早稲田大学法科大学院2024年度春夏学期
「国際関係私法II(国際私法)」・「国際関係私法III(国際民事訴訟法)」試験問題
ルール
n 答案の作成に当たり、文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること、自己の見解を他人に伝えること等は禁止します。AI(人工知能)を利用したソフトウェアその他これに類するものを、文献・裁判例等の検索に用いることは問題ありませんが、これを超える利用をした場合には、関係個所を明示した上で具体的な利用内容を注記して下さい。
n 答案作成時間に制限はなく、枚数制限もありません。ただし、不必要に長くなく、内容的に必要十分なものが期待されています。
n 答案送付期限は、2024年7月11日(木)20:00(司法試験受験者は同月16日(火)8:00。ただし、事前申告が必要。)です。早めの提出は歓迎します。提出時期が早いか遅いかは有利にも不利にも作用しません。
n 答案は下記の要領で作成し、提出して下さい。
o 国際関係私法II(国際私法)と国際関係私法III(国際民事手続法)とに関する試験問題が混在していますので、前者の科目の受験者は国際私法a以下の表示のある問題について、後者の科目の受験者は国際民訴a以下の表示のある問題について、それぞれ答案を作成してください。
o 答案は、電子メールに添付して、[email protected]宛に送付して下さい。36時間以内に道垣内から「確かに受領しました。」という返信がない場合には到達していない虞がありますので、「再送」と明記した上で再送してください。
o 両科目を受験する場合には、それぞれの答案を作成して、別の電子メールで送って下さい。
o メールの件名は、必ず、それぞれ「国際私法2024」・「国際民訴2024」と記載して下さい。
o 答案は、原則として、マイクロソフト社のワードで、A4サイズの標準的なページ設定にして下さい。
o 答案の最初の行の中央に「国際私法2024」等、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載して下さい。
o 頁番号を中央下に付けて下さい。
o 注を付ける場合には脚注にして下さい。
o 10.5ポイントか11ポイントの読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトして下さい。
n 判例・学説を参照した際にはそれらの引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典を記載して下さい。
n 答案の作成上、より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成して下さい。
n これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものです。
n 以下の問題につき、日本の裁判官又は弁護士の立場で、現在の法の適用に関する通則法、民事訴訟法、人事訴訟法、民事執行法(以下、それぞれ「通則法」、「民訴法」、「人訴法」、「民執法」という。答案において同じ。)等のもとで検討して下さい。また、登場するいかなる外国も不統一法国ではありません。反致については触れる必要はありません。
n 各問題は相互に独立しており、一の問題の前提条件が他の問題でも前提条件になっているわけではありません。
甲国生まれの甲国人Aは、甲国の大学を卒業した22歳の時に乙国のビジネススクールに入学し、乙国に移った。他方、乙国生まれの乙国人Bは同じ年に同じビジネススクールに進んだ。そしてAとBは、ともに日本の高度経済成長期の社会・経済を研究し、同時に日本語にも習熟していった。そして、在学中の24歳の時婚姻した。A・Bはともに男性であり、この婚姻はいわゆる同性婚であるところ、甲国法上も乙国法上もこの同性婚は有効に成立している。A・Bは、それぞれ乙国内で乙国法人に就職したが、28歳になった際、同時に転職し、Aは日本法人Cの本社勤務のため、Bは乙国法人Dの日本支社での業務提供のため、一緒に日本に移り住んだ。
来日後しばらくして、Aは、Bとの離婚を考えたが、Bはこれに反対した。
問題1:国際私法a:日本の裁判所でこの離婚訴訟についての本案の判断をする場合、適用される準拠法はいずれの国の法か。
A・Bは結局離婚しなかった。
その後、ともに30歳になった時、A・Bは子育てをしたいとの共通の希望を持つに至り、実子を持つため、以下のようなスキームを採用するのがよいと判断した。
すなわち、Aがその本国甲国に赴き、出産を引き受ける甲国在住の甲国人女性Eとの間の契約に基づき、Aの精子とEの卵子とを人工受精をさせる(ここまでで契約金の50%を支払う。)。Eが甲国で子F(甲国人)を出産した後、Aは、甲国に赴いてFを引き取り(残金50%を支払う。)、Fとともに日本に戻るというスキームである。そして、すべては、この通り滞りなく実施された。
なお、甲国法によれば、一般には子を出産した女性をその子の母とする扱いがされているが、同性婚に関する特別法上、本件に当てはめると、@Eがこのようなスキームを理解し、その中で役割を果たすことを承諾した上でFを出産したこと、Aこのような方法をとることについてAの同性配偶者Bが事前に同意していたこと、BAがFを認知したこと、以上の条件が具備されれば、FはA・Bの嫡出子となると定められており、本件ではこれらの要件はすべて満たしている。
他方、乙国法には出産した女性を母とする旨のルールがあるほか、上記のような特別法はなく、親子関係の成立については日本法と同じ内容である。
上記の方法で出生した甲国人Fは、生後3か月で来日し、その後ずっと日本で成長していった。
問題2:国際私法b: Fが5歳になった際、日本の裁判所で、ある案件処理の過程で、Fは誰との間でいかなる親子関係を有するのかが問題となったとする。この問題を判断する準拠法はいずれの国の法か。また、その適用結果は通則法42条に照らしてどのように評価されるか。
他方、上記のスキームに基づく行動と並行して、A・Bは、乙国在住の乙国人G(3歳)との間で、A・Bがそれぞれ養子縁組をするプランも検討している。Gは、Bの姉であるH(乙国在住の乙国人)が父親不明のまま出産した子であり、Hは自身が病弱であることからGとA・Bとの養子縁組を願っている。
甲国法上は、同性婚は法律婚として有効性成立することを認めているものの、同性婚をしている当事者が養親となる養子縁組はできないとされている(したがって、そのような場合の子の保護要件の定めはない。なお、一般に12歳以下の子の場合には親権者(GについてはH)の同意があればよいとされている)。
他方、乙国法上は、同性婚者の一方又は双方を養親とする養親縁組は何ら問題ないが、子の保護のための保護要件として、その子の直系血族のうち存命する最長老者の同意を要するとされている。本件でその最長老者に該当する乙国人Iは、極めて差別的な思想を有し、特に甲国を敵対視している。Iは、一族に属するBが甲国人Aと婚姻した際にも反対したが、その反対には法律上の効力はなかった。このたび、日本の裁判所からBとGとの養子縁組について自分(I)が同意するか否かを問い合わせてくるのであれば、Iとしては、Eのためになるかどうかとは関係なく、甲国人Aの同性配偶者となっているBとGとの養子縁組には反対であると明言している。
なお、甲国法上も乙国法上も裁判所の決定による養子縁組のみが認められる。
問題3:国際私法c:日本の裁判所で、AとGとの間の養子縁組、BとGとの間の養子縁組の成立を認めるか否かが判断される際、それぞれの養子縁組成立の準拠法に照らして、(i)AとGとの養子縁組は認められるか、また、(ii)BとGとの養子縁組は認められるか。
Iは日本の裁判所に対して、上記の通り、BとGとの養子縁組には上記の理由から反対である旨申述したとする。なお、問題文に記載していない情報や要件の具備は考慮しなくてもよい。
既述の通り、A・Bは、28歳から一緒に乙国から日本に移り住んでいるところ、Bは、乙国法人Dとの間の契約により、日本支社において同社の日本ビジネスをサポートする業務を行うために来日したのであった。DとBとの間の契約には、@そのタイトルを業務委託契約とすること、A1年間の有期契約であり、毎年反対の意思表示がされない限り自動更新されるが、最長4年間とすること、B準拠法は乙国法とすること、Cこの契約をめぐる一切の紛争は乙国の首都を管轄する裁判所のみで解決すること、D業務命令違反は解除事由となり、猶予期間なく解除可能であること、等が定められている。
Dは、Bが31歳の時、日本支社は業績不振により閉鎖する方向にあるので、Bに対して、甲国に移り、Dの甲国支社で業務を提供するようにと言い渡した。これに対して、Bは日本について知見を活用するとのDの意向に沿ってその日本支社で業務提供をしてきたのであって(もっとも、上記の業務委託契約には業務提供地を日本に限定する旨の規定は存在しない。)、甲国支社に移ることは拒否する旨回答した。DはBに対して上記Dに基づく契約解除の通知をし、Bは解除に有効性を争っている。
D及びBはそれぞれ次のように主張している
Dの主張:上記の業務委託契約C(下線を付している。)により、日本の裁判所には国際裁判管轄がない。本件は民訴法3条の7第6項の「個別労働関係民事紛争」を対象とするものではないので、同項の適用はない。
本案については、DとBとの間の契約上、Bは、労働者ではなく、独立事業者であって、上記@のタイトルの通り、DがBに業務を委託することを内容とするものであり、一般の従業員よりも高い報酬をBに支払っている。したがって、通則法12条の適用はない。この契約の準拠法である乙国法上、このような契約は労働契約とはされず、労働関係法規の適用もない。
Bの主張:上記の業務委託契約Cは、民訴法3条の7第6項によりその効力は認められず、民訴法の他の規定により日本の裁判所には国際裁判管轄がある。
本案については、契約のタイトルや報酬額はともかく、契約内容及びそのBの労務提供の実態に鑑みると、BはDの従業員と同様に扱われてきているのであるから、通則法12条が適用される労働契約である。そして、Dが契約終了の前提としていた日本支社の閉鎖は実際にはされていないこと、Bにあえて甲国支社勤務を命ずる理由は格別ないと考えられることから、Bとしては、日本の労働契約法16条(「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」)を適用すべき旨の意思をDに対し表示すると主張している。
問題4:国際民訴a:BがDに対して解雇無効確認等を求める訴えを日本の裁判所に提起した場合、国際裁判管轄は認められるか。
問題5:国際私法d:仮に日本で裁判されるとして、本案について、通則法12条の適用はあるか。
他方、Aについては、日本法人Cで順調に職位が上昇し、35歳の時Cの代表権を有する役員となった。Aは、Cの製品の甲国での売上げは年間3万台程度であり、他の同様の経済規模の国と比べて見劣りすることから、甲国への販売強化を打ち出し、精力的に活動した。そして、これまで日本の商社を通じての販売であったのを、甲国法人JをCの販売代理店として、Jに甲国での独占販売権を与える契約を締結した。この販売代理店契約によれば、甲国での宣伝活動費はすべてJの負担とするのと引き換えに、CからJへの卸価格は、会計年度当初から3万台までは1台100万円とし、以下、1万台ごとに卸価格を5%ずつ引き下げ、10万台以降は30万台までの間、1万台ごとに1%ずつ引き下げるというインセンティヴを与えることとされた。CからFへのCの製品の販売、FからCへの対価の支払いはこの販売代理店契約の通りに履行されている。そして、このAによる甲国市場への新たな販売戦略により、この3年の間に、甲国市場においては、Cの製品は低価格攻勢を武器にそのシェアは急速に上昇し、競合他社の一部は同国市場から撤退しつつある。
問題6:国際私法e:CとJとの間の販売代理店契約には準拠法条項はない。通則法8条によれば、その準拠法はいずれの国の法か。
ほどなくして、Aの不正が発覚した。CとJとの間の販売代理店契約には、Aとその幼なじみの甲国在住の甲国人でJの社長を務めるKとの間で秘密の利益分配合意が付属していた。これによれば、Kは、甲国内での売上高のうち2.2%を甲国法人L(この社長である甲国在住の甲国人MはC・Jと旧知の仲)にコンサルティング料として支払い、Mはこのうち0.2%を受領し、残りの2%を1%ずつAとLのために甲国国内に現金で隠匿しておくこととされており、現にこのような蓄財がされていることが判明している。
問題7:国際私法f:CのAに対する損害賠償請求の準拠法はいずれの国の法か。
すでにAは日本を立ち去っており、甲国への入国は確認されたが、その先の足取りは不明である。
問題8:国際民訴b:CのAに対する損害賠償請求の訴えについて、日本の裁判所は国際裁判管轄をあるか。日本の裁判所としてはAに対してどのようにして訴状及び呼出状の送達をすべきか。本件に適用される条約は存在しないものとする。
その後、K自身の名義の証券類が日本所在の証券会社の口座に存在することが判明した。Cは、KはAと共謀してCに損害を与えたとの理由で、Kに対する損害賠償請求ができないか検討している。CのKに対する債権額は、Cの主張によれば50億円であるところ、日本に所在するKの資産総額は1500万円である。
問題9:国際民訴c: CはKに対して50億円の損害賠償を請求する訴えを日本の裁判所に提起した。これに対して、Kは、次のように主張している。
(a) Kが仮に不正行為をしたとしても、それはCに対してではない。Cとの関係では、Jは契約通りの支払いをしており、Cは何ら損害を被っていない。このような全く根拠を欠く請求について日本の裁判所が本案審理を行うことは不当である。
仮に(a)の主張が認められないとしても---、
(a) 民訴法3条の3第3号の管轄原因についていえば、
(a-i) CはKに対して何らの「財産権」上の請求権も有していない。すなわち、仮にKが不正行為をしたとしても、それはCに対してではなく、JはCに契約通りの支払いをしているのであるから、Cは何らの損害も被っておらず、CがKに対して損害賠償請求権を有することはあり得ない。
(a-ii) 日本所在のKの財産の価額は著しく低く、Kがその財産を守るために日本の裁判所での審理に応ずることは費用倒れとなる。そのため、Kとしては本案審理に欠席することになってしまい、その結果Cの50億円の請求が認められてしまうことは不当なことである。
(b) 民訴法3条の3第8号の管轄原因についていえば、Kの行為地はもっぱら甲国内であり、また、(a-i)の主張の通り、そもそもCに対する不法行為は存在しない。仮に不法行為と一応評価されるとしても、経済的な損害の発生地とされるCの本社が所在する日本は不法行為地とはいえない。
(c) 民訴法3条の6の併合請求による管轄についていえば、CのAに対する請求とCのKに対する請求とは民訴法38条前段に定める場合とはいえないので、前者の請求につい日本の裁判所に国際裁判管轄があるとしても、後者の請求については管轄はない。
(d) 以上の(a)から(c)の主張が認められず、CのKに対する訴えについて日本の裁判所が国際裁判管轄を有することとなる場合であるとされるとしても、民訴法3条の9により、この訴えは却下されるべきである。
以上の諸点につき、日本の裁判所はどのように判断すべきか。