<法科大学院では一貫して持ち帰り試験をしていましたが、AIを活用すればそれなりの答案を作成できるようになったことから、

教室で行う試験(80分)に変更しました。>

 

早稲田大学法科大学院2025年度春夏学期

「国際関係私法III(国際民事訴訟法)試験問題

注記                      

n  これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものです。

n  以下の問題につき、日本の裁判官又は弁護士の立場で民事訴訟法、人事訴訟法、民事執行法(以下、それぞれ、「民訴法」、「人訴法」、「民執法」という。答案において同じ。)のもとで検討して下さい。

n  答案の作成上、より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成して下さい。

 

出生以来甲国に在住する甲国人男性A(30歳)と日本の会社から甲国支社に派遣されて働いていた日本人女性B(30歳)とは甲国で婚姻して同国に居住し、子C(甲国・日本の両国籍を保有)が出生した。しかし、婚姻から3年ごろからABに対する家庭内暴力が始まり、激化していった。そして、Bは全治1か月の複雑骨折等のため入院するに至った。そこで、Bは、友人の助けで保育園からCを連れてきてもらい、Cとともに病院から空港に直行して日本に帰国した。

これに対して、ABとその友人をCの誘拐罪で甲国警察に告発するとともに、Bを被告として、離婚とCの親権者をAとする決定を求めて甲国裁判所に提訴した。この訴訟について日本にいるBへされた送達は、甲国法に基づき、裁判所のデータベースに訴状と呼出状をアップロードし、Bemailアドレス宛てに、上記データベースにアクセスする情報を知らせるという方法で実施された(以下「本件送達」)。このemailBは確かに受領し、上記データベースにアクセスした記録は残っているが、Bは時間的にも経済的にも問題はなかったにもかかわらず、甲国裁判所へは出廷しなかった。そして、甲国裁判所は国際裁判管轄を認めた上で(以下「本件管轄」)、Aの請求をいずれも認める判決を下し、これは確定した(以下「本件甲国判決」)。

Aは東京地裁において本件甲国判決に基づき、Cの引渡しを求める訴えを提起した。Aは、本件管轄は日本の人訴法3条の26号と同じ管轄原因に基づくものであり、また、本件送達は被告に訴状・呼出状の内容を知らせる方法として合理的であって、実際にBは了知しているので、いずれも問題ないと主張したのに対して、Bは、民訴法1181号・2号の要件を欠いていると主張した。

問題1

(1)       本件甲国判決のうち、離婚判決部分及び親権者指定部分について、本件管轄は民訴法1181号の要件を具備されているか。

(2)       本件送達は民訴法1182号の要件を具備しているか。

【授業での事後解説】

(1) 離婚事件の国際裁判管轄については、人訴法2条により、同法が適用される。また、同法3条の4第1項により、離婚事件について日本の裁判所に国際裁判管轄が認められるときは、子の監護権者の指定等についても国際裁判管轄が認められるので、両者を合わせて検討する。なお、人訴法は民訴法の特例を定めるものであるので(人訴法1条)、人訴法の規定がなければ民訴法によるところ、外国判決の承認については人訴法に規定はないので、民訴法118条による。

さて、上記の条項は直接管轄に関する規定であるところ、ここで問題となる間接管轄についてどのような関係を有するかが問題となる。この点、判例によれば、両者は必ずしても同一ではなく、条理により異なる基準を適用することが許容されているが、実際に異なる基準が適用されたわけではなく、また異なる基準を適用した他の裁判例はない。思うに、日本の裁判所の国際裁判管轄は、人訴法についていえば、3条の27号及び3条の5があることから分かるように、手続法上の正義を具体的事案に沿ってあくまでも追及するというルールになっており、このような日本のルールの適用による管轄の有無と異なる結論は日本法上の手続法上の正義に反すると考えられ、そのような外国裁判所の管轄判断は民訴法1181号の要件を満たしていないと判断すべきであると考えられる。したがって、鏡像のように、間接管轄ルールと直接管轄ルールは同一であるというべきである。

本件では、人訴法3条の26号を「日本」を「甲国」と置き換えて適用すると、甲国裁判所の離婚及び親権者指定事件の国際裁判管轄は認められることになる。もっとも、Bが甲国を出国したのはAからの家庭内暴力から逃れるためであるので、そのような場合でも同号は管轄を認める趣旨か否かを検討する余地はある。しかし、この点は、条文間の関係から、3条の5の「特別の事情」の有無の判断において考慮すべきである。

そこで、3条の26号の適用結果を覆すべきか否かを検討するに、同号は、共通住所国を単独で離れた配偶者に非があるので、共通住所地国で訴えられることを甘受すべきであるという趣旨(当事者間の衡平)よりもむしろ、共通住所地国に当事者夫婦に関する証拠等が存在し、適正かつ迅速な裁判の実現が期待できることに根拠があると考えられる。また、本件では、Bは甲国の裁判が時間的にも経済的にも対応できない状況にあるわけではないとされており、甲国で弁護士を選任すれば、B自身が甲国に行く必要はないと考えられる。したがって、本件においては、甲国裁判所は「特別の事情」の存在を認めて訴えを却下すべきであったということはないと考えられる。

したがって、民訴法1181号の要件は具備されている。

(2) 本件における甲国の送達方法が民訴法1182号の「公示送達」に該当するか否かがまず問題となるところ、同号の「公示送達」は日本法におけるそれのように実際には被告が提訴されていること及び訴状・呼出状の内容を知ることができない態様のものをいうと解される。本件の甲国の方法は、emailアドレスが判明している本件においては、これらのことを知ることが可能であり、事実それを知っていたことが窺われる。したがって、「公示送達」とはいえない。

では、1182号が想定している送達がされているといえるかが問題となるところ、仮に日本と甲国との間に送達に関する条約があり、この方法が当該条約で認められていない場合には、判例に照らし、条約違反の送達として同号の要件を満たさないことになる。他方、そのような条約がない場合には、日本の現在の送達方法とは異なるものの、不合理な方法ではないと考えられることから、同号の要件を具備するものであると考えられる。

<以下、全くの別件>

甲国法人Lは日本法人Mに工作機械を輸出した。この工作機械はMの名古屋工場に設置されて稼働していたが、突然発火し、当該工場は全焼した。そこで、Mは名古屋地裁においてLに対して不法行為(製造物責任)に基づき12億円の賠償を求める訴えを提起した(以下「本件訴え」)。これに対して、Lは、本件の工作機械の輸出に係る売買契約(以下「本件売買契約」)には、甲国裁判所に専属管轄を与える旨の条項があるので、Mの訴えは却下されるべきであると主張した。これに対して、Mは、

@   本件売買契約上の管轄条項は「この契約に基づく訴えについて」と明記されており、Mが請求原因としている不法行為に基づく訴えには適用されないこと、

A   同管轄条項の末尾には、「この管轄合意は両者の間の将来の契約に基づく訴えにも適用する。」との文言があり、民訴法3条の72項の「一定の法律関係に基づく訴えに関」するものではないこと、

B   甲国は公務員汚職で悪名の高い国であり、司法権に係る公務員も例外ではなく、裁判官の収賄事件が多数発生しており、甲国では公正な裁判は期待できないこと、以上のことから本件訴えは却下されるべきではない旨主張した。

問題2

日本の裁判所は、上記の⓵・A・➂についてそれぞれ独立の論点として判断する場合、どのように判断すべきか。

【授業での事後解説】

@について:管轄合意条項は、「この契約に基づくか関連する紛争」と広く定め、不法行為請求訴訟も含むようにされているのが通常である。契約に基づく訴訟と不法行為に基づく訴訟とが異なる規律のもとに置かれることは、合意管轄が目指す管轄争いの防止の趣旨に反するからである。このような実務に照らせば、「この契約に基づく」訴えだけを定めている本件条項は、・・・<どちらの結論でも、理由さえしっかり書いてあれば、採点上は同じ扱いをします。>

Aについて:この条項は、民訴法3条の72項の「一定の法律関係」についての管轄合意ではない。しかし、本件の訴えはまさに本件契約についての訴えであり、この条項に依拠して管轄が認められるというわけではない。したがって、このような記述が契約書に含まれているからといって、管轄合意が全体として無効となるわけではないと考えられる。

Bについて:民訴法3条の74項の「事実上裁判権を行うことができないとき」に該当するか、又は判例により管轄合意が有効とされない場合とされる「著しく不合理で公序法に反する場合」に該当するかが問題となる。・・・<どちらの結論でも、理由さえしっかり書いてあれば、採点上は同じ扱いをします。>