早稲田大学法科大学院2023年度春夏学期

「国際関係私法II(国際私法)「国際関係私法III(国際民事訴訟法)試験問題

ルール                    

n  文献その他の調査を行うことは自由ですが、この試験問題について他人の見解を求めること、自己の見解を他人に伝えること等は禁止しますAI(人工知能)を利用したソフトウェアその他これに類するものは、文献・裁判例等の検索にのみ利用を許可します

n  答案作成時間に制限はなく、枚数制限もありませんが、不必要に長くなく、内容的に必要十分なものが期待されています。

n  答案送付期限は、2023710()20:00です。

n  答案は下記の要領で作成し、提出して下さい。

o  国際関係私法II(国際私法)2単位と国際関係私法III(国際民事手続法)1単位とに関する試験問題が混在していますので、前者の科目の受験者は国際私法と数字の表示のある青字の問題について、後者の科目の受験者は国際民訴と数字の表示のある緑字の問題ついて、それぞれ答案を作成してください。

o  答案は、電子メールに添付して、[email protected]宛に送付して下さい。

o  両科目を受験する場合には、それぞれ別の答案を作成して、別の電子メールで送って下さい。

o  メールの件名は、必ず、それぞれ「国際私法2023・「国際民訴2023」と記載して下さい。

o  答案は、マイクロソフト社のワード又はこれと同等のもので、A4サイズの標準的なページ設定にし、10.5ポイントの読みやすいフォントを使用して下さい(この文書のフォントはMeiryo UI)。最初の行の中央に「国際私法2023」等、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載して下さい。必ず頁番号を中央下に付けて下さい。注を付ける場合には脚注にして下さい。全体として読みやすくレイアウトして下さい。

n  判例・学説を参照した際にはそれらの引用が必要です。他の人が検証できるように正確な出典を記載して下さい。

n  答案の作成上、より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成して下さい。

n  これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものにするものです。

n  以下の問題につき、日本の裁判官又は弁護士の立場で、事案の発生時点がいつであれ、すべて現在の法の適用に関する通則法、民事訴訟法、人事訴訟法、家事事件手続法、民事執行法(以下、それぞれ「通則法」、「民訴法」、「人訴法」、「家事法」、「民執法」という。答案において同じ。)等のもとで検討して下さい。

n  「国」という場合、地域的不統一法国については、文脈により、国の一部の法域も含みます。また、登場するいかなる外国法からの反致も成立しないものとします。遅延利息等について考慮に入れる必要はありません。

n  全体のストーリーは一貫したものですが、各問題は相互に独立しており、一の問題文中の状況等の記載は当該問題についてのみ存在するものです。

甲国生まれの甲国人男性Aは、乙国(乙@州と乙A州からなる地域的不統一法国)の大学院に在学中、乙国の一地域である乙@州を旅行で訪れた際に乙@州生まれの乙国人女性Bと出会い、婚姻した。そして、大学がある乙A州でABの婚姻生活が始まり、6か月後に甲乙二重国籍の子Cが出生した。

Cの出生直後、甲国が乙国に軍事侵攻し、戦争が勃発した。まもなく乙国内では甲国人の活動に対する規制が始まり、Aの身の危険も懸念されるようになった。そこで、ABC(この時点で生後1か月)は、国際人権保護団体の支援により乙国を密かに出国し、いくつかの国を経由して、日本への入国することができ、無条件の在留が認められた。これは甲乙戦争に伴う日本政府の特別措置によるものであって、ABCは難民認定を受けていない。

ABは日本での生活が5年となり、それぞれ日本にある外国語学校の甲国語・乙国語教師としての職を得て安定した生活を営み、一家は日本での生活になじんでいった。そのような中、Bは、日本入国に際して世話になった上記の国際人権団体の日本支部職員である日本在住の日本人男性Dと性的関係を持つに至った。Dには日本人妻Eがいる。

なお、甲国・乙国の二重国籍のCは、甲国に行ったことはなく、乙国との関係は乙A州で出生から約1か月住んでいただけである。Bは、出生からAとの婚姻まで25年間乙@州で生活しており、乙A州で生活したのは、Aとの婚姻後、乙国出国までの約7か月の間だけであった。乙@州と乙A州とは歴史・文化・主な宗教等が異なり、Bは乙A州の生活に馴染む努力を始めたばかりであった。

国際私法1甲国も乙国の乙@州・A州も裁判離婚しか認めておらず、離婚後の単独親権者の指定も裁判によって決定することとなっているにもかかわらず、A・Bは、日本で協議離婚をし、5歳になったCの親権者をABの合意によりBとすることとし、これを実行しようとしている。これは可能か。

Bは、Aとの離婚の日から90日後、日本で子Fを出産した(乙国の国籍法により母が乙国人であることからFには乙国国籍を与えられている。)。DはFを認知しようと考えている。なお、甲国法も乙国の乙@州法・乙A州法も、嫡出推定を含む嫡出・非嫡出の制度について、「民法等の一部を改正する法律(令和4年法律第102)」の施行後の民法と下記の点を除き全く同じルールを有している。他方、甲国法にも乙国の乙@州法・乙A州法にも、父による子の認知の場合には、当該子の直系尊属の生存者中の最年長の男性の同意(認知される子の福祉に繋がる認知であるか否かを基準に同意するか否かを決定しなければならないと定められている。)を要するとのルールがある。これに該当する男性G(乙国人)は甲乙戦争勃発前には生存していたことは確かであったが、両国軍が一進一退を繰り返している乙@州の甲国との国境に近い地域に居住にしていることから、たとえGが生存しているとしても、DによるFの認知につきGの同意を得ることは極めて困難な状況にある。

国際私法2DFを認知するには、いずれの国の法により、どのようなことをすればこの認知ができるか。

Aは、Bとの離婚後、単身で丙国に移住したが、Cの養育費をBの指定する日本の銀行口座に送金し続けていた。離婚から1年後、ACと会いたい旨Bに申し入れ、Bはこれに難色を示した。

国際私法3:日本で裁判になる場合(国際裁判管轄は認められるとする。)ACとの面接交渉の準拠法はいずれの国の法か。

ACとは結局1度会うことができただけであった。その後、BCF3人の日本での生活中、6歳になったCが幼いFをいじめ、児童相談所の訪問を受ける事態となってしまった。そこで、Bは、乙国の乙@州の実家にいる両親と相談し、Cを乙@州にある全寮制のH小学校(教育・寮生活はもっぱら乙国語による。)に入れた。Aは、BからCの生活の変化を全く知らされず、CH小学校入学から3年が経過した頃(C9歳の頃)、ようやくCがひとりで乙国に住んでいることを知った。既にCは乙国で3年を過ごしており、CH小学校入学直後にB方の祖父母が甲乙戦争により死亡してしまったこともあり、長期休みの期間中も寮生活を続け、乙国を全く出ていない。

そこで、Aは自分がCを監護養育すべく、日本の裁判所にCの親権者のBからAへの変更を申し立てた。なお、甲国人であるAは戦争相手国である乙国には入国することができない。

国際民訴1:この親権者変更申立てについて、日本の裁判所に国際裁判管轄はあるか。

ところで、丙国に移住したAは、インターネットを介した有料サービス(以下「本件サービス」という。)提供をする丙国法人P社を設立し、その事業は急速に成長していった。本件サービスは言語に依存することから、言語域ごとに子会社の設立又は外国会社との提携により世界展開を進めていった。P社は、日本語顧客の獲得のため、日本法人Q社との間で業務提携契約(以下「本件業務提携契約」という。)を締結した。本件業務提携契約には、次のような条項が含まれている。

@     P社の本件サービスのプログラムを提供し、Q社はこれをもとに日本語版を作成すること(以下その日本語版のプログラムにより提供されるサービスを「本件日本語サービス」という。)

A     本件日本語サービスの宣伝広告活動、本件サービスの更新に伴なう本件日本語サービスの更新、その他本件日本語サービスに係る営業活動は、P社の承認のもとにQ社の費用で行うこと、

B     本件日本語サービスの顧客はQ社との間でそのサービスの利用に関する契約(以下、「本件利用契約」という。)を締結するが、本件利用契約の内容についてはP社の承認を要すること、

C     本件日本語サービスの顧客は月々の利用料をクレジット・カードにより円でQ社に支払い、毎月10日に、前月の利用料総額の50%をQ社からP社に支払い、残りの50%はQ社の取り分とすること。

本件業務提携契約は、P社が外国会社と提携して事業を行う場合に用いる定型的な契約雛型をもとに、日本法人を業務提携の相手方とするために必要な最小限度のアレンジをしたものであって、契約書の用語は丙国語である。

国際私法4:本件業務提携契約書には準拠法条項はない。本件業務提携契約の準拠法はいずれの国の法か。

Q社は本件日本語サービスの顧客増加のため様々な営業活動を行い、当該サービス開始後10年後、本件日本語サービスの売上げはP社の丙国語ビジネスに次ぐ世界2位の規模となった。これを受け、P社は、本件業務提携契約を解除して、P社の100%出資による子会社を日本に設立し、これを通じたビスネスに移行させることを目論むようになった。本件業務提携契約は1年毎の自動更新であり、解約には6か月の予告期間を置くことと、1億円の固定額の解約金(本件日本語サービスの経済的価値は現時点で500億円を下らないとされており、当初のP社・Q社間の力関係を反映して極めて低額な解約金となっている。)P社がQ社に支払うのと引き換えに、Q社からP社に本件日本語サービスに係る一切のデータ・権利等を譲渡することを定めた条項がある。P社内での本件業務提携契約解約に関する検討過程において、日本の弁護士から、日本の裁判例には、継続的契約については約定通りの条件での解除を容易には認めないものが少なくなく、また、損害賠償額の予定についても無制限に有効とされるわけではないことから、解除自体についても解約保証金の額についても、Q社との間で相当なトラブルが予想されるとのメモランダムが提出された。

国際私法5:本件業務提携契約には、準拠法は丙国法である旨の明文の規定があるとする。にもかかわらず、上記のメモランダムは日本法の適用を前提としている。P社による当該契約の解除に関連して日本法が適用されることはあるか。あるとすればどのような事項について、どのような理由からか。

そのような中、本件日本語サービスの想定外の挙動により、本件日本語サービスの顧客1000万人の一部である1万人の個人情報がインターネット上に拡散するというトラブルが発生した(以下、「本件情報漏れトラブル」という。なお、本件サービス及び他の言語版のサービスではそのような被害は生じていない。)Q社と本件日本語サービスの顧客との間の本件利用契約には、P社の意向により、次のような条項が含まれている。

(a)   本件日本語サービスを利用することによって何らかの損害が顧客に発生した場合、Q社は5 丙国ドルに相当する日本円(500)の損害賠償金を当該顧客に支払うこと、

(b)   本件利用契約の準拠法は丙国法であること、

(c)    本件利用契約をめぐる全ての紛争についての訴訟は、丙国の首都を管轄する第一審裁判所の専属管轄とすること。

甲国在住のRは、日本語に堪能なことから本件日本語サービスの本件利用契約をQ社との間で締結し、支払いは日本で発行されたクレジット・カードを用いて支払ってきた。Rは、甲国で著名なインターネット上の人物であり、その情報発信活動により相当な収入を得ていたところ、本件情報漏れトラブルの被害者1万人に含まれてしまい、丙国国籍を有することを含む個人情報が公となってしまった。丙国は甲乙戦争で乙国に軍備の支援していることから、Rの甲国での人気は急落し、情報発信活動からの収入はほぼゼロにまで落ち込んだ。そこで、Rは甲国においてQ社に対する損害賠償請求訴訟を提起した。Q社は下記(A)から(D)を含む全ての争点について争ったが、甲国裁判所は、Q社はR800万甲国ドル(8億円)支払えとの判決を下し、確定した(以下「本件甲国判決」という。)。本件甲国判決には、以下の判示事項を含んでいる。

(A) 本件利用契約は消費者契約であること、

(B) 同契約の上記(c)の専属管轄条項は、甲国の国際裁判管轄ルールによれば認められず、消費者である顧客の住所地国である甲国には管轄があること、

(C) 甲国の国際私法上は消費者契約についての当事者自治は一切否定されているので、上記(b)の準拠法条項は無効であり、準拠法は消費者であるRの常居所地法である甲国法であること、

(D) 上記(a)の損害賠償額の予定は、甲国法によれば消費者にとって不当であって無効であるので、実際の損害額200万甲国ドル(2億円)の賠償請求を認め、さらに、上記(B)及び(C)のような不当な条項を消費者契約に置くという悪性の強さに鑑み、追加で600万甲国ドル(6億円)の懲罰的損害賠償金の支払いをQ社に命ずること。

そして、RQ社に対して本件甲国判決に基づく執行判決請求訴訟を日本の裁判所に提起した。これに対して、Q社は、様々に争っているところ、民執法245項により適用される民訴法1181号の要件具備につき、次のように主張している。すなわち、確かに民訴法3条の75項及び3条の41項だけに照らせば日本でも上記の(B)と同じ判断になるが、本件日本語サービスは全てオンライン上で完結するものであり、かつ、Rが日本で発行されたクレジット・カードで利用料金を支払っていることから、Q社としてはRが甲国在住であることは認識することができなかったという事情があり、そのような場合にまで管轄を認めることは消費者契約をする事業者にとって余りに酷であり、応訴を強いることは事業コストの上昇を招き、消費者全体の利益に反することから、日本では民訴法3条の9により訴えが却下されるべき場合であったとの主張である。そして、証拠によれば、確かに、外国在住者を顧客とすることのプラスとマイナスを評価し、外国居住者からの本件利用契約の申込みには応じないことをQ社の社内で決定し、本件日本語サービスのサイトにはこのサービスが日本在住者のみを対象とするものであるの旨記載していた。しかし、本件日本語サービスのプログラムには、日本在住か外国在住かをチェックし、外国在住者からの本件利用契約の申込みには応じないようにする仕組みは実装されていなかった。

国際民訴2本件甲国判決は民訴法1181号の要件を具備していないとの上記のQ社の主張は認められるか。

その後、Rは、Q社が甲国内に1000万甲国ドル(10億円)を超える財産を有していることを発見し、甲国内でこの財産に対する強制執行により本件甲国判決債権の100%の満足を得ることができた。これに対して、Q社はRに対する不当利得返還請求訴訟を日本の裁判所に提起した。

国際民訴3:日本の裁判所の国際裁判管轄は認められるとして、本案に関するQ社の請求は認められるか。Q社は、本件甲国判決のうち、少なくとも懲罰的損害賠償を命ずる部分は民訴法1183号の要件を具備せず、日本では効力が認められないことから、日本から見れば当該賠償請求債権が存在するものとはみることができず、この部分について甲国においてRが弁済を受けたことは法的根拠を欠く財産移転と評価せざるを得ないところであり、Q社はRに対して600万甲国ドルに相当する6億円の不当利得返還請求権がある旨主張している(Q社は、この主張の根拠として最高裁令和3525日判決(民集7562935)を引用している。)。これに対して、Rは、上記の最高裁判決は外国での強制執行分について不当利得返還請求を認めるとまでは判示しておらず、甲国内での甲国の主権行使としての本件甲国判決の執行につき、日本の裁判所がこれを法律上の原因を欠くと評価して不当利得返還請求を認容することは許されないと主張している。

Q社は、本件情報漏れトラブルの原因究明を進めた。その結果、本件日本語サービスのプログラムの中に本来は必要のない部分が含まれており、それが作動したことで個人情報漏れが発生したこと、そして、その必要ない部分はP社がQ社に提供したオリジナルの本件サービスのプログラムにそもそも存在していたことが判明した。Q社は、(i)本件サービス及び他の言語版では何ら問題を起こしていないこと、(ii)P社はかねてからQ社との契約の解除を画策しており、Q社に不祥事が発生すれば、それを奇貨として容易に解除できる状況になること、(iii)本件情報漏れトラブルの発生直前にP社が本件日本語サービスの管理運営をしている日本所在のQ社のサーバにアクセスした形跡があること等から、本件情報漏れトラブルはP社の意図的な行為によって引き起こされたものであると主張し、P社に対して、Q社が被った損害(個人情報の漏洩があった本件日本語サービスの顧客に対して損害賠償を支払わざるを得ないことによる損害。顧客のほとんどは日本在住であるが、一部は外国在住。)の賠償請求訴訟を提起した。P社は、後述の日本の裁判所には国際裁判管轄がない旨の本案前の抗弁のほか、(i)については、むしろ本件日本語サービスのプログラムに特有の欠陥があったことを窺わせるものであること、(ii)については、全くの邪推であること、(iii)については、P社からQ社のサーバへのアクセスは本件業務提携契約には規定されていないが、同契約の履行確認のために日常的に行っていることであって、Q社が指摘しているアクセスもその一環に過ぎないこと等を主張している。

国際民訴4:本件業務提携契約には、丙国の首都を管轄する裁判所を指定する専属管轄合意条項がある。Q社は、本件不法行為はP社の故意によるものであって、悪性が極めて強いことから、この専属管轄合意の存在を理由にQ社の訴えを却下することは「はなはだしく不合理で公序法に違反する」(最高裁昭和561128日判決(民集29101554)ので、上記の専属管轄合意の効力を認めることはできず、日本は不法行為地であるから、民訴法3条の38号により上記の損害賠償請求訴訟について日本には国際裁判管轄がある旨主張している。他方、P社は、そもそもQ社の主張は全く根拠を欠く言いがかりであって、悪性が強いから専属管轄条項の効力は認められないとの主張は失当であり、また、不法行為でない以上、不法行為地管轄を認めることも認めることができない旨主張し、Q社の訴えの却下を求めている。両者の主張の当否について論じなさい。

P社は、日本での上記訴訟におけるQ社の主張は全く根拠を欠くものであって、P社の信用を毀損するものであり、丙国、日本その他の国々においてP社は多大な損害を被っていると主張している。

国際私法6:本件業務提携契約には、裁判管轄に関する条項はなく、丙国法を指定する準拠法条項があるとする。仮にP社がQ社に対する損害賠償請求訴訟を日本の裁判所において提起したとすると、この請求権の準拠法はいずれの国の法か。

P社の主張する不法行為は、Q社の日本での提訴及び裁判上の主張によるP社の信用棄損である。通則法19条によれば、他人の信用を毀き損する不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、