早稲田大学法科大学院2022年度春夏学期
「国際関係私法II(国際私法)」・「国際関係私法III(国際民事訴訟法)」試験問題
ルール
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文献その他の調査を行うことは自由ですが、この試験問題について他人の見解を求めることは禁止します。答案作成時間に制限はありません。
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答案送付期限は、2022年7月10日(日)21:00です。
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答案は下記の要領で作成し、提出して下さい。
o 受験する科目の設問について答案を作成し、電子メールに添付して、[email protected]宛に送付して下さい。
o メールの件名は、必ず、「国際私法2022」・「国際民訴2022」と記載して下さい。
o 複数の科目を受験する場合には、それぞれ別の答案を作成して、別の電子メールで送って下さい。
o 答案は、原則として、マイクロソフト社のワードで、A4サイズの標準的なページ設定で、10.5ポイントか11ポイントの読みやすいフォントを使用して下さい。また、全体として読みやすくレイアウトして下さい。
o 答案の最初の行の中央に「国際私法2022」等、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載して下さい。
o 頁番号を中央下に付けて下さい。
o 注を付ける場合には脚注にして下さい。
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枚数制限はありません。ただし、不必要に長くなく、内容的に十分なものが期待されています。
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判例・学説の引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典を記載して下さい。
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答案の作成上、より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成して下さい。
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問題に誤記があるのではないかとの疑いがある場合には、早めに上記のアドレス宛てに通知して下さい。
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この試験は、成績評価のための情報のうち、100%分に相当するものにするものです。
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以下の問題につき、日本から見て、法の適用に関する通則法、民事訴訟法、人事訴訟法、民事執行法(以下、それぞれ「通則法」、「民訴法」、「人訴法」、「民執法」という。答案において同じ。)等に照らして答案を作成して下さい。問題文中で定義した略語もそのまま使用して下さい。
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甲国人の男性Aは、甲国でコメディアンとしての活動を中心に大成功し、かなりの資産を形成した。そして、35歳の時、日本映画を見たことをきっかけに日本文化に魅了され、甲国でのことをすべて捨て、それまで甲国で一緒に暮らしていた2歳年上の甲国人女性Bにも何も告げず、単身来日した。
Aは、日本で瞬く間に日本語を習得し、日本で外国観光客を顧客とする旅行業務を行う日本法人Cを設立し、人の心を推し量る天賦の才を発揮したサービス提供により、Cは売り上げを伸ばしていった。私生活では、来日後知り合った1歳年上の乙国人女性Dと一緒に大阪に住んでいた。
Aは40歳になり、Cが軌道に乗った頃、東京に住む同じ歳の日本人女性Eと知り合い、1年後、AはDと別れ、Eと婚姻した。AとEとは東京にある甲国の大使館で外交婚をした。甲国法によれば、甲国人と他の国籍の者との婚姻についても甲国大使館で婚姻することができるとされている。Eは、上記の外交婚をした日の翌日、住所のある区役所の戸籍係においてA・Eの婚姻届を提出した。
問題1[国際私法@]日本法上、A・Eの婚姻は、甲国法上の婚姻か日本法上の婚姻か。仮に甲国法上の婚姻であるとされ、甲国法によれば離婚が禁止されている場合、そのことは、A・Eが将来離婚することになった場合にいかなる意味を持つか。
AとEとが有効に婚姻した後、Dは、Dが出産した子F(乙国人)の父はAであり、Fの親権者としてFの扶養料を請求する旨Aに告げた。これに対し、AはFとの父子関係を認めず、Fへの扶養料の支払いに応じなかった。
問題2[国際私法A]甲国法は事実主義(親子関係の有無は証拠に基づき事実としてそうであるか否かによる法制)を採用しているが、乙国法は認知主義(非嫡出親子関係の成立には認知を要する法制)を採用している。A・Fの間の親子関係の有無を定める準拠法はどこの国の法か。
甲国法によれば、父子関係の存在を主張する側が、父とされる者と母との同居の事実と同居期間が子の懐胎と矛盾しないことを示せば父子関係の成立が一応証明されるとされ、子が自己のDNA情報を開示することを承諾している場合において、父とされる者が自己のDNA情報を示して父子関係の不存在を証明しないときは、父子関係が認められる。
問題3[国際私法B]本件では、甲国法に照らせば、大阪でのA・Dの同居期間等からA・Fの父子関係は一応証明され、Dは親権者としてFのDNA情報の提供を承諾している。そのため、甲国法によれば、AがDNA情報を示して父子関係がないことを証明しない限り、父子関係があるとされる。この点につき、Aは、(i)このような証明責任の問題は手続問題であり、日本では日本法によればよく、甲国法による証明責任の配分は適用されないと主張するとともに、(ii)仮に甲国法が適用されるとしても、AのDNA情報はプライバシーにかかわることであり、AにDNA情報の提供を強要し、Aがその提供を拒むと、Aに不利益な推定をして父子関係を認定する甲国法の適用結果は日本の公序に反すると主張している。この問題が日本の裁判所に持ち込まれた場合、甲国法に基づいてA・Fの父子関係は認められるか。
同じ頃、甲国に住むBは、その子G(甲国人)の親権者として、AとGとの父子関係存在確認を求める訴えを提起した。Bが依頼したGの代理人弁護士は、日本に住むAに対して、上記の甲国訴訟に係る訴状と第1回期日への出廷を求める呼出状を民間宅配業者を使って送付し、Aは配達員に求められるままサインをして受領した。この送達は甲国法上適法とされるものであった。
問題4[国際民訴@]甲国も日本も「民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約」(以下「送達条約」という。)の締約国である。日本から見て、上記の送達はどのように評価されるか。
甲国ではA欠席のまま上記の父子関係存在確認訴訟においてGの請求が認められ、A・Gの父子関係を認める判決が下され、確定した。
問題5[国際民訴A]上記の判決をした甲国の裁判所の国際裁判管轄は、甲国法上、A・Gがともに甲国人であることに基づいていたとする。この甲国判決の日本での効力が問題となる場合、間接管轄についてどのように評価されるか。なお、その他の外国判決承認執行要件はここでは検討する必要はない。
以下では、A・Fの父子関係も、A・Gの父子関係もいずれも認められるものとする。
問題6[国際私法C]FのAに対する扶養料請求、GのAに対する扶養料請求、それぞれに適用される準拠法はどこの国の法か。
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Aが代表者を務めるCは、日本への外国観光客の増加に伴い、急成長をしていった。Cは、ライバル企業との差別化を図るべく、乙国法人Hが開発した言語デバイス(言語の違いを乗り越えて双方向コミュニケーションを可能とする超小型装置。以下「言語デバイス」という。)の日本での独占販売権を取得する契約(以下「言語デバイス契約」という。)をH社との間で2019年3月1日に締結した。この契約には、契約期間は3年間とし、2019年末までの最低取引量10万セット(Cからの追加発注により2019年末までに納入された分を含めて単価5万円。以下単価を除き同じ。)、2020年1月から12月までの最低取引量30万セット(単価4万円)、2021年1月から12月までの最低取引量50万セット(単価3万円)ドルとする旨の条項とともに、次のような条項が含まれていた。
P条(1):本契約は、2019年3月1日に乙国で施行されている乙国法によるものとする。この日の翌日以降に制定又は改正された乙国法は、本契約には適用されない。また、乙国法のうち、乙国人又は乙国法人のみを優遇することを定めるものは適用されない。
(2):前項の規定は、本契約に関連する不法行為請求についても適用する。
Q条:本契約をめぐる一切の紛争は、東京地方裁判所における訴訟により解決するものとする。
C・H間の言語デバイスの取引は2019年分については問題なく行われた。CはHに25万セットを追加発注し、計35万セットを日本市場で売り上げるとともに、言語デバイスの評判との相乗効果により、外国観光客の人気も集め、日本市場での占有率が急上昇した。ところが、2020年初頭から世界的に致死率の高い疫病が蔓延し、各国とも出入国を厳重に管理し、外国から日本への観光客はほぼゼロになってしまった。そのため、CはHとの契約の見直しを求めたが、Hはこれに応じず、2020年の取引は契約通りに行われた。
2020年分として引き取った言語デバイス30万セットの在庫を抱え、さらに2021年分50万セットの供給を受けることになるCは、日本の教育機関への言語デバイスの売り込みを図り、2020年末までに100万セットを超える販売予約を獲得することができた。ところが、今度は逆に、Hは、言語デバイスに必要な半導体の調達ができず、製造数量はゼロとなり、2021年分50万セットのCへの供給ができなかった。
これに先立ち、乙国議会は、乙国の産業界からの要請により、疫病蔓延により疲弊している乙国の産業基盤の維持強化のため、乙国に製造拠点を置く法人(いずれの国の法人かは問わない。)が当該製造拠点において取引先との契約通りの製造ができなかった場合において、納品日が2020年1月1日から追って定める日までの間であるときは、その原因は疫病蔓延であるとみなし、不可抗力により免責を認めること等を定める立法(以下「不可抗力特別法」という。)をし、この法律は2020年5月1日に施行され、2020年1月1日に遡及して効力を有するものとされた。
問題7[国際私法D]本件をめぐる訴訟が日本で行われる場合、言語デバイス契約P条(1)との関係で、乙国法の不可抗力特別法の適用はどうなるか。また、同条(2)はどのように評価されるか。
問題8[国際民訴B]Cは、東京地裁においてHに対して言語デバイス契約違反を理由とする損害賠償請求訴訟を提起した。これに対して、Hは、日本の弁護士を選任した上で、疫病の蔓延のため日本への渡航ができない状態では攻撃防御を十分に尽くすことができないことを理由として、言語デバイス契約Q条の管轄合意は無効であり、訴えは却下されるべきであると主張している。東京地裁はどのように対応すべきか。
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この頃、甲国と乙国の関係が急速に悪化していった。そのような中、Aは、日本で記者会見を開き、乙国の政府・議会は腐敗に満ちており、そのような中から生み出され、実施される乙国の様々な政策は世界の政治・経済に多大な悪影響を与えており、その元凶が乙国大統領であること、また、乙国の政府・議会と緊密な関係を構築して自らの利得に結び付けている乙国の悪徳企業・悪徳経営者が多く存在し、その代表格がHとその社長I(乙国に常居所がある。)であること等の発言をし、これは世界中に配信された。なお、この記者会見中、Aは上記の言語デバイスに関する訴訟には一切触れず、実質的内容もそれとは無関係なものであった。
Iは、上記の記者会見により名誉を棄損され、単に精神的ダメージを被っただけではなく、新たに言語デバイスの販売を始めた丙国でのビジネスに支障を生じたと主張して、Aに対する損害賠償請求訴訟を東京地裁に提起した。
問題9[国際私法E]仮に東京地裁がこの裁判について本案判決を下すとして、Iの損害賠償請求に適用される準拠法はいずれの国の法か。
上記の提訴の直後、突然、乙国軍が甲国の領土に侵入し、両国軍は戦闘状態となった。そのタイミングは甲国の大統領選挙の直前であり、Aは、Cの代表者の地位を妻Eに譲り、この選挙に急遽出馬した。Aは甲国でかつての人気コメディアンとして知名度があったことに加え、突然の出国から約20年振りに甲国に戻ってきたAの愛国心溢れる演説により、圧倒的多数の票を集めて甲国大統領に当選した。
問題10[国際民訴C]Aの弁護士は、東京地裁でIの提起した訴えに対する本案前の抗弁として、Aは甲国大統領であるので、日本の裁判権に服することはなく、この訴えは却下されるべきである旨主張した。この本案前の抗弁は認められるか。
他方、Hは、Aの上記記者会見でHの信用が棄損されたこと、その発言はCの代表者として行ったものであることを主張し、乙国の裁判所にCに対する損害賠償請求訴訟を提起した。Cが乙国での代理人弁護士の選任に手間取っている間に、乙国裁判所は、C欠席のまま、Cに対して、補償的損害賠償100万ドルに加え、懲罰的損害賠償950万ドルをHに対して支払うことを命ずる判決を下し、これは確定した。そして、Hは、乙国内に存在したCの資産に対するこの判決債権全額の強制執行により、1050万ドルを手にした。
問題11[国際民訴D]判決国である乙国での懲罰部分を含む1050万ドルの強制執行により乙国の資産を失ったCは、Hの保有する多数の日本の特許権について仮差押命令を得た上で、乙国で執行された懲罰部分950万ドルは不当利得であると主張し、その返還を請求する訴えを東京地裁に提起した。この請求は認められるか。なお、上記の仮差押された特許の価額は約5億円相当であり、また、日本では外国判決のうち懲罰的損害賠償を命ずる部分の執行は公序違反として拒否されることが判例により確立していることを前提とする。