<法科大学院では一貫して持ち帰り試験をしていましたが、AIを活用すればそれなりの答案を作成できるようになったことから、教室で行う試験(80分)に変更しました。>
早稲田大学法科大学院2025年度春夏学期
「国際関係私法II(国際私法)」試験問題
注記
n これは、成績評価のための筆記試験として100%分に該当するものです。
n 以下の問題につき、日本の裁判官又は弁護士の立場で、法の適用に関する通則法 (以下、「通則法」という。答案において同じ。)等のもとで検討して下さい。
n 答案の作成上、より詳細な事実関係や外国法の内容が判明していることが必要である場合には、適切に場合分けをして解答を作成して下さい。
それから8年が経過した(その8年の間、A・Bは一度も会っていない。)。A・B40歳の頃、Aは、日本在住の日本人女性Dと日本で婚姻したいと思うようになり、Bとの離婚を検討する中で、そもそもA・Bの婚姻は通則法24条1項により定まる準拠法に照らして有効に成立していないのではないかと考えるに至った。その理由は、甲国では、伝統的に、夫の死亡により前婚が解消した女性は喪に服すべきであり、そうでなければ亡き夫の霊が再婚当事者双方に災いをもたらすと考えられていることから、甲国法によれば妻は前夫死亡から7年間再婚できないとされているところ(甲国法上、男性にはそのような要件を課していない。また、乙国法にはそのような定めはない。)、Bは前婚解消から5年しか経過していない時点でAと婚姻した点にある。
問題1:
Aの弁護士を通じてされた離婚の申出に対してBは応じないことから、Aとしては、そもそもA・Bの婚姻は無効であることを前提として、日本でEDと婚姻しようとしている。甲国・乙国・日本では重婚は禁止されている。A・Dは有効に婚姻できるかという問題の前提として、A・Bの婚姻の有効性はどのように関わり、本件ではどのような結論をもたらすか。
【授業での事後解説】
離婚の先決問題としての婚姻の成立という問題は、通常の準拠法決定の通り、通則法24条を適用して準拠法を定めることになる。
本件で問題となっているのは、婚姻の実質的成立要件であり、これは通則法24条1項により準拠法を定めて判断する。
24条1項の適用上、男性側の本国法と女性側の本国法との適用の仕方については、@男性側の一方要件、A女性側の一方要件、B両者の双方要件という3つの単位法律関係に分け、@については男性の本国法のみ、Aについては女性の本国法のみ、Bについては両者の本国法を累積的に、適用するとの考え方がある。他方、同項の単位法律関係は一つであり、婚姻が実質的に成立することを両者の本国法がともに認める場合にのみその成立が認められる(累積適用する)との考え方もある。<理由を示して説明していれば、いずれでも採点上同じ扱いをします。> もっとも、いずれの説によるにせよ、性質決定はあくまでも国際私法レベルで行うことであり、問題文にあるような甲国法の趣旨を検討して国際私法上の扱いを決めるということはない。
したがって、女性について前婚解消から一定期間内の再婚を認めないという抽象化された問題について、前者の一方要件・双方要件区別説をとり、かつ、女性側の一方要件であると解すると、女性の本国法は乙国法ですから、本件婚姻は有効に成立しているということになる。<男性側にも災いをもたらすといった甲国法の趣旨が無関係であることは上記の通りです。甲国法は準拠法となる場合にのみ適用されるのであって、それまでは特定国の内容が国際私法による準拠法決定に影響を与えることはありません。> 他方、後者の全面累積適用説によれば、淡々と累積適用すればよい。
結論としては、通則法24条1項により、一方要件・双方要件区別説によれば、男性であるAの本国法である甲国法によっても、女性であるBの本国法である乙国法によっても、A・Bの婚姻は実質要件について有効に成立しているということになり(問題文の再婚禁止制度は甲国法の定めだからです)、全面累積適用説によれば、甲国法の要件を具備していない以上、その婚姻は実質要件を欠き不成立ということになります。
そして、日本法と異なる結果となる上記の後者の場合、通則法42条の公序違反か否かが問題となるところ、婚姻不成立という結果の日本法適用結果との違いは180度の違いであり大きい。他方、日本との関連性については、どの時点で判断するかによる。婚姻時点で判断すると日本との関連性はゼロである。他方、現在の公序を守るべきであるとの立場からは、婚姻から8年後の現在の日本との関連性を検討することになり、Bの日本との関連性は希薄であるのに対して、Aは8年間日本で生活し、Dとの婚姻を考えていることから、日本との関連性は深い。<結論はどちらでも、理由を示して説明していれば、採点上同じ扱いをします。>
Aは不動産ディベロッパーとして成功し、彼が社長をつとめる日本法人Eは、日本及び甲国で不動産開発事業を営んでいる。
E社が甲国で建設した賃貸オフィス用高層ビルPについて、ニュース通信社である乙国法人F社は、Pには深刻な設計ミスがあり、倒壊のリスクがあるとのニュースを世界中に配信した。そのため、甲国ではPに入居している会社の一部は退去し、残ってくれた会社に対しては賃料を引き下げるといった損害が発生した。また、日本においても、新規の不動産開発に関する契約がキャンセルされた。
E社のF社に対する損害賠償請求権の準拠法はいずれの国の法か。
【授業での事後解説】
通則法19条によれば、法人に対する信用棄損の準拠法は、主たる事務所所在地法によるとされており、本件のE社は日本法人であり、主たる事務所所在地は日本であると考えられる。
通則法19条による準拠法決定は、20条による例外的な事情の考慮により、明らかに他により密接に関係する地があれば、当該他の地の法による。本件では、Pは不動産であり、その賃貸ビジネスの市場はその所在地である甲国の市場であると考えられ、Fのニュースにより、Pからの退去や賃料引下げが生じたのは甲国である。他方、日本でも新規不動産開発契約はキャンセルされており、E社のビジネスそのものの信用が棄損されている。
そこで、この信用毀損行為を2つに分けて考えることができるかについて検討するに、本件ではFのニュース発信地がいずれの国かは不明であるものの、拡散側の不法行為であり、加害行為の結果が発生している国ごとに異なる準拠法による評価を受けることは差し支えなく、むしろその方が本件の場合には適切であると考えられる。
以上のことから、甲国で生じた損害については甲国法が準拠法となり、日本で生じた損害については日本法が準拠法となる。
A・Bの婚姻は有効と評価されるとし、A・Dは婚姻していないが、A・BはA国を出て以来一度も会っていないとする。
乙国人Bは45歳で急死してしまった。Bの遺産は、個人名義で所有する乙国及び日本所在の不動産(以下「乙国不動産」と「日本不動産」という。)と多数の日本法人の株式(すべて日本の証券会社の口座にある。以下「日本株式」という。)である。それ以外には財産はなく、負債もない。
乙国は人的不統一法国であり、Bが属する宗教集団Gに適用される相続法によれば、被相続人に配偶者と子があるときは、配偶者1/2、子が残り1/2を均等に分けた割合の相続権を有するとされているが、配偶者については、相続開始の直前3年以上にわたって別居している場合には相続権はないとされている。また、乙国に国際私法によれば、不動産の相続はその所在地法により、それ以外の財産の相続は被相続人の常居所地法によるとされている。
(1)
Bの遺産のうち、乙国不動産、日本不動産、日本株式のそれぞれの相続に適用される準拠法はいずれの国の法か。どのような準拠法決定プロセスを経てそうなるか。
(2)
Aは、乙国不動産、日本不動産、日本株式のうち、いずれかについて相続権を有するか。
(3)
仮にAがBの遺産のいずれかを相続するとして、A・Bの子Cは、そのようなことはGの教義の根本に反し認められてないとして争うことはできるか。
【授業での事後解説】
(1) 被相続人Bは乙国人であるので、通則法36条により相続準拠法は乙国法となる。
乙国の国際私法によれば、不動産とそれ以外の財産との相続が別の単位法律関係とされ、前者の相続は不動産所在地法により、後者の相続は被相続人の常居所地法(本件では乙国)によるとさている。そのため、通則法41条によれば、部分反致が成立し、日本不動産については日本法により、乙国不動産及び日本株式については乙国法による。
なお、乙国は人的不統一法国であるが、これは事項的な適用範囲の問題にすぎず、本国が乙国であることを左右することはない。通則法40条1項との関係で説明すれば、乙国の規則により本件ではBに適用されるのは宗教集団Gに適用される相続法であるとされているので、この相続法によればよい。
(2) 日本法が相続準拠法となる日本不動産については、日本法に照らし、Aは相続人となる。
他方、乙国法が準拠法となる乙国不動産と日本株式とについて、相続開始の直前3年以上にわたって別居している場合には相続権はないとの規則により、Aには相続権はないことになることについて、通則法42条の公序違反となるか否かが問題となり、その判断は、日本法の適用結果との違いの大きさ(適用結果の異常性)と日本との関連性との相関関係による。適用結果の異常性は、日本法によれば相続権が認められるところ、乙国法によれば相続権が否定されるので180度異なる。日本との関連性については、@45歳でのBの死亡から15年前にA・Bは乙国で婚姻したこと、AAは13年前から日本に居住していること、BBは婚姻後ずっと乙国での居住を続けていたこと、C相続財産として乙国不動産ほか日本不動産・日本株式があること、以上の事実関係に照らすと、日本との関連性はA・Cの点である。<公序違反とするか否かいずれでも、理由を示して説明していれば採点上同じ扱いをします。>
(3) Bの本国法であり、通則法36条により相続の準拠法となる乙国法上、Aには相続権が認められないにもかかわらず、反致により日本法が準拠法となる場合か、日本においてAにBの遺産に対する相続権があるとされているのは、乙国法の適用が通則法42条の公序に違反しているとされる場合であり、事実関係が同一である限り、前者の場合には準拠法でない乙国法上の主張であり、後者の場合には公序違反とされた点を蒸し返すものであって、この結論が覆ることはなく、Cの主張が日本で認められることない。