2024国際私法試験問題についての最優秀答案例

a-d:甲斐湧万さんの答案

e:本間美果の答案

f:前野早紀の答案

<青字は表現振り等の小さな修正。赤字は答案(他の答案も含む。)についてのコメントや修正。緑字に網掛けしている部分は答案から離れた参考コメント。そのほか、読みやすくするため、一部をゴチックにして枠を付け、段落後に0.5行の行間を設ける等の修正もしています。>

問題1:国際私法a

1 AB間の離婚訴訟における本案の判断をするにあたって、前提としてAB間の婚姻が有効に成立している必要がある。そこで、この先決問題の準拠法をどのように決するかが問題となる。

(1)この点について、あらゆる法的問題はいずれかの単位法律関係に含まれ、粛々と準拠法上の評価が与えられているのであって、訴訟の立場になってその扱いが変化するわけはなく、それが国際私法の構造であるという理解されそのものにあ[1]。そこで、渉外的な法律関係において、ある一つの法律関係を解決するためにまず決めなければならない不可欠の前提問題があり、その前提問題が国際私法上本問題とは別個の法律関係を構成している場合、その前提問題は、法廷地の国際私法により定める準拠法によって解決すべきである[2]

(2)これを本件についてみると、ABが夫婦であるかどうかはAB間の婚姻が有効に成立しているかという問題であるから、適用される準拠法は法に適用に関する通則法(以下「通則法」という)241項により決定される。本件では両者の本国法である甲国法、乙国法のいずれにおいてもこの同性婚は有効に成立しているため、AB間の婚姻は有効に成立している。<これに続き次のような記述があってしかるべきかと思います。>「この婚姻成立を認めるという甲国法・乙国法の適用結果は日本法の適用結果と異なるため、公序違反になるか否かが問題となる。公序違反か否かは日本法の適用結果と比べて評価される異常性の程度と事案の内国関連性の程度との相関関係で定まるところ、日本では同性婚は認められないことから前者の程度は大きいというべきであるが、他方、婚姻成立時にはABは乙国在住であったのであり、日本との関連性はなかったといってよく、両者を併せ考えると通則法42条により同性婚の成立を認めるという結果を覆す必要はないというべきである。」

 <異性間の婚姻の場合には、24条により定まる準拠法上成立した「婚姻」は25条により定まる婚姻の効力の準拠法上の「婚姻」に当然に読み替えられ、婚姻の効力が与えられると考えられてきたことから特段の議論はされてきませんでしたが、同性婚の場合には、これを認めない法域もあり、歴史的には犯罪としていた法域もあったこと等から、25条により定まる準拠法上の「婚姻」に読み替えることが当然にできるとは言えないように思われます。すなわち、別の例で言えば、132項により定まる準拠法により生じた特定の物権が131項により定まる準拠法上読み替えるべき(翻訳することができる)類似のものが存在しない場合、当該準拠法が適用される限りにおいて当該特定の物権は「睡眠」状態となり、その効力が認められないという扱いがされるように(国際私法入門第8251頁)、甲国法・乙国法により成立した同性婚は、25条により定まる準拠法上の「婚姻」と読み替えることができないとされ、すなわち、25条により同一本国法として日本法が適用される場合、日本法上の婚姻に「翻訳」することはできないとされ、24条により定まる準拠法により同性婚が成立することを否定するわけではないけれども、日本法が適用される限りにおいて婚姻の効力を全く認めないという扱いをすることが考えられるように思われます。そして、離婚の準拠法も日本法となる場合には、離婚の前提となる婚姻状態が認められない以上、離婚を認めるという判断はできないということになると思われます。以上のようなことを考えて、同性婚の離婚請求について日本の裁判所がどう対応すべきかという問題を作成し始めたのですが、最終的にこのような議論は法科大学院のレベルを超えていると思い直し、離婚の準拠法は何かという単純な問題にしました。その結果、ABに同一常居所地があるか否かという一般的な論点以外には、27条の離婚には同性婚の解消も含まれるという点のみがポイントになる問題となってしまいました。中には同性婚の解消であることに全く触れず、淡々と準拠法を導いている答案もあり、これは残念というほかありません。>

2 次に、AB間の離婚訴訟は「離婚」の成立が問題となっていることから、適用される準拠法は通則法27条によって決定される<上記の通り、同性婚の解消も「離婚」に含まれるという点に言及すべきでしょう。>。そして27条本文は準拠法決定に際する両性平等を実現し、婚姻関係の準拠法をできる限り統一的に定めるために、婚姻の効力に関する準拠法の決定する通則法25条を準用している。そこで、準拠法の判断は、同一本国法の有無、同一常居所地法の有無、最後に最密接関係地法の有無の順で検討する。

(1)まず、同一本国法の有無を検討すると、Aは甲国人であり、Bは乙国人である。したがって、AB間に同一本国法は存在しない。

(2)次に、同一常居所地法の有無を検討する。常居所地とは一般に、人が相当期間、移住することが明らかな地をいう。そして、具体的には、移住の期間やその経緯、家族も一緒に住んでいるか等の事実を総合的に考慮して判断する[3]

本件において、現在Aは日本に住んでいるものの、日本に来日してしばらくして本件離婚訴訟を提起したことを踏まえると、日本で生活している期間はさほど長くないものと考えられる。一方、22歳の時に乙国に移り、24歳の時にBと婚姻し、28歳の時に日本に移り住むまでの約4年間という長期間を乙国でBと共に過ごしていたことからすると、乙国に相当期間移住していることが明らかであるといえるから、Aの常居所地は乙国である。Bは乙国生まれであり、前述の通り乙国において婚姻したA28歳の時まで一緒に生活していたのだから、Bの常居所地は乙国である。したがって、ABの常居所地はいずれも乙国となり、乙国法が同一常居所地法となる。<同一常居所は日本とする答案と乙国とする答案とはほぼ半々でした。日本法人に就職して来日したAの常居所と、乙国法人日本支社での「業務提供」(問題文の表現。これが「就職」か否かは国際私法dでの問題)を選んで来日したBの常居所が、来日後「しばらく」してもなお乙国にあるとの判断には道垣内としては賛成しがたく、また、同性婚をしているABが異なる国に常居所があるとの判断にも賛成できません。日本への興味関心があるABが日本での仕事を選んで来日している以上、来日後直ちにというわけにはいかないとしても、日本が同一常居所地であると言ってよいように思われます。

もちろん、以上の見解と異なり、離婚申立時点において、同一常居所は乙国であるとの答案(何人かの答案では、日本人の配偶者等を除く一般の外国人について引き続き5年以上の在留により日本に常居所ありとする法務省の通達を引用して、5年以上の在留を要するとされるカテゴリーの外国人であるABの場合、来日して「しばらく」後であるため、まだ日本に常居所地があるとは言えないとしていました。)や、Aの常居所は日本、Bの常居所は乙国との答案もありました。これらについても、結論が異なること自体は何らマイナスには評価していません。理由付けを重視して評価しています。>

2 よって、AB間の離婚訴訟で適用される準拠法は乙国法である。

<なお、上記の注記の問題意識からは、日本の裁判所で離婚が認めることが、日本でABの同性婚を認めたことになるか、日本の裁判所が離婚を認めないことが、日本でABの同性婚を有効なものとして認めたことになるか、という論点もあるように思われます。>

問題2:国際私法b

1 Fが誰との間でいかなる親子関係を有するかは親子関係の成立の問題であるから、適用される準拠法は通則法28条、29条によって決定される。

(1)まず、通則法28条、29条の適用順序については、嫡出・非嫡出は表裏の関係にあり、通則法29条が全ての子ではなく、「嫡出でない子」に限定して親子関係の成否を判断する構造から、また、一般に非嫡出親子関係よりも嫡出親子関係の方が子の利益保護にかなうといえる[4]。そこで、親子関係の成立という法律関係のうち嫡出性取得の問題を一つの独立した法律関係として規定している通則法28条、29条の構造上、親子関係の成立が問題になる場合には、まず嫡出親子関係が成立するかどうかを見た上、そこで嫡出親子関係が否定された場合には、右嫡出とされなかった子について嫡出以外の親子関係の成立の準拠法を別途見いだし、その準拠法を適用して親子関係の成立を判断すべきである[5]。したがって、本問においても、まずはABFとの間に嫡出親子関係が成立するかを検討する。

(2)まず、ABは共に男性であり、AB間の婚姻はいわゆる同性婚であるから、「夫婦」に該当するか。ABが夫婦であるかどうかはAB間の婚姻が有効に成立しているかという問題であるから、通則法241項により準拠法が決定される。本件では両者の本国法である甲国法、乙国法のいずれにおいてもこの同性婚は有効に成立しているため、ABは「夫婦」に該当する。<上述参照。>

(3)通則法281項によれば、「夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする」と規定し、選択的連結を採用している。これは子に嫡出子の身分が与えられる機会をなるべく増やそうという連結政策に基づくものである[6]。本問ではFの出生時におけるAの本国法は甲国法、Bの本国法は乙国法である。

(4)よって、本問において適用される準拠法は甲国法または乙国法である。

2 次に、実際に上記準拠法が適用される結果がどうなるかについて以下検討する。

 (1)まず、乙国法においては、出産した女性を母とする旨のルールがあるほか、同性婚についての特別法はない。Bは男性であり、Fを出産していないから、Bの本国法によっては嫡出親子関係の成立を認めることはできない。一方、甲国法においては、同性婚に関する特別法上、本件に当てはめると、@Eが本問におけるスキームを理解し、その中で役割を果たすことを承諾した上でFを出産したこと、A本問における方法をとることについてAの同性配偶者Bが事前に同意していたこと、BAFを認知したこと、以上の条件が具備されれば、FABの嫡出子となると定められており、本件ではこれらの要件はすべて満たしている。したがって、Aの本国法によって嫡出親子関係の成立を認めることができる。

(2)よって、ABFとの間に嫡出親子関係が成立するといえる。

3 しかし、上記適用結果は「公の秩序」(通則法42条)に反しないか。

(1)公序則とは抵触規則によって指定された準拠外国法を我が国で具体的な事案に適用した結果、わが国の司法秩序の中核部分をなす法原則や法観念が破壊される恐れがある場合に、例外的にその外国法の適用を排斥することである[7]。そして、通則法42条の適用要件として挙げられるのは、外国法の適用結果の反公序性、内国関連性の二つである。

(2)まず、どのような者の間に実親子関係の成立を認めるかは、その国における身分法秩序の根幹をなす基本原則ないし基本理念に関わるものであり、我が国の身分法秩序を定めた民法は、同法に定める場合に限って実親子関係を認め、それ以外の場合は実親子関係を認めない趣旨であると解すべきである[8]。日本の民の解釈としては出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母と解している[9]202441日に施行された「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」(令和2年法律76号)9条は、最高裁判例の通り、「女性が自己以外の女性の卵子(その卵子に由来する胚を含む。)を用いた生殖補助医療により子を懐胎し、出産したときは、その出産をした女性をその子の母とする。」と定めています。>本件では、実際にFを出産しているのはEであるから、日本民法においてABFとの間に嫡出親子関係の成立を認めることはできない。そうすると、上記適用結果を認めることは日本法における身分関係の根幹をなす基本原則に反し、日本の法秩序を著しく害することとなり、外国法の適用結果の反公序性があるといえる。

また、Fは生後3ヶ月で来日し、その後ずっと日本で成長していっている。そして、今後も日本で生活することが予想されることを踏まえると、内国関連性も高いといえる。

(3)よって、上記適用結果は通則法42条により適用結果が排除されるべきである。<約半数の答案は、日本との関連性は大きくないとか、日本でも同性カップルに寛容になってきている等により、公序違反ではないとの結論でした。しかし、約2年間日本に住んで働いていることから内国関連性はかなりの程度あるといってよいのではないか、日本の法秩序が同性婚の当事者の嫡出子についてまで認める状況になっているとまでは言えないのではないか、というのが道垣内の意見です。>

4 次に、FとEとの間にいかなる親子関係が成立するかについて検討する。

(1)まず、EはFの出産を引き受けたのみで本問の事情において婚姻している等の事情がないため、Eは「夫婦」に該当せず、281項に基づく嫡出親子関係は認められない。(2)次に、291項により準拠法を決定する。Fを実際に出産したEは甲国人であり、その本国法たる甲国法によれば一般に出産した女性をその子の母とする扱いがされている。(3)したがって、通則法291項によりEFとの間に非嫡出親子関係は認められる。また、上記適用結果は日本の法秩序に何ら反しないから通則法42条により適用結果が排除されることもない。

<認知したAが父であるか否か、その準拠法はいずれの国の法かにも触れるべきではないでしょうか。>

問題3:国際私法c

1 本件で(@)AGの間に養子縁組が認められるかについては「養子縁組」の成立の問題であるから、通則法311項前段により決定される。同項は養親の本国法主義を採用しているが、これは縁組成立後、養親の本国で生活することが一般的で、その国の定める要件を具備することが実際に必要であること、養子縁組により養子に養親の国籍を付与する国も多く、そのためには養親の本国法の規定する要件を充足することが望ましく、結果的に縁組成立後養子と養親の本国法が一致することが多いことなどが考慮されている[10]

Aは甲国人であるから、本件において適用される準拠法は甲国法である。そして、甲国法では同性婚をしている当事者が養親となる養子縁組はできないとされている。したがって、AGの間に養子縁組は認められない。<公序違反か否かについても触れるべきかと思います。>

2 次に、(A)BGの間に養子縁組が認められるかについて検討する。前述の通り、養子縁組の成立は通則法311項前段により養親の本国法主義が採用されており、Bは乙国人であるから、本件において適用される準拠法は乙国法である。

(1)乙国法によれば同性婚者の一方又は双方を養親とする養子縁組は何ら問題ないが、子の保護のための保護要件として、その子の直系血族のうち存命する最長老者の同意を要するとされている。本件ではIBGの養子縁組には反対である旨の陳述をしているから、BGの間に養子縁組は認められない。<他のかなりの数の答案では、セーフガード条項により養子となるべき者の本国法である乙国法の適用を論じていますが、本事案では養親となるべきBの本国法が乙国法ですので、セーフガード条項は無関係であって、乙国法の全ての要件が適用されます。そのうえで、乙国法の適用結果が公序違反か否かが問題となります。>

(2)もっとも、上記適用結果は「公の秩序」(通則法42条)に反しないか。

ア 公序則とは抵触規則によって指定された準拠外国法を我が国で具体的な事案に適用した結果、わが国の司法秩序の中核部分をなす法原則や法観念が破壊される恐れがある場合に、例外的にその外国法の適用を排斥することである[11]。そして、通則法42条の適用要件として挙げられるのは、外国法の適用結果の反公序性、内国関連性の二つである。

イ 本件において、乙国人Iは、極めて差別的な思想を有し、特に甲国を敵対視している。そして、日本の裁判所からBGとの養子縁組について自分(I)が同意するか否かを問い合わせてくるのであれば、Iとしては、Gのためになるかどうかとは関係なく、甲国人Aの同性配偶者となっているBGとの養子縁組には反対であると明言している。元々Iの同意を必要とするのは養子となる子の利益の保護を図ることにある。にもかかわらず、Iはその同意をするかの判断にあたってGのためになるかについて一切検討せずに反対を表明している。さらに、Eを出産したHは自身が病弱であることからGABとの養子縁組を願っており、Gに関係する者の中でIのみが本件養子縁組に反対していることになる。そうすると、同意がないことにより本件養子縁組を成立させないことはGの福祉を著しく害しているといえ、外国法の適用結果の反公序性があるといえる[12]<ほとんどの答案は公序違反との判断でしたが、その理由としてIが甲国に敵対する思想を有していることを挙げていましたが、乙国法の適用結果に着目する議論をすべきではないでしょうか。本件では、日本との関連性が十分にあると判断されるとすると、問題となるのは日本法の適用結果との違いです。日本法では同性婚者であることは養子縁組を認めない理由にはされていないので、BGの養子縁組は認められると考えられます(同性婚として効力は否定される可能性があることは国際私法aについてのコメントの通りですが、仮にそうだとしてもBGの養子縁組は別の問題であると思われます。)。本件におけるGが置かれた境遇(実母Hの希望)を考えると、BGの養子縁組は認め米であるとの判断が成り立ち、したがって、これに反する乙国法の適用結果は排除するということになる、このような筋道が考えられます。>

また、日本に移住しているBとの間における養子縁組の成立を問題としているのだから、内国関連性も高いといえる。したがって、乙国法における保護要件の適用は排除されるべきである。

(2)よって、BGとの養子縁組は認められる。

問題5:国際私法d

1 BD間の契約の効力の準拠法は原則として当事者自治が認められる。本件では、BD間は契約締結時において乙国法を準拠法とする合意があるので、両者間の契約の効力の問題については、乙国法により規律されるのが原則である(通則法7条)。

2 もっとも、通則法12条1項は労働契約の成立・効力について通則法7条に基づく当事者による準拠法の選択がある場合においても労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定が定める事項について、強行規定が適用されると定める。その趣旨は、使用者に比して交渉力・情報力等の点で弱者の立場に置かれる労働者を保護する点にある。そして、同条2項は、当該労働契約において「労務を提供すべき地」を最も密接な関係がある地の法と推定する。

(1)「労働契約」とは、使用者の指揮監督の下、労働者が労務提供し、それに対して使用者が賃金を支払う契約をいう。そして本件契約の中身の実態としてはDの日本支社において日本ビジネスをサポートするという内容であり、その後、業績不振を理由にDBに対して、甲国に移り、Dの甲国支社で業務を提供するようにと言い渡していることからすると、当該契約の内容としてBは活動の独立性が強く認められておらず、Bが主張するようにDの意向に沿って労務を提供していたといえる。そうであれば、たとえ他の従業員よりも高い報酬を支払っていたとしても契約の性質としてはDの指揮監督の下にBが労務を提供しているといえるため、「労働契約」に該当する。

(2)「労務の提供すべき地」とは労働契約に基づき事業主の指揮命令により労働者が勤務する地をいう。本件では、BDの日本支社において同社の日本ビジネスをサポートする業務を行うために来日したのであり、そこで活動していたのであるから、ベースとなる勤務地国は日本であって、「労務の提供すべき地」は日本であるといえる。したがって、日本法が、BD間の契約の最密接関係地法として推定される。そして、本件においてかかる推定を覆す事情は特に存在しない。

2 よって、本案において通則法12条は適用される。また、適用される結果として、Bは日本の労働契約法16条を適用すべき旨の意思をDに対し表示すると主張しているから、同条の規定はBD間の契約についても適用される。

<すべての答案が本件契約を通則法12条の「労働契約」と性質決定して、日本の労働契約法16条の適用を認めるとしていました。しかし、Bによる日本ビジネスサポートというサービスの提供(これを労務の提供と言ってしまうと、「労」働契約という色彩を帯びてしまいます。)と、Dによる対価の支払い(これを賃金の支払いと言ってしまうと労働契約であるとの判断をしてしまっていることになります。)とは、、Bが独立の事業者としてDにサービスを提供する場合にも同じなので、判断基準にはならないと思われます。DBに対して甲国支社での「業務」提供を「言い渡した」ことからDBの指揮監督下にあるとの答案もありましたが、BD間の契約には業務提供地の定めはないことから、契約に基づいて甲国支社での業務提供を求めたという解釈も可能であろうと思われます(甲国でのサービス提供をBに拒否させて、契約解除をしようというのがDの策略かもしれませんが、それは労働契約でもあり得ることですので、ここでの判断を左右するものではないと思われます。)。契約書のタイトルが業務委託契約であり、社員への給与よりも高い報酬を支払っていること(特に前者のような契約をすることは従業員については通常ないと思われます。)から業務委託契約であって、通則法7条以下により準拠法を定めればよい、そして乙国法によるとの準拠法指定は有効であって、日本法中の絶対的強行法規の適用はあり得る、以上のような答案も筋が通っているように思われます。そうでなければ、独立の事業者との間で業務委託をしたいときにはどのような契約内容にすればよいかが分からなくなってしまいそうです。

なお、現実の事案であれば、BDが税務申告をどのようにしていたか、健康保険はどうであったか、年金のカテゴリーはどうであったか等の情報を入手し、いずれかの議論を補強することができますが、試験問題における事実関係には情報に限界があり、だからといって細かく場合分けすることも求められていないと考えられますので、いずれの結論にせよ、与えられた情報を上手く使って説得的な理由付けをすることができるかどうかが評価を分けることになろうかと思います。>

------------ここまで甲斐湧万さんの答案------------

問題6:国際私法e

181項によると、当事者による準拠法の選択がない場合は、準拠法は最密接関係地法による。同条2項により、特徴的な給付を一方にのみが行う場合は、その給付を行う当事者の常居所地法を最密接関係地法と推定する。

2.本件契約は販売代理店契約であるところ、特徴的給付は販売代理行為である販売行為と考えられる。<これだけの記述では不十分です。問題文に示されたものだけを取り上げると、CJに対する義務は、@商品の販売(数量による段階的値下げを含む。)、A甲国において他社に商品を卸さないこと、他方、JCに対する義務は、B商品の対価の支払い、C甲国内でのJの費用負担による宣伝活動、以上です。したがって、通則法82項が想定している単純な契約ではないので、代金支払いの反対給付が特徴的給付というパターンは当てはまりません。したがって、本件契約は、82項の推定規定を適用する前提としての特徴的給付を当事者の一方のみが行う契約ではないので、同項の適用はなく、同条1項を直接適用するほかない、そして、日本との関係に比べて、上記A・Cが示す甲国との関係の方がより密接に関係すると考えられることから、甲国法が準拠法である、との筋道が考えられます。

ほとんどの答案は、82項に照らし、Bを捉えて、Cの給付が特徴的給付であるとし、Cの関係事務所の所在地である日本法を最密接関係地法であると推定した上で、この推定が破られるべき事情があるか否かを検討するというものでした。結論としては日本法を準拠法とする答案よりは甲国法を答案とするものが多かったです。82項を本契約に適用していないという点で上記の答案は優れていますが、残念ながら記述があっさりしすぎています。

なお、仮に7条による準拠法選択をするとすれば、この種の販売代理店契約では売主側の力が強いのが通常であり、日本法を準拠法として定めることになろうかと思われます。しかし、一般にそうであるから、7条のもとで黙示的に日本法が選択されているとまでは言えないと思われます。>

かかる行為を行うJは甲国に存在し、甲国において販売を行うものであるから、Jの常居所地法は甲国法であるといえる。よって、最密接関係地法と推定される。

3.以上より、準拠法は甲国法である。

eは本間美果さんの答案>

問題7:国際私法f

1、CAに対して、任務懈怠に基づく損害賠償請求を行うことが考えられる。

2、会社の役員に対する取締役の任務懈怠に基づく損害賠償請求は法人Cの内部関係に関する事柄であるから、法人の従属法によるべきものである。

<この答案以外にも、日本の会社法355条違反に言及しているものがありましたが、ほとんどの答案は、通則法17条により、結果発生地法として日本法、20条に照らして、より密接に関係する地の法として甲国法とするか、20条の検討をしても、やはり日本法によるとするものでした。しかし、法人の役員が法人の業務に関係する行為をして法人に損害を与えた場合の法人から役員に対する損害賠償請求は、法人の内部関係の問題であり、法人の従属法によるべきだと思われます。仮にそう考えず、通常の不法行為と性質決定して17条による準拠法決定をすると外国法が準拠法となることがあり得ることになり、そうすると当該外国法上のどの規定を適用するかという問題が生じます。当該外国法上の法人の役員に対する責任追及の規定を適用するのは、法人制度が国により異なることから、法人と役員の関係や役員の区分等が異なり、また、免責をする場合の要件も異なることになり、ピッタリしません。このことは、この問題が一般の不法行為の問題ではないことを示していると考えられます。>

3、(1)法人の従属法については明文規定がないため、条理にて判断する。

これについて、法人の本拠が所在する地の方を従属とする見解がある。しかし、本拠が移転すると従属が変更されてしまうし、本拠がどのような地なのか不明確であって妥当ではない。従属法は法人に関わる基本事項を決定するもので、固定性・明確性が重要であるから、法人が設立の際に準拠した方を従属法とすべきである。<法人の従属法は設立準拠法であるという根拠としては、このような条理のみによる理由付けではなく、会社については、外国会社の定義(会社法22号)、外国会社の登記事項の一つとしての設立準拠法(同法93321号)を挙げる方が説得的であろうと思われます。>

(3)Cは日本法人であるのだから、日本法に従い設立された会社である。よって、設立準拠法は日本法であり、日本法が従属法である。

4、準拠法は日本法である。<準拠法はいずれの国の法かという問いですので、この結論でよいのですが、法人の内部関係の問題であり、Cが日本法人であるということから、取締役の会社に対する損害賠償責任を定める会社法423条が適用されることになると思われます。

<fは前野早紀さんの答案>

 



[1] 澤木敬郎・道垣内正人『国際私法入門』(有斐閣、2018年、第8版)24

[2] 最判平成12127日民集5411頁(百選2事件)

[3] 松岡博『国際関係私法入門』(有斐閣、2019年、第4版)44

[4] 道垣内正人・中西康編『国際私法 判例百選』(有斐閣、2021年、第3版)111

[5] 最判平成12127日民集5411頁(百選54事件)

[6] 澤木敬郎・道垣内正人『国際私法入門』(有斐閣、2018年、第8版)111

[7] 中西康、北澤安紀、横溝大、林貴美『国際私法』(有斐閣、2022年、第3版)112-113

[8] 最判平成19323日民集612619頁(百選57事件)

[9] 同上

[10] 中西康、北澤安紀、横溝大、林貴美『国際私法』(有斐閣、2022年、第3版)344-345

[11] 同上112

[12] 水戸家裁土浦支部平成11215日審判・家月51793頁が本件に類似していると判断し、参照した。