早稲田大学法学部2024年度後期
「国際民事訴訟法I」試験問題
ルール
n 答案の作成に当たり、文献その他の調査を行うことは自由ですが、他人の見解を求めること、自己の見解を他人に伝えること等は禁止します。AI(人工知能)を利用したソフトウェアその他これに類するものを、文献・裁判例等の検索に用いることは問題ありませんが、これを超える利用をした場合には、関係個所を明示した上で具体的な利用内容を注記して下さい。
n 答案作成時間に制限はなく、枚数制限もありません。ただし、不必要に長くなく、内容的に必要十分なものが期待されています。
n 答案送付期限は、2024年12月31日(木)21:00です。早めの提出は歓迎します。提出時期が早いか遅いかは有利にも不利にも作用しません。
n 答案は下記の要領で作成し、提出して下さい。
o 答案は、電子メールに添付して、[email protected]宛に送付して下さい。36時間以内に道垣内から「確かに受領しました。」という返信がない場合には到達していない虞がありますので、「再送」と明記した上で再送してください。
o メールの件名は、必ず、「国際民事訴訟法I:2024」として下さい。
o 答案は、原則として、マイクロソフト社のワードで、A4サイズの標準的なページ設定にして下さい。
o 答案の最初の行の中央に「国際民事訴訟法I:2024」等、次の行に右寄せで学生証番号と氏名を記載して下さい。
o 頁番号を中央下に付けて下さい。
o 注を付ける場合には脚注にして下さい。
o 10.5ポイントか11ポイントの読みやすいフォントを使用し、また、全体として読みやすくレイアウトして下さい。
n 判例・学説を参照した際にはそれらの引用が必要です。他の人による検証を可能とするように正確な出典を記載して下さい。
n 答案の作成上、より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成して下さい。
n これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものです。
n 以下の問題につき、日本の裁判官の立場で、民事訴訟法、人事訴訟法、民事執行法(以下、それぞれ「通則法」、「民訴法」、「人訴法」、「民執法」という。答案において同じ。)等のもとで検討して下さい。
n 以下の要件を具備していることを受験資格(単位取得の条件)とします。
o 2024年12月16日18:00までに、自分のemailアドレスを知らせるために、[email protected] 宛にテストメールを送信していること
o この試験問題の講評を行う2025年1月21日の授業に出席し、道垣内からの質疑に対して応答すること(病気等でどうしても出席できない場合には別途オンライン等での質疑応答を行うので申し出ること)
[事案]
日本法人A1は、甲国でのビジネス展開のために甲国法人Bに資本参加し、A1の代表取締役A2をBの取締役に就任させ、Bを通じてAの製品・サービスを甲国の顧客向けに販売していた。そのような中、A1が乙国で直接行っていた事業において重大な法令違反があるとされ、A1は乙国当局から刑事訴追された。A1は違反の事実自体を否定して争っている。このような状況のもと、Bは取締役会の議決によりA2を解任した。そして、Bは、A2の解任とともに、A1との資本関係を解消するための手続に入ったことをBのウェブサイトに甲国語で掲載した。このニュースは日本を含む世界中で報道され、A1の日本にある本社には取引先や顧客からの問合せが殺到し、売上は減少し、いくつかの新規案件は解消されてしまった。
[問題1]
A1・A2は、Bによる名誉・信用棄損を理由として、Bに対する損害賠償請求訴訟を日本の裁判所に提起した。この訴えについて日本の裁判所に国際裁判管轄があるか否かをめぐって、A1・A2は、Bのウェブサイトは日本から閲覧可能であり、その内容は日本で報道もされ、日本においてA1の名誉及びA2の信用は毀損され、損害が発生していることから、日本は民訴法3条の3第8号に定める「不法行為」地であると主張している。これに対して、Bは、Bのとった措置はコンプライアンスを重視するBの方針に従った正当なことであり、A1・A2のビジネス界における地位・影響力に鑑みると、A2の解任及びA1との資本関係の解消手続をとることは公益にも資することであって、そもそも不法行為に該当する行為は何らしていないと主張している。これに対し、A1・A2は再反論として、乙国当局は誤った情報に基づいて刑事訴追をしているのであって、無罪となるべきものであるにもかかわらず、Bの主張は誤った事実認識に基づくものであって不当であると主張している。
日本の裁判所はA1・A2のB に対する損害賠償請求訴訟について国際裁判管轄を有するか。
[事案続き]
乙国では、A1に対する刑事訴訟手続が進行しているところ、これと並行して、A1の乙国での違法行為の被害者CがA1に対する損害賠償請求訴訟を提起した。これについて、乙国裁判所は、実損額の填補として10億円(現地通貨を日本円に換算した額。以下、金額について同じ。)とともに、懲罰的損害賠償(一般予防・特別予防を目的として制裁的な金銭を被害者に支払わせるもの)として30億円の支払いをA1に命ずる判決を下し、この判決は確定した。
しかし、A1はこれに従った履行をしないため、Cは、A1の主たる事務所のある日本の裁判所において40億円の支払いを命ずる乙国判決について執行判決を求める訴えを提起した。これに対して、A1は、民執法24条5項により適用される民訴法118条3号の公序要件を具備しないと主張して争っている。
[問題2]
日本の裁判所は、上記の民訴法118条3号の要件具備についてどのように判断すべきか。同条の他の要件については論じる必要はない。
[事案続き]
A2(日本に住む日本人)は、上記の紛争の5年前、乙国から日本の大学院に留学中であった乙国人Dと婚姻し、以来日本で婚姻生活を送っていた(A2・Dの間には子はない。)。しかし、Dは、上記の紛争を通じてA2の法意識がDのそれとあまりにもかけ離れていることを知った。そのため、A2に離婚の可能性を告げたところ、A2はDに対して暴力をふるい、Dは全治3か月の傷害を負い、入院するに至った。Dは、退院後にA2との生活を再開することはできないと考え、自宅からのパスポートの持ち出しや当面の資金について友人の助力を得て、退院直前に病院から空港に向かい、実父母の住む乙国に帰国した。
Dは、乙国において、日本に住むA2に対して、離婚及び1億円の慰謝料を求める訴えを提起した。これに対して、A2は、日本において、Dに対して、離婚及び債務不存在確認を求める訴えを提起した。
Dとしては、日本に入国して提訴することは、身の危険が大きくて無理であることから、乙国裁判所での提訴は当然であり、日本からみても乙国裁判所に国際裁判管轄があると判断されるべきだと考えている。他方、A2としては、一度も乙国に行ったことがない自分が、勝手に乙国に帰国したDからの提訴に乙国裁判所で応じる必要はないと考えている。
なお、乙国での訴訟手続に関しては、訴状及び呼出状の送達は日本も乙国も締約国となっている条約に基づいて適法にされている。乙国の訴訟手続も日本とほぼ同じ仕組みであり、また、日本と乙国との間には民訴法118条4号が定める相互の保証がある。
[問題3]
Dが提起した上記の乙国訴訟は現在係属中であるところ、A2が提起した上記の日本での離婚等を求める訴えについて、Dが日本で選任した代理人弁護士は、@そもそも日本の裁判所には国際裁判管轄がないこと、A当該乙国訴訟と競合することこと、以上を理由に、訴え却下を求めている。これについて、日本の裁判所はどのように判断すべきか。