の問題があり、甲国に移ることを拒否した。
QはTを解雇したとする。甲国法を準拠法とするQとTとの間の雇用契約には、解雇を含む雇用契約をめぐる一切の紛争は甲国の裁判所の専属管轄である旨の規定があるとする。
問題9 [国際民訴法C]:TはQに対して解雇無効確認等を求める訴えを日本の裁判所に提起することができるか。仮に、上記の専属管轄条項が、甲国を仲裁地とする仲裁条項である場合にはどうか。
問題10 [国際私法IIB]:Qよる解雇無効確認等を求める訴えについて日本の裁判所が本案審理することになったとする。この解雇の有効性の判断に適用される法はいずれの国の法か。
Aは、Pには陸上貨物運送部門があり、この部門はCOVID-19蔓延のもとで記録的な収益を上げていることから、疫病による混乱が終息した後のビジネス拡大を見据え、体力のなくなっている他の運送事業会社の買収や、その保有する資産の安値での購入を検討している。いくつもの候補がある中、Aは、クルーズ船の運航を主たる業務とする日本法人Uは資金難となり、その保有する大型クルーズ船W(乙国船籍)を手放すことを検討中であるとの情報に接した。さらに、情報によれば、日本の銀行SはWを目的として乙国法に基づく船舶抵当権の設定を受けたうえでUに融資をしていること、Wの最後の航海において甲国の港でXから供給を受けた燃料の代金を支払っておらず、Xは船舶先取特権を有する模様(この準拠法は不明)であるとのことであった。Pは、Wを購入する際にその船籍を乙国から甲国に変更することを考えている。
なお、乙国法によれば、船舶を目的とする担保物権の優先順位は、ここで関係するものだけを見ると、1位が船舶抵当権、2位が航海を継続するために必要な費用に係る債権を目的とする船舶先取特権(以下、単に「船舶先取特権」という。)であるところ、甲国法によれば、1位が船舶先取特権、2位が船舶抵当権となっている。
問題11 [国際私法IIC]:PがWを購入し、実際に乙国船籍から甲国船籍への変更ができた場合、Sが有するWを目的とする上記の船舶抵当権は通則法に照らしてどのように扱われるか。
また、陸上運送を営む乙国法人Yは、冷凍品の販売が伸びるとの需要予測に基づき冷凍車を大量に購入していたが、乙国での冷凍品の販売は低調なままであり、冷凍車を手放そうとしていた。この情報に接したAは、Yとの交渉の末、乙国での車両登録を抹消した冷凍車500台を日本の横浜港渡しでPが購入することを約し、Pは、実際に日本に輸入されてきた500台を受領して日本で車両登録し、これをPの日本での冷凍品運送事業に投入した。
ところが、しばらくして、このうち1台は乙国の別の運送業者の所有する冷凍車であり、これが盗難され、誰がどのようにしたのかは不明であるものの、乙国の登録が抹消され、YがPに販売するはずの1台と差し替えられて日本に持ち込まれたことが判明した。そのため、当該別の運送業者との間で損害保険契約を締結していた乙国法人の保険会社Zは、当該他の運送業者に対して当該冷凍車の盗難による損害について保険金を支払い、保険代位によってその所有権を取得したと主張し、日本においてPに対して当該冷凍車の引き渡し請求をした。
問題12 [国際私法IID]:そもそも、Zが当該冷凍車の所有権を取得としたということができるか否かについて適用されるべき準拠法について事項別にすべて挙げなさい。そして、Zが当該冷凍車の所有権を取得しているとして、通則法に照らし、ZのPに対する請求が認められるか否かを判断する準拠法はいずれの国の法か。
Aは、上記の通り、ビジネスに邁進していたところ、半年前、治療方法がまだ確立していない難病に罹ってしまった。そのため、Aは甲国から来日し、この難病の治療について最先端の医療を提供することができる日本の病院に入院した。Aの症状は24時間看護を要するものであったが、Bはもちろん、Fも全くAの療養看護をしようとはしなかった。そこで、Aの実の妹H・Iのふたり(ともに甲国人で、Hは内科医、Iは看護婦)が甲国での仕事を休んで日本に赴き、病院近くのホテルに滞在しつつ、交代でAの療養看護に努めた。しかし、半年後の昨日、Aは死亡した。
AとBとの離婚もAとCとの離縁もまだできていない。甲国法の相続等に関する法は日本法と同じである。したがって、相続人は配偶者B、養子C、非嫡出子Gであり、H・Iは相続人ではない。
問題13 [国際私法IC]:H・Iは、特別寄与者(日本民法1050条と同じ規定が甲国法にもある。)として相続人らに対してAの療養看護のためにH・Iが支出した費用及び仮に同等の療養看護を第三者に委託したとすれば支払うことになった費用の合計額を請求している。この請求の成否・内容を判断する準拠法はいずれの国の法か。