<法科大学院では一貫して持ち帰り試験をしていましたが、

AIを活用すればそれなりの答案を作成できるようになったことから、教室で行う試験(80)に変更しました。>

 

法政大学法科大学院2025年度春夏学期

「国際関係法(私法系分野)Iレポート課題

注記                      

n  これは、成績評価のための資料として100%分に該当するものです。

n  以下の課題につき、日本の裁判官又は弁護士の立場で、法の適用に関する通則法、民事訴訟法、人事訴訟法、民事執行法(以下、それぞれ「通則法」、「民訴法」、「人訴法」、「民執法」という。答案において同じ。) (以下、「通則法」という。答案において同じ。)のもとで検討して下さい。

n  レポートの作成上、より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成して下さい。

n  各事例は相互に独立するものです。

 

甲国生まれの甲国人A(男性)は、30歳の時、甲国在住の乙国人B(女性)と知り合い、A・Bは一緒に乙国に移住し、乙国で両者が31歳の時に婚姻した。甲国法によれば、甲国で国教とされている宗教Pに基づいて制定された甲国婚姻法によれば、甲国人は異教徒とは婚姻できないとされている。Bは、実際には宗教Pの教徒ではないが、Pへ改宗したとの偽造証明書を提出して、Aと婚姻した(なお、乙国には宗教に関する婚姻要件は存在しない。)。

その後、ABは日本に移住した。そして、両者が38歳の時、Aは日本在住の丙国人Cとの婚姻を望み、Bとの離婚を望んでいる。弁護士を介してABの話合いが進む中、ABの婚姻が有効に成立していないのではないかという問題が浮上してきた。

課題1

ABの婚姻は異教間のものである以上、甲国ではABの婚姻は無効とされることを前提にして、この婚姻は日本ではどのように評価されるか。

【授業での事後解説】

ABの婚姻が有効に成立しているか否か(問題との関係で、方式上有効に成立しているか否かについては触れない。)は、通則法241項により定まる準拠法により定まり、配分的適用をめぐっては議論があるところであるが、ここでは当事者双方とも甲国人であるので、甲国法によることになる。そして、甲国法上、異教徒間婚姻は無効とされており、実際、ABの婚姻は無効とされている。

このような甲国法の適用結果が通則法42条が定める公序違反となるか否かは、その適用結果との日本法の適用結果との乖離度(適用結果の異常性)と日本との関連性の程度との相関関係で決まる。まず、適用結果の異常性については、180度異なる。他方、日本との関連性については、乙国での婚姻は両者が31歳のときのことであり、現在38歳であるので、7年前のことであり、日本に移住した時期は定かではないが、婚姻時には日本と無関係であった。このような場合に、現在どう扱うべきかという問題であると捉えて、現在における日本との関係性を考量する見解もあるところ、ここでは、婚姻が成立した時点で公序違反とされるべきかは問題となっていたはずであるとの立場をとり、婚姻時の時点で検討すると、日本との関係性はゼロである。そうすると、A・Bの婚姻を無効とする甲国法の適用は公序違反とは言えない。

日本人M(男性)は、日本人L(女性)と婚姻し、日本で同居しているところ、Mは、日本在住の甲国人N(未婚者)と親密な関係になり、MN間に子Oが出生した。そして、1歳になったOを認知しようとしている。

Mの本国法である日本法によればOを認知することに問題はない。他方、Oには、Nの子として甲国国籍法により甲国籍が与えられており、甲国の認知に関する規定によれば、未成年の子の認知に当たっては、その子の直系尊属に属する者のうちの最年長者の許可を要するとされている。これに該当する者はNの父方の祖母Pである。Pは、Mが資産家であることを知り、Mが日本円で2500万円をPに支払わない限り、MによるOの認知を許可しないと言っている(甲国では、金額はこれほど多くはないが、認知に際して、Mに当たる者がPに当たる者に一定額の支払いをすることは一般的に行われている。)。これに対して、Mは、Pの要求を受け容れることはあり得ないと考えている。

課題2

日本におけるMによるOの認知の要件具備について検討しなさい。

【授業での事後解説】

通則法29条によれば、父による子の認知の成立は、@父の出生時の本国法、A認知時の父の本国法、➂認知時の子の本国法のいずれかで認められればよい。ただし、@・Aの場合には、それぞれその時の子の本国法がその子又は第三者の承諾又は同意を要件としている場合にはこれも満たす必要がある(セーフガード条項)。

Pは上記の「第三者」に該当するので、その同意を要するところ、Pの態度はOの保護のためとはいえないようある。もっとも、通則法29条の定めるセーフガード条項においては、承諾・同意を拒否する動機が何かは問われていない。そのため、セーフガード条項に照らす限り、MによるOの認知は認められないことになる。

もっとも、そのような適用結果が公序違反となるか否かがさらに問題となる。<・・・理由さえしっかりと記述されていれば、公序違反性についてどのような結論を出しても採点上同じ扱いをします。>

日本在住の日本人男性S30歳)と甲国から日本に来て5年になる甲国人女性T30歳)とは、日本で婚姻して日本に居住している。しかし、婚姻から3年ごろからSTに対する家庭内暴力が始まり、激化していった。そして、ついにTは傷害(全治1か月)を受け入院するに至った。そこで、友人の助けで退院の日に病院から空港に直行して甲国に帰国した。

Sは、日本の裁判所にTを被告として離婚訴訟(以下「本件訴え」)を提起した。Tは、甲国に留まったまま、日本の弁護士を代理人として選任し、日本の裁判所には本件訴えについての国際裁判管轄はなく、離婚訴訟をするのであれば甲国の裁判所ですべきであると主張している。これに対して、Sは、人事訴訟法3条の26号に定める通り、日本の裁判所には国際裁判管轄があると主張している。

課題3

日本の裁判所には、本件訴えについての国際裁判管轄が認められるべきか。

【授業での事後解説】

本件では、Sが主張している通り、人訴法3条の26号に定める国際裁判管轄が認められそうである。しかし、そうであっても、3条の5に定める「特別の事情」が認められる場合には訴えは却下されることになる。

まず、3条の26号が管轄を認めている理由は、共通住所地国に当事者夫婦に関する証拠等が存在し、適正かつ迅速な裁判の実現が期待できることに根拠があると考えられる。そうすると、本件でTが離日した理由がSの暴力にあったことは、その管轄原因を左右する要素にはならないのではないかと解される。また、Tは日本で弁護士代理人を選任しており、訴訟手続に応じることが困難なわけでもない。そうすると、日本の裁判所の国際裁判管轄を否定すべき「特別の事情」の存在を認めることはできないと考えられる。