国際民事訴訟法2023
47232074 小林佳晃
第一 国際民訴1
1 申立人Aは、Bを相手方として、未成年者である子Cについて、BからCへの親権者変更申立てをする。これは、現行民法819条6項を根拠とし、家事法別表第2の八の項の事項の審判事件である。よって、家事法第3条の8「親権に関する審判事件」にあたる。
2 家事法第3条の8は、「子の利益の保護を重視すべきであることから」(国際私法入門第8版328頁引用)子の住所が日本国内にあるときに、日本に国際裁判管轄権があると規定する。
3 本件では、Cは既に乙国@州の全寮制のH小学校で3年を過ごしている。そして、長期休みの期間中も寮生活を続け、乙国を全く出ていない。よって、Cの住所は乙国にあるといえる。よって、家事法第3条の8の要件を満たさず、日本の国際裁判管轄権が同条を根拠にしては認められない。
4 そうだとしても、緊急管轄として、日本に国際裁判管轄権を認めることができないか。
(1)緊急管轄とは、本来の国際裁判管轄ルールによれば我が国に管轄が認められないはずであるが、本来であれば管轄があると考えられる外国での裁判が戦乱や災害などの特別な事情があるために不可能な場合に、裁判拒絶を回避するためにわが国に国際裁判管轄を認めることをいう(リーガルクエスト第2版172頁)。憲法32条の裁判を受ける権利の保障の趣旨から緊急管轄を認めることができると解され、家事法には明文規定がないものの、人訴法3条の2第7号に明文規定がある。
(2)思うに、家事事件は、人事事件と同様に、当事者の人生・幸福が問題となっており、実体法上の正義を与えることの価値が重要である。よって、家事・人事事件の国際裁判管轄ルールにおいては、手続的正義の実現よりも、実体法上の正義を重視するべきである(国際私法入門第8版314頁参照)。従って、人訴法3条の2第7号の規定を類推適用し、@日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、A日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるときには、緊急管轄として日本の国際裁判管轄権を認めるべきである。また、その当てはめにおいても、裁判所は、実体法上の正義を与えるべく、管轄を肯定して本案審理を行う方向に傾斜した判断をすべきであると解する。
(3)ア @について
(ア) 本件では、申立人であるFの父Aは、確かにBとの離婚後に単身で丙国に移住したから、日本には住所を有さないとも思える。しかし、Bとの婚姻中は甲乙戦争に伴う日本政府の特別措置によって無条件での在留が認められ、現在も甲乙戦争が継続中であることからすれば、今後も日本での在留が認められる可能性が高い。
(イ)また、AはBとの婚姻中に日本で5年間生活をしており、日本で職を得て安定した生活を営み、日本での生活になじんんでいた。よって、甲が離婚後に丙国に移住したのは、Bの不貞行為を原因とする一時的なものであり、甲には今後再び日本で生活を営む能力が十分認められる。
(ウ)加えて、AはCの養育費を日本に送金し続けており、離婚から1年後にはCと会いたいとBに申し入れている。よって、AがCの生活に関わろうとする積極的な意思が認められる。
(エ)さらに、Aは自身がCを監護養育すべく、日本の裁判所にCの親権者の変更を申し入れている。これは、Cの親権者としてCの利益を考えて居住場所等の生活環境を変える意思があると認定することができる。
(オ)(ア)から(オ)までを考慮すれば、全体的に観察して、Aは、日本に住所を有しているのに準ずる程度の日本との関わりを引き続き有していると評価することができるから、@の要件を満たす。
イ Aについて
(ア)Bは引き続き日本で生活していると考えられ、ABの婚姻生活も5年間というほとんどの期間が日本で行われた。よって、Aが日本での裁判を望む以上、日本の裁判所が審理・判断することが当事者の衡平に資するといえる。
(イ)AがBに対してCと会いたい旨を申しいれたが、Bはこれに難色を示し、交渉は進まなかった。また、BはCの生活の変化を父親であるAに全く知らせず、AはCの情報を知ることができないまま、3年間が経過していた。よって、BはAと誠実な交渉をする意思がないといえ、仮にAが丙国裁判所に申し立て行った場合は、Bの誠実な審理への参加が期待できないといえる。従って、Aが生活する日本の裁判所が審理判断することが、迅速な審理の実現に資するといえる。
(ウ)Bの監護の下で、CのFに対するいじめが発生し、児童相談所の訪問も受けた。よって、CFを平等・公平・適切に監護する能力をBに期待することが難しいといえる。さらに、Bは、Cをひとりで乙国の全寮制の小学校に入れて以来、長期休みの期間もCに日本に一時帰国する機会を設けていない。よって、BはCと共同生活を営む意思がないと評価することができる。従って、裁判所による一刻も早い介入や審理が望まれる。また、Cの教育・寮生活はもっぱら乙国語で行われて3年間が経過している。よって、Cは本来は乙国裁判所での一刻も早い審理が望ましい。しかし、甲国人であるAは戦争相手国である乙国に入国することができず、また、乙国裁判所が甲国人であるAに対して中立的な判断をできるかどうかも確実ではないといえる。よって、日本の裁判所が審理判断することが適正な審理の実現の観点から相応しいといえる。
(エ)従って、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められる。
(4)以上より、@Aの要件を満たし、人訴法3条の2第7号の規定が類推適用され、緊急管轄として日本の国際裁判管轄権を認められる。
第二 国際民訴2
1 民執法24条5項は、民事訴訟法118条各号の要件を具備しないときは、執行判決を求める訴えを却下しなければならないと規定する。そこで、本件甲国判決が民訴法118条1号の要件を具備しているかが問題となる。
2 民訴法118条1号の趣旨は、管轄権の認められない外国判決の効力を日本において認めると手続保障が適切にあったとは言い難く、公平の観点から妥当でないことにある。その判断基準としては、判決国に従うと単なる事後的な確認作業となってしまい同条をあえて設けた趣旨を没却しかねないので、承認国が判断するべきである。そして、裁判所による管轄権の行使という点では直接管轄と間接管轄は異ならず、基準の明確性の観点からも、「我が国の国際民訴法の原則から見て、当該外国裁判所の属する国がその事件につき国際裁判管轄を有すると積極的に認められる」かという基準で判断する(最判平10年4月28日)(鏡像理論)。
3(1)民訴法3条の4第1項について、Rは「個人」であるから「消費者」である。また、Qは「法人」であるから「事業者」にあたる。よって、本件利用契約は「消費者契約」にあたる。消費者契約においては、消費者と事業者との間には、交渉力の格差があるため、消費者を保護する観点から消費者の住所地に裁判管轄を認めた。本件において「訴えの提起の時」におけるRの住所地は甲国であるから、原則として、甲国に国際裁判管轄が認められることになる。
(2)そうだとしても、本件利用契約の(c)の専属管轄条項が有効か。当該条項は「将来において生じる消費者契約に関する紛争を対象とする」管轄権に関する合意であるから、民訴法3条の7第5項が適用される。よって、同項1号又は2号に該当する場合に限り、専属管轄条項は有効である。しかし、本件では、当該条項はRの居住国ではない丙国を専属管轄としているから、1号には該当しないし、2号に該当する事由もない。従って、当該専属管轄条項は効力を有しない。以上より、原則通り、甲国に国際裁判管轄が認められる。
(3)ア そうだとしても、民訴法3条の9により甲国の国際裁判管轄権が否定されないか。
イ 同条は、当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な心理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認められる場合には国際裁判管轄を否定するべきと規定する(最判9年11月11日の明文化)。
ウ 本件においてこれをみるに、Q社は、外国在住者を顧客とすることのプラスとマイナスを評価し、外国居住者からの本件利用契約の申込みには応じないことをQ社の社内で決定し、本件日本語サービスのサイトにはこのサービスが日本在住者のみを対象とするものであるの旨記載していた。よって、あえて外国在住者を顧客とすることのリスクを十分に検討した事業者であるQ社ならば、上記記載をするのみならず、本件日本語サービスのプログラムに日本在住か外国在住かをチェックし、外国在住者からの本件利用契約の申込みには応じないようにする程度の仕組みを実装するなどの対策を講じることは可能であったといえる。さらに、Q社がプログラムを扱う事業者であることからすればこのような対策を講じることは困難とはいえない。したがって、外国在住者を顧客とすることのリスクを十分に認識しながら、他方でリスクに見合った対策を講じなかったQ社は、事業者としての注意を欠いているとの評価を免れない。そうすると、Q社としてはRが甲国在住であることは認識することができたといえる。
エ ところで、Q社は、本件日本語サービスは全てオンライン上で完結するものであり、かつ、Rが日本で発行されたクレジット・カードで利用料金を支払っていることから、Q社としてはRが甲国在住であることは認識することができなかったと主張する。しかし、今日のようにインターネットを利用した取引が普及し、グローバル化が進展した現代では、サービスが日本語で提供され、支払いが日本で発行されたクレジットカードであるからといって、本件日本語サービス利用者が日本在住であるとは限らないといえる。よって、Qの主張は取り得ない。
オ また、Q社は、本件のような場合に甲国に管轄を認めることは消費者契約をする事業者にとって余りに酷であり、応訴を強いることは事業コストの上昇を招き、消費者全体の利益に反すると主張する。しかし、あくまで、上記のような容易な対策を講じるだけで本件のような事態は防げたのであるから、消費者全体の利益に反するような事業コストの上昇を招くとは到底言えない。よって、Qの主張は取り得ない。
カ 以上より、当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な心理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認められないから、民訴法3条の9により甲国の国際裁判管轄権が否定されない。
4 結論として、日本の国際民訴法の原則から見て、甲国が国際裁判管轄を有すると積極的に認められるため、本件甲国判決は民訴法118条1号の要件を具備していると認められる(Q社の主張は認められない)。
第三 国際民訴法3
1 QはRに対して600万甲国ドルに相当する6億円の不当利得返還請求権を主張する(現行日本民法703条)。Rは本件甲国判決債権の強制執行として満足を得ていることから、この6億円について「法律上の原因がない」といえるかが問題となる(国際民訴法としての出題であるから、準拠法についての検討を省き、以下では、日本法が適用されると仮定して検討する)。
2(1)この点、最高裁令和3年5月25日判決(民集75巻6号2935頁)(以下、本件判例という。)によれば、「民訴法118条3号の要件を具備しない懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合,その弁済が上記外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても,これが上記部分に係る債権に充当されたものとして上記判決についての執行判決をすることはできない」と判断している。
(3)道垣内正人先生(2022)によれば、「本判決の論理によれば、日本から見れば世界中どこであれ懲罰的的損害賠償命令に係る債権の存在を認めない以上、米国でのその債権への弁済は非債弁済であり、Yの不当利得返還請求を認めることになるように思われる。しかし、日本で不当利得返還を命ずる判決を下し、Xらの財産が日本にあれば、これに対する強制執行を認めるということは米国の正義の否定を意味する。仮に米国の裁判所が本判決と同様に自国の正義に照らして日本での公権力行使の効力を否定するとすれば、米国から見て存在しない不当利得返還請求に係る債権への充当はあり得ず、米国はその取り戻しを認めるということになる。これでは留まるところを知らない報復の連鎖である。外国判決の承認執行制度は自国の国境管理のためのものであって、外国裁判所のした公権的判断の既判力・形成力を自国内で認めるか否か、日本で執行力を与えるか否かだけを問題とするべきである」(「令和3年重要判例解説」(2022年4月10日)262頁より引用)。
(4)中本香織愛知大学准教授(2022)によれば、「本判決はあくまで、我が国において執行判決をするにあたって、「懲罰的損害賠償部分に係る債権が存在するとみることはでき」ないと述べるにとどまり、判決国においても当該部分につき債務が「不存在」であるとまで解するものではない。また。外国判決が民訴法118条各号の承認要件を充足しない場合、当該外国判決が我が国において効力を有しないこととなるのみで、懲罰的損害賠償を命じた外国判決自体が存在しないことになるのではない。そうすると、判決国においては有効に存在することが認められた債務に対する弁済として、当該弁済は,本判決を前提としてもなお、判決国においても我が国においても「法律上の原因」(民703条)なくなされたものとみることはできず、不当利得返還請求は排斥されることになろう」(「令和3年度重要判例解説」(2022年4月10日)115頁より引用)。
(5)従って、民訴法118条3号の要件を具備しない懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について、上記外国裁判所の強制執行手続において弁済がされた場合には、不当利得返還請求訴訟においては、判決国においては有効に存在することが認められた債務に対する弁済として、我が国においても「法律上の原因」(民703条)があったといえ、不当利得返還請求は排斥されると解する。
3 本件では、本件甲国判決は、実際の損害額200万甲国ドル(2億円)の賠償請求を認め、さらに、追加で600万甲国ドル(6億円)の懲罰的損害賠償金の支払いをQ社に命じた。これに基づいて、Rは、甲国内でこの財産に対する強制執行により本件甲国判決債権の100%の満足を得た。よって、民訴法118条3号の要件を具備しない懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について、上記外国裁判所の強制執行手続において弁済がされたといえる。従って、本件不当利得返還請求訴訟においては、判決国においては有効に存在することが認められた債務に対する弁済として、我が国においても「法律上の原因」(民703条)があったといえ、不当利得返還請求は排斥される。
4 結論として、Q社の主張は認められない。
第四 国際民訴4
1 本件業務提携契約の専属管轄合意の有効性について
(1)ア Q社は、本件不法行為はP社の故意によるものであって、悪性が極めて強いことから、この専属管轄合意の存在を理由にQ社の訴えを却下することは「はなはだしく不合理で公序法に違反する」(最高裁昭和50年11月28日判決)ので、専属管轄合意の効力を認めることはできないと主張する。
イ これに対して、Q社の主張は全く根拠を欠く言いがかりであって、悪性が強いから専属管轄条項の効力は認められないとのQ社の主張は失当であるとP社は主張する。
ウ これらの主張を検討すると、Q社は本件不法行為の悪性の強さを理由に管轄合意の無効を主張しているが、P社はそもそも不法行為の有無や悪性の強さは本案で審理判断すべき事項であるから問題とならず、管轄合意は有効であると反論していると整理することができる。
エ よって、管轄合意がどのような場合に無効となるかが問題となる。
(2)ア 最高裁昭和50年11月28日判決は、国際裁判管轄の合意が甚だしく不合理で公序法に違反する時等には無効とする。しかし、「実際に公序法違反を肯定したものは、東京地判平11・9・13以外に見当たらず、当該判決も事案と合意管轄地の関連性が弱いことのみを理由としており、説得力に欠ける」(国際私法判例百選第2版200頁(2012年6月1日)引用)。
イ よって、管轄合意の内容が、当事者の裁判を受ける権利の行使を著しく困難にするような内容であるなど、著しく不合理なものであるといえるときは、不文の手続法上の一般原則たる公序則によって当該管轄合意が例外的に無効になると解する。
(3)ア 本件では、管轄合意の当事者であるQ社とP社は、共に事業を営む法人であって、個人の消費者や労働者と比べて、訴訟追行力があるといえる。
イ 管轄合意で定められた丙国の首都は、管轄合意の当事者の一方であるP社の所在地であると推認でき、P社の所在地国の首都に専属管轄を認めることはP社の訴訟追行上合理的といえる。また、Q社にとっても丙国で訴訟追行することができないという事情なないから、著しく不合理であるとは到底言えない。よって、管轄合意は原則通り有効である。
(4)結論として、P社の主張は妥当であり、Q社の主張は妥当ではない。
2 不法行為地管轄について
(1)ア Q社は、日本は不法行為地であるから、民訴法3条の3第8号により上記の損害賠償請求訴訟について日本には国際裁判管轄がある旨主張している。
イ 他方で、P社は、不法行為でない上、不法行為地管轄を認めることもできないと反論する。
ウ 両者の主張を検討すると、@そもそも「不法行為があった」(民訴法3条の3第8号)といえるのか、A不法行為があったとしても、契約上の債務に係る紛争であるから専属管轄合意が適用されるのではないか、が問題となる。
(2)ア 不法行為があった地に管轄原因が認められるのは、そこに事件に関する証拠が所在していることが多いからである。また、管轄の段階で不法行為といえるかをどの程度審理して判断するかは、管轄原因事実仮定説、一応の証明説(有力説)、客観的要件具備説(判例)がある。
イ 管轄原因事実説は、不法行為があったことについて原告が一応筋の通った主張をしていれば、その主張する事実が存在するものと仮定して判断すれば足りるという説である。しかし、国境を超えて応訴する被告の負担に配慮するべきであるから、採用できない。
ウ 一応の証明説は、不法行為があったことの意一応の証明が必要であり、本案審理を必要ならしめる程度の心証を得れば良いとする説である。しかし、どの程度の心証を形成できれば良いのかが曖昧であるという批判がある。
エ 客観的要件具備説は、不法行為と主張されている行為が日本で発生したという事実が証明されることが必要であり、かつそれで足りるとする説である。故意・過失の存在や違法性阻却事由の不存在といった点は本案で審理すればよいから、この基準を用いる(最判平26年4月24日参照)。
(3)本件では、P社は、Q社の主張は邪推であって、全く根拠を欠く言いがかりであると主張する。しかし、Q社が被ったと主張している損害は、個人情報の漏洩があった本件日本語サービスの顧客に対してQ社が損害賠償を支払わざるを得なくなったことによる損害である。そうすると、そのような損害が発生していること自体は真実であり、「原告の権利利益が日本国内では現実に侵害されているとの客観的事実関係が証明されている」(最判平26年4月24日引用)から、「不法行為があった」(民訴法3条の3第8号)といえる(客観的要件具備説)。
(4)また、Qの顧客のほとんどは日本在住であったから、日本に所在するQ社が日本の顧客に対して損害賠償を支払わざるを得なくなったという損害結果は、日本で発生したといえる。そして、Qが主張するようにPが故意に情報漏洩を発生させたと仮定した場合には、日本での損害結果の発生は予見していたといえる。よって、「加害行為の結果が日本国内で発生した場合」かつ「日本国内おけるその結果の発生が通常予見すること」(民訴法3条の3第8号)ができたといえる。従って、日本に不法行為地管轄が原則として認められる。
(5)そうだとしても、P社は、専属管轄合意の存在を理由に、「特別の事情」(民訴法3条の9)にあたり、日本の国際裁判管轄権が否定されると主張する。本件では、Q社は不法行為に基づく損害賠償請求権という法的構成をとっているが、「事案の性質」からみて、実質的に契約関係から生じた紛争といえる。よって、本件管轄合意の存在を無視することは、Q社にとって不測であり、「応訴による被告の負担の程度」が大きいといえる。よって、「日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害」することとなる「特別の事情があると認め」られ、日本には国際裁判管轄権を例外的に否定するべきである。
(6)従って、Q社の訴えは却下されるべきであり、P社の主張が妥当である。
(以上)